〜新世界・ガンリュウ島〜
「禊。」
その言葉を聞き終わった瞬間、今までに経験した事がない程の強烈な痛みが体全体を襲った。この技って確か豪鬼が上空からベガを不意打ち瞬殺した『みそぎ』って技か……こりゃ左肩辺りの骨完全にイッたな。
「〜〜っ!?」
クロ達やショウ達から見ると急に俺と豪鬼が消えた様に見えたらしい。事実俺達は地中深く埋もれていた。深さは……1キロは埋もれとるな。
「ど、どうなってんだ!? 直径1キロくらいのクレーターが出来ちまった!!」
クリークの声か。そろそろ出んと。
ズボォッ
俺より先にクレーターの中心地から現れる豪鬼。
「!? シオリちゃんは!?」
血相変えて叫ぶフィンガー。お前もズタボロだぞ。さてと……俺も脱出するか。
「カイザーウェーブ!!」
両腕に武装色の覇気を纏い……そのまま天に向かい放出すると目の前の土塊を全て吹き飛ばした。髭の皇帝さんの必殺技だ。それで皆の前に現れる。
「全く……おっそろしいオーラ纏って突っ込んで来たからつい半分以上の覇気で防御しちまったよ。それで俺のHPを1、いや2割近く持ってくなんて人間止めすぎだろ。」
クロ達が食らったら骨も残らんな。この技……
「社長以外全ての者を一撃で葬ったあの一撃を耐え切るとは……」
スナガが呻くが社長って誰だよ?
「ヌハハハ……さして堪えておらぬとはな……このような事初めてぞ。」
だから歯を剥き出して笑うな。心臓に悪いわ。
「さて……お互い体温まってきたしそろそろ始めるか?」
「当然……手を抜くなよもののけよ。」
だから抜く余裕ないってば。
「滅殺豪昇龍ッ!」
いきなりこっちに接近してきて圧倒的な圧力を内包し更に紫色の炎に包まれたアッパーカットを連続で撃ってくる。
「カラミティウォールッ!」
最近編み出した、覇気と超高圧縮された水を混ぜた障壁を生み出す。大魔王バーン様の必殺技の一つだ。
それは辺りの地をえぐり無数の炎の拳を飲み込んだ。そしてそのまま豪鬼を飲み込……
「天覇涛砕斬ッッ!!!」
またしてもおっそろしい圧力を内包した手刀を振りかざす豪鬼。
ゾワァッッ!!
慌てて身を翻す。するとそれはウォールを切り裂き、更に……俺の背後の海を二つに割った。……おいおい何キロ割れてんだよWWWWW
「「「…………」」」
流石に全員か度肝を抜かれる。
「ヌハハハッ! 先刻の技も見事也。流石にやりおるわ! しかし……これ程までに我の心が高ぶるとは愉快愉快…………まだまだ倒れてくれるなよッ! もののけの娘よ!」
いやいやさっきから超必殺技連発しててよう言うわ〜……といらついてたら不意に豪鬼が天高く飛びあがった。
「金剛國裂斬ッッ!!!」
「! カラミティエンドッ!!!」
全身が総毛立つ程のプレッシャーを感じ反射的に豪鬼に向け必殺の手刀を放つ。
ぶつかった二つのエネルギーはスパークを起こし……その余波が二人を中心に巻き起こり島を二つに両断した。おいおい二つに分かれたって事は……海の底まで切断されたのか? 二つになった島はおよそ10m以上は離れてしまった……
「「「〜〜〜〜っっ!?」」」
これには流石に仲間はおろかカイドウ一味も驚愕する。
一方の俺ら二人は……体全体に疾る程の裂傷を負う。深さも数センチ……当たった場所が悪かったら内臓が漏れてた所だな。それにお気に入りのタンクトップがオシャカだ。
「っ!? お、お嬢様っ!!」
倒れたままのクロとかが血相変えて叫ぶ。
「ふぃ〜実際食らってみるとすげぇな。そこそこ効いたよ。」
6、いや7割の武装色でガードしたのにこれか……
「あのカイドウ以上の怪物よのう……これ程の手傷は初めてぞ。」
豪鬼も平然と立つ。そういやさっきの技の金剛なんとかって確かエアーズロックを粉々にしてた様な……そんなのを食らっても(直撃じゃないけど)致命傷にならんとは……我ながらチートの極致だな。
「! ……む、修羅が目覚める時が来たか。ヌハハハ! 良い勝負であった。そこの未熟者もそうであるが……ぬしも次出おうた時が楽しみよのう。」
……ったく骨が折れるな。しっかしあれ程の強さの奴がなんでギンを……
「!? れぅー 鬼さん寝ちゃった……」
! ふぅ……終わったか。これから実験だってのに疲れさせてくれるぜ。
「けっこー暴れたし……寝る!」
とてとてと可愛らしい走り方をして奴らの船に向かう豪鬼……いや、修羅。
……しっかし今ので計4割ほど減ったか……さて残り全員戦ってくれるかね?
