―――鶴賀学園 放課後
defaultPlayer:あまり興味がないんで……
鶴賀学園1-A東横桃子はチャット画面にそう入力してタン、とENTERを押した。
偶然にも同じタイミングにガラリと教室の扉が開く。
つい、と扉に顔を向ける。扉を開けたのは濃い桃色……(梅の蕾の色といえばより近いか?)
の長い髪を腰あたりでぞんざいに結んだ髪が特徴的なクラスメートだった。
(脳内ニックネームは梅髪さんで決定っすね)
(梅髪さんは確か一ヶ月入院してて今日から学校に来た子っすよね?
体が弱いらしいっすから保健室にでもいたんすかね?)
ジロジロと少女を見つめ続ける。無遠慮だが桃子の存在感の無さは金メダル級である。
桃子の視線どころか存在すら気付いていない筈だから問題ないと結論付け観察を続けた。
(身長は少し低くて(桃子と同じくらい)肌が白いっす。おっぱいはほぼ無いっすね。
腰は細くてお尻はふつーっす)
観察に一区切りつける。
(それにしても……)
桃子は梅髪さんの蒼い空色の瞳に釘付けになる。
「……綺麗な目をしてるっすね」
ポツリと呟くが問題ない筈。なぜならば桃子の存在感の無さは
……ボン!!
と音が聞こえる程に梅髪さんの肌が真っ赤に染まる。
(えっ!? 聞こえてたっすか!? ……そういえばさっきからずっと目が合っていた気がするっす!
ジッと見つめた後になんてキザな台詞はいてるっすか! ナンパっすかこれ!?)
恥ずかしさのあまり自分ツッコミをする桃子。
桃子の焦りを余所に梅髪さんは多少ふら付きながらも桃子の隣の席(自席)に腰を下ろし、桃子を見る事
なく、火照った体を冷ますように手のひらを頬にあてて『はぁッ……』と息を吐いた。
(偶然? 体調が悪くて赤くなっただけっすか? ……そうっすよね。私に気付く人ないて
いるわけないっす)
ほっとしたような、残念なような面持ちでチャット画面に向き直る。
「あ、しまったっす!」
桃子は自席のノートパソコンで麻雀部とネット麻雀をしていた。
半荘終了後、対戦相手だった”かじゅ”さんと”カマボコ”さん”むっきー”さんから麻雀部に入部
しないかと勧誘されており、その回答が冒頭のコメントであった。
それに対するコメントが”かじゅ”さんと”カマボコ”さんからあり、梅髪さんを見つめている間、
二人を待たせた状態になっていた。
このまま放置するのは流石に失礼である。
キーボードに手をかけ、白い指がタカタカと文章を打ち込む。
defaultPlayer:あなたたちは決して私を見つけることh
必要だと誘ってくれたのは悪い気はしない。だからと言って……
「私が麻雀部に行っても誰も気づかないんすよ」
「麻雀?」
「えっ!?」
声のした方角、隣の席に顔を向ける。そこにはじっと桃子を見つめる梅髪の姿があった。
(梅髪さん、やっぱり私の事、見えてるんすか?)
そう声をかけようとした時、 バン! と教室の扉が勢いよく開かれた。
「またっすか!」
教室への侵入者は見たこともない生徒。
「麻雀部3年の加治木ゆみだ!」
「あ……」
3年生さんは扉を開けた時の勢いそのまま1-Aの教室に入り室内を見回す。
突然の事に放課後の教室に残っていた数名の生徒は唖然とし、動けないでいた。
侵入者である3年生は目的の人が見つからない事に焦ったのか、綺麗な顔に小さな汗が流れた。
「パソコンを持っている人物が誰もいないだと?」
(加治木……”かじゅ”さんっすね? わざわざ1年の教室まで出向いてくれたっすね。
でも無理なんすよ。私は誰からも見つからないんです。あ、でももしかしたら梅髪さんは……)
「私は 君が欲しい!!」
(え……?)
加治木さんは教室の中心で、桃子に背を向けながら、1年生から奇異の目で見られながらそう叫んだ。
(おかしな人っすよね)
――口元が綻ぶ。
(誘っても来ないから探しに来て、探しても見つからないなら大勢の人の前で叫んで求めてくれるんすか)
――ゆっくりと立ち上がる。
(見つけてもらえないなら差し出されたその手を私から繋げばいいっす。それだけの事を、この人は……)
――後ろ向きのその手を、必死で私を探すその人の腕を掴む。
「おもしろい人っすね」
――先輩の一瞬の驚愕と、そして……
「こんな 私でよければ!!」
桃子視点のお話。
これだけだと意味不明なので次話もできれば……