聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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24 旅の終わり

「失敗作に、敗れるとはな……」

 

 そんな負け惜しみを言っているヴァン。セリスさんはそれを聞いて目を吊り上げているが、僕は気にかかった。

 

「ちょっと、待って下さい。失敗作? ルークさんが? どこがですか?」

 

「ぬ……」

 

 うめくヴァン。それに純粋に浮かんだ疑問をぶつける。

 

「フォミクリーという技術は、レプリカというものは必ずどこかが劣化するのだと聞いています。音素(フォニム)振動数も変わってしまうと。だけど……ルークさんは偶発的に生まれた完全同位体だとも聞いています」

 

 捕らえられたベルケンドの技術者、スピノザの言葉だ。

 

「なら、むしろルークさんは稀有な成功体ということじゃないですか」

 

 フォミクリーを発案したジェイドさんが、どんな思惑でその技術を使おうとしたのかはわからないけど、ルークさんは期待の成功例じゃないのか?

 

「アッシュが使える超振動も、完全同位体のルークさんは使えるようになりました。アクゼリュスが崩落してからたった数ヶ月の間にマスターしたんです。……どこが失敗作なんですか?」

 

「…………」

 

 ヴァンは沈黙している。やっぱりただの負け惜しみだったのかな。その後、怒りのセリスさんによってヴァンは気絶させられた。

 

 ロープで捕縛し、気絶した敵の三人を運ぶのは想像以上に骨が折れた。シンクをガイさんが、ヴァンを白光騎士団の一人が、巨躯であるラルゴは即席の担架を作り騎士団の二人が運んだ。

 

「皆さん!」

 

 ノエルさんが僕らを迎えてくれる。話を聞くと、ヴァンら三人は空飛ぶ魔物で一気に入り口へと進入したとのこと。止める暇もなかったらしい。アルビオールのキムラスカ兵は迷ったが、機体とノエルさんの警護という職務に忠実であることを優先した。

 

「その判断で間違いありません。よく職責を全うしましたね」

 

 セリスさんが上司として称賛する。僕らはとりあえずヴァン達を勾留する為、バチカルへと向かった。ヴァン達を素早く軍に引き渡す。その際に、ベルケンドの守備隊について確認するセリスさん。そこで僕らは前述したような内容を聞いたのである。ヴァン一味にやられてしまった軍人さん達に黙祷を捧げつつ、取り逃がしてしまったアッシュを悔やんだ。彼は旗色が不鮮明なのだ。一応外殻大地の崩落には反対しているようだが、超振動も使える犯罪者を野放しにしているのは不安すぎる。

 

「アッシュはどうやら独自の移動手段を持っているようですね」

 

 そう推察するジェイドさん。

 

「やはり……捕まえなくてはなりませんか」

 

 婚約者なので心配されているナタリア姫。この辺りはインゴベルト陛下やファブレ公爵と話し合った方がいいかもしれないと言うセリスさん。キムラスカ国内におけるアッシュの扱いを明確にしておく必要が出てきた。ヴァン達首脳陣が捕まったことで、敵がいなくなり、彼についても考える余裕が出てきたと言っていいのかな。

 

「ヴァン達については難しいことになりそうですねえ」

 

「そうなのか?」

 

「マルクトだけで裁くのであれば、まずタルタロス襲撃について考えるべきところですが、事前にマルクトの使者である私がイオン様を連れ出していましたからね。最高責任者を奪還する軍事行動であった場合、実行した兵士の責任を追及することはできません。具体的にはあの場にいたラルゴ、リグレットやアッシュですね――。その場合は指示を出した責任者、ヴァンかモースを罪に問うこととなるでしょうね」

 

「但しキムラスカで裁く場合は難しいです。カイツール軍港襲撃の実行犯としてアリエッタ、教唆犯としてアッシュを裁くことはできます。アリエッタを尋問した結果、指示された軍事行動ではなく個人としての行動だと判明しています。その責は個人に追及されます。次に、キムラスカ人であるファブレ公爵の別荘、コーラル城を占拠、私的使用を行っていた件についてヴァンや六神将を吊るし上げるくらいでしょうか」

