一瞬、時が止まりました。
見て下さってる皆様に感謝です。
アーチャーの宝剣を手の中で遊ばせるグリード。
宝剣を眺め、品定めをする仕草にアーチャーのコメカミには更に青筋が走る。
〈グ、グリード……超怖かったんだが!〉
《仕方ねぇだろ、融合してんだから。丁度良いから今の内にサーヴァントとの戦闘に馴れとけ》
そして雁夜の内部で交わされる雁夜とグリードの会話。
至近距離でサーヴァントの戦いを見て、迫り来る宝具を間近で弾く様を見ると言うより、自身の体で体験すれば当然の反応で有る。
「その汚らわしい手で、我が宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ!」
「そんな……馬鹿な……っ!」
そんな雁夜の思いとは裏腹に怒り狂ったアーチャーの背後に、一斉に輝く大量の宝具が出現した。
その剣、刀、槍、斧、矢、様々な宝具が出し惜しみなく晒される。
その全てが掛け地なしの世界の至宝、最高級の宝具である。
「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎきれるか……さぁ、見せてみよ!」
『ガッハッハッ!大盤振る舞いじゃねーか!』
空気を震わせる怒声をと共に宝具の群れがグリードに向かって放たれる。
グリードはそれに恐怖もせず楽しそうに笑い飛ばした。
本来なら有り得ないアーチャーの連続宝具攻撃に晒されたグリードも最強の楯を発動させたまま、襲い来る宝具をいとも簡単に切り払い、撃ち落としていた。
それにより弾かれた宝具が周囲のコンクリやコンテナを破壊し続け、それを見ていたマスター達やサーヴァント達を驚愕させていた。
「あれでは駄目だ。あの黒い手に傷一つ付けられんのでは、数を撃つだけでは意味が無い」
「いやけど、撃ち続ければ一発位弾き損ねることだってあるんじゃないか?」
グリードとアーチャーの戦いの解説を始めたライダーにウェイバーが意見を溢す。
「……仮に、グリードは迎撃するのが精一杯であり、この状況が長引くとしたらその可能性もあるだろうが、おそらくそうはなるまい」
「え?」
「奴の笑みだ。あれは死力を尽くしている者がする笑みではない。むしろ逆。いまだ余裕を持っている者がする笑みだ」
グリードの現在の状況を『余裕』と判断したライダー。
それを聞いたウェイバーは両目を見開いて驚愕する。
「ま、まだあいつ何か隠し持てるっていうのか!?」
「さあのぅ。さすがにそこまでは分からんが、奴も大人しく今の状況を続ける気はなかろう。そろそろ動くぞ」
この戦いをふむふむと冷静に分析しているライダーの台詞にその場に居た者達が耳を傾けていると、グリードが放たれた宝剣を掴み取ると、勢い良く振りかぶった。
『貰ってばかりじゃ悪いからな、返すぜ!』
「んなっ!?」
グリードは宝剣を勢い良く投擲する。轟音と共に投げられた宝剣はアーチャーの足場のポールをバラバラにするが足場を寸断される前に驚異的な俊敏さで跳ねたアーチャーがガシャンと、その場に着地する。
それと同時にアーチャーの顔の直ぐ横に一筋の光が走る。
それは放たれ、地面に刺さった宝槍をグリードがアーチャーの着地寸前に投げたのだ。
ツゥとアーチャーの頬に血が流れ、グリードに向けられたアーチャーの双眸は憤怒に見開かれていた。
「痴れ者が……。天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせた上に我に血を流させるとは……その不敬は万死に値する!そこな雑種よ、もはや肉片一つ残さぬぞ!!」
『ハッ、上等!』
その場にいる全員が息を呑む。アーチャーの背後に30を軽く超える大量の宝具が出現したからである。
先程から余裕を持ち、戦いを眺めていたライダーですら目を見張るほどの有り得ない光景だがグリードは笑いながら、その黒く染まった手で拳を握りアーチャーに向けて中指を上に刺しながら笑っていた。
「……貴様ごときの諌言で、王たる我の怒りを鎮めろと?大きく出たな、時臣……」
『あん?』
アーチャーは空を仰ぐと一人言を呟く、それにグリードが眉を顰める。
ギリッとアーチャーは納得いかないと歯を鳴らすがパチンと指を鳴らし、宝具の解放を止めた。
怒り冷めらやぬアーチャーは忌々しそうにフンと鼻を鳴らして踵を返す。
「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い……だが」
心底偉そうに言い放つと、アーチャーは一度言葉を区切るとグリードを睨む。
「貴様は別だ狂犬。貴様に流された我の血は貴様の死を以て償わせる!」
『上等だ、波風立ってるのは嫌いじゃねーからよ。次はテメェの命を貰うぜ、なんせ強欲なんでな』
頬の血を指で拭いながら叫ぶアーチャーの言葉にグリードは邪悪な笑みを浮かべながら右手の親指で首を切る仕草をする。ソレを見たアーチャーは、これ以上語ることは無いと音も立てずに霊体化してこの場を後にした。
「フゥム、どうやらアレのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅な質ではなかったようだな」
呑気そうにニヤニヤしながら顎を撫でるライダー。
この場において余裕を保っているのはライダーのみで他のマスターやサーヴァント達は目の前で繰り広げられた激闘に息をする事すら忘れていた様に静まり返っていた。