〜セフィスside〜
私の前世はとても幸せだった。大人しいけど優しい夫、私に似て超美人になりそうな気配を持つ愛娘。彼らと三人仲良くいつまでも暮らせると思った。だけど……銀行に用事をしに行った時、幸せは突然崩れてしまった。
銀行に襲い掛かったのは銀行強盗。私の国では確かに日常茶飯事に起きてもおかしくないけど……よりによって娘を連れてる時に……
紆余曲折があって警察の手によって鎮圧されたけど……既に私は命を落としていた。心臓を撃ち抜かれて。……まぁ強盗の一人が自棄になって銃を乱射して、運悪く撃たれた娘を庇えただけでも良しとしますか………………………
…………
……
……で、目が覚めたら真っ白な空間が広がってた。そして目の前には二人の半裸の男の人達。ウーン、貧相な体格といいアジア系の人に見えるわねぇ。
「目が覚めたようだな。○○○……」
あまり清潔感がなくだらしない雰囲気の人がプラプラしながら私に話しかけてきた…………あら?
「○○○? ねぇちょっとなんて言ったの?」
「お前の名前を呼んだのだが既に忘却しているようだな。」
短髪の男の子があんまり反省してない感じで言ってくるんだけど……
忘却……!? そんな……夫と娘の事も!?
「娘達はどうなったの!? 答えなさい!」
警察達が乱入したから大丈夫と信じたいけど……
「お前の家族は無事だ。」
! …………フゥ、良かった……
「話を続けるぞ。……実はこちらの手違いでお前の存在を抹消してしまったのだ……直にお前に関する情報は世界から消滅してしまう。家族、知り合いも完全にお前の事を忘却してしまうだろう。」
「そっそんな……どうにかしてよ!」
「残念だがどういう手段を用いても彼らにお前に関する記憶は残らない。」
…………
「そして、お前自身も直に全ての記憶、人格が消滅し別の存在に生まれ変わる。」
「そんなの……どうでもいいわ。娘達に会えないんじゃ……」
「お前が選択できる道は三つ。一つは家族と同じ世界に転生。ただし夫、娘とお前全員がお互いを全く知らない他人になるが。二つ目は記憶は失なわないが別の世界……ドラマやコミックの世界に転生する。お前がいた世界と他の世界は当然行き来する事は出来ん。三つ目はこのまま消滅し数十か数百年後に転生するかだ。」
…………どうしたらいい? 記憶はないけど同じ世界にいれる、違う世界で会えないけど娘達の記憶は残る………………
「…………違う世界に転生するわ。」
やっぱり……忘れる事なんて出来ない。会えないのは辛いけど……
「そうか。では、転生先の世界だが……どこにする?」
どこって言われてもね……
「適当でいいわ。」
コミックとか全然分からないしなぁ……ヤポーニ(日本)の友人は詳しそうだったけど。
「転生先の世界が安全な世界とは限らん。欲しい力はないか? 望めばいくらでもやろう。」
力……ね。やっぱり……
「……敵を殺すまでとは言わない。とにかく、大切な人を守れる力が欲しい……」
「分かった。それでは『そこそこ』の力を持たせよう。目が覚めれば目の前にある『モノ』を食べるが良い。」
「……ありがとうね。とにかく必死で生きてみるわ。」
「「では、始めるぞ。」」
でも……私は新しい世界で何を目標にして生きていけばいいのだろう…………
……
〜原作開始から23年前、海軍本部マリンフォード・海軍学校〜
「……先輩! セフィス先輩!」
……あら? ここは…………いつつ。頭痛が……
「どうしたんですか? さっきからぼーっとして。」
私に話し掛けるのは……赤紫色の髪の女性。前髪と頭頂ライン、後ろ髪以外を極端に刈り込むという前衛的すぎるセンスの持ち主の、確か……
「え〜と……ベルちゃん?」
確か後輩の……ベルメールだったかな? あれ? さっきは別のトコにいたような……ここは食堂よね……一体なんだったんだろう?
