エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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後日談《アダムとリリス(9)》

~それぞれの思惑~

 

「初号機、四号機、共に全隔壁を通過。最下層へ到達しました」

「通信はそれぞれのパイロットによって拒否されています」

「参号機、第十一隔壁を通過。最下層到達まで、後120」

 オペレーターから次々とあがる報告を、ゲンドウは両手を組んだ何時もの姿勢で聞いていた。

「……冬月。私は退避命令を出した筈だ」

「出したな」

「なら何故誰も退避しない」

「拒否されたからだろう」

 あっさりと冬月に答えられてしまい、ゲンドウは不機嫌そうに黙ってしまう。

 退避命令を出しても、発令所の職員は誰一人動こうとはしなかった。やむを得ずゲンドウは、リリスの魂を含めた真実を告げ、再度退避を促したのだが、結果は変わらなかった。

「非戦闘員と負傷者は強制的に避難させている。上の方も、今のところ大きな混乱も無く避難が進められている。お前の判断は無駄では無いよ」

「……ここに残る意味など無い筈だ。なのに何故」

「さあな。責任感か義務感か、はたまた意地か見栄か。人の心は分からんものだ」

「冬月。お前は何故残って居る?」

「私は王手を掛けられても、王将を取られるまで打ち続ける主義だからな」

 職員達が何を思いこの場に残ったのか。それは本人以外には決して理解出来ないだろう。だが全員が最後まで戦おうとしているのは事実だ。

「気持ちを切り替えろ。まだ自爆する必要も無い段階だ。これからが正念場だぞ」

「ああ、分かっている」

 最後まで司令としての責務を全うすべく、ゲンドウは普段通りにどっしりと司令席に構えた。

 

 

 ターミナルドグマの最下層。地底湖と呼ばれるLCLの湖に着水した二機のエヴァは、互いにナイフを構えた姿勢で牽制し合う。

 ここはリリスが眠る場所から、壁一枚隔てた空間。人類にとってまさに土俵際だった。

「君には多くの困難を乗り越えて勝ち得た、碇レイとしての居場所がある筈だ。家族、友人達、そして絆を育んだ人達に囲まれた場所がね」

「…………」

「でも、今まで君が築いてきたものを、大切に育んできた絆を、今自分自身で壊そうとしている。レイ、君は悔しいと思わないのか?」

「…………」

 挑発するように、奮い立たせる様に、カヲルはレイへと呼びかけを続ける。それに対し沈黙を続けるレイ。反応が無いのは、答えるつもりが無いのか、それとも葛藤しているからなのか。

「このまま全てを失うのか、守るのかを決めるのは君だ」

「……私は一つになりたいだけ」

 返答と同時に初号機がナイフで攻撃を仕掛ける。不意打ちを警戒していたカヲルはそれを捌きながら、再度レイに向けて問いかけた。

「それは君の本心では無いだろ?」

「……私は私。あるべき場所へと戻るのが、私の望み」

 激しくナイフで切り結びながらも、カヲルは揺るがぬレイへ諦めずに言葉を紡ぐ。

「違うね。君はみんなと生きたいと、シイさんと共に生きたいと望んでいた筈だ」

「……ええ」

「リリスとの融合を果たせば、その願いは永遠に叶わないよ。レイと言う存在は消え、君の大切な人達を失うかもしれない。でも融合さえしなければ、まだやり直せる」

 自分がレイに与える影響を考慮して、カヲルはレイのお見舞いに行かなかった。だがシイからレイの望みを、みんなと生きたいと言う願いを聞いていた。

 レイが望む未来は、リリスが望む融合を果たせば叶わない。カヲルはそれを指摘することで、レイとしての自我が強まることを期待した。

 だがレイは、今までと変わらぬ返答をするだけ。

「……私はあるべき場所へ戻るだけ」

「それはリリスとしての望みだ。レイ、君はどうなんだい?」

「……私は私。碇レイ。綾波レイ。貴方がリリスと呼ぶ存在。全て私」

(ここまでかな)

 対話は既に意味を成さなくなりつつあり、二機のエヴァの戦闘は終局へと向かっていった。

 

 

