「ゴムゴムの・・・“
投げられたナイフを避けて反撃へと転じるルフィ。
腕を伸ばしての攻撃は単調で読みやすい。そのためバギーには体を少し捻っただけで避けられてしまう。
「面白い能力だ。だがしかし、伸びきった腕は隙だらけだ!斬り刻んでや「ゴムゴムのぉ~!」ッ!!?」
「“バラバラ緊急脱出”っ!」
「“鎌”っ!!」
“
一度発生した勢いを消すことが出来ずにそのまま家に突っ込んだことで崩れてしまうのだが、ルフィは何のダメージもない様子で立ち上がった。
「・・・な、なんて戦いなの・・・!夢でも見てるみたい・・・」
「残念だがこれは現実なのさ。航海士さんもいずれはこんな戦いをせざるを得なくなると思うから今のうちに慣れときなよ」
そんな二人の戦いを酒場の奥にある小屋から見ているナミは始めてみる光景に息を飲む。能力者同士のぶつかり合いを見るのは彼女も初めての体験であり、周りに出る被害がどれほどになるのか全く予測がつかなかった。
勇儀はそんな彼女を見つけて声をかけたのだが、未だに警戒されている様子だ。
「・・・っ!?・・・ってあんたか。私は海賊にならないって言ったでしょ。なんでまた私の近くにいるのよ、加勢に行かないの?」
「
「・・・ハァ・・・その航海士さんって言い方やめてくれない?私にはナミっていう立派な名前があるの。私もあんたのことを名前で呼ぶわ」
「おやそれは失礼した。すまなかったねナミ」
マイペースな勇儀に毒が抜かれたのか警戒を解いてくれたナミは海賊を嫌悪していながらも気になるのか観戦を続ける。
「これはおれの宝だ!!この帽子を傷つける奴は絶対許さねェっ!!」
「「!」」
いつの間にか帽子を傷つけられ、それに激高したルフィに勇儀とナミは共に目を疑った。
二人ともルフィがあそこまで取り乱した姿を見たことは無く。何も動じない性格なのだと思っていたからだ。
「そうかい。そんなに大事もんなら自分でちゃんと守れ!!」
ルフィが宝物と言った麦わら帽子にバギーはナイフを思いっきり突き立てた。
腕を元に戻したバギーのナイフには帽子が刺さったままであり、バギーはその様をみて高笑いし始める。
「それはシャンクスとの誓いの帽子だ!!」
「何?って事ァこりゃシャンクスの帽子かよ。道理で見覚えがあるわけだぜ!・・・ペッ!」
「!!」
ルフィの帽子を地面に捨て、あろうことか唾までかけたことに怒ったルフィは思いっきりバギーの胴を蹴りつけた。それを見て多少スッキリするが、バギーが行ったことに勇儀の気が高ぶっていた。要するに怒っていた。
「ちょ、ちょっと勇儀!落ち着きなさい!アンタがそんなに気を張ってたらここにいるのがばれるでしょうがっ!」
「そうかもしれないねぇ・・・だが私は許せないんだよ。他人のとはいえ、大切なものを傷つけるだけならともかく笑うなんて行為はね・・・!それにルフィはあの帽子を
ナミは勇儀がシャンクスの名前に反応したのが何故かわからなかったが、今の彼女をこのまま待機させることは出来なかった。このままここで暴れられれば、宝を盗むという自分の目的にとって大きな障害になってしまう可能性があるからだ。
「勇儀、ちょっと私と来て宝を運ぶの手伝って。このままアンタのとこの船長が戦ってんでしょ?なら勝つことを信じてあげないといけないってさっき言ったばかりじゃない。護衛としてきたのなら私に手を貸してちょうだい」
「・・・・・・そうだったね。私としたことが情けない。わかった、どこだい?」
「こっちよ」
怒りでルフィが言ったことを蔑ろにするところだったことに気づかされた勇儀は我に返る。そのままナミについていき、宝を袋へと詰め始めた。何回かに分けて運ぶようでナミは袋に詰めた宝を持って先に出ていった。
「海中がダメだとわかったなら、海上の全ての財宝をおれのものにしてやると決めたんだ!!このバラバラの実の能力でな!」
ナミの出たタイミングが悪かったのだろう。
ちょうどバギーが上半身と下半身を分けて宙に浮いている時に袋を持って小屋から出てきたのだ。財宝を全て己の物にすると断言しているバギーには宝を盗もうとするナミには容赦しない。
