日が沈みきった倉庫街にて二人の騎士がお互いの技と力をぶつけ合っていた。
一人は長短異なる二本の槍を操る美男子ランサー。対するは小柄で可憐な少女でありながらも最優のセイバー。
どちらも互いに英雄を関する名を持つサーヴァント。その戦いは一進一退の互角。
「流石だな、セイバー。最優のサーヴァントの名に違わぬ見事な力だ」
「貴殿の槍捌きこそ称賛に値する。貴方のような騎士との勝負に名乗りすら許されないことが悔やまれる」
「それは光栄だなセイバー」
互いの技を讃え合うセイバーとランサー。
その戦いを近くから覗く影が一つ。
『ちっと祭りに遅れたが中々に面白そうな戦いじゃねーか』
「しかし、凄いな……これがサーヴァント同士の戦いか……」
グリードは倉庫街の近くの木の上からサーヴァント同士の戦いを見ていた。
愉快そうに戦いを見学するグリードに対し、雁夜はサーヴァントの戦いに圧倒されていた。
『何言ってやがる。奴等はまだ本気じゃねぇ、決め技を温存しながら様子見って所か』
「あれで様子見の戦いなのか」
グリードの解説に雁夜は息を呑んだ。
現在、目の前で行われてる戦いは既に激しい物だ。これで様子見の戦いなどあり得ないとすら思える程に。
『ん、あっちの金髪よく見りゃ女か?』
「よく見えるな、この距離で」
その戦いを眺めていたグリードはセイバーが女では無いかと思い始めていた。
『女が鎧着て戦うってのは感心しねーな。女は戦いの場には似合わん』
「歴史上にも女性騎士とかも居たとは思うが……」
女が戦うことを良しとは思わないグリードはセイバーに対してそんな事を思うが雁夜は歴史上の人物でも女性騎士や指導者が居た筈だとグリードに説明する。
『そんなもんか。ところで透明の武器持った女の英霊や二本槍の英霊に心当たりあるか雁夜?」
「いや、流石に情報が少なすぎる……」
頭の中で会話する二人はセイバーやランサーの情報を話し合うが答えは出なかった。
『んじゃ、情報を得に行くか』
「お、おい。行く気かグリード!?」
グリードは木の上に立ち上がると戦場に飛び込もうとしていた。その仕草に雁夜は慌てる。
『火中に飛び込まないと解らねー事が多いだろう。それにこれから戦う連中だ。顔を見とくのも悪くない』
ククッとあくどい笑みを浮かべるグリードに雁夜はため息である。
『安心しろや、桜との約束も有るからテメェの無事も保障してやらぁ』
「………グリード」
グリードの言葉に雁夜は先程の間桐家での事を思い出していた。
◆◇◆◇
「おじさん、グリード……行っちゃうの?」
「さ、桜ちゃん……」
聖杯戦争が始まり、間桐家を出ようとしていたグリードと雁夜だが眠そうにしていたが起きてきた桜が二人を引き留める。
「あ、ああ……おじさんとグリードは行かなきゃならないんだ」
「…………」
桜は雁夜の服の端をギュッと掴んだまま俯いていた。
それに雁夜はどうしたら良いか悩んでいたらグリードが体の主導権を奪った。
『心配すんな桜。雁夜は俺が守ってやる』
「………本当?」
グリードの言葉に桜は俯いた顔を上げる。
『ああ、俺は嘘をつかないのを心情にしてる。明日の朝には一緒に朝メシでも食ってるさ』
「…………うん。絶対に帰ってきてね」
必ず帰ると話すグリードに桜は納得したのか掴んでいた服の端を離した。
「じゃあ桜ちゃん………行ってきます」
「行ってらっしゃい……雁夜おじさん、グリード」
桜に見送られ、雁夜とグリードは間桐家を後にした。
◆◇◆◇
「そうだな……約束したんだよな……」
『そーいうこった。テメェは俺のマスターとしてドンと構えろや』
桜との約束を思い出した雁夜はグリードの言葉も思い出していた。
そしてグリードは雁夜にドンと構えろと告げる。
『戦いにゃハッタリも必要だ。少なくともテメェは俺と一緒に戦場に立たざるを得ない……もっとマスターらしい風格を出さねぇとな』
「いや、そう言われても……」
グリードの言葉に雁夜は少し尻込みをしていた。
『俺に任せろや!ガーハッハッハッ!!』
「お、おいグリード!?」
グリードはいつもの笑い声を上げながら雁夜の制止も無視して、セイバーとランサーの戦いの場へと突撃していった。