「渚……レイ……」

 地底湖の直上で待機しているトウジは、友人達の戦いを悲痛な表情で見つめていた。

(お前らの戦いっちゅうんは……こんなんや無いやろ)

 互いにナイフで命を狙い合う光景は、日常繰り広げられていたあのじゃれ合いとは、似ても似つかない。まるで昨日までの自分達が崩れていく、そんな感覚すら覚えていた。

 レイによってアスカがリタイア、シイも半誘拐状態になっている事も、それに拍車をかける。

(けど、レイにとってシイはやっぱ特別なんやな……まあ、そらそうか)

 チルドレンの中で、二人の関係を最初から見続けてきたトウジは、思わず苦笑を漏らす。あの人形の様な少女があそこまで変わったのは、間違い無くシイの存在があったからだろう。

 それは太陽の輝きを受けて光る月の様な関係に例えられる。だからレイはシイを求め、守り続けようとしていたのかも知れない。

(……ちょい待ちや。ならおかしいで)

 ずっとカヲルとレイの通信を受信オンリーで聞いていたトウジは、レイの行動に違和感を覚えた。

(リリスがシイを連れとんのは、レイの想いが影響しとる筈や。そんだけ執着しとるのに、人質になんかするやろか…………!?)

 思考の末にある答えに辿り着いたトウジは、カヲルへと通信を繋ぐ。

 

「渚!!」

『……どうしたんだい、トウジ君』

 初号機との激しい戦闘を続けながらも、カヲルはトウジの呼びかけに答える。集中力を乱しかねない行動だったが、トウジが無意味に通信を繋がないと理解しているのだろう。

「レイはシイと二人でリリスに融合するつもりとちゃうか?」

『ふふ、流石トウジ君。僕もその可能性を考えていたよ』

「ならお前のプランは……」

『変更無しで行くよ。もう僕はレイを仕留めることを躊躇わない』

 戦いの合間を縫って、カヲルはトウジの問いに返答する。

『それに、リリスとシイさんの融合に関しては、幾つか疑問点が残るんだ』

「何やそれは」

『シイさんがリリンだって事さ。覚醒したリリスは神と呼ばれる存在だ。もしリリスに取り込まれたとしても、己を保てずに消失してしまうだろう』

 使徒の場合は、単体生命であるが故に他者を必要とせず、強い心の壁で自己を絶対の存在と認識していたので、始祖と融合しても自我を保つ事が出来た。だが人の場合は違う。

 群体生命のリリンには他者の存在が必要な為、心の壁は自己と他者を区別する程度の強さしか無く、リリスと融合を果たしても自我を保てず、心はバラバラに溶けてしまうだろう。

 

『まあそれでも一つになる、と言えなくは無いけど、レイが望む形とは違う筈さ』

「難しい話やけど……妥協案ちゅう事かも知れんな。そない感情がリリスにあるかは分からんけど」

 肉体と融合したいリリス。シイと生きていたいレイ。二つの相反する望みの妥協案が、今の仮説だという可能性は十分にあった。

『そうだね。まあ僕達がやるべき事は何も変わらないよ』

「レイを…………」

 傷つける。あるいは……始末する。頭では理解していても、トウジにはどうしてもその単語を発する事が出来ずに、唇を強く噛みしめた。

『僕が終わらせるよ。リリスの暴走は、アダムである僕が責任を持って止める』

「お前は渚カヲルやろ……。レイの事はダチのわしらでケリをつける。一人で格好付けんな」

『ふふ、ありがとう』

「……邪魔してすまんかったな」

『いや、気にしなくて良いよ。ただそろそろトウジ君に動いて貰うよ』

「ああ……準備は出来とる」

 トウジはカヲルの言葉に力強く返答した。

 

 

 

~決断の時~

 

(さて……そろそろ決めなくてはね)

 トウジとの通信を終えたカヲルは、レイとの決着について思考を巡らせる。

 実の所、シイの存在さえ無視してしまえば、初号機もろともレイを殲滅する事は可能だった。だがそれは最後の手段。カヲルはギリギリまで二人とも救う手を模索していた。

 しかし状況はその段階を過ぎ、カヲルは決断を迫られる。

(レイの融合を阻止して、シイさんを救出する。……それしかない)

