俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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115番道路

 ジャリ、と足元の砂を踏みながら横へと飛ぶ。砂地―――砂浜のフィールドを駆け巡る様に横へと飛んで着地し、不安定な足場をしっかり踏みしめる様にこらえつつ、片手で帽子が飛ばないように抑え、正面、ライン分けすらされていない天然のバトルフィールドへと視線を向ける。反対側に見えるのは軽装、動きやすい服装に身を包んだバトルガールの姿だ。拳を前に突き出し、気合いを送り込むようなその先にはアサナンが存在し、そのアサナンに相対する様にギター(ロトム)抱えた(浮かべた)ムウマ―――通称ロトムウマの姿がある。

 

 Aパーティー―――ジョウトで活躍し、殿堂入りを果たした面子の中にいたポケモン、サザンドラのサザラはギルガルドを兵装として装備する事によって自身の苦手なタイプを補完する事に成功した。悪・ドラゴンに、鋼という防御を生み出した。それは天賦(6V)にだからこそ許された暴挙だった。センス、才能、そしてキャパシティを埋め込むようにサザラはギルガルドという存在を埋め込み、そしてその能力をギルガルドを扱う事へと伸ばして行った。

 

 目の前、ロトムウマの姿はサザラと似ているようで―――全く違う。

 

「アサナン、とびひざげり!」

 

「左へ飛んで、通り過ぎたら振り返りながらぶっ放せ(ハイパーボイス)!」

 

 指示に対してロトムウマは驚くほどに清らかな動きで従い、格闘技の動き故に瞬間的な加速で自身を上回るアサナンの動きを回避する事に成功した。そのまま、空中で綺麗にターンを決めながらねんりきで浮かべたピックでギターロトムの体を、弦を一気に弾き鳴らす。それが一瞬で音を生み出し、振動となり、大気を伝わってアサナンに背中から突き刺さる。受けたアサナンがそのまま倒れそうになるが、きあいのタスキを装着しているおかげで首の皮一枚残して耐えきる。

 

 振り返りながらアサナンが拳を作り出す。拳の構え、踏み込み、コンパクトで速い動きから次の一手を事前に予想する。

 

「もう一度だ」

 

「必殺、マッハパンチ!」

 

 ハイパーボイスが響く寸前に、マッハパンチがアサナンの拳から放たれる。素早い拳は易々とロトムウマの速度を上回り、その拳を叩きつけて来る。ロトムを兵装として装備するムウマのタイプは複合化され、悪・鋼―――つまりは四倍弱点と化す。だが持たせた持ち物は格闘技を半減するヨプのみ、それに加え突貫で格闘耐性を叩き込んだ。

 

 結果―――特別な指示を繰り出さずとも、持ちうるポテンシャルと事前の準備で弱点技に耐える事に成功する。進化前の個体でこのレベルの弱点技に耐えられたのであれば十分上出来だと判断できる。

 

 マッハパンチを耐えた所で反撃のハイパーボイスが砂浜に鳴り響く。広がって行く音の振動は一瞬でアサナンに回避不能な一撃として突き刺さり、その体を吹き飛ばし―――砂浜に転がす。目を回しながら砂浜に倒れる姿をナチュラルが確認し、頷く。

 

「そこまで! アサナン戦闘不能、勝者ロトムウマ!」

 

「あー、あと少しで勝てるところだったのにー!」

 

 ナチュラルの審判が入り、そしてバトルガールから悔しそうな声が漏れる。そのリアクションに小さく笑い声を零し、ポケットからげんきのかたまりを取り出し、それをバトルガールへと投げて渡す。それを受け取ったバトルガールが頭を下げる。

 

「勝負ありがとうございました! まさかこんなところでセキエイチャンプと、それも同レベル帯で勝負できるとは思いませんでした! それにげんきのかたまりまで……」

 

「気にする必要はない。来るもの拒まず、戦いを求める者に応えるのがトレーナーで、教えを乞う者にそれを与えるのは頂点に立つ王者としての責務だ。アサナンにマッハパンチを覚えさせた手腕を見れば君の育成家としての手腕は決して悪くないのが良く解る。だけどその代わりに指示が凄く雑い。まぁ、現状は大体どの地方でも育成と能力重視、指示が軽視されがちな環境なせいもあるんだが―――」

 

 軽く咳払いする。話題から離れたな、と。

 

「ともあれ、指示がところどころ雑だ。ポケモンの能力と気合いでどうにかしようと居ているフシがある。気合いも確かに大事と言っちゃ大事だが―――最低限体力計算ぐらいはできる様にしよう。何を受けてどれぐらい残るか、脳筋のシバでもこれぐらいは普通にやってるからちゃんと勉強しよう」

 

「……う、ぐ、……はい……」

 