「なに固まってんですか? どっか体の調子が悪いとか?」
「いえ……大丈夫よ。」
…………私は五年前に海軍に入隊したクィンティア・L・セフィス。御歳20歳の超美人さん。趣味は歌う事と……ハンググライダー……あれ?ハンググライダーってこの世界にあったっけ? 出身はグランドラインの……いえ、スウェーデンだった気も…………また聞き覚えのない地名……いえ、知識がどんどん頭に……
「ちょっと! ホントに大丈夫ですか!? 先輩!」
「大丈夫大丈夫……」
あ、目の前に見慣れないフルーツがある……あれで口を潤うか……
「あら? あんな果物あったかしら? しかも皮も剥いてない……あ! 先輩せめて皮……」
ベルちゃんが何か叫んだが耳には入らずまるかじりしてしまった。
…………!!??
「ゴホッ! グエッ!? まっず……」
強烈な刺激が脳天を襲いついに意識を手放してしまう。
…………何時間か何日か、あるいはたった数分かは分からないが私は暗闇の中にいた。体は全く動かずそれなのに頭だけは嫌に冴えている。そう全て理解した。
銀行で死んだ私は神様?の手によって別世界に転生。全く新しい人間として20年間生きてきた。そして悪魔の実とか言うモノを食べたのがきっかけで前世の記憶が蘇った……?
「先輩! 大丈夫ですか? 急に倒れたからドーベルマン先輩とかモモンガ先輩が慌ててましたよ。」
私の意識を覚醒させたのはベルちゃん。……ああ、あの堅物の二人か。
「ほっときなさいな。あの二人やオニグモ先輩、ヤマカジ先輩、ストロベリー先輩は化け物級に強いんだから。私なんかに気をかける事はないでしょ。」
「……鈍いな〜(ボソッ」
「なんか言った?」
「いえいえ。さ、しばらくしたら授業に戻りましょ!」
「えぇ。」
それにしても20年間も家族の事をハッキリと思い出せなかったなんてね…………あいつら、前世の事は忘れさせないとか言ってたのに……腹立つわね。
ちなみに悪魔の実の能力はなにやらだいたい全長10mくらいの茶色い蛇の様だった。ただ図鑑に載ってなかったらしく調査も必要らしかったけど。ゾオン・ヘビヘビの実・モデル・???ってトコかな。
で、半年後の訓練所。目の前には質実剛健を地で行く堅物の男モモンガ先輩。成績的にも彼や他の4人は今期で卒業でしょうね。
「それにしても……ゼファー先生、いきなりセフィスと真剣試合をしろとは……」
モモンガ先輩が怪訝な表情で教官のゼファー先生に話し掛ける。この人は現在赴任先で大活躍しているボルサリーノ先輩、サカズキ先輩、クザン先輩を鍛え上げた実績がある。
「……拒否すれば別のヤツでもいい。オニグモやらドーベルマン辺りにしてもらうだけだ。」
「……まぁ、良いでしょう。」
そう言って私に向け闘志を見せるモモンガ先輩。
「二人共、手加減は許さん。全力でやれ。」
「……はい!」
ちょっとちょっと! マジなの!? 勝てるワケないじゃないの!
確か先輩は道力は3000近く、六式も基本は完璧にマスターしてるし、勝てる要素は…………あ、悪魔の実ならイケるかも!? よ、よーし……絶対に勝ってみせるんだから!
モモンガ先輩には勝てなかったよ…………こっちの攻撃が全く当たらないなんて……なんであんなにホイホイ避けれんのよ!
……と凹んでるトコに先生が更に信じられない事を言い放った。
「よし、次はおれが相手してやる。」
…………はい? 今、なんて……
「おれが相手と言った。さぁ死ぬ気で来い。でなければ……どうなってもしらんぞ。」
ちょ、ちょっと! なにこのイジメ!? 理不尽すぎる!
