本小説は『碇シンジがもし女の子だったら』と言う妄想爆発な設定でハッピーエンドを目指します。
一部の設定変更とキャラ崩壊以外は、テレビ版のストーリーに沿って展開して参ります。
もしこれらの事にアレルギーや、拒絶反応が出なかった方は、本編を読んで頂けると有り難いです。
それは突然の事だった。
『特別非常事態宣言が発令されました。住民の皆様は、速やかにシェルターへ避難して下さい』
無機質なアナウンスが流れたかと思うと、待ち合わせの場所に向かっていた電車が、目的の駅二つ前で運行中止になってしまったのだ。
「む~止まっちゃった。どうしよう」
仕方なく電車を降りた少女、碇シイは周囲を見回しながら呟いた。
駅の構内には人気が無く、シイは外へと歩を進めてみる。容赦なく照りつける真夏の日差しに目を細めながら、改めて周囲を伺う。
「誰もいない。あ、シェルターって所に避難してるのか」
アナウンスを思い出し、シイはポンと手を叩く。
ならば自分も避難すべきと思うのだが、
「でも、シェルターって何処?」
生憎シイはこの街の人間ではないため、土地勘が全くなかった。
「ん~誰かに聞ければ良いんだけど……あっ!」
誰か残っていないかと辺りを探っていると、駅の側に公衆電話があるのを見つけた。
「待ち合わせは無理みたいだし、一応連絡しておかないと。シェルターの場所も聞けるし」
シイは荷物の詰まったスポーツバックを肩に掛けると、公衆電話に向かって歩き出した。
※
非常事態宣言発令のため無人となった街を、一台の車が走り抜ける。
法定速度などお構いなしの猛スピードで。
「参ったわね~。あの道路が通行止めになってるなんて」
運転席に座るサングラスを掛けた女性が、忌々しげに呟く。
(非常事態宣言で電車が止まったのなら、恐らくあの駅ね)
脳裏に素早く進行ルートを浮かべ、見事なハンドル捌きで車を操る。エンジンとタイヤが限界を訴えているが、女性は更にスピードを上げていく。
(結構ギリギリのタイミングか。不味いわね、もし間に合わなかったら……)
背筋がゾッとする想像に、女性の頬を冷や汗が伝う。
「お願いだから、動かないで待っててね」
祈るように呟きながら、急カーブを華麗なドリフトで突破する。車内に強力な遠心力がかかり、助手席に置いてあった鞄から書類の束が零れた。その一番上にあるファイルの表紙には、黒いショートカットヘアをした少女が写っている写真がクリップで留められていた。
優しげな目をしており、庇護欲をそそる可愛さと可憐さを併せ持つ顔立ち。幸せそうな笑顔を向ける制服姿の少女。それは碇シイの写真だった。
※
「む~繋がらない」
シイは眉を八の字にして、受話器を戻した。何度掛けても繋がらず、返ってくるのは同じ台詞。
『特別非常事態宣言発令時は、通常回線の使用は出来ません』
「非常事態だから電話を使いたいのに~」
ごもっともな意見だったが、愚痴った所で現状が変わる訳でもない。
「はぁ、どうしよう。もう待ってるかもしれないよね」
シイはスカートのポッケから、一枚の写真を取り出す。写っているのは美しい妙齢の女性。薄着で色っぽいポーズを決めている脇には、
『シイちゃん江。私が迎えに行くから待っててね♪』
手書きでシイへのメッセージが書き加えられていた。
(葛城ミサトさんか……綺麗な人だけど、ちょっと変な人かも)
左隅についたキスマークを見て、シイは思わず苦笑する。
僅かに気が緩んだその時だった。突然静かな街に爆音が響き渡り、振動が伝わってきた。
「な、何!?」
耳を押さえながら、シイは音がした方へ視線を向ける。遠くにそびえる山々。その切れ間から、無骨な灰色の戦闘機が姿を現した。
だが、編隊を組んだ戦闘機は、何故か後方へ飛行を行っていた。まるで、何かから距離を取ろうとするかのようにじわじわと後退していく。
「飛行機? でもどうして後ろ向きに飛んでるんだろ」
首を傾げるシイ。その理由は、間もなく現れた。
「か、怪獣!?」
ぬっと山の陰から姿を見せたのは、巨大な何かだった。
細い四肢と盛り上がった肩。首は無いが胸についている仮面のようなものが、顔のようにも見える。全身が緑色のそれは人間に近い姿をした、しかし全く別の怪物だった。
あまりに非現実的な光景に、シイは呆然とそれを眺めるしか出来ない。
ゆっくりと歩を進める怪物と、それを牽制するように飛ぶ戦闘機。やがて怪物は、細い右腕をそっと持ち上げる。そして次の瞬間、怪物の手の平から伸びた光の棒が、戦闘機をいとも容易く貫いた。