「つまり俺の宝に触れる奴はどんな虫けらだろうと生かしちゃおかん!!てめぇはとっとと俺の財宝を離さねぇか!!」
「しまっ!見つかった!!」
「どこまでもこのおれを出し抜けると思うな!財宝を離さなくともそのままハデに斬り刻んでやるわ!」
バギーは宝に目を奪われすぎた。先ほどまで戦っていた人間に意識を置くことを忘れていたのだ。
ルフィの目の前には全く微動だにしないバギーの下半身。上半身には追いつかないとわかったルフィは隙だらけの股間めがけて思いっきり蹴りを加えた。
「はうっ!!うごおおおっ!?!」
ナミからすれば突然バギーが苦しみだしてその場に落ちたように見えただろう。ルフィがバギーの下半身に攻撃を加えたことを理解して安堵した。
「おいナミ!その宝置いてどっか行ってろ!またこいつに追いかけられるぞ!」
「宝を置いていけですって!?あり得ない!なんで
「・・・なっ!て、てめぇの宝だァ~!?」
「当ったり前でしょ!海賊専門の泥棒をやってる私が、たった今宝を海賊から盗んだんだからこの宝は
「あーなるほど」
ナミの言い分はルフィを納得させるものだったようでルフィは頷いている。だが当然バギーにとっては理解できるものでもなければ納得できるものでもない。どんな教育を受けてきたと怒鳴ればナミに海賊に間違いを正されるほど堕ちちゃいないと返した。
全く持ってその通りである。
「そうかい・・・俺の財を離さんと言うなら・・・覚悟は出来てるんだろうな・・・バラバラ~“フェスティバル”ッ!!」
バギーは自分の体を細かに分けてあらゆる方向へ動かしていく。細かく分裂しているため先ほどのような股間を攻撃することもできない。さらに的が小さいので避けられてしまう。
そんな状況であるのだがルフィはバギーの足だけは飛べないことに気づく。足を捕まえて靴を脱がせる。そのままくすぐったり叩きつけたり捻ったりするたびに―――
「ぶうっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」
「ふぐっ・・・・・・!!!」
「うぎゃぁぁあああああ!!」
と分かり易い反応をしてくれた。あまりの反応にルフィも何とも言えなくなってしまっていた。
「いい加減にせぇやコラァ!!」
「いい加減にするのは・・・あんたよっバギー!!」
ルフィに意識が向いている隙にナミは宝が詰まった袋を思いっきりバギーの顔面に向かってぶつけようとしたのだが、逆にバギーに袋を掴まれてしまった。バギーはナミから多少の妨害があると見越して手をナミの直線状に置いていたのだ。そのため袋をつかむことが出来たのである。
「なっ!・・・離せ・・・っ!」
「離せだァ!?宝から手を離すのは・・・てめぇの方だろうがぶべらぁ!!??」
背後から一突きしようとしたバギーの頭を思いっきり蹴飛ばす。
吹っ飛ばした元凶は遅れて小屋から出てきた勇儀だった。袋に宝を詰め込む作業に時間を使ったのか、両肩には二つの袋を担いでいる。
蹴られたバギーの頭部はそのままルフィの元に飛んでいく。
遠くから見ていたルフィは勇儀の行動を理解し、すでに両腕を後ろに伸ばして準備をしていた。
「背後から刺すなんて大人げない・・・ルフィ!後は任せたぞ!」
「おう!任せろ!!ゴムゴムのォ・・・」
「ちょ、ま・・・待て!やめろぉぉおお!!」
頭部だけでは何の抵抗も出来ないままバギーは叫ぶ。
しかし当然やめるつもりがないルフィの掌底がぶつけられ、
「“バズーカ”ァ!!!」
そのままバギーの頭部は空の彼方へと飛んで行ったのである。
「勝った!!」
バギーを飛ばした方を見つつ、ルフィは両腕を上げた。
実際にはバギー一味の船員も何人か起きているようだが、船長が負けたことで動かない方が得策だと判断したらしい。だれも動くことはなかった。
「よしナミ!これでお前も俺たちの仲間になるんだよな!」
「
宝の袋に顔を押し付けて幸せそうな表情を浮かべているナミ。それだけならいいのだが宝の金額を言い当ててるところがなんとも残念な感じだ。
「・・・その帽子、そんなに大切なの?」
「ああ。でもまあいいや。まだかぶれるし!バギーも吹っ飛ばしたから気は済んだ」
「・・・あとでその帽子貸しなさい」