「さて、約束通りやるか。」
「まだやるのか……呆れたヤツだ。」
パイソンさんが呆れる。
「ほっとけ。……順番はどーでもいい。どんどん来いや。あ、まとめて来たら人間形態のままじゃ凹られるんで勘弁してくだしあ。獣形態なら楽勝だけど。」
「ああっ!? 舐めてんのか!?」
ワイルドさんやマンモスマン辺りが激昂する。
「いえ……事実そうなるでしょうね。あのマリンフォードでの映像を見ただけでも分かりますよ。次元が違うというのが。戦えば……以前の『救世主』の時と同じ結果を辿るでしょうね。」
牧師が二人を止める。しっかしさっきから言ってる『救世主』ってのは……
「ま、そこの腹黒牧師の言う通り……獣形態の俺と乱闘するか一人ずつタイマンするか……好きに決めろ。」
挑発したかいあってタイマンに決定。だが一人処刑人は参加しなかった。
「たとえ格上でも一対多ってのはな〜おれは止めとくわ。」
武士道ってのかね?ま、別にかまわんが。
「……おいお前達。」
エネルがカイドウ一味に声を掛ける。
「あ、こういうのもいたな。ひょっとして……ロギアか?」
パイソンさんがエネルの力に気付く。
「流石は強者か。力を見せていないのに分かるとは……」
「ボスの言葉じゃないがやはり何百回とタイマンしてれば……な。で、何の用だ?」
「その中で最高の覇気の使い手は誰だ?相手をしてもらいたい。」
なるほど、実戦でレベル上げする気か。無茶だけど。
「一番っつったら修羅だが帰ったからな〜それ以外だとやっぱり……小……エクスキューショナーかな。
「おれがか? 嬉しい事言ってくれるじゃんパイソンさん。」
「はっきり言って、幻獣種系だらけの中で彼やワイルドだけ恵まれた能力じゃない。それにも関わらず戒導十二界主でいられるのは……達人の域に達した覇気と戦闘技術があるからだ。
過去何十年十二人のメンツは様変わりしてきたが彼らが生き残ってきたのが良い証拠だからな。」
……H×Hの幻影旅団みたいなシステムって事か? やっぱり全員がとんでもないな。
「そうか。ちょうど良かった。物足りないかもしれんが……相手をしてもらいたい。」
エネルが処刑人に戦いを申し込む。
「いいぜ。少しは手応えがありそうだ。」
距離を取らないと勝ち目は低いだろうな……ま、心停止しても生き返れるし他の皆よりは安心して見れるが。
それよりもこっちも真面目にやらんとな。今回は……色々やらなあかんし。さて……豪鬼戦では怖くて武装色の出力をあんま下げられんかったが実験のためにゃ瀕死にならなあかんし力落とすか……
「順番決まったか〜」
まず最初は……
「一番手はタイガーマスクか。プロレスラーと戦うとは……やれやれ。」
「プロレス……主であり師である社長のファイトスタイルを舐めるなよ?」
? 社長だ? いやいや海賊だろ?
「社長の本質は略奪よりも闘争……社長の言葉で言えば、『燃える闘魂』だ!」
ちょWWWWWそれってイ○キじゃん! …いやまさかな……
「分かった分かった。じゃあ俺が先に仕掛けるから反撃出来るんならして来いよ?」
難儀だよな〜プロレスラーって。じゃ、まずは……30%!
