バラバラになった臓硯の体を見下ろすグリード。
「やったのかグリード?」
『いや、手応えが妙だったな』
グリードの口から二人分の声が発せられる。
雁夜とグリード。二人が会話する際にステレオ仕様で声が出るようになっていた。
「臓硯の体は蟲達で構成されてる。奴の本体となっている虫を見つけて潰さないと……」
『ちっ、面倒臭ぇな。だが……』
雁夜の説明にグリードは溜息を吐くが、足下の蟲達を見ると一匹の虫を掴む。
『やはりな。この虫共は人間を食ってんな?』
「ああ、臓硯の蟲達は食人蟲。人間の肉を食らう虫だが……」
グリードの質問に答える雁夜。するとグリードの手の中に居た虫が力尽き地に落ちた。
「虫が……何をしたんだグリード?」
『虫の中に有った、人の命のエネルギー……賢者の石を頂いた』
「け、賢者の……石……?」
目の前の光景に呆然とした雁夜。グリードは何をしたか説明したが雁夜はそれよりもグリードの説明の中に有った『賢者の石』に言葉を失っていた。
◆◇◆◇
所変わって雁夜とグリードは間桐の屋敷のリビングに居た。
其処で先程の事の説明やグリード自身の話をしていた。
「つまり……お前は賢者の石が本体のホムンクルスだと?」
『『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥル』『大五実体』なんて様々な呼び名が有るが『賢者の石』ってのが解りやすい名前だろう』
「いや、って言うか……賢者の石ってマジ?」
『マジもマジも……』
その話を聞いた雁夜は頭が痛くなった。
雁夜も詳しくはないが『賢者の石』とは魔術師や錬金術師にとって到達点とも言える代物。
それを本体として生まれたホムンクルスなんて聞いた事が無い。
「賢者の石の材料が……生きた人間だなんて……」
『正しくは人間が持つ精神エネルギーだ。だから人間を食らう刻印蟲やあの蟲爺から僅かだが賢者の石を得る事が出来た』
賢者の石の材料に頭を痛める雁夜だがグリードは事なげも無く話を進めた。
雁夜の体を治したり、臓硯の体となっていた虫を仕留めたのはグリードが蟲達の体に僅かに残っていた人間の精神エネルギーを食らったからで有る。
特に刻印蟲は雁夜自身の肉を食らっていたから精神エネルギーも相当な物だったのでホムンクルスが持つ肉体再生もフル活用出来たのだ。
「なら……今、俺の体には……」
『ああ。刻印蟲が残した魔力回路と俺のコアになっている賢者の石の二つが存在するな。その右手と左手が証拠になんだろ』
グリードの言葉に自信の右手と左手を見る雁夜。其処にはそれが嘘では無いと示す令呪とウロボロスの紋章。
「確かに壊死していた体は殆ど治ってるが……」
『俺も使う体なんだ、丈夫にしなきゃよ』
余命一ヶ月等と宣言された体は何処へやら。むしろ刻印蟲に浸食される前より健康な体になっている気がした。
雁夜とグリードの二つの魂が一つの体で話し合っている最中、リビングの扉が開かれ一人の少女が顔を出す。
「雁夜おじさん、起きてるの?」
其処には儚げな雰囲気を纏った少女。
雁夜が聖杯戦争に参加すると決めた理由。
助けなければと思う使命。
『間桐桜』が扉の影から此方を見ていた。
グリードが蟲達から精神エネルギー(賢者の石)を奪ったのは独自解釈になります。
プライドがキンブリーや他の人間を食らって賢者の石を得たのと近いです。