エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

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本編の都合などお構いなしのアホタイムです。

時間軸は19話途中、トウジがリツコと共に訓練を始める所です。


小話《トウジの頑張り物語》

 

~リツコVSトウジ~

 

 ネルフ本部のエヴァ訓練場では、リツコとトウジが向かい合っていた。これから訓練を行うのに際し、やっておかなければならない事があるからだ。

「鈴原君。あなたには絶対的に足りないものがあります」

「はぁ、まあそうでしょうが……」

「と言うよりも、足りてるものがありません」

「ま、まあ言い返せへんですが……」

 それはトウジも自覚していた。何せ自分はついさっきエヴァを起動したばかりの初心者。エヴァのパイロットとしてスタートラインに立っただけなのだから。

「でも安心なさい。このプログラムを修了すれば、貴方はエースとして生まれ変われるわ」

「わしは別にエースとやら興味なんかあらへんです。ただ大事なやつを守る力が欲しいだけ――」

「手ぬるいわ!!」

 真剣なトウジな気持ち。しかしそれはリツコの怒声で遮られてしまった。

「男の子がそんな事でどうするの? 野望はもっと大きく、最強のチルドレンを目指す位言いなさい」

「い、いや、ほんまにわしは……」

「はぁ~もう良いわ。どのみち最終的にはそうなるのだから」

 野心が無いと言うよりも誠実なトウジに、リツコはため息をつくと諦めた様に話を進める事にした。

 

「では早速訓練を始めると行きたいところだけど、その前にやっておくことがあります」

「何でっか?」

「少しだけ厳しい訓練だから、万が一に備えて誓約書を用意してあるの」

 リツコは取り出した誓約書をトウジへと手渡す。何気なしに目を通すトウジだったが、次第にその顔が青ざめ引きつっていく。

「あ、あの、姐さん。これマジでっか?」

「大した事は書いてないでしょ?」

「いや~その、最初の一行目に『死んでも文句を言いません』ってあるんですが」

「くすくす、それ面白い冗談でしょ。死んだら文句なんて言えないのにね」

 笑みをこぼすリツコに悟られぬようトウジは数歩後ずさる。ここに来て自分は早まってしまったのでは無いかと、改めて思い始めていた。

「安心して。万が一がおきても、遺族への保障はネルフが責任もって行います」

「は、ははは、姐さんお笑いの才能あるわ。ちっとも安心できへんって、それ」

 ジリジリとすり足でリツコから距離をとるトウジ。今後の展開次第では直ぐにでも逃げ出せるよう、下半身に力をこめている。

「貴方にはあれだけ強い意志があるから、誓約書は不要だと思ったんだけど、一応規則だからね」

「規則は大事ですな」

「そうね。で、問題ないわよね?」

「無いと思いまっか?」

 リツコとトウジの間に何とも言えぬ緊張感が漂う。何でもやる決意を抱いていたトウジだったが、流石に命まで失うのは想定外だ。そもそも死んでしまったら守る以前の問題だろう。

「そう。でももう誓約書にサインしてしまったのよ」

「……はっ?」

「うちに代筆が得意な子が居てね、貴方の文字を真似て書いて貰ったの。ほら、良い出来でしょ?」

 リツコに言われてトウジはあわてて誓約書の一番下まで視線を送る。そこには確かに自分と全く同じ筆跡で、鈴原トウジと記されていた。

「これで心置きなく訓練が出来るわね」

「……みんな、すまん。わしは……駄目かもしれへん」

 とても良い笑顔を向けるリツコに、トウジは遠くを見つめて呟いた。

 

 

「以上が基本的な動作よ」

「イメージするだけで動くっちゅうのは、案外おもろいですな」

「複雑な操縦技術はいらないの。必要なのはイマジネーション。想像力と発想力よ」

 参号機のプラグ内でトウジはリツコの言葉に頷く。歩く、走る、座る、そう言った基礎動作でも完璧に出来るまでには数時間を要した。普段無意識に行っている事をイメージするのは、予想外に難しいのだ。

「にしても、座っとるだけなのに結構疲れるもんや」

「シンクロしている以上、エヴァからのフィードバックがあるわ。頭が疲労感を認識しているのね」

「なあ、姐さん。ボチボチ休憩とか……」

「では次の訓練に行くわよ」

 トウジの泣き言を一切無視して、リツコは訓練プログラムを進めていった。

 

 

 かつてシイが射撃の訓練を行った様に、参号機は管制室の制御下におかれ、シミュレーション訓練が実施されていた。他の兵器とは違いシンクロで操縦するエヴァには、仮想訓練も有効な訓練のひとつだった。

「ぜぇ~ぜぇ~、あ、姐さん。流石にしんどい……」

「何言ってるの。まだ第四使徒よ? 今までの使徒全部を勝ち抜くまでは止めないから」

「今んとこ、何体出てきたんですか?」

「ひぃ~ふ~み~……第十三使徒までね」

「死ねと?」

「この位で根を上げるなんて……シイさん達が知ったら、きっと失笑するでしょうね」

 シイ達はこれらの使徒を全て殲滅してきた。トウジが三人に追いつくには、最低でも同じ経験をする必要があると、リツコは言葉巧みに煽る。

 彼女達は連戦ではなく、単機での戦闘でも無かったのだが、トウジには効果的な挑発だった様で。

「じょ、上等やないか。残りまとめて全部出しや! まとめて片付けたるわ」

「あら、やる気ね? 良いわ。全部同時に出してあげる」

 仮想空間に使徒がオールスター勢ぞろいする。そして参号機へのリンチが始まった。

 

「ぬわぁぁぁぁ」

 第五使徒の加粒子砲に打ち抜かれ、海に落ちたところを第六使徒に噛み砕かれる。

「ぐえぇぇぇぇ」

 第七使徒にマグマへ蹴飛ばされ、熱と第八使徒の攻撃にあっさり爆砕。

「ひえぇぇぇぇ」

 第九使徒の溶解液で全身ボロボロの参号機に、成層圏より飛来した第拾使徒が直撃。

「ぎゃぁぁぁぁ」

 第十一使徒に身体を乗っ取られ、第十二使徒に飲み込まれて精神的にボロボロにされた。

 

「あ、姐さん……ちょっとタンマ」

「因みにこのプログラムは使徒全部勝ち抜きだから。途中でやられたら最初からやり直しよ」

「お、鬼ぃぃ。悪魔ぁぁぁ」

「何とでも言いなさい。これが貴方の望んだ世界、そのものよ」

「人でなし、三十路ババア、行かず後家」

「……特別に、エヴァも相手にさせてあげるわ」

 思い切り地雷を踏み抜いたトウジは、シイ達のデータが組み込まれたエヴァ三体を含めた敵の集団と、何時終わるやも知れない戦いに挑むのだった。

 

 

 そして第十四使徒襲来を迎えた時、鈴原トウジは訓練プログラムを半分しか消化していないにも関わらず、立派に戦力として戦える実力を身につけていた。

 大切な何かを犠牲にして。




レイは従順。アスカは優秀。シイは甘やかされているので、リツコによる実害を被るのはトウジの役割ですね。
原作を何度見てもリツコはSだと思います。個人的にはですが。

小話ですので、本編も本日中に投稿致します。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。

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