「ぐむっ!?」
三割の武装色の覇気を込めたドロップキックを食らい吹っ飛ぶ。ジャヤの巨大亀は100mぐらい飛んだんだが数mとはな……やっぱベラミーを圧倒するだけあってフィジカルは見事だ。その後も何度か互いに順番に技を掛け合う。プロレスラーが相手だと完全に鰤や遊戯王張りのターン制になるな〜
「強い……!しかも全く力を出さずしてこれ程とは……ならばおれも少し本気で行くぞ!」
……いよいよか。じゃとりあえず襲いかかってみるかね。そうすりゃなんか技出してくれるやろ。
虎仮面は俺が掴みかかると逆に俺の両腕を掴み巴投げの要領で空中に放りあげた。更にそのまま空中で俺を足で数回けり上げて、落ちてきたところに更に頭突きをしてきた。そして地に落ちる直前の俺を掴みバックブリーカーを決める。
「ウルトラ・タイガー・ブリーカー……だ。」
くっ……けっこう効いた。背骨がイカレそうだ。ダメージ的に一割は減ったな。
というかマッスルリベンジャーとマッスルスパークを足して3で割ったみたいやな。
「!?」
何事もなく立つ俺に驚く虎仮面。
「なんとも……図抜けた堅さだ。」
「ありがとよ。続きはまた今度だ。次は誰だ?」
「フフフ、では私が行きましょうか。」
腹黒牧師か。獣形態はやめてるな。
「あの姿ではあなたには掠りもしないでしょうからね……しかし……(何故わざわざスナガ君の攻撃を食らったのでしょうかね? ……彼女のスピードならば……)」
「どしたー?」
「いえ、何でもありません……では始めましょう。あなたが相手だと初めから全力……!! (彼女の狙いは我々の力を暴く為? そして仲間に更なる向上をさせる為かっ!)……フフフ、まぁ良いでしょう。その方がカイドウさんも喜ぶでしょうし……なにより……」
さすがに気づいたか。だが放置するとはな……なんか企んでんな。
「カイドウさん以来ですね……挑戦者として戦うのは。では……行きますよ!」
一人で推察して一人で納得した牧師が、例の如く片手を後ろに回し棒立ちで俺を向かい撃つ。
数度攻撃を交えるがルッチとは次元の違う俺の動きにさすがの牧師も手を焼いてるな。
「こうも動きが見えないとは……つくづく規格外ですねぇ。良いでしょう……あなたの思惑に乗ってあげますよ。」
……さて、今度はどのぐらいかな?
牧師は不用意に潜り込んだ俺の頭を片手で掴みあげ、通常より巨大な竜巻を放ち俺を切り刻みそのまま投げ捨てた……確かこの技は超必殺技の……
「『やみどうこく』。奥の手の一つですよ。しかし……この技を受けてその程度とは……見事に自信を折ってくれますね。」
首の打撲に全身裂傷か。HPが一割ぐらい減ったな。たいしたもんだよ。
「続けるかい?」
「いえ、時間の無駄でしょう。私は引っ込みますよ。」
俺の思惑に気づいながら……はてさて何を考えてるのやら。ま、いいけどさ。
次は……ショウ。
「回復せんのか? 頂上戦争では見ていたぞ。白ひげの傷を完全に癒した秘薬を使ったのを。」
「ヤバなったら飲むさ。つまり……まだたいして効いてないって事だよ。四皇幹部の皆さんよぉ。」
実際はだいぶ減ってるけど。
「……フン、貴様をここで始末して確実にクロ様を頂くか。」
ショウの背に巨大な翼が生える。更に手足の爪が伸びる。……人獣形態か。
この姿でのショウの機動力は見事だった。獣形態よりは瞬発力はないが細かい軌道修正が利く上、手足を使える事も大きい。そして……
「そろそろ真面目にやったらどうだ? 攻撃力が低すぎるぞ?」
忠告した後に隙だらけのショウに殴りかかる。それをショウは……
「そうら、ふっ飛べーっ! ガルーダフラップ!!」
こっちを見ずに両腕を天に翳すと同時に俺をはるか上空にふっ飛ばした。
凄まじいGを受けながり車田飛びを実演するハメになる俺。
ドガァァッ!
