咲-Saki- 鶴賀編   作:ムタ

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第二局 [流血]

―――鶴賀学園 放課後

 

 

 

ガラリと1-B教室の扉を開く。

放課後の教室にチラホラと残る見覚えのない生徒数名が不思議そうな顔で

私を見つめた。

 

「し、失礼しました」

 

そのまま扉を閉める。

 

(……また外れた。)

 

いやそもそもこの判別方法は無理なんじゃないか?

私は廊下に立ち止まり腕を組んで思案する。

もう一度整理しようと私は生徒手帳を開いた。

 

赤に近い桃色の長髪に蒼い瞳の童顔な少女の写真(私の顔……らしい)

私の名前は桜井 梅子で血液型はA型。

鶴賀学園の1-Aで出席番号は……って私1-Aジャン!!

なんてこと……3年の教室から回ってたからとんでもない無駄足。

 

懸念事項『私の教室はいったい何年何組?』は解決した。

 

何なの? バカなの? と思われるかもしれないが勿論理由はあるのだ。

教室どころか私は自分の名前さえうろ覚えだったりする。

可哀相な子なわけではなく、記憶がないのだ。

病院のベッドで目覚めたのは一週間前。入学式の日に通学途中の階段を

転げ落ち、約一ヶ月間眠り続けたらしい。

だから私のもっとも古い記憶は一週間前。検査の結果一般常識や学力は

問題なく、私に関する事のみ記憶がなかった。

病室に篭るより日常生活をした方が記憶も戻るのでは?

という理由で本日復学1日目。

体調不良で授業の半分を保健室で過ごし、今にいたってしまった。

 

(まあ、この体調不良ももう一つの懸念事項なんだけど……)

 

 

1-A教室の扉を開ける。

 

 

(いた。)

 

 

大きいおっぱいに肩まで伸ばした艶のある黒い髪に吸い込まれそうな黒い瞳。

そして大きいおっぱいに透き通るような白い肌。

そしてそして物凄く、物凄く素晴らしいおもちのような柔らかそうな

大きいおっぱい。

うん、もうおっぱいじゃなくておもちでいいや。

私が自分のクラスの目印にしていたおもちもとい、美少女が憂いを秘めた表情

でノートパソコンを弄っていた。

しばらくみつめていると、カメラのピントを合わせる際にボヤケるように

視界がにじむ。

 

あ……やばい、意識し過ぎた!

 

視界がクリアになる。ジワリ……とまるで溶液で溶けるように

おもちおっぱい少女の制服が溶け落ち、白い肌が……

 

「……綺麗な目をしてるっ”ボン!!”すね」

 

何か私に囁いたみたいだけど駄目だ、これ以上みてるとまた保健室に逆戻りだ。

ふら付きながらも自席に座り、頭に上った血を冷やす為に大きく息を吐いた。

時間がたてば視力も普通に戻る。見たいけど我慢、我慢しないとまた……。

もう一度深呼吸。よし、落ち着いてきた。

となりのおもちおっぱいさんに目を向ける。

うん、服を着てる。いや私の脳内以外は最初から着てるんだけど。

あ、そういえば名前知らないな。

 

「私が麻雀部に行っても誰も気づかないんすよ」

 

「麻雀?」

 

おもちおっぱいさんの独り言に思わず声をかけてしまう。

 

「えっ!?」

 

目があう。いや『えっ!?』てそんなビックリするかな?

思わずだけど隣で意味深な独り言言われたら気になるよね?

そのまま話しかけようとすると……

 

バン! と教室の扉が勢いよく開かれた。

 

「またっすか!」

 

おもちおっぱいさんがツッコミを入れる。

扉をあけた侵入者は見たこともない生徒。

 

「麻雀部3年の加治木ゆみだ!」

 

(うわあ! 凄い美人! って危ない、意識するとまた)

 

さっと視線を外し、明後日の方向を向く。パソコンのキーボードに手を

おいたまま侵入してきた先輩をぼんやりと眺めている

おもちおっぱいさんが再び視界に入った。

 

「パソコンを持っている人物が誰もいないだと?」

 

「ブッ!」

 

思わず吹いてしまう。

 

(ええっ!? それボケ? おもちおっぱいさん思いっきりノートパソコン

弄ってるし!?)

 

おもちおっぱいさんを見ると、何故か覚めた表情で侵入者である美人さんを

眺めていた。

 

「私は 君が欲しい!!」

 

(ええっ!? 誰? 誰に言ってるの? そこ誰もいないよ!?)

 

 

ドン引きする私を余所に、カタン……と椅子をひいて隣席の

おもちおっぱいさんが立ち上がる。

そして突然教室に侵入し、叫んだ美人さんの腕を掴んだ。

 

「おもしろい人っすね こんな 私でよければ!!」

 

ハッキリ言って、何が起こっているのかさっぱり解らなかった。

 

「やっと、やっと君を見つけた」

 

ただ美人さん(加治木先輩)とおもちおっぱいさん二人の美少女が

目の前で見つめあっていた。

 

(どっきりじゃないよね? ……それにしても)

 

ゴクリと唾を飲み込む。

 

(ドキドキする。ちゅーとかしちゃうのかな?)

 

好奇心から目が離せない。その時、グニャリ……と視界が滲んだ。

 

「……あ」

 

一瞬ボヤケた視界のピントが合う。

視線の先には美少女二人のあられもない姿という

夢のような世界が広がって……

 

 

ブシャアッ!!

 

 

放課後の教室が血に染まった。

 

 

「ええっ!? 梅髪さんどうしたっすか!? 大丈夫っすか!?」

 

「おもちおっぱいさん……梅髪さんって誰?」

 

意識を失う前、おもちおっぱいさんの心配そうな声にそう答え、

私は自身の鼻血が作り出した血の海に沈んだ。

 

 

本来であればユミちん”1-A乱入事件”

 

 

として後に2年生にまで伝説として語られるゆりゆりしいこのエピソードは、

現時点で二人と全くぜんぜんこれっぽっちも関係のなかった

桜井梅子という少女によって

 

 

”1-A血塗れ乱入事件”

 

 

という何故か血生臭い名称に取って代わられることになる。

 

 

蒲原智美と加治木ゆみが麻雀部を創部した日、

もしくは鶴賀3強が誕生した”1-A血塗れ乱入事件”

この日が鶴賀レジェンドの始まりの日と後に語られる事になる……のだが……

 

「……お、おいしそうなおもち、おっきいおもちとふつうのおもちが……

うふ、うふふふふ(ドクドクドク)」

 

「なんすかそれ? なんでそんな満ち足りた表情でうなされてるんすか?

というか血が、梅髪さんの鼻血が止まらないっす!」

 

「落ち着け、保健室に連れて行くんだ」

 

 

当の3人はその時、それどころではなかったのである。

 




自分の書くSSの主人公は最初必ず気絶する
(汗:引出が一つしかないんじゃ)。

レジェンド。こちらでは個人に対する称号ではないです。

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