咲-Saki- 鶴賀編   作:ムタ

4 / 6
牌について

萬子  一二三四五六七八九
筒子  ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子  ⅠⅡⅢⅣⅤⅥⅦⅧⅨ
四風牌 東南西北
三元牌 白發中

赤ドラ 【⑤】こんな感じ

Q覚える必要は?
Aないと思います。


第四局 [部活]

―――鶴賀学園 放課後 麻雀部部室

 

 

 

後に鶴賀伝説の始まりの日と語り継がれる”1-A血塗れ乱入事件”の翌日、

わたしは麻雀部を訪ねた。

 

 

「こんにちは」

 

「きたか」

 

雀卓の椅子に座り目を閉じていた、相変わらず美人な加治木先輩が視線を向け、歓迎するように頷く。

そして加治木先輩の隣で機嫌がいいのかニコニコ顔で座っているおもち

おっぱい美少女ももっち。

 

「……」

 

無言ながらペコリと頭を下げて挨拶してくれたポニーテールの美少女。

 

「おー、ゆみちんが言ってた期待の新人か?」

 

後ろ髪がピンと跳ねたショートカットの美少女が『ワハハ』と笑いながら

気さくに声をかけた。

 

(って何この部活!? 美少女レベル高すぎ!!※)

 

私は透視能力が発動する前に目を閉じ、念の為口を含めた鼻を手のひらで隠す。

鼻血対策と、もうなんだか思わず顔がニヤけてしまうのを隠しつつ、わたしは

嬉しい悲鳴を叫ばずにはいられなかった。

 

「加治木先輩、私を殺す気ですか!」

 

「梅子はいきなり何を言っているんだ?」

 

「……うめっちはおっぱいと美少女が大好きなんすよ」

 

スウッ……っと霧が晴れるように東横桃子が姿を現した。

 

「!?」

 

ポニーテールの美少女が驚き椅子から立ち上がる。

 

「ワハハ、びっくりしたぞ」

 

全然びっくりしてない表情でショートカットの美少女がワハハと笑った。

 

「桃子、いつのまに?」

 

「ももっちならわたしが来たときには座ってましたよ。あ、ちなみに期待の

新人はももっちの方です」

 

訂正もかねて桃子より先に説明する。

 

「すいませんっす。声をかけるのを忘れてたっす」

 

そのまま自己紹介。

 

ポニーテールの美少女が2年生の津山睦月先輩。

ショートカットの美少女が3年生で部長の蒲原智美先輩……って加治木先輩

が部長じゃなかったのか。

 

「これで佳織を幼馴染権限で入部させる必要はなくなったか?」

 

「いや、桜井は素人で体も弱い。そのまま勧誘を続けて欲しい」

 

「わかったぞゆみちん。それじゃさっそく一局打ってみるか」

 

麻雀の始め方についてざっくりと説明を受ける。

ふむふむ、持ち点は25000点で、半荘……要は2週するって事か。

その目印が親であって一周目が東、二週目が南。

 

こうかな?

 

(麻雀のルールは割愛します)

 

加治木:25000 親(東)

東横 :25000

津山 :25000

蒲原 :25000

 

 

とりあえず一番強いであろう部長(蒲原)の後ろに椅子を置いて見学。

 

「声とかだすなよーマナー違反だからなー」

 

と注意されたので黙って見学となった。

 

 

 

東4局――四巡目(ドラ八)

 

(津山)三四五六七八九③③【⑤】【⑤】ⅡⅢ  ツモ=二

 

先ほどからの引きの良さに津山は内心で(うむ。)と一人頷き、③を打牌する。

部長の捨て牌は”北”、先輩の捨て牌は”①”。まだまだ聴牌には遠いと見えた。

『……っす』一瞬何か聞こえた気がしたが気のせいだろうと麻雀に集中する。

 

――五巡目

 

(津山)三二四五六七八九③【⑤】【⑤】ⅡⅢ  ツモ=一

 

(うむ。)津山再度、満足の『うむ』。

 

(リーチしなくても平和、一気通貫ドラ2で満貫。十分だが……)

 

蒲原 :捨て牌 Ⅸ一北北Ⅱ

加治木:捨て牌 北白①Ⅸ二

 

(まだ五巡、河に一枚も無く、捨て牌から見て索子もため込んでいないか?)

 

「リーチ……」

 

③を打牌しリーチを宣言する津山。

 

「……いいんすか?」

 

どこからともなく声が聞こえた。

 

「うむ……何?」

 

「ロン」という掛け声と共にパタンと隣から牌を倒す音が聞こえ、津山は

この時、初めて上家に東横がいた事を思い出した。

 

(麻雀の面子を忘れていた? リーチをかける前に自分は確かに全員の捨て

牌を確認した筈!?)