およそ数百、いや千m以上上空からそのまま地に叩きつけられる俺。普通の人間なら木っ端みじんだな。また首、あと体全体にも少しダメージが蓄積したか……またHPが一割減ったよ。
「! まだ立つのか……」
「不死鳥兄さん並にタフなんでな。」
「? マルコの事を言っているのか?」
違う違う。一度見た技は二度は通用しない。今やこれは常識!な人だよ。
「しつこい……」
ホントに敵意しか伝わってこない。嫌われてんなー
「続きはまた今度だ。しっしっ!」
「……」
次は……マンモスマン。さて……こいつとは力比べしてみるか。
「力勝負だ。」
「うおおおーっ上等だぁー!」
手四ツ合わせ……英語で言うジョインレンチをしあう俺ら。……むっ!?
「ワハハハハーッ! その程度かーっ!」
5割の俺と互角とは……ジョズさん超えてるな……んじゃあ……7割!
「ぐおおっ!? なんというパワー!! えぇい! ノーズフェンシングー!」
俺をレオパルドンと一緒にすんなよ。
「武装色硬化!」
覇気を込めたショートアッパーで鼻を迎撃。
「パオッ……ぐむっ……ビッグタスクーッ!!」
今度は二本の牙が襲い来る。
ズブッッ!
「つっ!」
右肩、右腕辺りを貫通される。ダメージ一割ちょいって所か。
「トドメだーっ!」
グロッキー状態(の様に見える)俺を掴みあげ逆さまになった状態でそのまま地に叩き、いや、突き刺した。外から見ると首から下全部が地面から生えてる様に見えるだろうな。
そしてマンモスマンが飛び上がり逆立ち状態で無防備な俺の両足の脛辺りを掴む。
「ゴーストキャンパスーッッ!!」
俺の両足を持ったまま回転しだすマンモスマン。このままでは首がちぎれるだろうな。だが……
「むっ!? 動かんだとっ!?」
「変形斗浪っ!」
両足を象の首に挟み込みヘッドシサーズの要領で投げ捨てる。その後地中から脱出。
「ペッペッ……成功させたきゃ超人強度10億パワーぐらい上げてこい! メイルシュトロームッ!」
土を吐き捨て、津波を生み出して象野郎を押し流した。海に押し落とされたがあのクラスの実力者なら自力でどうにかするやろ。
次は……足技野郎か。
「まだ動けるのかよ。ありえねぇタフネスだな〜どう考えても人間じゃねぇぞ。」
「そこはまぁ……企業秘密で。」
「HAHAHA! でもまぁそれでこそやり甲斐があるってもんだ! さっきのオカマ野郎は歯ごたえなさすぎたからよォ〜」
やっこさんの全身を包む覇気がどんどん強大になっていく。
「覇気の強さではあのヤーさんに肉迫してるな。」
「誰がヤクザだっ!? 美人ちゃんだからって図に乗るなよ!!」
エネルと戦ってたヤーさんががなりたてる。よそ見……おおう、エネルが片膝ついてるよ。やっぱ強ぇな。
「よそ見すんな! 『緑』!」
ワイルドが足を振り上げると今度は大地が鳴動し俺に向かって大地が裂けながら迫ってきた。Gガンのボルトガンダムのガイアクラッシャーみたいだな。
「ふんっ」
武装色を込めた右手で受け止め大地の裂けを食い止める。
「隙あり! 『黄』ッ!」
今度は足からビームが発射された。……マジでどうなってんだ?
