マジです。
『一応、もう一つ自己紹介をしとこうか。この体は間桐雁夜、俺のマスターだ。この国には『人馬一体』なんて言葉があるらしいが俺は『主従一体』って所か?』
自身の体を指差しながら自己紹介を続けるグリードに全員が口をポカンと開けたままになっていた。
「な、なんだんだアイツ……」
ライダーのマスターであるウェイバーは気が付けばそう呟いていた。
そして、それは他のマスターやサーヴァントも同様である。
先ずはバーサーカーが普通に喋ってる事もそうだが、サーヴァントが現代の一般人の普段着を着てやってくる事自体が異常である。
そして何よりマスターとサーヴァントが一体に纏められていると言う異常事態にライダーを除く全員が警戒を露わにしていた。
「……なあ征服王。アイツには誘いを……」
「ほほぅ!理性のあるバーサーカーとはなんと珍しい!どうだ、余の配下にならぬか?」
ランサーが思わずライダーに話題を振るが、話題を振る前にライダーはグリードに配下にならないかと誘いを出していた。
「さっき、総スカン食らったばっかりだろ!少しは懲りろよ!」
「馬鹿もん、試しもせんうちに諦める奴があるか」
ウェイバーはズッコケた後にライダーにへばり付き抗議を醸し出すがライダーはどこ吹く風である。
『生憎だがな。俺のマスターも聖杯に叶えたい願いがあるんでな。どうしても俺の力が欲しいならテメェが俺の部下になりな』
グリードはライダーとウェイバーのやりとりを笑いながら眺めた後に背を預けていた倉庫からセイバー達の居る場所まで歩み寄る。
「それは出来ぬな、余は征服王。誰ぞの配下になるなどあり得ぬ」
『ならそう言うこった』
そしてグリードとライダーは互いに笑い出す。互いに敵を配下にすると言う事は達成できなかったが面白い奴を見つけたと大爆笑だ。
「物は試しで真名をバラしたの……あの二人?」
「と言うか本当にバーサーカーなのでしょうか?」
セイバーのマスターのアイリスフィールは聖杯戦争始まって以来の下らない理由で真名をバラす馬鹿二人に呆気に取られ、セイバーは目の前の人物が本当にバーサーカーなのかと本気で疑っていた。
『おいおい、俺がバーサーカーじゃないと疑ってんのか嬢ちゃん』
「当然だ!会話の成り立つバーサーカーなぞ聞いた事がない!と言うか誰が嬢ちゃんだ!」
アイリスフィールとセイバーの発言を聞いたグリードがセイバー達に歩み寄るがグリードの発言にセイバーがフシャーと噛み付かんばかりの勢いでグリードを睨む。
『聞いた事がねぇなら今、目の前に居るのがソレだ。アホ毛ちゃん』
「そんなバーサーカーあり得ん!そして誰がアホ毛ちゃんだ!」
『嬢ちゃん』に続き『アホ毛ちゃん』呼ばわりにセイバーはエクスカリバーをブンブンと振り回すがグリードはヒョイヒョイと避ける。
『なら教えてやる『あり得ないなんて、あり得ない』。今、目の前にあるのが現実だ。過去の英霊を現代に召喚されるサーヴァント。それによる戦いである聖杯戦争……こんな馬鹿げた事が有るんだ、他にも色々と馬鹿げた事が起きるだろうさ』
ガッハッハッと笑い飛ばすバーサーカーにセイバーはポカンと固まってしまう。
「と言うか……そうやって平然と話をしてる段階でバーサーカーとしての疑いがあるんだけど……狂化のステータスが低いのかしら」
『いんや、狂化のステータスは……んんぅ?』
アイリスフィールの疑問に答えようとしたグリードだが視線をアイリスフィールに向けたと同時にグリードが訝しげな視線を送り、顔を近付ける。
「な、何?」
『ククッ……まさかホムンクルスがマスターとはな。俺の他にもホムンクルスが居た事にも驚いたが……本当に面白ぇわ、この戦争』
「っ!?」
顔を近付けられながらも虚勢を張ろうとしたアイリスフィールだが他のマスターやサーヴァントに聞こえない程の小さな声でボソッと呟いたグリードの言葉にアイリスフィールは目を見開いた。
アイリスフィールはアインツベルンが生み出したホムンクルスだが、この事を一目で見抜かれたのは初めてだった。
「ア、アナタ……一体何者なの?」
『さっきも言ったろ。俺はグリード、バーサーカーだ』
アイリスフィールの言葉にグリードはククッと笑みを浮かべた。
