エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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ここからの話は、全て本編終了後のエピソードとなりますので、26話まで読了を前提に展開していきます。まだ本編未読の方は、本編を先に読んで頂けるとありがたいです。

また、後日談は基本的にアホタイムです。ご注意下さい。

それではようこそアホタイムへ。
心ゆくまでお楽しみ下さい。


後日談《一歩目》

~第一歩目~

 

 とある日、シイはゲンドウにネルフ司令室へと呼び出された。今の自分はもうエヴァのパイロットでは無い為、一体何事かと不安を抱きながら、シイは司令室のドアを開ける。

「失礼します」

「……ああ」

 司令席にはいつも通りのポーズで、ゲンドウがシイを待ち構えていた。

「突然呼び出してしまって済まないね」

「いえ。全然平気です」

 ゲンドウの脇に立つ冬月にシイは笑顔で答える。シイに配慮したのか、ちゃんと学校に支障が無い時間に呼び出されていたので、ここに来る事自体は問題無かった。

「でも、私に何かご用なんですか?」

「実はね、君に少々頼みたい事があるのだよ」

「私にですか?」

「……ああ」

 二人の言葉にシイは首を傾げる。ゼーレとの戦いが終わってから、シイ達チルドレンは全員パイロットを解任された。施設の出入りの為、暫定的に準職員扱いになっているが、あくまで形式的な物に過ぎない。

 そんな自分に一体何を頼むと言うのかと、シイは少し考え込んでしまう。

 

 シイの疑問を察したのか、冬月は優しく微笑みながらフォローを入れる。

「そんな身構えなくて良いよ。無理難題を言うつもりは毛頭無いからね」

「は、はい」

「ゼーレとネルフが一度組織解体して、新たな組織を結成する事は、君も知っているね?」

 冬月の問いかけにシイは頷く。その提案がされた場面に居合わせていたから、知らぬ筈は無い。

「既に何度かゼーレと会議をしているのだが、問題が発生してしまったんだよ」

「喧嘩は駄目ですよ」

「も、勿論だとも。私達は老人達と仲良くやっているよ。なあ?」

「……ああ」

 顔を引きつらせる二人の様子に、きっと仲が悪いのだろうなとシイは悟った。ただ今はそれを追求するよりも、大切な事がある。

「その問題って何ですか?」

「うむ。実は新組織の名称を決めるのが、少々難航していてね」

「決められなかったんですか?」

「我々は幾つかの案を提示したのだが、どうも老人達は気に入らなかったらしい」

 やれやれと、冬月は肩をすくめてため息をつく。

「ならばと老人達に案を出して貰ったのだが……まあ酷いものだったよ」

「はぁ」

「まあそんな感じで議論は平行線を辿って居たのだが、流石に名称未定では今後に支障をきたす」

 名前は大切なものだ。人であれ、物であれ、組織であれ、それは変わらない。特にゼーレは大昔より続く組織だから、名前へのこだわりが強いのだろう。

「大変なのは分かりましたけど、私じゃ力になれそうに無いですよ」

「ところが、君の存在が問題解決になるんだ」

「はい?」

 どうしてと首を傾げるシイに、ゲンドウが口を開く。

「……シイ。お前は将来的にその組織の長となる。そうだな?」

「う、うん」

 なれるかどうかは分からないが、今のところその予定で話は進んでいる。

「ならばシイ。組織の名前をお前が決めろ」

「……えぇぇ!!」

 単刀直入なゲンドウの物言いに、シイは驚きのあまり固まってしまう。唐突すぎるゲンドウの言い方に苦笑しながら、冬月は優しくシイにフォローを入れる。

「老人達もシイ君が決めた名前なら文句は無いと言い出してね。無論、我々も同じだよ」

「で、でもですね……」

「我々に残された時間は少ない。お前が決めろ」

 拒否は許さないとばかりにゲンドウはシイを見つめる。突然重大な事柄を託され、戸惑うシイへ冬月は歩み寄ると、リラックスさせるように肩を軽く叩く。

「難しく考える必要は無いよ。君が良いと思う名前を決めて欲しい」

「でも私じゃ……」

 正直なところ、シイには自信が無かった。元々ネーミングセンスがあるわけでも無いのに、大事な組織の名前を決めるなんて無理だと。だがここで自分が断れば、またゼーレとゲンドウ達は揉めるだろう。

「何なら誰かに相談しても良い。そうだね……明日のこの時間に、シイ君の答えを聞かせてくれ」

「……分かりました。頑張ってみます」

 小さく頷きながら答えるシイに、冬月は満足そうに微笑んだ。

 