 

 順番に意見を述べるジェイドさんとセリスさん。そこにガイさんが言葉を差し挟む。

 

「アクゼリュスの崩落について、ヴァンや六神将を責めるのは難しいよな。感情的に言えば、あいつらのせいだとは思うけど。パッセージリングの破壊は、どうやらローレライによって操られたアッシュとルークからの超振動が直接の原因になっちまうからなぁ」

 

「シュレーの丘やザオ遺跡のセフィロトツリーを停止させたことは、各領土の崩落を狙ったことですから罪に問えますね。しかしマルクト内部だけであるシュレーの丘はいいとして、ザオ遺跡のリングが支えていたのはキムラスカ・マルクト・ケセドニアにまたがった地域でしたからねえ。あえてどこかで裁くとは……いっそ全てをダアトで裁いてもらった方が良いのかもしれませんね」

 

 まあ難しいことは偉い人が決めてくれるだろう。とにかく彼らは掴まったのだ。まずは安心しよう。

 

 

     §

 

 

 僕達は戦闘の疲れもあったので、そのままバチカルで休んだ。ルークさんのお屋敷に僕とガイさん。セリスさんのお屋敷にジェイドさんとティアさん。ナタリア姫は王城だ。ケテルブルクで休んでいる導師様とアニスさんには鳩を飛ばした。

 

 そして、いよいよ残すところはラジエイトゲートだけになったのだ。ナタリア姫がキムラスカ国内、ジェイドさんがマルクトの皇帝に、導師様からダアトに通達が出された。外殻大地が一斉に降下する日が近づいてきたのだ。国民全員への周知がなされる。

 

 そして、ついにその日がやってきたのだ。

 

「ここが……ラジエイトゲートか……」

 

 ルークさんの感心したような声。その通りに、僕達はバチカルの南、アブソーブゲートの北にあるラジエイトゲートへ来ていた。

 

「今回はパッセージリングまで短いといいですね」

 

 言いながらアルビオールを下りる。狭い道、まるで巨大な生物の背骨のようなそこを歩いてく。道幅は狭いのに魔物がいる。面倒だなぁ。前衛で足止めをし、ジェイドさんに上級譜術を使ってもらう。アニスさんとティアさんからも譜術が飛ぶ。

 

「お、アブソーブゲートの最深部みたいな場所に出たぜ。リングが近いんじゃないか?」

 

「ふむ。そのようですね。あそこにリングがありますよ」

 

 セリスさんの言葉に目を向けると、確かに譜石、ユリア式封咒とパッセージリングがあった。

 

「よし! 最後の作業だな」

 

「ティアさん……」

 

「ええ、わかっているわ」

 

 ティアさんにユリア式封咒を解いてもらい、ルークさんが上空を見上げる。そこには樹形図が浮かんでいた。ルークさんが両手を空にかざす。超振動が照射される。

 

 ゴゴゴ、と音を立てて降下していく大地。

 

「ふむ……想定通りですね」

 

「カーティス大佐、それでは?」

 

「ええ、障気がディバイディングラインに吸着されて、押し下げられていきます」

 

「う、ぁ……ま、た……」

 

 光に包まれるルークさん。まさか、また?

 

「ルーク、どうした!?」

 

「ローレライが……」

 

 地面によろっと膝をつきながら、そんなことを口にする。また同調してきたのか。

 

「ローレライ……」

 

 僕が少しばかり頭を巡らせる。聞いた話が本当なら……。

 

 すると、ルークさんの右手に赤い玉が出現した。な、なんだ?