「あ、やられちゃった……って」
穴の空いた戦闘機は、火を噴きながらフラフラと地上に向けて落ちていく。コントロールを失ったそれは、徐々にシイの方へと近づいてくる。
「に、逃げなくちゃ……」
しかし恐怖に竦んだ足は、脳の命令に従わない。目前に戦闘機が迫る。
それを怯えた眼差しで見つめ、そして、
「きゃぁぁぁぁ」
墜落した戦闘機から襲ってくる爆風に悲鳴を上げる。
小柄なシイを軽々と吹き飛ばす程強力な爆風は、不意にその力を弱めた。
「え……」
涙目になりながらシイが恐る恐る目を開けると、そこにはシイを爆風から守るように、一台の車が止められていた。突然のことに状況が理解できない中、不意に運転席のドアが開かれる。
「ごめ~ん、お待たせ」
現れたのは、サングラスを掛けた、青い髪の女性だった。
「碇シイちゃんね?」
へたり込んだシイに、女性は優しく問う。
「は、はい」
「迎えに来たわよ。さあ乗って」
「あ……じゃあ貴方が葛城さん?」
写真とはまるで違う、凛々しい女性の姿にシイは思わず尋ねてしまう。
「ええ、そうよ。あまり時間が無いから、話は後で、ね」
「は、はい。すいません」
状況を思い出し、シイは慌てて女性が開けてくれた助手席に乗り込む。ドアを閉め、シートベルトを付けると、運転席の女性に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「へぇ~礼儀正しいのね。あの髭の娘さんとは思えないわ」
「髭?」
「あ~良いの良いの。こっちのこと」
女性は笑って手を振ると、直ぐさま真剣な表情に変わる。
「んじゃ、ちょっち飛ばすわよ。しっかりつかまっててね」
「え? ……きゃぁ」
急発進した車は、猛烈な加速で危険な場所から即離脱。背後で次々と戦闘機が撃墜していく中、そのまま速度を上げ続けて、無人の街を駆け抜けるのだった。
※
「馬鹿な! 全て直撃の筈だ!」
巨大なモニターには、あの怪物に雨霰と攻撃を仕掛ける戦闘機、戦車の姿。しかし、怪物は全く効いた様子を見せずに歩き続けている。
「こうなれば総力戦だ! ありったけの兵力で奴を迎撃する」
「出し惜しみは無しだ!」
三人の軍服姿の男達は、必死の思いで命令を下す。
そんな彼らから少し離れた場所に、軍服とは異なる制服を着た二人の男が居た。騒ぐ軍服達とは違い、落ち着いた態度でモニターを見つめている。
「……ATフィールドか」
「ああ、使徒に対して通常攻撃では役にたたんよ」
白髪の老人に、サングラスを掛けた中年男性が答える。その間にも、モニターでは次々に増援と思われる戦闘機が姿を現す。
「おやおや、結構な戦力を投入するものだ」
「……精々時間稼ぎをしてもらうさ」
机に肘をつき、組んだ手で口元を隠すサングラスの男。隠されたその口は、ニヤリと嫌らしい笑みが浮かんでいた。
怪物へ容赦ない攻撃が続き、しかし効果はない。そんな光景を繰り返していると、不意に軍服達の元に一本の電話が入った。
「はい……はい……分かりました」
一人の男がそれを受け、やがて苦渋に満ちた表情で受話器を置いた。
「やはり、あれしか無いか?」
「ああ。許可は下りた」
「周辺の部隊を下がらせろ。巻き添えをくうぞ」
軍服の男達は、覚悟を決めた顔でモニターを睨み付けるのだった。
※
「……あれ?」
助手席から外を眺めていたシイは、ふと異変に気づいた。
「どうしたの?」
「あの、飛行機がみんな怪獣から逃げちゃったので」
「何ですって!?」
女性は急ブレーキを掛けて車を強引に停止させると、大急ぎで懐からオペラグラスを取りだし、助手席の窓を全開にして、食い入るように外を覗いた。
状況を察したのか、オペラグラスを持つ手が震え、表情もみるみる青ざめていく。
「まさか……N2地雷を使う気なの!?」
「何ですか? そのえぬつー地雷って?」
「やばい! シイちゃん伏せて!」
女性はシイを庇うように、自分の身体を上に被せる。
次の瞬間、先程とは比較にならない爆発音と強烈な爆風がシイ達を襲った。
最後まで目を通して頂き、ありがとうございました。
一応碇シンジ≒碇シイという設定になっております。
純粋な性転換だけでは無く、性別が変わった事によって過去も色々と変わっていりますので。
もし宜しければ、今後もお付き合い頂けば幸いです。