「では、失礼します」

 ペコリと一礼して、司令室を立ち去ろうとするシイだったが、ふと足を止めて振り返る。

「あ、お父さん。夜ご飯はハンバーグだから早く帰って来てねって、お母さんが言ってたよ」

「……分かった」

 ゲンドウの返事を確認すると、今度こそシイは司令室から出て行った。

「ふぅ。全く老人達もえげつない事をする。シイ君に全てを決めさせるなど……」

「……ハンバーグか」

 ニヤニヤと表情を崩しているゲンドウに、冬月は一段と深いため息をつくのだった。

 

 

 翌日、登校してきたシイを見て、教室にいた生徒達は一様に驚きの表情を浮かべる。それもその筈、シイは目の下に真っ黒な隈をつくり、朝だというのにすっかり疲れ果てた様子だったからだ。

「おはよう……」

「ちょ、あんた、一体どうしたってのよ?」

「うん、ちょっとね」

 ふらふらと自分の席に座るシイに、アスカ達が心配そうに駆け寄る。

「凄い隈だね。寝てないのか?」

「……一睡もしていないわ」

「なんで綾波……ちゃうちゃう。レイが答えとんのや」

「……見てたから」

 さらっと問題発言をするレイに、一同はぎょっと視線を向ける。だが当の本人は全く気にした様子も無く、無表情で視線を受け流していた。

「れ、レイちゃんって今、シイちゃんと同じ家で暮らしてるのよね?」

「……ええ」

「そ、そや。何も変な事あらへん……か?」

 ぼけが感染したのか、まあ良いかと流されそうな雰囲気をアスカが一喝する。

「問題大ありでしょ。じゃあ何? あんたは一晩中シイを監視してたって訳?」

「……いいえ。ただ同じ布団で寝ていれば、起きているかどうかは分かるもの」

「あ~これは、あれやな。深く考えんとこ。な?」

 気にしたら負けだと、トウジの提案に全員が頷く。ただ真剣に、シイにとって一番危険なのはレイなのでは無いかと、誰もが思い始めていた。

 

「気を取り直してっと。一体何があったってのよ?」

「うん、ちょっと悩んでる事があって……」

 シイの答えにアスカは少し驚く。これはシイが悩みの無い脳天気な性格と言うのでは無く、この少女は自分で解決出来ない悩みを、周囲の人に相談する事で解決する事が多かったからだ。

「へぇ~あんたがそんなに悩むなんて、気になるわね」

「ふふ。乙女が夜も眠れぬ程に悩む事なんて、一つしか無いと思うよ」

 何処から話を聞いていたのか、遅れて教室にやってきたカヲルは、シイの元へ近寄りながら告げる。

「出たわね。変態」

「酷い挨拶だね」

「と言うか、どうして今来た渚が、碇が悩んでるって話を知ってるんだよ」

「シイさんの声は、どれだけ離れていても聞こえるのさ」

「……やっぱり変態」

 散々な言われようだったが、カヲルは全く気にするそぶりを見せない。このあたりの精神的強さは、レイによく似ていた。

「あの、渚君はシイちゃんの悩みが分かるの?」

「勿論だよ。乙女の胸を悩ませる事と言えば、好きな男の子の事しか無いからね」

「……あんた馬鹿ね」

「ま、シイに限ってはな」

「あり得ないね」

「私もそう思う……かな」

「……ぷっ」

 自信満々に答えるカヲルだったが、一同は失笑しながら即座に否定する。年齢的に色恋の話はあり得なく無いが、シイに関しては例外だろう。

 本人に意識が全く無いのもあるが、何より周囲がそれを許さない。常時監視の目が張り巡らされ、しかも側にはレイが居る。恋愛なんて言葉はシイの周りに限っては存在していないのだ。

 

「で、あんたの悩みって結局何だったの?」

 役立たずのカヲルを隅に追いやってから、アスカは改めてシイに問う。

「実は……」

 シイはその場に居る面々に、昨日ゲンドウ達から新組織の名称決めを頼まれた事を話す。家に帰ってからもずっと考えていたが、良い名前が思い浮かばず今に至ると。

「なるほどな~。そりゃ難しい話やで」

「ったく、ゼーレの爺共もあの二人も、ちっとは仕事しろってのよ。完全に投げっぱなしじゃない」

「でも凄い事だよこれは。新組織の名前を決めるなんて」

 呆れるアスカとは対照的に、ケンスケは興奮した様子で目を輝かせる。ゼーレとネルフの後組織の名称は、恐らく歴史に残るだろう。彼のテンションがあがるのも当然と言えた。

「レイちゃんに相談しなかったの?」

「一応したんだけど……」

 そう言いながらシイは鞄から一冊の本を取り出す。それは世に言う姓名判断の本だった。何故か自慢げに頷くレイを見て、一同は全てを理解した。結局レイも役立たずだったのだと。

 