 まぁ、そのシバも結局はワンパンでぶっ殺すから、とか真顔で言うから理解はしていても体力計算を投げ捨てる様な所があるのだが。それでも細かい体力計算が出来ると急所へ一撃が刺さらない限りは計算が狂う事もない。しかしそうか、と小さくつぶやく。今の様なフリーフィールド式になってくると、ポケモンの能力に頼らなくても急所へと当てる事を狙って行えるのだ。

 

 そうなるとジョウトに残してきた災花も能力的な部分を再育成する必要がある。

 

 難しい。レギュレーションの変更を今回はダイレクトに喰らっている気がする。

 

「その、ありがとうございました! 今から勉強し直してきます! うぉ―――!」

 

「あ、ちょ……」

 

 そう叫んだバトルガールはアサナンをボールの中へと戻すと、そのまま岩肌の崖を垂直に走ってのぼり、その上で出現したピッピにラリアットからサマーソルト、そして空中でつかんでフランケンシュタイナーという見事なコンボを決め、ぼろ雑巾となったピッピを投げ捨て、カナズミシティへと向かって一直線に走り去った。

 

「うーん、見事なフィジカル」

 

「君と一緒だと本当に飽きないよね。色んな意味で」

 

 ナチュラルの呆れた声に対してまんたんのくすりを取り出し、投げ渡す。それを受け取ったナチュラルがピッピの治療へと向かっている間にロトムウマのコンビへと視線を向ける。勝利したのがよほど楽しかったのか、或いは嬉しかったのか、何時までも楽しそうにギターをピックでガンガン鳴らし、ほろびのうたを海の方へと乱射している。どこからどう見ても変種だよなぁ、と苦笑しつつ、腰のボールへと手を伸ばす。

 

「―――さて、長く待たせたな。また冒険をしようか、モビー」

 

 超巨体を保有するホエルオー、モビー・ディックを砂浜横の海へと放った。

 

 

 

 

 115番道路は途中、水道によって分断されている。その為、秘伝技・なみのりを使用できないトレーナー、許可されていない人間は移動に必要以上の労力を必要とする。あのバトルガールの様に崖を走って上る事の出来る化け物フィジカルを持っているなら格好のトレーニングスポットなのだろうが、そうでもなければ全く寄り付くこともないだろう。その為、ここは比較的に多くのポケモンが群れを成しながら生活している。

 

 ただいま、モビー・ディックの背の上に乗って移動するこの水上、見える範囲にポケモンがいても近寄ってくる事はない。ホエルオーとしての超巨体、そして100を()()()レベルが野生のポケモンに対して絶対的な恐怖を演出させているからだ。つまり、モビー・ディックの背の上にいる限りは安全という訳になる。背の上で軽くカナズミシティで用意した軽食のサンドイッチを口の中に放り込みつつ、海の風を感じ、先へと進んで行く。

 

「ふぅ―――流星の滝に到着するのはこのペースだと明日になるかな」

 

「結構ハイペースで移動しているけどそんなもんなんだね」

 

「まぁ、ホウエンは手つかずの自然の多い地域だからな、ちょっと歩き難いってところはある。その中でもここは特にめんどくさい場所の一つだけど。まぁ、その分流星の民の集落ではゆっくりさせてもらおう」

 

「期待せずに待っておくよ」

 

 そう言ってナチュラルは視線をロトムウマのコンビへと向けた。その視線の先にいるロトムウマはポケモンマルチナビから延びるイヤホンを耳に当て、そこから漏れる古いロックを楽しんでいた。その姿を見ているナチュラルは軽く首を捻る。

 

「そう言えば(オニキス)が偶に聞いている曲って他じゃ聞いた事がないけど、ジョウトの方のバンドのなのかい?」

 

「あー……まぁ、そうだな。数少ない故郷の縁の品だよ。媒体自体はぶっ壊れちまったけどデータは残ってたしなぁ。ディープ・パープルとか、ボンジョヴィとか、俺のいた所だとクッソ有名だったんだけどな。こう、こっちにゃあガツン! と来るロックな曲が少ないのが困りものだな」

 

「……つまり?」

 

「小さい事は気にするな、ロックはロックとして楽しめ」

 

「なるほど、まるで解らない」

 

 ロックは理解するものではなく、感じるものなのだ。頭の上に疑問符を浮かべるナチュラルとは違い、ロトムウマコンビはヘッドバンギング等で明確に音楽を楽しんでいる様に思える。

 

 ―――完全にスカウトされた時のことを忘れて、完全に音楽を楽しんでいるだけだろうなぁ……これ……。

 

 いい意味で個性的だ。そんな事を考えていると、腰に装着しているモンスターボールの方から声が聞こえてくる。

 

『結局、流星の民に会うのは解るのだけれど……一体どういう連中なのかしら?』

 