 

「ルークさん、それ……」

 

「わっかんねぇ。アッシュと俺に鍵を送る、とか言ってたな……その鍵で自分を解放して欲しいんだとさ」

 

「ローレライの……解放……」

 

「まさかそれは、ローレライの鍵では……?」

 

 思案するジェイドさんに質問してくるティアさん。

 

「ローレライの鍵? って何なんだ?」

 

「ローレライの剣と宝珠を指してそう言うのです。ルーク様。ユリアがローレライと契約した証でありプラネットストームを発生させる時に使用されたとか」

 

「鍵は、ユリアがローレライの力を借りて作成した譜術武器だそうよ。剣は第七音素(セブンスフォニム)を結集させる。宝珠は第七音素を拡散させる。ユリアは両方を合わせた鍵にローレライそのものを宿して、ローレライの力を自在に操ったとされるわ」

 

 ということは、その赤い珠は、第七音素を拡散させる宝珠か。

 

「はぁ……凄いものなんですわね……」

 

「みゅうう、凄いですの!」

 

「……うーん。よくわからんなぁ。とにかく、今は降下のことだけを考えようぜ」

 

 ガイさんの言葉で、とりあえずローレライの宝珠というものについては棚上げになった。

 

 …………………………………………。

 

「降下……完了したようですよ。外に出てみましょう」

 

「おっし、んじゃ帰ろうぜ」

 

 外に出ると、紫色ではない空が僕らを向かえてくれた。休んでいたノエルさんにアルビオールを操作してもらい、大地を見て回る。

 

「バチカルはさっきあった。そんで今目の前にあるのがユリアシティだよな。地続きになってる。成功したんだ!」

 

「ユリアシティと外殻大地が一つになったのね……」

 

「これで…………長く続いた旅も、終わりですね。私達も……」

 

「解散……ですね」

 

 ジェイドさんとセリスさんが感慨深げに言う。そっか。

 

「終わった……んですね……」

 

 僕は外を見ながら、ぽつり、呟いた。

 

 

     §

 

 

 外殻大地が一斉に降下し、魔界・外殻大地というくくりがなくなり、世界が一つにまとまってから、一ヶ月の時が過ぎていた。その間僕が何をしていたかというと、ベルケンドでルークさん、ティアさんらと共に擬似超振動の研究に協力していたのだ。正確には僕が元の世界に戻る為に、ベルケンドの研究者と二人に協力してもらっていたのだけれど。

 

「……困ったな」

 

「困りましたね」

 

 ルークさんの言葉に頷く。僕が異世界から来たことを皆に発表してから、僕の言葉が真実だという仮定の基で研究が行われたのだ。その結果わかったこと。一番初めにルークさんとティアさんがファブレ公爵家の中庭で擬似超振動を起こした時、どうやらルークさんはいつも起きる頭痛に伴う呼びかける声(旅の途中でローレライだったとわかった)を聞いていたらしいのだ。つまり――

 

「俺と、ティアだけじゃなくて、ローレライとも接触していたって言ってもなぁ」

 

「ええ、困ったわね……」

 

 研究者達の結論は、その時の状況を再現すれば……というものだった。

 

「ローレライが必要……ということですよねー」

 

 呆然と呟く。どうしろっていうんだよ。ローレライが接触してくる時なんてルークさんにはわからないぞ。そうして研究結果が出されて困っていたところ、思わぬところから希望が見えてきた。キムラスカだけでなく和平を結んだマルクト、所属「していた」ダアト、ケセドニアを含む世界中で指名手配されたアッシュがとうとう捕まったのだ。なんでも盗賊である漆黒の翼が移動に協力していたとか。芋づる式に漆黒の翼も捕まったので、彼らの被害にあった人々は喜んだという。そしてその話を聞いたルークさんが牢獄のアッシュを訪ねたのだ。とりつく島もないアッシュではあったが、彼の少ない言葉から収監される時に取り上げられた剣が、ルークさんと同じようにローレライから送られたローレライの剣と判明した。

 

 で、研究者やダアトの詠師が見守る中、ルークさんの宝珠と剣が合わさった。

 

「おおお……!」

 

「まさか、本当にローレライの鍵が現存したとは……!」

 

「この歳でこんな素晴らしいものが見られるとは」

 