「ま、あたしに相談したのは良い判断ね。こんなのお茶の子さいさいよ」

「本当?」

「ふふん。良い? 人の名前と違って、組織とかの名称は大体同じ様な決め方してるの」

 腰に手を当てて自信たっぷりに語り出すアスカに、シイだけでなくトウジ達も興味深げに視線を向ける。こういう時のアスカは意外と頼りになる事を知っていたからだ。

「一般的なパターンだと、役割をそのまま名前にしちゃう事ね」

「うん?」

「例を挙げれば、『戦略自衛隊』『国際連合』『人類補完委員会』って感じかしら」

 ああ、とシイ達は納得の声をあげる。アスカが例に出した組織はいずれも、役割がそのまま名称になっている。少し固い印象を受けるが、わかりやすいのは間違い無い。

「えっと、人類の未来を守る組織だから……人類未来防衛組織?」

「えらい胡散臭い感じやな」

「ちょっと……違うかもしれないね」

「碇ってさ、ひょっとしてネーミングセンスが無かったり……何でも無い」

 ケンスケの突っ込みは、レイから向けられる絶対零度の視線で消し去られた。

 

「ん~後は……そうね~」

「ふふふ、今度こそ僕の出番みたいだね」

 悩むアスカを追いやる形で、カヲルが再びシイ達の前にやってきた。

「渚は何か知恵があるのか?」

「勿論さ。シイさんが困っているなら、僕はあらゆる手段を使ってそれを解決するよ」

「えっと……ありがとう?」

「……早く言って」

「仰せのままに」

 急かすレイにカヲルは機嫌を損ねる様子も見せずに、仰々しくお辞儀をする。この芝居がかった動作にも、もうすっかり慣れてしまった一同は、突っ込みもせずに言葉を待つ。

「リリンは異なる言語を操る。名前も例外では無いのさ」

「ごめんねカヲル君。もう少しわかりやすく……」

「例えばネルフはドイツ語で神経、ゼーレは魂、ゲヒルンは脳と言う意味だよ」

「そうなの?」

「常識じゃない」

 シイの問いかけに、アスカは何を今更と言った感じで答える。ドイツ育ちの彼女にしてみれば、そんな事は今更過ぎる話だった。

「難しく考えずに、シイさんがその組織に望む事を言葉にすれば良いさ」

「私が望む事……」

「おや、もう時間みたいだね。続きはまた後にしよう」

 教室に入ってきた教師の姿を見て、カヲルは微笑みながら自分の席へと戻っていった。他の面々も同様に、自分の席へと戻る。

(私が望む事……か)

 シイは授業を受けながら、自分がその組織に望む事を考え続けるのだった。

 

 

 その日の夕方、シイは司令室でゲンドウと冬月と向き合っていた。目の下に出来た隈に驚いた二人だが、晴れ晴れとしたシイの顔を見て、彼女が答えを持ってきた事を確信する。

「決めてくれたみたいだね」

「はい。みんなに力を貸して貰って、決めました」

「……聞こう」

 シイは頷くと司令席へと歩み寄り、一枚の紙を机にのせた。それを覗き込んだゲンドウと冬月は、一瞬驚いた様な表情を見せたが、直ぐに納得したように微笑む。

「なるほど。これが君の答えか」

「はい」

「……悪くない」

 自分が考えた名前を認められ、シイは嬉しそうに頬を染めた。

「では早速ゼーレの老人達にも伝えるとしよう。なに、二つ返事で了承するはずだ」

「ああ。良くやったな、シイ」

「え? あ……うん。ありがとうお父さん」

 珍しく笑みを見せるゲンドウに、シイは一瞬戸惑ったが、直ぐさま満面の笑顔を向けるのだった。

 

 

 シイの考えた名前に、ゼーレの面々はこれを待っていたと大喜びする。

「素晴らしい。やはり彼女に任せて正解だった」

「左様。期待に応えてくれたね」

「うむ。我々の目に狂いは無かったな」

「なら褒美を与えなければ……」

「チョコレート以外でお願いします」

 浮かれるメンバーに、ゲンドウがさりげなく釘を刺す。娘を何度も虫歯にされては堪らない。

「碇……この名に不服は無いな?」

「ええ」

「ならば良い。では今この時、我らの新たな歴史が始まるのだ」

「「全てはゼーゲンの為に」」

 

 

 シイが考えた名前は『Segen』。ドイツ語で祝福を意味する単語。これから先、生まれてくる子供達が等しく祝福されるような未来を、と言う彼女の願いが込められていた。

 




キールがあんな事言ってしまったので、ゼーレとネルフに変わる名前が必要だろうと言う事で、急遽新組織の名前をつけました。

一応本編が終わったので、区切りの意味で名称をつけただけですので、本文中ではゼーレとネルフの名前が混ざって出てくると思います。
頑張ったシイには申し訳ないですが……わかりやすさ優先で、ご了承下さい。

後日談も無事一歩目を踏み出したと言う事で、そろそろ本格的にアホタイムですね。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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