受け止めるが……威力は黄猿のレーザーと同等ってとこか。
「けっ! こうも簡単に防がれちまうとはなぁ! ワクワクさせてくれやがるぜ! ……んじゃあもう一段階上の蹴りを味わってもらうぜ〜」
まだあんのかい。
「『緑』! 『黄』!」
さっきの蹴りを連続で放っ……ん? 何も起き、いや『黄』の時に二本蹴りが疾ったな。と警戒してた俺の足元がいきなり十字に裂ける。その範囲は民家の集落を丸々飲み込める程。そして再び裂け目が元に戻っていく。その圧迫で全身にダメージを負う。これも一割ほどか。
「『黄緑』……『十字』だ。」
「なかなか楽しめたよ。だが……それまでだ。」
大地を両腕でそれぞれこじ開けはい上がり、ワイルドの足を掴み思い切り投げ捨てる。
「アウチ! なんてクレイジー……」
「何色あるのか知らんが一色で様々な事象を引き起こし更に組み合わせる事も出来るのか。器用な奴だな。」
「あまりカードは切りたくねーからな。ゲームはここまでにしてやるぜ。」
肩をすくませ下がるワイルド。
最後は……マークパイソンか。
「見た所瀕死に見えるが……それでも人間形態では勝てそうにないのでな。本気で行かせてもらうよ。」
大蛇の姿に早速変身したな……さて、残りHPは……一割前後か。武装色を三割ほどに抑えたから思ったよりスムーズにダメージが蓄積した。次に必殺技レベルの技を食らったら……死ぬな。さて……死に直面したら何が起きるかね? 一度自分の限界知っときたかったからな……今回は実に良いタイミングだった。
その後パイソンは巨体を生かしての体当たりやらを繰り出してくるが威力が中途半端すぎる。
「流石素早いな。」
「悪かったな。次はよけねぇよ。」
……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「さぁ行くぞっ!」
鎌首を大きく反らし……一気に解き放った。凄まじい勢いで毒液がしたたる巨大な口を開け俺に迫りくる。こりゃ当たったら6割以上の覇気で防御しないと死ぬ……な。
ドクンッ
な、なんだ!?この頭痛、それに心臓が焼けるように…………
……
…
〜スメラギ・ショウside〜
パイソンの一撃が確かに傾世に命中した。しかしこの攻防に勝利したのは傾世だった。次の瞬間思い切りふっ飛ぶパイソン。
獣形態であそこまで飛ばされたのは見た事がない。一体何が起き……
ゾワァッッ
突如、全身におぞ気が疾る。この感覚は確か修羅の……
「ハハハハハッッ! この私に挑みかかるとは……愚かしいぞ! 俗物!」
!? この声は……傾世? しかし先程とは口調も声質も違いすぎている……髪の毛が逆立ち顔つきもまるで悪魔の様に三日月の様な笑みを浮かべている。それにヤツを覆う闘気はまさに殺意の波動……
「貴様……誰だ?」
「何言ってんだ? ショウちゃん。」
「気づかんのか……コイツ、さっきとは別人だ。」
「……おっと、誰かと思えばあの暑苦しい戒導の手下共か。」
傾世が我々を見下ろし言い放つ。なんだ? 主の事を知っている?
「ん? お前達は私を知らないのか? ……そういえば三船と斬次がいないな。」
! 同志二人と知り合いだと?
「あぁ……『天草家』の『狂姫』と言えば分かる。」
あまくさ家、きょうき……?
「にしても坊やめ。詩織の体を……全く素人が無茶をしてくれる。」
? 何をぶつくさ言っている? ……なっ何? ヤツの体が癒えてゆく?ヤツが所有するという回復薬を使用していないというのに……傷を負った場所がまるで逆再生するかの様に元に戻っていく。しかも服まで? 一体これは……
「なんだ? 三人から聞いていないのか? 天草家の人間は『サイキック』能力の使い手とな。」
「what!? サイキック……超能力だぁ?」
「……まぁ大雑把に言えばな。」
ワイルドが戸惑うのも無理はない。サイキックはワノ国の最重要機密という噂が立つほどその存在がたゆたっているからな。
「ワノ国の人間がなぜ『東の海』のルーキーになっているのですか?」
ゲーニッツが尋ねるが確かに……理由が分からん。
「……正直に言えば私にも分からんよ。気づけば詩織は深い眠りに落とされ、更に『あの伝説』が居座り、あげく訳の分からん未熟者が主導権を握っていたのだからな。しかも『月下美人』まで無くしたから詩織は更に閉じこもってしまった。」
一体何を言っている?帰ったら主に聞いてみるか?
「このままお前達を帰すのもなんだかな……殺るか。」
「ぐ、減らず口を叩いてんじゃねぇ!」
マンモスマンが気後れするとは……ヤツがどれ程危険か本能で感じたか。
「黙れ下郎! ……面倒だ。束になって来い。」
「……仕方ありませんね。そうするとしましょうか。」
ゲーニッツは躊躇なく傾世に迫り、他の者も後に続き、各々の必殺技を仕掛けたのだが……
「『制極界』。」
!?