 カヲルは覚悟を決めて一度頷くと、初号機の振るうナイフを思い切り上に弾く。その隙を逃さずに密着する程、間合いを詰めと、四号機の両腕を初号機の脇の下に回して、胴体を思い切りホールドした。

 それはかつて日本の国技であった、相撲を思わせる体勢だった。

「……離れて」

「ふふ、残念だけどそれは出来ないね」

 機体を引き離そうとレイは初号機を操るが、がっちりとしがみついた四号機はびくともしない。それを確かめた上で、カヲルはトウジに通信を繋ぐ。

「トウジ君。今のうちに」

『おう、任せとき』

 カヲルの合図と同時に、トウジはリフトから飛び降りて地底湖へと着水する。そして組み合う二機を尻目に隔壁へと駆け寄ると、ナイフで切り込みを入れ始めた。

「……参号機?」

「僕にばかり集中しすぎていたね。今エヴァを動かせるのは、僕達だけじゃ無いんだよ」

「……鈴原トウジ。フォースチルドレン。クラスメイト。友達。煩い人。変なしゃべり方。ジャージ。短気。洞木さんの恋人。……リリンの希望の形」

 レイは反芻するようにトウジについて呟く。シイを介して友人となったトウジだったが、ヒカリと恋人関係になった事で、愛を紡ぎ歴史を作る人類の姿をレイに印象づけていた。

 

「トウジ君には、君の注意から外れて貰うために、ずっと我慢して貰っていたよ」

 始祖の魂に目覚めたレイは、使徒を遙かに凌駕する強さのATフィールドを操れる。もし存在に気づかれていたら、レイのATフィールド攻撃に対処できなかっただろう。

 カヲルがレイに語りかけていたのは、注意を自分に向ける為と言う意味合いもあった。

「……邪魔をするなら排除するだけ」

「そうさせない為に僕がいるのさ」

 身動きを封じられ、ATフィールドも中和された状態では、レイは参号機に対して何も出来ない。その間にもトウジは隔壁をナイフで切り続け、やがて小さな穴を開けた。

「おっしゃ、トンネル開通や」

「そのままリリスの胸に刺さっている、ロンギヌスの槍を抜くんだ」

「任せとき」

 トウジは隔壁に空いた穴をくぐり抜け、リリスとの対面を果たした。

 

 

「さ、参号機……リリスと接触しました!」

 青葉の報告に発令所がざわつく。レイよりも先にエヴァが接触出来た事に安堵しつつも、戦いが最終ステージに突入している事を察したからだ。

「まもなく終局か」

「ああ。参号機は恐らくロンギヌスの槍を回収するつもりだろう」

「サードインパクトは免れる、か」

 最悪の結末だけは避けられたと、冬月は小さく息を吐く。だが直ぐにその行動が意味する事を察し、何ともやり切れぬ表情を浮かべた。

「レイを保護するのは無理だと判断したんだな」

「……ああ」

 カヲルはゲンドウに、ロンギヌスの槍を引き抜くタイミングを誤るなと告げていた。その彼が槍を抜く決断をしたのだから、間違い無いだろう。

「シイ君はどうなるか……」

「……あいつの事は気にするな」

「碇?」

「シイの無事と人類全ての命。天秤に掛けるまでも無い。それはみんな分かっている筈だ」

「それでも割り切れぬのが人だと思うがね。……ところで碇」

「何だ?」

「血は拭いておけよ。机に垂れている分も含めてな」

 組んだ両手で隠されていたが、ゲンドウの唇からは真っ赤な血がこぼれ落ちていた。彼は司令としての責任を果たす為、唇を噛みしめて心を圧し殺していたのだろう。

「……冬月先生も」

「そうだな」

 ゲンドウの言葉に、腰の後ろに手を回した姿勢で冬月は頷く。見えない様に隠していたが、痛いほど手の平に食い込んだ爪が、床に赤い涙の跡を残していた。

 二人は最後まで司令と副司令として、相応しい態度であり続けるのだった。

 

 

