千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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ありがとうございます。
投稿4年前、書いたのはおそらく8年ほど前なのに反応多くてビビってます。


外伝5 中心

 アリアドネーでは、新入生のカリキュラムを決定する話し合いがされていた。

 関西で起きた事件に伴い表面化された、メルディアナの授業と評価の不平等性と、不完全な教育カリキュラム、それに過ぎた贔屓などによる成長の阻害。それらを踏まえた結果、10年以内に卒業した中で希望した者は、アリアドネーでの授業の受けなおしをできると言うものが出来上がった。

 

 希望者は意外と多かった。それは、魔法使いの中でメルディアナの評価が地に落ちたからと言っていいだろう。ネギ・スプリングフィールドを犯罪者にした学校として有名となり、そこでの評価など、マイナスにしか働かなくなってしまったのだ。仕事をしようにも、仲間たちからは村八分状態になってしまい、身動きもとれない。アリアドネーでの再教育というのは、彼らにとって救いだったのだ。

 

 しかし、授業の受けなおしに関して、希望した人たちの心中は複雑だった。

 その制度自体が施行されるに至った原因である、ネギのために作られたモノであり、自身はネギの隠れ蓑であることを知ってしまっているから。

 そもそも、ネギ・スプリングフィールドの親である英雄、ナギ・スプリングフィールドに対する妄信が、今の自分たちを苦しめていること。

 

 当時でさえ、同じ時期に学校に通っていた生徒たちはネギの事が嫌いだった。何をやっても褒められて、特別扱い。禁書庫に入りたい放題。同じ行為を違う生徒がしたら、説教されるか、停学になるか。しかも、彼には才能があるのだ。自分たちはできる範囲で努力をしなければいけないのに対し、彼は必要以上に整った設備とサポートがあったのだ。

 それに、彼は、やりたくないことには目もくれずに好きなことばかりをしていた。魔力の制御など、必要ないと言う風に、一般知識などやってる暇がないと言った感じで自分の判断のみで行い、そのうえやってないところにまで最高評価を与えられて、常に主席の評価になっていたのだ。

 

 生徒たちにとって、ネギは目の上のたんこぶ以外の何物でもなかった。それが今は足かせとなり、自分たちは盾となれと言われているのだ。

 カリキュラムを受ける生徒たちの大半が、ネギと同じクラスであることを拒絶したと言うのも、頷けるであろう。

 

「しかし、これでは授業ができませんね」

「正確にはネギ君の授業がですけどね」

 

 それでもいいとセラスは考えていた。ネギに必要なのは道徳だと。

 改心したのかと思われたネギだが、彼は改心していなかった。というよりも、改心する心を持たなかった。何がいいのか、何が悪いのかという判断基準が自分の感情以外にないのだ。結局、

 

 明日菜さんが殴られるのが嫌だったから止めた。

 

 それ以外の考えも持たないし、争っていた理由も考え直していない。関東と関西の仲も、今手を取り合えば改善するものだと思っているし、高畑や近右衛門が裁かれるのは間違いだと思っている。だからと言って千雨が悪いとも思っていない。それらは全て、彼の知人であったり、生徒であったり、友人であったりすると言うのが判断基準となっていたのだ。

そのことに気が付いているのは、魔法世界ではセラス、ドネット、クルトくらいだろう。

後日公開されたクルトからの情報によって、独善の行為であるナギの行為の裏側と、その被害に対する評価の改善によって、ネギの歪さに気が付くものも出始めるが、それでもネギに優先されるべきは魔法教育であると言う方針に会議が成りつつあるのは、仕方のないことだった。

 

「やはり、皆さんには我慢していただくしか」

「そして、講師の誰か一人でもメルディアナと同じ行為をすれば、そうでなくとも生徒の一人でもネギ君に味方をして、間違った行為を正しいと言えば、アリアドネーは存在意義を無くしますよ」

 

 ネギを優先して考える講師に釘をさすように言葉を発したセラス。それに対し発言した講師は口を閉ざして、軽くセラスを睨みつけた。

 他にも、ネギを優先するのは当然のことだと考えている講師が多々いることは明白だった。

 

「あなたたちのその行為が、将来的にネギ君を苦しめるのを理解しなさい。井の中の蛙は英雄にはなりません。ナギ・スプリングフィールドのようになるには、経験と試練があります。実際に彼はメルディアナを必要ないと判断し、中退しています。そして、自己研鑽のために魔法世界へと来たのです」

「では、授業自体必要ないのではありませんか?」

「ネギ君がなぜここに来るようになったのかを考えなさい。英雄の息子であろうと彼は犯罪者であり、犯罪者を庇うこころの持ち主です。贔屓という周りの行為によって、歪んでしまった判断基準を矯正しない限り、間違った方向にしか進まないでしょう。一人になった結果が、このような事態を招いているのですから」

 

 ネギを特別扱いしない理由を、平等にすべきといっても講師たちは理解しないだろう。そのためセラスはネギのためにもネギを中心にするのはやめろと言っていた。それに納得しているものと、していないものは半々くらいではあったが、その誰もがネギの事しか考えていなかった。

 セラスはその様子から、授業どころか、受け入れも難しいのではないかと悩むこととなる。それでも悩みの種はあると言うのに。

 

 悩みの種というのはネカネ・スプリングフィールドのことだ。彼女もまた、犯罪者となったわけだが、スプリングフィールドのネームバリューから、完全に罰することが難しかった。その結果、禁固無しのオコジョ刑なわけだが、カモの代わりにネギの側に付くようになったのだ。彼女の判断基準もまたネギを中心としたものであり、彼女が全てのネギの行動を肯定することによって、ネギの更生を非常に困難にさせていた。