 

蒲原 :捨て牌 Ⅸ一北北Ⅱ

加治木:捨て牌 北白①Ⅸ二

東横 :捨て牌 北西⑧八‐④(リーチ)

 

(直前にリーチまでしていた!?)

 

「リーチ一発ドラ1、5200(ごんにー)っす」

 

小首を傾げ、軽く微笑む。

東横桃子、ステルスモード初披露であった。

 

 

 

 

「……う、うむ」

 

津山先輩は軽く目を擦りながら点棒を渡した。後に理由を聞くと

(桃子の体の部分が霧にかかったように霞んで見えたとの事。)

 

「ワハハ、モモのリーチ発声に気付かなかったぞ」

 

「ちゃんとしたっすよ」

 

「してましたよ」

 

私もももっちが『リーチっす』(見てて覚えた)と発声したのは聞こえて

いたのでフォローする。

 

「南入っすね」

 

 

その後……

 

「ロン、7700(ちっちー)っす」

 

「ワハハ」ジャラッ←(ももっちに部長が点棒渡す音)

 

「ロン、1000点です」

 

「ワハハ」ジャッ←(津山先輩に部長が点棒渡す音)

 

 

結果……

 

 

東横 :44200

加治木:39600

津山 :13200

蒲原 : 3000(部長)

 

 

部長ーーーッ!!

 

 

「麻雀は運の要素が強い。半荘一回程度ではとても実力ははかれないさ」

 

驚愕の表情のわたしを見て察したのか加治木先輩がそう言った。

 

「でもモモの強さは本物だぞー」

 

「うむ。気が付いたら上がられている」

 

「そうだな。モモが入部してくれてよかった」

 

「先輩、嬉しいっす! もっと頑張るっす!!」

 

加治木先輩の微笑みに対し抱きつかんばかりに満面の笑みで答えるモモッっち。

わたしを萌え殺す気なのかと疑わざるをえないほどに可愛い。

 

「どうだー? うめちんもやってみるか? ……って凄い顔だな!」

 

にへらっと笑っていた(部長談)表情を見られ、多少引きながらも麻雀に誘われた。

うん、結構な無茶振り。でも見ててチョットわかった気になっていたわたしは

即答した。

 

「はい、やります部長!」

 

「でもうめっち役知らないっすよ?」

 

「●ンジャラの知識を応用するから大丈夫だよももっち」

 

「……それトイトイか四暗刻くらいしか応用できないんじゃ?」

 

津山先輩の呟き(暗刻ってなんだ?)を余所に麻雀初デビュー。

 

 

桜井 :25000 親(東)

蒲原 :25000

加治木:25000

津山 :25000

 

 

一局目

 

(梅子:親)Ⅸ④白東ⅨⅢ八北①⑦⑧二④五

 

 

まず自分が一枚捨てるんだよな。えっと確か揃ってない字から捨てれば

いいから、これだ。

 

”東”を捨てる。

 

後ろで見てたももっちがビクッと動く。ありゃ? 何か間違えたかな?

 

一周回って牌をツモる。牌は”東”!!

 

 

(梅子:親)Ⅸ④白ⅨⅢ八北①⑦⑧二④五 ツモ”東”

 

 

ううー損した。”東”をツモ切りする。

 

「ワハハ、損したな梅子」

 

何故解るの!? 超能力者ですか部長!?

 

驚愕に震えながらツモる。牌はまたも”東”!!

 

 

(梅子)Ⅸ④白ⅨⅢ八北①⑦⑧二④五 ツモ”東”(手抜きではありません)

 

 

「……」

 

こちらの損をまるで知っていたかのように呟いた部長。そして連続の”東”ツモ。

導き出される答えは一つ。

 

「罠だッ!!」

 

「違うっす!」

 

ピシリ! と後ろに座っていたモモっちからツッコミが入る。

 

「そーゆうのは良くあることっす。そもそもこの配牌で最初に”東”を

捨てるのが間違いっす」

 

「そうなの?」

 

「そうっす。まず……あ、すいませんっす」

 

「いや、梅子に教えてやって欲しい。その方が梅子も覚えるだろう」

 

加治木先輩の言葉に部長と津山先輩も『うむ』と言って頷いた。

部長はワハハとしか言ってないけど。

 

「先輩のお許しが出たっす。勝ちに行くっすよ、うめっち!」

 

勝気な表情の桃子が椅子を近づける。

フワリ……と風に乗っていい匂いがした。

 

「はぅあっ!」

 