「政府、及び関係各省、各国のゼーゲン支部から状況確認の問い合わせが来ています!」

「そうね……特別審議室に対応を一任して。あの人達の得意分野だもの」

「了解」

「第三新東京市における、民間人の避難完了」

「手伝ってくれた方々に感謝の言葉と、急ぎ離脱するように伝えて」

「了解」

 テキパキと対応指示を下すユイの元に、加持から通信が入った。

『どうも。随分とお忙しそうですね』

「貴方ほどでは無いわ。そちらはどうかしら?」

『職員の避難は順調です。惣流博士と赤木ナオコ博士も、どうにかお連れできましたよ』

 動ける保安諜報部と監査部の人間は、職員の避難を手伝っていた。加持がわざわざ連絡を入れたのは、ユイが気にしていた二人が無事避難した事を伝える為だろう。

「そう……何よりだわ」

『惣流博士はアスカが居るので説得は容易でしたが、赤木ナオコ博士は断固として拒否していましたので、眠らせて同行願いました』

「ごめんね、リョウちゃん。母さんが手間を掛けさせて」

『そう言って貰えると気が楽になるよ』

「……自爆の可能性は低くなったのだけど、そのまま避難を続けさせて」

『分かってます。ではまた何かあれば連絡を入れます』

 加持との通信が終わると、ユイは大きく息を吐く。彼女が人類の最高峰と思っている二人の天才を、ここから脱出させられた事に対する安堵が、思わず態度に表れてしまったのだ。

 

「MAGIも松代にバックアップを頼んでいます」

「これで心置きなく……見届けられるわね」

「出来ればユイさんにも、避難して欲しいのですけど」

「子供をおいて逃げられる母親は居ないわ。ナオコさんもそうだったでしょ?」

 ナオコが避難を拒否していたのも、リツコの存在があったからだろう。母親の行動を例に挙げられてしまい、リツコは反論の術を失った。

「ふぅ、こうなったら意地でも生き残るしかないわね」

「……ええ」

 吹っ切れたように呟くリツコに、ユイは小さく頷いた。

 

 

 

~誤算~

 

「こいつが……リリスなんか」

 初めてリリスと対面したトウジは、その異様な姿に思わず息を飲む。人型ではあるが下半身は無く、少なくともレイとは似ても似つかなかった。

「び、ビビってどないすんねん。やるしかないやろ」

 あえて大きな声で自らを鼓舞すると、トウジはリリスの胸に刺さっている槍に手を伸ばす。そして赤黒い槍を力任せに引き抜き始めた。

 エヴァよりも長い槍を、参号機は少しずつ後ろに下がりながら慎重に引き抜く。やがて二股の先端が完全にリリスの身体から解き放たれると、不意にリリスに変化が起きた。

「な、ななな、何やこれ!?」

『どうしたんだい?』

「こ、こいつの身体……足が生えよった」

『……槍の封印が解けただけさ。気にしなくて良いよ』

 実際にはアダムの血、つまり遺伝子を体内に取り込む事で、知恵の実と生命の実を持つ正しい子供を産める姿になったのだが、あえてカヲルは説明を省いた。

 予想の範囲内の出来事であり、今はそれを気にする状況では無いのだから。

「さよか。まあそれはともかく、槍は回収出来たで」

『ふふ、良くやってくれたね。次は僕が頑張る番だ』

 通信を終えると、トウジは槍を携えて戦場へと舞い戻った。

 

 

 トウジとの通信を終えたカヲルは、最後になるであろうレイとの会話を行う。

「レイ。僕はこれから四号機を自爆させるよ」

「……そう」

「シイさんと君に出会えて良かった……ありがとう。そしてさよならだ」

 カヲルはシンクロをカットすると、エントリープラグを排出して、自らの生身を晒す。そして無人のプラグを再挿入し、そっと目を閉じた。

 すると無人の筈の四号機の目に光が宿り、先程までと同じ様に初号機を拘束し続ける。

「この子は僕と同じ、アダムより生まれた存在。魂が無ければ同化できる」

 ふわりと身体を浮遊させると、カヲルは二機のエヴァから距離を取る。それは自爆に巻き込まれない為の行動に見えたが、カヲルの狙いは別にあった。

(これで自爆を信じてくれれば……)

 レイからエヴァと言う鎧をはぎ取れれば、カヲルにはシイを救う自信があった。レイはシイを守りながら行動しなくてはならず、そんな状態では勝負になる筈が無いのだから。

 そしてカヲルの狙い通り、自爆を恐れたからか、初号機も先程の四号機と同様の行動を取り、ハッチから生身のレイが姿を現した。

 何故かシイをプラグに残したままで、だが。

 

(……どう言う事だ? あれ程執着していたシイさんを、あっさり諦めるのか?)