 

 周りの人間を肯定する。それはつまり、外部の人間を否定する、拒絶すると言うことでもある。無意識のうちに、自分に都合がいいものと、都合の悪いものの判断を下しているのだ。そして、自分のに都合がいい人間を取り入れる。自分が賛美されたいがために。

 自分という存在を受け入れる人間を周りにおいて、全肯定された社会の中で生きていく。一種の自己防衛本能かもしれないし、昔からそのことになれ、大人になれないのかもしれない。もしくは、それが当然であり、社会とはそういうものだと思っているのか。

 

 今回も、様々な思惑や政局の変化から、たまたまこのような措置になったのに、ネギは自分が正しいから捕まっていないと思っている。ネカネも、ネギが悪くないと言い続けており、反省の色がまったくと言っていいほど窺えない。クルトは、それでこそのスプリングフィールドだと皮肉を述べていたが、受け入れる側のセラスは、それではまずかった。

 しかし、人生のすべてを贔屓と甘えで過ごしてきた少年に対し、実際に出た社会が自分の都合のいいようにいじくられていたネギに対し、どのような教育を行うべきなのか。どうすれば更生ができるのか。それらをすべて丸投げされたセラスは非常に頭を悩ませる。

 

「こんな時に、あの子たちだったら何をするのでしょうね」

「あの子たち、ですか?」

 

 千雨、千草、小太郎、アスナ。この四人はある種神聖化されていた。少なくともこの事件を深く知る者達にとっては。誇張表現は多々あるだろうが、それでも彼女らが行ったことは、長い間続いた腐敗を断ち切ったのだ。

 近衛という明らかな黒があったにせよ、それを成し遂げる胆力と、自己達成への執念があった。それは、元老院にも、近衛にも、ネギにもあるものだ。しかし、対外的にも利益となる、当然の権利の行使として行われた復讐だった。そして、間違ったものから受けた仕打ちをバイブルとして、彼らを反面教師として学び、正当性の中から訴える方法に出たのだ。法的にすれすれなものなどもあったが、相手と事情によって、それは仕方のないものとされていた。相手がよりひどい行為を行っていたから。

 彼女らは、何よりも理不尽を拒絶した。それだけの事。自分の都合のいいようにことを運んでも、相手を不幸に落としいれても、理不尽なことをしなかった。

 最低の価値基準があるだけで、英雄とは斯くも変わるものなのかとセラスは思った。

 しかし、思っただけでそれ以上は何もできない。最低の価値基準。それは魔法世界にとって最高の価値基準なのだから。

 

「では、その者達を呼べばいいのではないですか?」

「今、あの人たちはここには来ないでしょう。来たとしても、ネギ君には会わない。それに、講師の中ではあの子たちを敵視する者も数多くいます。悪いのは誰か、分かりきったことのはずなのに幻想に囚われて」

 

 その中の一人はあなたです。そう目で訴えるセラスだったが、それは伝わることがなかった。

 

 そして後日、クルトによって行われた大粛清と戦争の裏側の告発。

 メガロメセンブリアは荒れに荒れた。旧オスティアの人間は怒り狂い、帝国の人間は遊び半分で殺された仲間の事を再認識し、人を人とも思わない元老院へ矛先を向け、英雄の動機に幻滅した。

 悪を倒すための正義のヒーローは、自身の腕試しのために戦争に乱入して人を殺し続けていた。その悪とは、世界の人々全員を救うための策を必死に考えて行使しようとしていた別の形の正義だった。戦後の世界を操っていたのはどこから見ても悪でしかない老害だった。戦犯として罰された者こそが真に民のことを考えていた。

 そして、立派な魔法使いとは、連合の都合のいいように利用できる魔法使いであり、世論操作によって生まれた偶像であった。

 それら全てが実例や文書込みで発表されたのだから、騒ぎは収まるところを知らなかった。

 その中でも、立派な魔法使いの行動として、本当に立派な行為を行う者もいるということもふまえて、ご立派な魔法使いと立派な魔法使いの存在を公表。

 特に、被災地で弱きを護り、傷を治し、安全を確保していた立派な魔法使いと、自分の活躍の場を求め、自由を求めたり、宗教上の理由などからのどちらが悪なのか判断のできない抗争や戦争に、自分の価値観のみでつっこみ、裏の力を行使して被害を拡大させるご立派な魔法使いとの違いは、これから旧世界の人間と関わる際にしっかりと考えられなければいけない問題となっていた。

 自分たちの知識や常識の非常識性を認識させられたものは、それを拒絶するにせよ、肯定するにせよ、ある程度準備期間が必要となった。そして、それはアリアドネーでも同じであり、講師の中でも真っ二つに割れていた。

 それでもネギを英雄にしようと言う、幻想を追い求める人間。

 しっかりとした教育環境で学ばせて、導いたうえで考えようと言う人間。この二つの派閥ができていた。特別視していることにかわりはないが、少し見方が変わってきたと言うことだろうか。しかし、それでもまだ足りない。

 何が一番に必要なのかをセラスは考え、深くため息を吐いた。

 

「やっぱりあの子が必要かしら」

 

 セラスは手紙を一通書いて、京都へと送った。

 それは、千雨に特別講師をしてほしいと言う嘆願書だった。




コピペしてるだけなんだけど、読み返すとよくこんなん書けてたなと思う。
今だと無理だろうなぁ。

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