エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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重い流れに水を差す、アホタイムです。

時間軸は少し戻り、第三話開始前のエピソードです。


小話《携帯電話の色は》

~携帯電話~

 

「シイちゃん、貴方にこれを渡して置くわね」

「これ……携帯電話ですよね?」

「そうよん。ネルフスタッフは全員、業務用の携帯を持つ決まりだから、一応シイちゃんも、ね」

 シイはなるほど、と頷きながらミサトが差し出した携帯を受け取る。それは何の変哲も無いごく普通の、一般に流通している物と同じ、折り畳み式のシンプルなものであったが、一つ気になる事があった。

「ありがとうございます。でも、どうして……ピンク色なんですか?」

 そう、シイが手にした携帯は薄いピンク色だったのだ。支給される業務用携帯電話には、少し不釣り合いだと思ったシイは何気なく尋ねてみる。

「あ~それは……」

 そんなシイの問いかけに、何故かミサトは言いづらそうに頭を掻いた。

 

 

 その数時間前。ネルフ発令所は、とある話題で盛り上がっていた。

「ピンクっすよ、ピンク!」

「ああ。シイちゃんに似合うのは、やっぱり可憐で可愛いピンク色しかない」

「ですよね」

「うむ(素晴らしい選択だ。いっその事初号機もピンクに……いや、老人達が煩いな)」

 彼らが話し合っていたのは、シイに供給する携帯電話の色であった。

「と言うわけだからミサト。シイさんに渡してね」

「え、て言うか、ピンクなんてあったの?」

 真剣な顔で告げるリツコに、ミサトは思わず間の抜けた問い返しを行う。そもそも業務用携帯電話に、ピンク色などあり得ないだろうと思っていた。

 事実ミサトの時は、白か黒から選べとしか言われなかったのだから。

「勿論特注よ。技術開発局が総力をあげたわ」

「あ、あんたね~。忙しいときに何やってんのよ」

「必要な処置だわ」

「ど・こ・が・よ! 良いじゃない白で。それならあの子にも似合うじゃない」

「ベターとベストは違うわ」

「だからってね。そもそもそんな予算、どっから出てきたの!」

 ミサトは知らなかった。冬月が提案した『シイちゃん応援基金』は、既にエヴァの新装備が開発出来る程ふくれあがっている事を。

「貴方が知らない所からよ。それにこの件は、既に副司令の許可が出てるのよ」

「そりゃ……そうだけど」

 不満そうに冬月を見るミサト。

「葛城一尉。上官に反抗的な態度をしたので、減俸10%だ」

「了解!」

「え、えぇぇぇ。そんな、誤解ですって。てかこれ以上減らされるとマジヤバめなんです」

「では、この件は君も同意したと言うことだな?」

 冬月の言葉にミサトは渋々頷くしかなかった。これ以上の減給は、命の元であるビールに直結するからだ。

「じゃあはいこれ。貴方から渡してあげてね」

「はいはい分かったわよ…………」

 やられっぱなしのミサトは、ついちょっとした反抗をしたくなる。受け取った携帯電話を片手に、わざと聞こえるような独り言を発してみた。

 

「あ~でも、そう言えばシイちゃん、確か青色が好きって言ってたっけ~」

 

((!!!!!!!!!!!!!))

 その時発令所全員に電流走る。目を見開き、一切の身動きすら止めてしまった。

「な~んてね、驚いた? ちょっち冗だ――」

 

「総員第三種作業体勢。直ちにカラーリングの変更作業に入れ」

「了解!」

「赤木君、技術局を直ちに呼び出してくれ」

「はい。一課の意地にかけて、数時間以内に作業を終了して見せます」

「作業班より緊急連絡。スカイブルーとマリンブルーの、どちらにするのかと問い合わせです!」

「マヤ」

「MAGIは二対一で、マリンブルーを推奨しています」

「マリンブルーの在庫を照合……不足! 松代とアメリカ支部に応援を頼みます」

「構いませんね?」

「ああ。シイ君の望む携帯を用意しない限り、我々に未来は無い」

 

「……あの~冗談だったんだけど……」

 もうミサトの声は、彼らに届かない。恐るべき手際で進められる作業に、ミサトはネタばらしをする機会を完全に失ってしまった。

 その後腹をくくったミサトの土下座と減俸30%で、どうにか事態は収まった。

 

 

「……さん、ミサトさん」

「はっ!」

「どうしたんですか? 急に遠い目をして、何だか凄い悲しそうな顔してましたけど」

「ははは、何でも無いわ。ちょっち、ね」

 無理矢理笑顔をつくるミサトに、シイは首を傾げる。そんな彼女から話題を逸らそうと、ミサトは先程の問いかけに答えた。

「えっと……色はね、他の色が丁度切れてたのよ。気に入らなかった?」

「ううん。私、すっごい気に入りました。本当にありがとうございます」

 携帯を胸に抱きしめ、花の咲くような笑顔を浮かべるシイ。

(……癒されるわね)

 その笑顔は、ボロボロになったミサトの心の慰めとなるのだった。

 

「あ、因みに、一応仕事用だけど、別にプライベートで使っても全然構わないからね」

「そうなんですか?」

「ええ。シイちゃん自分の携帯持って無いみたいだから。友達と連絡取るのに、携帯無いと不便でしょ?」

 シイは頷き、早速携帯を操作する。

「えっと……じゃあ、ミサトさんの番号を教えて貰えますか?」

「へ? そりゃ構わないけど」

 作戦部長である自分の番号は、確かに登録が必要だろう。だが今の話の流れで何故、という疑問がミサトに浮かぶ。そんなミサトの考えに気づいたのか、

「……だって、ミサトさんは家族ですから。一番に登録したいんです」

 シイは頬を染め、少しだけ恥ずかしそうに告げた。そんなシイを言葉に、ミサトの心の防波堤は決壊する。

「う、う、うわぁぁぁぁん、シイちゃぁぁぁん」

「わわ、ミサトさん、どうしちゃったんですか」

 突如泣き出してしまい、自分に思い切り抱きつくミサトにシイは困惑する。

「私の味方はシイちゃんだけよぉぉ」

「……えっと、よく分かりませんけど……私はミサトさんの事、好きですよ」

 ミサトを宥めるように肩を優しく叩きながら、シイはそっと呟くのだった。

 

 かくしてシイの携帯電話には、ミサトの携帯番号が一番に登録されたのだった。

 だが、

「おのれ葛城一尉……」

「ミサト……安牌と思ってた私が甘かったのかしらね」

 これが新たな火種を産むのだが、それはまた別の話。




原作劇中でシンジが持っていたのは、確か黒い携帯電話だったと思います。贅沢できる環境で育ってないと思うので、ネルフからの支給品だと妄想しました。

支給された携帯電話がピンク色……何だか嫌がらせに思えてしまうのは、気のせいでしょうか。

小話は全体に文章量が少ないので、同日に本編の投稿も行います。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

※誤字修正致しました。

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