咲-Saki- 鶴賀編   作:ムタ

3 / 6
第三局 [入部]

 

 

―――鶴賀学園 放課後 保健室

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

「それは嘘っす。梅髪さんは今日半日保健室にいた筈っす」

 

保健室のベッドで寝ていたらしく、お約束のボケをかますとおもちおっぱい

さんのツッコミが返ってきた。

 

「おもちおっぱいさん? どうして?」

 

「……まさかとは思ったっすけど、おもちおっぱいって私のことっすか」

 

ガックリと肩を落とすおもちおっぱいさん。

 

「ご、ごめんなさい。白くて大きくて柔らかそうで美味しそうだったから

つい……」

 

「どんな『つい』っすか!? ていうか最後猟奇的っす!!」

 

そんな会話の最中、ガラリ、と保健室の扉が開き、先ほど教室で誰もいない

空間に『君が欲しい』と叫んだ残念な美人さんが入ってきた。

 

「起きたのか。それと……」

 

辺りを見回す美人さん。

 

「先輩、私はここっすよ」

 

枕元の椅子に座っていたおもちおっぱいさんが恋する乙女のような柔らかい

表情で手をヒラヒラとさせた。

 

「ああ。そうだ教室内の血は片付けておいた。それともう遅いから部員への

紹介は明日にしていいだろうか?」

 

「はいっす」

 

「(血? あっ)スミマセン。なんだかご迷惑を」

 

「いや、私は指示を出しただけで片付けはクラスの子がやっていた。明日に

でも礼を言うといい」

 

「はい、ありがとうございます。でも……」

 

「話は聞いている。入院明けで体が弱いのだろう? 鼻血は突然私が教室に

入って驚かせてしまったのが原因かもしれない。気にしなくていい」

 

(……言えない。とても真実は言えない。あ、いやそれだけじゃなくて)

 

「ええっと……先輩もしかして視力が弱いんですか?」

 

教室から続く先輩の奇行が気になり原因にあたりをつけて質問する。

 

「?……ああ、いや、寧ろ君の目が良すぎるんだろう」

 

「そうっす! 梅髪さん私が見えるんすか!」

 

「……どうしよう? 梅髪さんて私の事だろうか? というかおもちおっぱ

いさんが何を言っているのかわからない」

 

「普通に見えているようだな」

 

「おどろきっす」

 

美人さんとおもちおっぱいさんが頷きあう。二人は何か理解し、わたしは謎

が深まった。

 

「まあ事情説明より先に自己紹介が必要なようだ。私は3年の加治木ゆみ。

麻雀部に所属している」

 

「1-A東横桃子っす」

 

「あ、はい、ええっとたしか桜井梅子です。おもちおっぱ……東横さんの

クラスメートです」

 

「そのおっぱいに対するこだわりはいったいなんなんすか? それ以前に

そんな自信なさげな自己紹介初めて聞いたっす」

 

「それは事情があって、実は……」

 

目の事以外、主に転落事故から記憶喪失について二人に話した。ちなみに

おっぱいに対するこだわりについては自分でも理由不明なのでノーコメント

を貫いた。

 

「そんな事情が……」

 

「頭を打って目が良くなったんすかね?」

 

うーんと二人が思案顔をする。まあどうにもならない事なので話を続ける。

 

「そうだ、そっちの事情は?」

 

「私は彼女を麻雀部に勧誘しに来ただけだ。彼女が見えなかったのはその

ままの意味だ」

 

「私は存在感ゼロどころかマイナスの気配なんすよ。だから普通の人は私

のこと見えない筈っす」

 

予想外の回答。

というかそれって……

 

「そんなオカルトな」

 

「事実っす。だから私の事見えてる桜井さんの方こそオカルトっす」

 

「え~(心外な)」

 

(無茶な理論。だけど実はそうかもしれない。服が透けて見えるってオカルト

だよなあ……言えないケド。あ、この力があるから東横さんが見える!?)

 

会話が止まったのを見計らったのか、加治木先輩が別の会話を切り出した。

 

「……桜井は麻雀をするか?」

 

「いえ、ドン●ャラを嗜む程度です」

 

「ドンジャ●? ……ッ。まさか麻雀ができるか聞いて●ンジャラと答える

とは」

 

顔を反らし、小刻みに震えていた。失礼だったかな? 冷静な口調の加治木

先輩につられて嗜むとか使っちゃったけど。

 

「その記憶があってなんで自分の名前が即答出来ないんすかね?」

 

「いいさ、興味があったら桜井も明日麻雀部に来て欲しい。歓迎しよう」

 

 

ここで解散となった。

 

 

 

 

 

『先輩と帰りたかったっすけど病み上がりの桜井さんを一人で返すわけにも

いかないっすからね』

 

そう言った桃子と梅子は一緒に下校する事になった。

 

「おもちおっ……東横さんは麻雀部に入るの?」

 

「入るっすよ、先輩の為にがんばるっす」

 

少し前を歩いていた桃子はクルリと半回転して梅子に微笑んだ。

 

「好きなんだね。まああんな告白されればねー」

 

そのシーンを思い出しているのか梅子はどこかうっとりとした表情で言葉を

返した。

 

「!? ま、まあいいっす。桜井さんはどうするっすか?」

 

「麻雀はよく解らないけど、東横さんが入るならわたしも入部しようかな」

 

「何でっすか? まさか私の体目当てっすか?」

 

「うん」

 

「即答っす! 貞操の危機を感じるっす!」

 

桃子は両手を胸の前でクロスしてザザザッと数歩後ずさった。

 

「ごめん(半分)冗談。東横さんとの会話楽しいし」

 

「私はセクハラしか受けてない気がするっす。でも……」

 

 

―――こんなに誰かと会話したの久しぶりっす。

 

 

「『でも』何?」

 

「何でもないっす。まあ少しなら麻雀教えられるし」

 

「ありがとう東横さん」

 

「うっ……」

 

蒼い瞳と梅色の髪が夕日に映えて、キラキラと輝いて見えた。

 

「そうだ、じゃあ友達からお願いします」

 

本日二度目、桃子に差し出された手。

 

「『友達から』ってその先は無いっすよ? わかってるっすよね?」

 

桃子のジト目に対し、梅子はまるで無垢な天子のような笑顔で……

 

「うん、わかってる。最終的に私はももっちの愛人でいいから」

 

最低の返事を返した。

 

「何にもわかってないっす!! って『ももっち』?」

 

「うん。嫌かな? 友達のあだ名」

 

「いいっすよ(おもちおっぱいよりずっと)。じゃあ私はうめっちって

呼ぶっす」

 

彼女は、桃子は差し出されたその手を掴む。

 

 

この日、東横桃子は大好きな人と、当たり前のように自分を認識する友人

を手に入れたのである。

 

 

 

『……純粋そうな笑顔に騙されたっす! この時点で発言が色々

おかしかったっす!』と、加治木ゆみとの出会いで浮ついていたのが

原因だったのか、この変●と友人になった事を若干?後悔することに

なるがそれは後の話。

 




次話は麻雀をする……筈。


主人公の立ち位置の話。略奪とか嫉妬とかさらさらなくて
むしろいちゃいちゃしてる二人を見てハアハアと興奮する
残念な子。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。