……? なんだ今一瞬……何!?
突如全身を激しい衝撃が襲い耐え切れずふっ飛んでしまう……馬鹿な。今のは我が必殺技のガルーダフラップ……
辺りを見ると他の者も同じ様な事態になっている様だ。
「自分達の技を喰らった気分はどうだ? ハハハハハッッ!」
「一体何を……した?」
「……制極界。全てのモノを封ずる禁断の力……」
そんなものは聞いた事もない。だが……事実目の前に立ち塞がっている。どうすれば勝てる?
〜シオリとの戦いから翌日、新世界・???〜
「うっう〜! ただいま〜」
傾世と事を構えてから翌日、何の問題もなくアジトに到着。いや見逃してもらったのか?
修羅は傾世と戦った疲れを見せる事もなくある目標に向かいダッシュする。
「おっっちゃあああんっ!!」
まるで火の玉となり体当たりをかます。ぶつかられたのは……
「ぐえっっ!?」
鳩尾に修羅のヘッドバットを喰らい悶絶するアゴ男。
「ちょ、ちょっとショウちゃん声に出てるぞ。」
アゴが私に話し掛ける。
「アゴってな……仕方ねぇだろうが生れつきこういう顔なんだからよ。……」
背は2m程で体重は110〜120キロ程の、この身長では正に戦う者として理想的な体つきをしている。黒髪はポマードでベッタリとオールバックにし、黒のスーツを着、赤い長いタオルを首から下げている。
つまり我々のリーダーであり、『百獣の』、『喧嘩番長』、『燃える闘魂』等の異名を持つ四皇の一角……カイドウ。
60前とは思えない若さを保っているその鋼の肉体、戦いに関する精神性、そして……悪魔の実の能力。どれを取っても隙がない。身体能力で彼を上回る者はいても『戦い』で主に勝つ者はほとんどいないだろう。
「えいっ」
「ギャアアアー!」
修羅が二本指を主の鼻の穴に突き刺した。簡単にやってる様に見えるがあんな事は修羅にしか出来んだろうな。
「……しっかしどうしたんだよお前がそんなに褒めるなんて……ハッ!? まさかやっとおれに惚れ……」
「スレーンドラジット!」
しばらく悶絶していた鼻血アゴ男が復活早々戯言を抜かしたので我が必殺の炎で脅してやる。
「ギャアアア〜!? 冗談だよ! 焼き殺す気かバカヤロー!」
……分かったからマイマイクは仕舞え。ただでさえ声が大きいと言うに。
「しっかし……全員けっこうやり合ったようだな。こうもボロボロになるたぁ……それ程かぁ? 傾世のシオリは?」
「我々と戦い、更に『鬼』の本性を出した修羅を撃退した。」
「! むぅ……『鬼』をもか……」
驚愕するのはかつてワノ国のどこかの地で侍大将を勤めたという伝説の侍、ミフネ。兜を被り顔全体を隠すマスクをしている。服装はワノ国の侍の中でも地位が高い者が着るという陣羽織を羽織っている。
「拙者も行けば良かったでござる……」
刀を手入れしている貧相な身なりの優男……石川斬次。戦い以外では人畜無害、朴念仁で純朴だが、一度戦いになれば鬼神にもなる男だ。
「うっわーおれも行きゃあ良かったぜ〜」
「不動。お前でも歯が立たぬよ。それ程奴は異常だ。」
全身を包帯で包まれた男……服は黄色いシャツがわずかに見えに茶のコートを羽織り赤い長大なマフラーがたなびいている。包帯から漏れる髪はザンバラで、包帯の隙間から覗き見える眼光は鋭い。
『悪魔』と恐れられる程の猛者で皆とは10年以上の付き合いだが誰にも下の名前を教えていないらしい。
「へっそりゃ楽しみだ。」
「…………」
我らの会話に入る気配がない漆黒の服……ワノ国の『忍装束』というのを纏った男アサシン・テラー。全てが謎に包まれその詳細は主しか知らないという。
気配を隠す技術、回避能力は我らの中でも最高レベルだろうな。何があってこの様なむさ苦しい所に来たのやら。
「傾世はとりあえず分かったが手下共はどうだったよ? スナガ。」