「何で気の抜ける返事なんすか? まずは見やすいように理牌するっすよ」

 

牌を並べ替える為に前に乗り出す。

 

ぷにょん……と、肩に桃子のおもちがあたった。

 

「……ゴクリ」と喉が鳴る。

 

「……何で突然唾飲み込むんすか?」

 

怪訝な表情で顔を覗き込む桃子。

 

「駄目ッ、ももっちのおもちが肩にあたって最高ッとか表情に出しちゃ駄目!」

 

「……口にでてるっす」

 

蔑んだ眼差しを受けつつ距離をおかれた。ああっもったいなかった。

 

 

そして……

 

 

―――東場終了、南入開始。

 

 

「一回もあがれなかったっすけど、振込もないし悪くないっす」

 

結局面倒を見てくれたももっち。優しい、可愛い!

 

「ありがとう! ももっちのおかげでコツが解ったかも」

 

「刻子手しか出来ないのに凄い自信っすね」

 

そう、わたしは今のところ同じ牌を3つ揃える手しか解らない。

でも、次にツモる牌、いや積まれている牌が何処にあるのか解るのなら!!

 

山をじっと見つめる……変化なし。

 

「梅子どうした?」

 

「あ、すみません」

 

牌をツモる。

ん~もしかしてわたしの透視能力ってHな目的にしか使えないんじゃ?

なんと難儀な……溜息をつきつつ牌を捨てた後、顔をあげる。

対面の加治木先輩と目があった。

 

「あ……」

 

「どうした? 鳴くのか?」

 

「あ、いえなんでもないです」

 

そっか、牌しか見てなかったケド、相手は全員美少女女子高生だよ!

先ほど声をかけてくれた加治木先輩のおもちをじっと見つめる。

 

「……」

 

わたしの視線を感じたのか、麻雀中、終始ポーカーフェイスだった加治木先輩

の額にタラリ、と汗の滴が流れた。

 

ジワリ……と視界が滲む。その先には!

 

 

「見えた!」

 

 

 

 

 

加治木ゆみは異様な雰囲気を感じ、息をのんだ。

 

「……」

 

(なんだ? 梅子の舐め回すような視線を感じた後、場がなにか異様な雰囲気

に飲まれたような? 桃子はネット麻雀時の手堅さだけでなく、まるで気配を

消したかのような打ち筋だったが……梅子のこれは真逆!

まるでこちらを舐めつくすかのようなギトギトした視線。

この不快感はいったい!?)

 

現実ではない。しかし表現するのならギラギラと両目を光らせる梅子の背後に

禍々しい黒い影が見えた。

その影がゴゴゴゴゴ……と、まるでブラックホールが現出し、場を呑み込むかの

ような威圧感を放つ。

左右を見る。蒲原、そして後輩の津山は何も気づいていないのか、先ほどまでと

変わらず麻雀を続けていた。

 

俗に言う、ヤングガンガ●のグラビア等を見る時の思春期少年の視線であったが、男ならぬ加治木ゆみには、それは形容しがたい黒の波動と例えるしかなかった。

 

(なんだこの威圧感は? 梅子はいったい!?)

 

「見えた!」

 

正面の梅子が目をランランと光らせながら突然叫びだす。

 

(見えただと? いったい何が見えたというんだ? 自分の勝利? 私の敗北か?

それともこれからツモる牌でも見えたというのか?)

 

ゴクリ……と唾を呑み込み、梅子の次の言葉を待つ。

 

梅子から発せられた言葉は……

 

 

ブシュッ! ……バタン。

 

 

静まり返った部室に、ビチャリ! と、異質な音が響き渡り、部室が血に染まる。

 

鼻血と、それに続く麻雀卓につっぷした梅子によって続く言葉は永遠にかき

消された。

 

 

 

 

 

全員が梅子に駆け寄る。

 

「梅子大丈夫か? それに見えたとはいったい何を見たんだ?」

 

「先輩、加治木先輩の……」

 

「私の何だ?」

 

「加治木先輩のおもち」

 

「なんだって?」

 

 

桜井梅子はとても、とても幸せそうな、満ち足りた表情で気を失った。

 

『加治木先輩のおもち』

 

という謎の言葉を残して。

 

 

 

 

桜井梅子

本日の麻雀成績。

 

気絶によりリタイア。

 




※咲コミックス4巻155ページ参照。鶴賀麻雀部は脅威の美少女率である。

>前回あとがき:麻雀をするかも?
嘘は書いてないと思う(開き直りですか?)

4話中2話が鼻血気絶オチですが、次話は鶴賀最大のおもちお姉さんが登場
するのでオチはもう避けようがないと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。