「グッ……」
地に倒れ伏す私。全身が痛くてまともに考える事も出来なくなってる……
「…………(後もう一押しか……しかしコング大将……一体何を考えているのか……)……さぁいい加減本気を出さんと死ぬぞ! 抗って見せろ!」
し、死ぬ…………う、頭が……
「うああああああっ!!」
私の意識がスパークする。
「むう……この姿、やはりまだまだ成長出来たか! まさか100m程にまで巨大化するとはな……」
先生がなんか言ってた気がするけどそんな事を気にする余裕なんかあるワケもなく成す術なく意識を失い……気づいたら医務室のベッドの上だった。そこにベルちゃんが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。
「あ……ベルちゃん。」
テンションがおかしくなっていたベルちゃんの話を聞くが……どうやら世界の終わりを目撃した様な荒唐無稽な内容だった。全くどこの怪獣大決戦よ。学校全体を壊滅出来そうな超巨大な大蛇とそれと戦う黒腕の超人なんて……
そんなこんなで色々なトコからジロジロ観察されてる空気を感じつつ1年半後に私は卒業。道力は2000。六式はなんとか紙絵以外の五式をマスター。
赴任先はグランドライン前半部・パラダイスにありマリンフォードからも近いシャボンディ諸島だった。
それにしても……前々から感じてたけど能力者になってから精密検査が増えたような……それにドクターベガなんとかとかいうイケメン科学者もしゃしゃり出てるしなんか異常でも出たのかしら?
ちなみに獣形態の大きさは直径1、5m、全長50mほどになっていた。姿を見た先生は覚醒せんとあの巨体にはならんのかとか呟いてたけど……それにゾ、ゾオンって成長するんだっけ? 教本で教わったのと違うような……
一方、後輩のベルちゃんは私以上の才に恵まれ、勤務先でも順調に働けていたのだが……ある時大怪我を負いもったいなくも退役し彼女の故郷のココヤシ村に隠居した。
〜???〜
〜Nonside〜
「……これは誠か? ドクター。」
「えぇ。間違いないですね〜 セフィス二等兵の能力は……『神獣種』系ですよ。ヘビヘビの実・モデル……ミドガルズオルム。」
とある研究室で密談をするのは世界政府高官と白衣をだらしなく羽織った黒目黒髪の見目麗しい美青年。
「!? そ、それは……かつて800年前に……」
「そうですね〜あの時代、世界を震撼させた三大災厄の一角。しかもあのレッドラインの……おっと、なんでもありません(レッドラインの正体……それを知ったら世界はひっくり返りそうだしね)」
「? さて……彼女をどうするか……万が一裏切られたら我々には成す術などないぞ。第一獣形態の状態だと海などに落とす手段も皆無だ……その時点で詰む。」
「『竜王』、『世界を滅ぼす者』が現れてない以上無力化する手段はゼロでしょ〜ね〜 懐柔できなかったら……ヤバいですよ〜」
「…………そこら辺は善処する。彼女には切り札になってもらわねば困る。どんな手段を使ってでもな。幸い『竜王』は『天竜王』家からしか出ず『世界を滅ぼす者』は実自体が数百年も消息不明。仮に出現しても、最悪2対1で勝てるはずだ。」
「そーですね(棒)」
そして科学者を残し帰る高官。一人残された科学者は思考に没頭する。
「…………(2対1か……それだったらいいけどねぇ。1対2いや、何かの間違いで三つ全てが世界に牙を剥いたらかの『七英雄』でも一たまりもないだろうし…………でもその方が面白くなりそうだね〜 ……とにかくこの時代で色々な事が起きるのは確実。そうなる予感がある。まったく、興奮でエンドルフィンがドパドパあふれ出そうだよ〜)」
狂気じみた笑みを浮かべたのち再び自分の研究に没頭する今世紀最大の天才と言われる若き科学者。彼の予感は的中する事になる。20数年後に……