「手下に関しては社長が気にする程ではありません。ただ数年生き延びれば……」
「もっと元気出せーっ!シャイッ!」
主のエルボーがスナガに炸裂。だがスナガも負けじとその腕を取り、逆関節……
「甘いぞコノヤローッ!」
電光石火というしかない動きでスナガを地に叩きつけた後持ちあげ、前かがみの姿勢にする。自分から手前にある相手の脚に右脚を絡め、左脚を頭部に引っ掛ける。更に自分に対し外側になる腕を相手の背中側に直角に曲げ、自らの片腋に抱え込む。これこそ卍固め……通常の卍固めは古い技と言う事もあり極め方が甘いが、主が使うそれは武装色の覇気で強引に相手の関節を極める。その凄まじさから『カイドウスペシャル』と呼ばれる程のフィニッシュホールドだ。
「ぐぬぅ〜っ」
悶絶するスナガ。
「どうだコノヤローッ!」
「ま、まだまだ……」
「ダァーッ!」
……ここら辺はあまりに見苦しいな。
「ぐはっ! ……参った。」
しかし、人間形態とはいえスナガから一本を取るとは相変わらず……
「ま、お遊びはそこまでにして……傾世のシオリか。あの『鬼』とやり合えるとはなぁ〜 とことん理不尽な野郎だ。」
主以外の者全てが歯が立たなかったからな。しかし傾世め、鬼の事を知っているようなフシがあったが……どういう事だ?
「しかしよォ〜あの『狂姫』ってのはえげつなかったなぁ〜」
「! ……今、なんつった? ワイルド。」
主の表情が激変していた。苦虫を噛み潰した様でいて、最上の獲物を前にした時の様な……
「きょうき……まさか傾世のシオリの正体が……」
ミフネと斬次も反応する。
「知っているのか?」
「……『天草家』の『前』当主だ。」
「あまくさ家? 名字が一緒だな。前という事は今は違うのか。」
「今というより、暫定的な当主を勤めているのは弟の天草四郎。あの男はワノ国の歴史の中でも類を見ない程の剣の……天才でござる。」
「しかしサムライの一族にしちゃあの女は剣を持ってなかったぜ? それに妙な技を使いやがった。」
「あの女が刀を持っていなかっただと? い、いやそれよりも……サイキックを見たのか?」
やはり斬次達は知っているのか。あの異常な力は……
「知ってるのか? とんでもない目にあったぞ。」
パイソンもげんなりしているな。
「……その異常とも言える程の強大なサイキック(超能力)を誇るがゆえに、将軍家の守護神と恐れられていた。だが今から1年半前……要は頂上戦争の1年前頃、謎の失踪を遂げた。」
「失踪?」
「理由や経緯は明らかになっておらん。彼女の愛用していた最上大業物『月下美人』をも置き去りにしていた事から誘拐という線が有力ではあるが……」
「ハハハッ! あの野郎が他人に容易くどうこうされるかよ!」
「主はヤツの事を知っている様だが……」
「前にちっとなぁ……少し本気出して倒せなかったヤツはそうはいねぇからな。気に入ってたのさ。だから行方知れずになったと聞いた時は残念だったが……そうか、復活したかよ。なら……次はおれ直々にご挨拶に行かねーとなぁ。」
「だがヤツだけに構っている暇はなかろう。」
「小言はいいよミフネ! ま、弱っちい手下の成長も考えて最低半年はほっとくか。」
「それだが一つ気になる事がある。修羅が傾世の部下を気に入った様だ。」
あの貧相な無精髭……名前までは思い出せん。あまりに弱すぎて記憶から抜けてしまう程だしな。
「! ほーう! そりゃ気になるなぁ!」
「傾世の手下の中でも特別弱かったぞ。全く……シュラは何を考えてるのやら。」
「戦いの事に関しちゃコイツに間違いはないだろ。『ナニカ』を感じたんだろうさ。」
「うん! 修羅とおんなじのを感じたよ!何回か半殺しにしたら起きてくれるかも♪」
「「「…………」」」
やれやれシュラがあの男を壊すのが先か『ナニカ』が起きるのが先か……どっちみちあの男にとっては地獄だろうな。