「ううむ、『あり得ないなんて、あり得ない』か。面白い言葉よの。余も今度、使ってみるか」
「余計な考えを起こすな大体、お前は……」
顎に手を乗せてグリードの言葉を羨ましがってるライダーにウェイバーは更に抗議の声を上げようとした時だった。
「そうか。よりによって貴様か。一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみればまさか君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはね。ウェイバー・ベルベット君」
「ケ、ケイネス先生……」
突如、倉庫街に鳴り響く声にウェイバーは怯えてライダーにすがりつく。
「君については私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺しあうという本当の意味。その恐怖と苦痛を余すこと無く教えてあげよう。光栄に思い給え」
ウェイバーは耳を塞いで縮こまってしまう。ウェイバーには自身の周りに死神が纏わり付く様な幻覚が見え始めていた。
そんなウェイバーの肩をポンと叩き、ライダーは息を吸う。
「おう、魔術師よ!察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぉ。余のマスターたるべき男は余とともに戦場を馳せる勇者でなければならぬ!姿を晒す度胸さえ無い臆病者など役者不足も甚だしいぞ!!」
『ガッハッハッ!俺も同意見だ』
ライダーの言葉に震えていたウェイバーがライダーを見上げる。自然と震えは止まっていた。
そしてライダーはスウッと息を吸うと大声を張り上げる。
「おいこら!他にもおるだろうが、闇に紛れて覗き見しておる連中が!!」
「ど、どういうことだライダー?」
ライダーの言葉にウェイバーが戸惑った様子でライダーに問う。
「セイバー、それにランサーよ。貴様等の真っ向切っての競い合い、誠に見事であった!あれほど清澄な剣戟を響かせては惹かれて出てきた英霊がよもや余一人ということはあるまいて」
『確かにな……俺も最初は見入っちまったからな』
腕を振り上げて拳を握るとライダーは振り払う様に地に流す。
「聖杯に招かれし英霊は今ここに集うがいい!なおも顔見世を怖じるような臆病者は征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」
ビリビリとライダーの声が倉庫街に鳴り響く。
〈なんて声量だ……と言うか凄い発想だ〉
《傍観を気取る奴よりマシだ。踊る阿呆に見る阿呆って言うがコイツは踊る側だな》
内部会話で話し合うグリードと雁夜。
それと同じくして街灯の上に黄金のサーヴァントが出現した、その顔を上げた黄金のサーヴァントの表情は不機嫌そのもの。
「俺を差し置いて王を称する不埒者が一夜に2匹も湧くとはな」
「難癖着けられたところでなぁ……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王にほかならぬのだが」
黄金のサーヴァントの発言に頭をガリガリと掻きながらライダーは答える。
「戯け、真の王たる英雄は天上天下に我ただ一人。後は有象無象の雑種にすぎん」
「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ?貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」
「王たるこの我に向けて問を投げるか、雑種風情が。我が拝謁の栄に欲してなおこの面貌を見知らぬと申すならそんな蒙昧は活かしておく価値すら無い!」
他のマスターやサーヴァントそっちのけで話し合うライダーと黄金のサーヴァントにセイバー達は置いてけぼりになっていた。
〈アレは……まさか時臣のサーヴァントか!〉
《なる程な……あのサーヴァントのマスターが桜を間桐家に売り飛ばした奴ってか》
内部会話で話を続けるグリードと雁夜。
そして雁夜は内部で遠坂時臣に対する怒りと憎悪を燃やし始めていた。
前回の後書きで次回は戦闘シーンと書きましたが予想以上に長くなったんで次回に回します