エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

22 / 221
アホタイム突入です。


小話《仲直りの裏で》

~発令所で見た~

 

 ネルフ本部発令所。そこは戦闘配置でもないのに、妙な緊張感に包まれていた。

「状況は?」

「現在データを受信中です」

 冬月の声に、日向が端末を忙しなく操作しながら答える。

「受信データを確認。主モニターに回します」

 青葉の報告と共に、発令所のメインモニターは第一中学校の校舎裏を映し出す。

「目標を映像で補足。シイちゃん他、鈴原トウジ、相田ケンスケ、洞木ヒカリと確認」

「保安諜報部の配置は?」

「問題ありません。既に終了しています」

「では、全員に狙撃体勢への移行を通達」

「了解!」

 何とも物騒なやり取りに、冬月は内心冷や汗を掻く。実はあの後、シイが殴られたことが発令所全員に知れ渡ってしまったのだ。当然大騒ぎとなり、トウジへの制裁が多数進言された。

 中学校に監視モニターを設置することで、どうにか収まったかに見えたのだが。

(間違っても問題を起こしてくれるなよ)

 もし衆人環視の元、再びシイに暴行を加えるようなことがあれば……。

 冬月は祈るようにモニターを見つめていた。

 

『転校生、ほんますまんかった!』

((おぉぉぉ))

 土下座をするトウジに、思わず驚きの表情を浮かべるネルフスタッフ達。あの年頃の男の子が頭を下げる、その意味が大きいことを理解していたからだ。

「へぇ、結構筋が通ってるな」

「ま、女の子を殴ったんだから当然だろ」

「マヤ、MAGIの判断は?」

「フィフティーフィフティーです」

「まだ気を緩められないわね」

「初号機はどうだ?」

「現在の所、沈黙を守っています」

 冬月はホッと胸をなで下ろす。

(あの時は……正直終わったかと思ったからな)

 

 第四使徒襲来前、シイがトウジに殴られた同時刻。初号機のケージから、冬月に緊急連絡が入った。

『ふ、副司令! 初号機が何故か突然起動! 拘束具を無理矢理外そうとしてます』

「馬鹿な」

『停止信号も受け付けません!』

「と、とにかく今から私がそちらに向かう」

 慌てて冬月が初号機の元に向かうと、エントリープラグ未挿入の初号機が報告通り起動しており、既に拘束具は半分以上壊されていた。

 鋭く細められた眼光は普段以上に凶悪な印象を与え、今にも襲いかかって来そうな威圧感があった。

(怒っているのか……)

 何が起こっているのかを理解した冬月は、刺激しないように初号機へ語りかける。

「とにかく落ち着いてくれ。シイ君に起こった事態は、あの年頃なら誰でも経験する事なのだ」

 冬月の言葉に初号機は少しの間動きを止めたが、何事も無かったかのように再び拘束具を壊し始める。冬月はそれでも諦めずに言葉をかけ続けた。

「勿論君の気持ちは分かる。だからここは一つ、私に任せてくれないか?」

 両手を広げ呼びかける冬月を初号機は睨み付ける。言葉を誤れば殺されかねない、そんな緊張感にも動じずに冬月は落ち着いた様子を保ち続けていた。

「彼女の護衛は強化する。今後同じ事を起こさぬ事を誓う。だからこの場は収めて欲しい」

 初号機は提案を吟味するように暫し動きを止めていたが、右手を冬月の前に差し出す。巨大な指を一本立てて、それをゆっくり拳にしまいこむ。

 メッセージは伝えた、と初号機はそれを最後に活動を停止した。

(次は無いぞ、と言う事か)

 初号機の意図を理解した冬月は、深いため息を漏らすのだった。

 

(もしあの少年が暴走すれば、あっちも暴走するな)

 モニターを見つめる冬月は、ここにいる誰よりも神経をすり減らしていた。そんな彼の心配を余所にモニターの向こうではトウジの謝罪が続く。

 シイは困った顔をしていたが、やがてその謝罪を受け入れ二人は和解した。それを嬉しそうに見つめるスタッフ一同。中には早くも、ハンカチで涙を拭う者もいた。

 そして、

『せやさかい、わしを殴れ』

 トウジの発言を聞いて発令所に苦笑が漏れる。それはネガティブなものではなく、若さ故の真っ直ぐさに対する好意的なものだった。

「若いな」

「ああ、だが嫌いじゃ無い」

「私にはよく分かりません」

「いずれ分かるわ。そしてその時感じるの。年を取ったって」

 リツコはマヤの肩にそっと手を乗せながら、何処か哀愁漂う表情を浮かべるのだった。

 そんな大人達のやり取りなど知るよしも無く、モニターの向こうではシイがトウジの提案を受け入れ、思い切り手を振りかぶる。そしてそのまま、強烈な平手打ちをトウジにお見舞いした。

「「び、ビンタっ!?」」

 あまりに痛そうな光景に、スタッフ達は思わず顔をしかめる。

「ありゃきついぞ……」

「思いっきり手がしなってたからな」

「いい音、しましたね」

「ええ。非力な女性が男性に対抗する手段として、急所攻撃以外に有効な手段よ」

「急所……ですか」

「あら分からない? 一般に眼球や、男性器……」

「わ~わ~言わないで下さい」

 真っ赤になって慌てるマヤに、男性職員は何とも言えない視線を向ける。技術局所属オペレーターの伊吹マヤ。隠れファンの多さは、ネルフでもトップクラスだった。

 

 そうこうしている間に、モニターにはシイがトウジと握手を交わした後、ヒカリと互いに喜びを分かち合う様に抱き合っている姿が映し出されていた。

((う、うう……良かったな~))

 感動的なシーンに、発令所のあちこちで涙を啜る音と鼻をかむ音が鳴りやまない。

(ふふ、こんな気持ちは大分長いこと忘れていたわね)

(見てるかユイ君。君の娘は……また一つ大人になったよ)

 涙ぐむオペレーター三人組の後ろで、リツコと冬月は年長者らしい余裕の面持ちで、若い子供達の姿を嬉しげに見つめるのだった。

 その後四人は仲良く校舎の中へと戻っていく。モニターから彼らの姿が消えると、誰からともなく拍手がわき起こり、瞬く間に発令所全体に広がった。

 青春映画を見終わった後のような、さわやかな余韻が発令所に漂う。

「素晴らしいものを見た。掛かった費用など、問題では無いほどにな」

 音声まで拾える高性能カメラの配置にはかなりの経費を注ぎ込んだ。だがゲンドウ不在のこの発令所には、誰一人それを問題視する者は居なかった。

 

 このカメラは今後も更なる活躍をすることになる。

 ただ、それはまた別の話。




やりたい放題のネルフ、もうシイのプライバシーが守られる場所は、ミサトの家くらいになってしまいました。
まあそれもいつまで持つか……不安です。

小話ですので、本日は本編も投稿致します。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。