 口々に喜色をあらわにする人々。そう、アッシュの言葉から、ローレライは地核に閉じ込められていて、そんな彼(?)を解放するのが完全同位体である二人に頼んできた内容だったらしい。そして、収監された罪人のアッシュではなく、レプリカではあるがローレライの完全同位体で、全身を第七音素で構成するルークさんが解放者に選ばれたのだ。ダアトの、ローレライ教徒の一部からは、ルークさんはこの世に現れた現人神だという意見も出てきている(それを聞いたルークさんは盛大に顔をしかめたけど)。とにかくルークさんが地核の傍に行き、ローレライを解放する役目を担うことになった。そして、そこに僕の研究についてもかぶせることになったのだ。

 

 ローレライを地核から解放すれば、ローレライはルークさんの元に姿を現すだろう。その瞬間を狙って、ルークさんとティアさんで擬似超振動を起こし、僕もそこに居合わせる。それが僕を元の世界に戻す唯一の方法ではないか、というのが皆で出した結論。かなり乱暴な方法論ではあるが、僕自身もそれぐらいしかとれる方法がなかったので、最終的に頷いた。そして、今僕らはラジエイトゲートの最深部に来ていた。ここで、ルークさんはローレライの解放を行う。何故この場所が選ばれたかと言えば、ローレライがルークさんに接触してきた場所であり、かつ地核に近い場所だからだ。

 

「じゃあ……やるぞ、ネギ、ティア」

 

「準備OKです」

 

「ええ……」

 

 成功すれば僕はこの世界から消える。それも踏まえてあの旅の仲間は集まってくれた。かつ宗教組織ローレライ教団にとっても見逃すことのできない出来事なので、観測する研究者や教団の詠師職以上の者、キムラスカ・マルクトの両陛下まで同席している。

 

「上手くいくかはわからないけど……世話になったな、ネギ」

 

「もうお礼の言葉はいいですよ。ルークさん。僕も、貴方や皆に助けられました。ありがとうございました」

 

 もう既に仲間達との別れはすませてある。ティアさんの障気については気がかりだが、研究してくれるという話になっている。それが実を結ぶことを願う。後は……この実験が上手くいくことを祈ろう。

 

「いくぜっ!」

 

 ルークさんは剣と宝珠が合わさった完全なローレライの鍵を地面に突き刺す。鍵が突き刺さった地面には、譜陣が発生した。そして……。

 

「世界は消えなかったのか……私の視た未来がわずかでも覆されるとは……驚嘆に値する」

 

 音素(フォニム)が集結し、第七音素の意識集合体、ローレライは姿を表した。

 

「ローレライ! ごたくはいい、俺とティアと一緒に、擬似超振動を起こしてくれ……ネギを、元の世界に!」

 

「お願いします。僕を元いた世界へ飛ばして下さい!」

 

「異世界の申し子か……わかった」

 

 ルークさんの持つ鍵にティアさんが自分の杖をぶつける。ひかりが、あふれて――――。

 

 僕は、オールドラントから飛び立った。

 







後書き
 別にルークのことを事実以上に褒めそやすつもりはないのですが、どうしても気になった言葉「失敗作」。フォミクリーって、そもそも完全同位体を作り出す為にジェイドが考案したんですよね。だったら、普通のレプリカ=失敗作、ルーク=成功作、じゃないですか? まあヴァンがルークを見下しているだけ、と言われればそれまでなのですが、どうしても気になったもので。ヴァンも精神性(ヴァンを盲信していた)と能力を同一視しているのでしょうか? 自分の言いなりになっていたことと、純粋な能力は別でしょうよ。

 宝珠ゲット。原作と違い大爆発(ビッグ・バン)現象が起きていないので、ルークに第七音素は流入していません。よってコンタミネーション現象で宝珠が体にまぎれこむこともなかったのです。

 ネギがオールドラントから姿を消しました。最後に、オールドラントでの各人物を描いて、このSSは終了です。もう少しだけお付き合い下さい。

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