「えっやらんぞこの帽子は」
「直してあげるって言ってんの!穴だらけじゃ使い物にもならないでしょ!!」
「お前、いい奴だな!!」
ルフィとナミの人間関係も悪くないようだ。
嫌悪している対象でも気を許してしまうのは彼の魅力だろう。
「ほら、いつまで寝てるんだいゾロ?起きな」
「・・・・・・んん・・・?・・・終わったのか?」
「船長が見事に決めた。海図も宝も手に入ってるしで何の問題もないよ」
カバジを倒したあと静観せず、夢の国に旅立っていたゾロを起こして事が済んだことを告げる。
終わったと気を緩めていると戻ってこない町長を心配した町民たちが、武装して全員こちらにやってきたらしい。
「町長!!しっかりしてください!」
「くそっ!一体何があったんだ!!」
「こんなことするのは海賊の仕業に違いない!!」
「あぁ、すまないね。私が気絶させたよ」
『!?』
気を失っている町長に気づいて町民たちが駆け寄っていく。
それを見てすまないねと勇儀は謝るが町民たちの怒りに火が付いた。一斉に武器を向けてくる。
「お前らうちの町長をこんな目にあわせといて・・・」
「言い訳は聞かんぞ!」
「何者だ貴様ら!まさか海賊か!?」
(うっ殺気・・・!ここで
「「海賊だ(だね)!」」
「!!!やっぱりそうか!!」
「ははは!!」
「ばかっ!!なに言ってるの!?」
「本当の事じゃないか。すまんが嘘は言わない質でねぇ」
「逃げるぞ!」
一斉に走り出すルフィ達海賊とそれを追いかける町民達。
話をややこしくするなとナミは怒るがルフィはいい町だと言い出した。
「見てみろよナミ。みんなが町長のおっさん一人のためにあんなに怒ってる。どんな言い訳してもきっとあいつら怒るさ!」
「ははっ!違いないね」
「・・・!」
路地に回って港へ向かう。町民たちに追われていたにも関わらず、比較的安全に船に辿り着いた。
路地を通る際、シュシュが町民たちを足止めしていたのだ。何も口には出さなかったが全員が心の中で感謝の念を送ったことは言うまでもない。
「はぁ・・・なんで私たちが町民に追いかけられなきゃなんないのよ・・・」
「いいじゃないか。用事は済んだんだからさ」
「そりゃそうなんだけど・・・」
町民に追われたことで疲れたのかナミはぐったりしそうな勢いだが、ルフィ達はそんなことがない。ナミが
ナミの船には助けたバギー一味の三人が乗っていたが、勇儀やゾロがいると知るや否やそのまま酒場の方へ走っていった。平和に事が済むのはいいことだ。
多少の食料を積みこみ、先ほど盗ってきた宝の袋を一つをルフィの船に、もう一つをナミの船に。そして最後の一つを港近くにある家の前に置いて出航の準備を行う。ちなみに袋を一つ町に置いてくるのはルフィの独自行動であり、それに気づいたナミによって海に落とされそうになっていたのだがそれは笑いのネタとして船に提供された。
「すまん!恩にきる!!」
「気にすんな!楽に行こう!!」
出航間際に町長と行われた会話。
海賊と名乗りはしたものの実際にやっていることは完全に義賊。
勇儀は伊吹瓢から星熊盃に酒を注いで口へと運ぶ。
初めにルフィに誘われたときは昔から伝わる鬼のように略奪や殺戮を行う海賊になると思っていた。だがルフィは
『・・・あんた、海賊王になると言ったが、どうやってなるつもりだい?数多いる海賊たちを全員支配下にでも置くのかい?』
『いやそんなことはしねぇ。おれはただ、自由に生きる!世界で一番自由に生きたやつが、海賊王だ!!』
本来であるならさっきのバギーのような考え方が海賊としての有り方としては正しいのだろう。
だが
力での支配など欠片も頭に置いていないのだ。
この広い世界において自由とはなんなのか。それを仲間と共に探してみてもいいかもしれない。
ルフィは海賊王
ゾロは世界一の剣豪
ナミはわからないがそれ相応の目的がある
そう思った。
自分も何かを見つけるいい機会なのかもしれない。
「・・・まぁまず探さなきゃいけないものがたくさんあるがねぇ・・・」
「ん?勇儀なにか言ったか?」
「いや、なんでもないさ」
盃を上に掲げ誓う。
まずは現状を悩ませている食料問題を解決すると。