衛宮切嗣はタバコに火を灯す。
「……あれが聖杯戦争……か」
肺に満たされる煙が精神的に疲労した心を落ち着かせてくれる気がした。
切嗣はつい先ほど起きた衝撃的な出来事を顧みる。
セイバーとランサーの戦い。
突如現れたライダー。
強欲を名乗るバーサーカー、グリード。
底も見えない力を持つアーチャー。
グリードとアーチャーとの戦いで崩壊した倉庫街。
そしてバーサーカーとセイバーがじゃれ合いに近い戦いをしている最中、ランサーの様子がおかしくなる。
恐らく、ランサーのマスターが令呪を使い、バーサーカーと共謀してセイバーを倒そうとしたのだろう。
このままではアイリスフィールの身が危なくなると判断した切嗣は手にしたライフルでランサーのマスターを撃とうとスコープに目を通す。
そしてスコープに映ったのは腹部にソフトボール程の大きさの石がめり込むランサーのマスターの姿だった。
有り得ない光景に思わず、スコープを先程まで戦っていたセイバー達の方角に向けると視界には石が迫ってきていた。
「っな!?」
『うあっ!?』
回避も間に合わない。
そう思った切嗣だったが石はスコープを破壊しただけで切嗣自身には怪我は無かった。
切嗣は自身の迂闊さを呪った。
魔術迷彩を見抜く事が出来るサーヴァントがいて他のマスターを狙ったなら自身の場所もバレていると考えるべきだったと。
インカムからは相棒の舞弥の悲鳴が聞こえていたので恐らく、舞弥の方にも投石が来たのだろう。
「舞弥、無事か?返事を……」
『こちらは、問題ありません。ライフルが使い物にならなくなりましたが私に怪我はありません』
窮屈そうな声で、舞弥が返事をした。どこか狭所に隠れて戦場を監視しているらしい。お互い無事な辺り、どうやら投石によって破壊されたのは互いの武器のみらしい。
『どうやら投石で我々を狙ったのはバーサーカーの様です。クレーンの上で戦場を監視していたアサシンが落ちていくのが見えましたから恐らくアサシンにも投石は命中していた様ですね』
つまりバーサーカーはセイバーと戦いながら各マスターやサーヴァントが潜んでいるのを見抜き、潜んでいた場所に投石で狙撃をしたと言う事になる。
その恐るべき空間把握能力に警戒を強めた切嗣が、戦場の様子を確認する為に細心の注意を払いながら予備のスコープで戦場を覗く。
そこには、怒り顔のセイバーがバーサーカーに剣を振るい、バーサーカーが笑いながら斬戟をヒョイヒョイと避ける姿が映っていた。
一頻り遊んだ様子のバーサーカーは笑いながら、撤退し、セイバーはバーサーカーに逃げるなと叫んでいるが倉庫街にはセイバーとアイリスフィールだけとなってしまう。
「……他のサーヴァントやマスター達は撤退した様だ。僕たちも動いて大丈夫そうだな。舞弥、少し調べ直さないといけないことが出てきた」
『バーサーカーのマスター……間桐雁夜、ですね』
「ああ、そうだ。付け焼刃の魔術師だと甘く見ていたが、どうやら違うらしい……いや、規格外なのはバーサーカーなのかも知れないがね」
撤退と今後の方針を伝えて通信を終えると、切嗣は手早くその場から離れた。
バーサーカーのマスターが間桐雁夜であろうことは予想がついていた。即席の魔術師ならば狂化スキルでステータスアップが出来るバーサーカーのクラスを選ぶであろうことも想定内だ。
だが想定外だったのはバーサーカーの存在だ。
マスターに寄生して一体化するサーヴァントなんて聞いた事も無い。
あんな能力を持った英霊なんて聞いた事も無い。
そもそも狂化のステータスを持つバーサーカーがあんなに普通に会話が成り立つなんて有り得ない。
思考の海に沈んだ切嗣の思考を止めたのはバーサーカーの一言だった。
『あり得ないなんて、あり得ない』
バーサーカーが言っていた一言が妙に耳に残っていた切嗣だが『サーヴァント風情の言葉を気にするなんて僕らしくも無い』と自分を笑うと舞弥との合流地点へと急ぐのだった。