「ん? あぁ、そうか。まだ詳しく説明した事がないな」

 

 ミクマリの言葉で基本的に自己完結してしまうのは悪いクセだな、と思いつつ情報を纏めよう。そう思い、基本的なところから情報のおさらいを始める事にする。

 

「まず、過去のホウエンには巨大隕石が降り注いだことがあるって話をしなきゃならんな」

 

「それによってルネシティや流星の滝が生まれたんだよね?」

 

 ナチュラルの言葉に頷く。

 

「そもそもの発端がそれだ。そして流星の民の話はそこから目覚めてしまったグラードンとカイオーガにある。遥か過去―――原始と呼ばれる時代の二体は強大な力を持っていた。グラードンはあらゆる水分を蒸発させ、海を干上がらせる大地の化身とも言える存在で、そしてカイオーガはどんな大陸だろうが水没させる海の化身と言える怪物だった。この二体は隕石の衝突、そのエネルギーによって目覚めたんだな」

 

 ゲンシグラードン、ゲンシカイオーガ。それが本来の二体の伝説の姿。長い間眠りについた事で今ではゲンシの姿は残されておらず、ほぼ誰も知る事はない。

 

「グラードンとカイオーガはお互いに天敵の様な存在だ。出会ったら最後、どちらかを滅ぼすまで止まる事はない。そして実際、二体はお互いを滅ぼす為にホウエンそのものを消し飛ばそうとしていたんだわ、これが」

 

『マグナム並に大きそうな話ね!』

 

『お静かに』

 

 ネタを挟まないといけない病の馬鹿(カノン)が一瞬だけ発作を起こしたが、次の瞬間ナイトに黙らされていた。故に軽く咳払いをしつつ、話を進める。

 

「そこでグラードンとカイオーガの仲裁に入ったのがレックウザだ。正確には今でいうメガシンカしたメガレックウザだな。祈りによって飛来したレックウザはグラードンとカイオーガから力を奪い、そして二体を再び眠らせた―――そしてそれを果たしたレックウザは救いの神としての信仰を得た。それを引き継ぎ、受け継ぎ、そして継承しているのが流星の民だ」

 

 いったん言葉を区切り、言葉を整理する時間を与える。そして考える―――グラードン、カイオーガ、そしてレックウザは()()()今の状態となったのだ。長い年月を経て力をなくしてしまったとも言える。そう考えるなら原初に生み出され、そして遥か長い時を生きてきた伝説のポケモン達は基本的に弱体化しているのではないだろうか。

 

 ―――そう、ツクヨミ(ギラティナ)も。

 

「……ちなみにだが流星の民には伝承者って奴がいる。空の奥義・ガリョウテンセイをレックウザに思い出させる事が出来る上にレックウザを空の柱に呼び出す事が出来る最高ランクの能力者になるな、こいつは」

 

 その伝承者がヒガナなのだ。彼女だけがガリョウテンセイをレックウザに思い出させることが出来る。そして彼女だけがレックウザを呼び出す事が出来る。故にどうしても彼女に会うか、或いは正確な情報を入手しなきゃならない。そして場合によっては手段を選べなくなるかもしれない。自分が知っている通りならマグマ団とアクア団を煽っていたのは彼女なのだから。この段階で動き出していたら―――どうだろう、ガリョウテンセイを調べる必要がある。

 

 場合によってはゼクロムレールガン射出伝説が始まるかもしれない。

 

「ねぇ、なんか不穏な事を考えなかった? トモダチがちょっとビビってるんだけど……」

 

「え? 気のせいじゃない? 俺、外道は卒業したけど基本鬼畜だよ」

 

「一切信用できる要素がないなぁ……これ……なんだろう。イッシュが凄く恋しくなってきたよ。これがホームシックかな……」

 

『フフ、それは将来に不安を覚えているだけよ! 戦おう、現実と!』

 

『ノー・フューチャー!』

 

『未来等ない!!』

 

ゴリ(キサマに)ッ、ゴリ(明日はない)ッ』

 

「君のトモダチが積極的に僕を虐めようとするのどうにかしてくれない? 心がいつも通り折れそうなんだけど」

 

 やったね、ナチュラル君。メンタルが鍛えられるよ。少なくとももうゲーチスに洗脳されるようなことはないだろう。比較的に性格が外道なウチのパーティーと話し合えるのだから、相当メンタルが鍛えられていると思っていい。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

「―――伝承者(ヒガナ)、か……」

 

 はたしてそれは重責なのだろうか。そう思うと、少しだけ同情してしまいそうだ。




 実機にもいるバトルガールユリカちゃんでしたな、相手は。まぁ、それはそれとしててんぞーの人がXYとORAS購入予定らしい。

 それにしてもオニキスパーティー本当に愉快だなぁこれ……。

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