エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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シリアスな本編に水を差すアホタイムです。


小話《司令は不器用》

 

~司令は辛いよ~

 

 未確認飛行物体接近の報を受け、零号機の起動実験は中断。直ちに第二種戦闘配置へと移行するネルフ。警報が鳴り響く中、司令であるゲンドウと副司令の冬月は、並んで発令所へと歩いていた。

 その道中で、不意にゲンドウが口を開く。

「……冬月」

「何だ?」

「私は……何か失敗したのか?」

「気づいて無かったのか?」

 ゲンドウの問いかけに、冬月は呆れたようにため息をつく。ゲンドウ以外の面々が気づくほど、シイの態度は分かりやすいものだったと言うのに、この男はまるで気づいていなかった。

 鈍いにも程があると、冬月は軽く頭を抑えた。

「どういうことだ? あの状況でパイロットを急がせる事は、間違った判断では無かった筈だ」

「それ自体はな。だがシイ君が求めている事は他にあったのだよ」

「シイが求めている事だと?」

 ゲンドウは冬月にしつこく尋ねる。どうやら彼なりに、先程の事を気にしているらしい。

「お前は起動実験前に、レイへ激励の言葉を掛けただろ」

「ああ。今回の実験に失敗は許されないからな」

「それだよ。シイ君はお前から一言だけでも、激励の言葉が欲しかったのだ」

「何故だ?」

「本気で言っているのか?」

 冬月は思わずゲンドウの顔をのぞき込んで問い返す。

「私はシイに嫌われている。そんな私からの言葉など、欲しがる訳が無い」

「はぁ、不器用な上にここまで鈍いとはな」

 大きなため息をつくと、冬月は出来の悪い生徒に教えるかのように、ゲンドウへ語りかける。

「シイ君はお前を嫌っては居ない。ただ接し方が分からないだけだよ」

「だ、だが、あの時確かに」

「ああ、確かに『お父さんなんか大嫌い、べー』と言っていたな」

「……ぐすん」

 思い出してしまったのか、ゲンドウはサングラスの下で涙ぐむ。泣くくらいならもう少し優しく接すればと、冬月は思いこそすれ口には出さない。

「あれは一時の感情に過ぎない。なにせ十年ぶりに会ったのだから、シイ君も戸惑っていたのだよ」

「ならばシイは、私を嫌っていないのか?」

「表面上は反抗しているのだろうが、本質では嫌っていないだろうな」

「ほ、本当か!?」

 人前では決して見せない程嬉しそうな顔で、ゲンドウは冬月に詰め寄る。

「少し落ち着け。良いか、十年ぶりに会ったとは言えお前はシイ君の父親だ。ユイ君亡き今、ただ一人の親なんだだぞ。それを本当に嫌う筈が無いだろう」

「…………ニヤ」

「だからこそ、先程の対応はお前の失態だ」

 冬月はにやつくゲンドウをスルーして、話題を元に戻す。

「シイ君からすれば、お前はレイにだけ優しく自分に冷たいと思っただろう」

「む、そんな事は」

「受け手の感じ方が全てだ。お前が自分よりもレイを大切にしていると、シイ君は感じたのだよ」

「……待て冬月、それはつまり」

「簡単に言えば嫉妬だな」

 冬月の言葉に、ゲンドウの口元がニヤニヤと気持ち悪く緩む。

「そ、そうか……シイは私の事をそれ程……」

「だがお前はよりにもよってシイ君を突き放した。心象は最悪だろうな」

「ぬぅぅ」

 ここに至ってゲンドウは、己の失敗にようやく気づいた。あの場で一言、『お前も頑張れ』や『期待している』と言えていれば……。好感度アップのチャンスを逃し、ゲンドウは唇を噛みしめる。

 

「冬月、私はどうすれば……」

「とことん計画外の事に弱いな、お前は」

「煩い。とにかく、どうにかしてシイの好感度を上げなければ……」

「ならば話は早い。お前が彼女に対して優しくして接してやれば良いだけだ」

「……出来たら苦労していない」

 碇ゲンドウと言う男はとことん不器用に出来ていた シイの前に立つと、どうしても思うように言葉が出てこない。やっとの事で口を開けば、何故か冷たい言葉ばかりが出てしまう。会えば会うほどシイとの距離が遠ざかるジレンマに陥っていた。

「直接会うのが駄目なら、間接的に好意を示してはどうだ?」

「例えば、何だ?」

「手紙……は論外だから、贈り物などが有効だろうね」

「ふむ」

「シイ君も年頃の女の子だ。服やアクセサリーなどは喜ぶと思うが」

「……冬月、後で付き合ってくれ」

「……おい、まさかとは思うが」

「第三新東京市にファンシーショップがある」

 予想通りのゲンドウの発言に、冬月は表情を歪める。いい年した男二人で、女の子御用達の店へ入る。何の罰ゲームだと思わずにはいられなかった。

「何もお前が自分で行く必要はあるまい。誰か他の者に頼めばいいだろ」

「駄目だ。贈り物は……やはり自分で買わねば」

 妙なこだわりを見せるゲンドウに、冬月は何度目になるか分からないため息をつく。言っている事は立派だったが、それなら一人で行けと言いたくなる。

 ただそれをそのまま口にするほど、冬月は子供では無い。

「私はご免だよ。赤木君あたりを誘えば良いだろ」

「シイに目撃された場合の言い訳が困難だ」

(私と一緒だと更に困難だと思うがな)

 何処かずれているゲンドウの発言に、冬月はもうアドバイスを諦めた。もう発令所まであと僅かの地点まで来ており、そろそろ話題を終わらせようとする。

「とにかく今は使徒の殲滅が最優先だ。シイ君の事は後で考えれば良いだろう」

「……ああ」

 冬月の言葉を切っ掛けにゲンドウの顔が情けない父親のそれから、冷静沈着な司令のそれへと変わる。このオンオフの切り替えによって、碇ゲンドウは司令としての威厳を保ち続けていられた。

(この戦闘が終わったら……良くやったと言ってみるか)

 例え先の会話を引きずっていたとしても、それを表に出すことは決してない。心の内を秘める、ゲンドウは組織のトップとして最低限必要な資質を持っているのだ。

 

 素直に振る舞う事が出来ない。人の上に立つというのも、なかなか大変であった。




制御室から発令所へ移動中の、ちょっとした二人の会話でした。子供が女の子だったらゲンドウはどうなるのか……一つのポイントですね。

本編が引きで終わっているので、今日中にもう一話投稿致します。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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