 人質が居なくなった分好都合なのだが、カヲルは予期せぬレイの行動に戸惑いを隠せない。そんなカヲルを余所に、初号機のプラグは再び挿入され、レイは身体を浮遊させる。

「……自爆させれば?」

「ふふ、皮肉のつもりかい? 君がいない初号機を壊す必要は無いだろ」

「……そう」

 レイは静かに目を閉じると、初号機から距離を取った。

(何を考えているかは分からないけど……これで終わりだよ)

 自分とレイが本気でやり合えば、恐らく互角だとカヲルは見ていた。だがトウジが回収したロンギヌスの槍は、カヲルに絶対の勝利を約束する。

 これでチェックメイトだとカヲルが確信した瞬間、予想外の事が起こる。動くはずの無い初号機が、何故か再起動をしたのだ。

「なっ!?」

「……あの子は私と同じ。魂が無ければ同化できるもの」

 初号機は弐号機以降のエヴァと違い、リリスのコピーとして造られた。だからレイにもカヲルと同じ、魂の一部をコアに宿して操る事が可能だ。

 しかし両者には大きく異なる点が一つ。

「あり得ない。シイさんが居るのに……」

「…………」

 空っぽの人形だからこそ、魂を与えて自由に動かせる。しかし魂を与えた人形に意思があったとしたら、行動はその意思に委ねられるだろう。そして無人の四号機とは違い、初号機にはシイと言う意思が存在する。その為シイとシンクロしなければ、初号機は起動出来ない筈だった。

 シンクロには愛情や行為を司るA10神経を用いているので、宿る魂はパイロットとそうした関係で結ばれた存在が必要となる。母親の魂を宿していたのはその為だ。

 

「リリスの魂とシンクロ出来る筈が無い。どうして初号機が動くんだ……」

「渚!? 何ぼーっとしとんねん!!」

「っっ」

 自分の理解を超えた展開に、呆然と初号機を見つめていたカヲルは、トウジの叫び声に我を取り戻す。今一番気にするべき目標から目を逸らすと言う、カヲルにとって最大の失態であった。

 ほんの数秒。だがこの場において致命的とも言える隙を、レイが逃すはずも無く、彼女はATフィールドを利用して、トウジが開けた隔壁の穴へと勢い良く向かう。

「レイ! 止まるんや!」

「…………」

 身体を盾にして止めようとする参号機に、レイは圧縮したATフィールドを叩き付けて吹き飛ばす。カヲルが慌てて追撃をするが、非情にも間に合うことは無かった。

 

 

 

~リリス覚醒~

 

 レイは遂に、求めていたリリスの肉体へと辿り着いた。張り付けにされたリリスの胸に近づくと、安堵したように目を閉じてそっと呟く。

「……ただいま」

 魂の帰還に肉体が応えたのか、リリスの胸に人一人が入れる大きさの穴が空く。レイがその穴へと身を投じると、静かに胸の穴が閉じ、長らく離れていた魂と肉体は一つになった。

 

 リリスの肉体は両手に打ち込まれた杭から、すり抜けるように逃れた。拘束から解放されたリリスは、LCLの湖に着水すると、膝を折って四つん這いの姿勢になる。

 暫しの間動きを見せなかったリリスだが、やがてその肉体に変化が現れた。ぶよぶよとしていた全身はすらっと引き締まり、落ちた仮面の奥にはレイに酷似した顔が出現する。

 巨大なレイ。それが人類の母の新たな姿となった。

 

 




もはやこれまで。
次回は『甘き死よ、来たれ』をBGMにお読み頂ければと……。


……冗談です。
本編でもかなり出ていましたが、リリスの覚醒=人類終了では無いんですよね。
ある意味で、ここからが本番です。
次でひとまずの決着を迎えられればと思っています。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。


※誤字、人名間違いを修正しました。ご指摘感謝です。

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