黒の剣士のお姉さま!   作:さお=SAO

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第7話 キリナの提案

 「今日、ここに集まってもらったのは他でもない……力を貸してほしいの。ここから生きて帰るために……――あなた達ベータテスターの力を」

 「「「……」」」

 

 姉貴の言葉に広場に集まったベータテスター(?)達はしばし沈黙を以て答えていたが、やがて一人の男が前に進み出た。

 

 「その前に一つ、聞いておきたいことがある」

 「なにかしら?」

 「君はどうやってオレたちベータテスターを集めたんだ? 君の『噴水広場に集合』というメッセージは≪インスタント・メッセージ≫機能を使って送られてきたが……その機能を使うには、送り先のプレイヤーの名前がわかっていないといけなかったはず……」

 

 

 それはこれまで俺がひたすらに抱いてきた疑問だった。姉貴は如何にして、この広場にベータテスターを集めることができたのかという。

 男の問いに姉貴は「フフッ、そんなこと」と笑い、答えた。

 

 「ただひたすら送っただけよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして結果はご覧の通り、と両手を広げて告げる姉貴の姿を、俺含めその場にいる全員が唖然として見つめた。

 たしかに考えてみれば、できなくはないことではある。なぜなら≪インスタント・メッセージ≫は、その手軽さ故に同じ層にいるプレイヤーにしか送ることができないというデメリットはあるが、まだゲームが始まって間もない今なら……一層もクリアされていない今ならプレイヤーは全員この第一層にいるはずなので、裏を返して言うならば今、この状況においては名前が解っているのならば確実にメッセージを送ることができるからだ。

 しかし、それでもこの異常な状況下(デスゲーム)ですぐさまその発想に辿り着き、さらにはベータテスト時の三百近くのプレイヤーの名前を憶えていて、実際にメッセージを送るその実行力には凄まじきものを感じざるをえない。

 

 「……お前の姉さん、すげェな……」

 「ああ……」

 

 隣に立つクラインの呟きに俺もまた無意識的に頷き返す中、他に聞きたいことがあるかしら? と姉貴が広場を見回す。が、もう姉貴の言葉に疑問を持つプレイヤーはいなかった。

 

 「じゃあ、話に入らせてもらうわね。まず私たち、ベータテスターが行うべきことを大きく分けて三つ言うわ。一つ目がベータ時と正式サービス時のデータの差異の確認、二つ目がそれに基づく攻略本の作成、加えて三つ目がこのアインクラッドの九割を占めるビギナーの育成よ」

 

 そう告げた姉貴に先ほどとは違う別の男がちょっと待ってくれ、と口を開く。

 

 「これはMMORPGなんだぜ? 茅場の言ったことが本当だとすると、まずは自分の強化と安全を確保するほうが優先じゃねぇのかい?」

 「たしかにMMORPGの醍醐味はプレイヤー間のリソースの奪い合い、と言っても過言ではないわ。多分、一週間も経たない内にこの≪はじまりの街≫周辺のフィールドはプレイヤーで埋め尽くされるでしょう。故にベータ時代の経験を活かし、スタートダッシュを決めたい気持ちもわかるわ」

 

 けれどね、と姉貴は言葉を続ける。

 

 「これは私の考えだけど、おそらくこのデスゲームの攻略を始めたプレイヤーで、死ぬ確率がもっとも高くなるのは私たちベータテスターだと思うの」

 「……どういうことだ?」

 「これはどのゲームにおいても言えることだけど、ベータ時と正式サービス時では運営によってあらゆるデータが修正されるわ。場合によってはベータ時には無かった罠を設置したり、モンスターの攻撃パターンをより増やしたりね……」

 

 そこまで言ったところで、姉貴は一度言葉を切り、広場のプレイヤーの面々を見る。これから姉貴が告げようとする言葉を悟ったのか、皆一様に神妙なまなざしを姉貴に向けている。

 

 「とにかく言いたいのは、右も左もわからないビギナーならともかく、下手にこのゲームをプレイしたことのある私たち(ベータテスター)には≪慢心≫というものが心のうちにどうしても存在してしまうということよ。これがただのゲームであるなら、ただ単に死に戻りで済むけど、茅場の話が事実なら、これは自分の本物の命を賭けた()()()()()なのよ? 一瞬の油断が文字通り、命取りになるわ」

 「「「……」」」

 

 姉貴の言葉に皆が言葉を失う。俺もまた同様だ。

 正直に言おう。俺は茅場からこのSAOのデスゲーム宣言を告げられたその時から、頭の中で無意識的に考えていた。

 すなわち、いかにして自分の死の確率を下げるか。もっと具体的に言うのならば、ベータ時代の経験を如何に活かし、生き延びるかということを。レベル1の今でも、次の拠点である≪ホルンカ≫くらいであるならば、たどり着くことが可能であろうと――おそらくそれは、かつてベータテストを経験したプレイヤーであるならば誰しもが考えていたことだろう。

 しかし、よくよく考えてみればその考え自体が≪慢心≫だったのだ。このアインクラッドが()()()()アインクラッドと同じであるという保証などどこにも無いというのにも関わらず、俺たち(ベータテスター)は無謀にもフィールドに駆け出そうとしていたのだ。

 そう考えるとゾッとする。姉貴の最初の提案は、ビギナーのためというよりはむしろ俺達のための提案と言ったほうがいいのかもしれない。

 俺たち、ベータテスターのための提案と――。

 

 「……今、ここに三十人いる。A~C、それぞれ十人ずつのチームに分けて、役割を決めていこうと思う。もし、知り合いや仲間が他にもいる場合はここに集まるようメッセージを送ってくれると助かるわ」

 

 そう告げた姉貴の、深い夜空を思わせる漆黒の瞳は、生きて現実(リアル)に帰るためにはプレイヤー間の団結が何より必要であるということを物語っていた。

 


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