エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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箸休めこと、アホタイムです。


小話《初号機って》

 

~シイの疑問~

 

 使徒との戦いが終わった少し後、シイは発令所を訪れた。

「こんにちは」

「「シイちゃん!」」

 笑顔で挨拶をするシイに、発令所スタッフは一斉に視線を向けた。パイロットであるシイは滅多にこの場所に来る事がないため、シイを直接見るのは初めてと言うスタッフ達のテンションは跳ね上がる。

(あれが本物のシイちゃんか~)

(写真よりもずっと可愛いな)

(カメラ、カメラは無いか!?)

 全員が自分を見ていると言う状況に、シイは少し戸惑う。

「あ、あの、ひょっとしてお邪魔でしたか?」

「「全然! 大歓迎です!!」」

「ふぅ~良かった」

 胸に手を当ててホッと息を吐くシイ。そんな何気ない仕草が、スタッフのテンションを一層上げていることには、気づいていないようだ。

「あらシイちゃん。こんな所にどうしたの?」

 丁度発令所にやってきたミサトは、シイの姿を見て不思議そうに尋ねる。シイの上司であるミサトは、彼女のスケジュールも把握している。今日は特に訓練もテストも無い筈だったが。

「ひょっとして~、誰かに会いに来たとか?」

 少しからかってやろうと、ミサトは意味深な視線をシイに向けるのだが、

「え、そうですけど……よく分かりましたね」

 シイはそれをあっさり肯定した。その瞬間、発令所全体に稲妻が走る。

(あ、会いに来たって……)

(通信とかじゃなくて、直接会いに来たって……)

(そういう……事よね)

 ざわざわと、不穏な空気が発令所を包む。が、当の本人はまるでそれに気が付かない。

「へぇ~、因みに誰に会いに来たの?」

((ゴクリ))

 喉を鳴らしてシイの答えを待つ一同。永遠のような一瞬の間。

 そしてシイが告げた名は、

「えっと、リツコさんです」

 金髪の女性科学者、赤木リツコその人だった。

 

(よっし!!)

((ちくしょぉぉぉ))

 心の中でガッツポーズをするリツコと、涙を流す他の面々。明暗が分かれた瞬間だった。

 

「……そ、それで、私に何か用かしら?」

 荒ぶる心を諫め、努めて冷静にリツコは尋ねる。完璧なポーカーフェイスだったが、親しい人が見れば彼女が浮かれているのが一目で分かるだろう。

「はい。あの、ご迷惑とは思いますけど……ちょっと相談したい事があるんです」

「あら、ミサトじゃ無くて私に?」

「リツコさんに相談するのが一番だと思ったので」

 もうリツコの心は飛び跳ねんばかりだった。家族であるミサトよりも、目の前の少女は自分を頼ってきた。何とも言えない満足感がリツコを包んでいく。

「……こほん。そうね、少々忙しいけど……シイさんの相談なら聞かないわけにはいかないわ」

「ありがとうございます」

 白々しく言うリツコに、シイは嬉しそうな笑顔で頭を下げた。疑う事を全く知らないその姿を、スタッフ達は苦々しげに見つめる。

(ちくしょー。あのマッドサイエンティストめ)

(俺達のシイちゃんが……)

(ある意味一番危険な人間にどうして……)

 もう言いたい放題であった。

 

「相談、と言うのはここで聞けるものなのかしら?」

「出来れば……場所を移したいんですけど」

(ふふ、良い流れね)

 そんな思いを微塵も表に出さず、リツコは頷いてみせる。

「あの、着いてきて頂けますか?」

「ええ。それじゃあマヤ、後よろしくね」

 シイに続いて発令所を後にするリツコ。その背中に悪魔の羽と尻尾が生えているのを、発令所スタッフは確かに目撃するのだった。

 

 発令所を後にした二人がやって来たのは、

「ここです」

「……ここなの?」

 初号機のケージだった。

「ねえ、シイさん。ひょっとして相談と言うのは……」

「初号機の事なんです」

(私の間抜けぇぇ。今までの流れから充分予測できたでしょ)

 エヴァの事で相談があるのなら、E計画責任者の自分が適任だろう。シイには全く悪気も落ち度も無いのだが、リツコのテンションは勝手にがた落ちしていた。

「あの、本当にすいません。お忙しいのに」

「か、構わないわ。それで、初号機に何か問題でもあったのかしら?」

 不安がるシイにどうにか平静を装って聞いてみる。仕事の話になってしまうのは残念だったが、それでもシイが自分を頼ってくれたのは事実。少しでも好印象を与えるべく、リツコは頭を切り換えた。

「はい。実は――」

 シイは使徒との戦いの直後、エヴァがプラグを開けるのを手伝ってくれた事を告げる。話を聞き終えたリツコは、すっかり科学者の顔に戻っていた。

「なるほどね」

「前にリツコさんは、エヴァはパイロットが乗ってないと動かないって」

「ええ。理論上はあり得ないわ」

 だがリツコも以前、エヴァが勝手に動くのを見ていた。一度ならばとにかく、それが二度三度と続けば、偶然では片づけらるものでは無い。

(……可能性があるとすると……ひょっとして目覚めてるのかしら)

 リツコは視線を初号機に向けるが、動く気配すら無かった。

 

「あの~リツコさん」

「え、ああ。ごめんなさい、少し考え込んじゃったみたいで」

「リツコさんでも分かりませんか?」

「そうね。ただ今後、データ収集して色々調べてみるわ」

「ありがとうございます」

 嬉しそうに微笑むシイを見て、リツコは再び悪魔の羽と尻尾を生やす。

「……ねえ、シイさん。これから時間あるかしら?」

「特に用事はありませんけど」

「なら、私の研究室に来ない? 今回の件も含めて少し話を聞かせて欲しいわ」

「はい。よろしくお願いします」

 自分のために早速アクションを見せてくれたリツコに、シイは感激する。その言葉の裏を知らずに。

「さあ行きましょう」

 リツコがさり気なくシイの肩に手を回そうとした、その瞬間、またもや初号機が勝手に動き出した。

「きゃぁ」

「なっ!」

 右腕の拘束具を引き千切り、立てた人差し指をシイとリツコの間に置く。それはまるで、二人を引き離すかのように、シイをリツコから守ろうとしている様な行動だった。

「り、リツコさん……動きました」

(やっぱり目覚めてるわね……しかもこの子を守る気満々だわ)

 エヴァはシステム管理のため、待機中でも本部のコンピューターとリンクしている。このままシイを研究室に連れ込めば、それは初号機の知るところとなるだろう。

 その場合どうなるか、分からないほどリツコは愚かではない。

(……良いわ、この場は引きましょう。でも、私にはMAGIがあるのを忘れないでね)

 鋭い眼光を向ける初号機と正面から睨み合うリツコに、状況を理解出来ないシイは不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 かくして色々な意味でシイは守られた。ただ本人にはその自覚が全く無いのだが。 

 




初号機についての設定ですが、原作から一部改変させて頂いております。余り具体的には言えませんが、中の人についてです。

今後も特に大きな変更の際には、後書きにて補足を入れていこうと思っております。読んでいて疑問な点がありましたら、指摘して頂けるとありがたいです。

本日は本編も投稿致します。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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