聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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21 和平

 会談が決定したキムラスカ・ランバルディア王国とマルクト帝国。だがその前に導師様から提言があった。ダアト自治区の代表として自分が、それにローレライ教団の都市であり会談場所の魔界(クリフォト)、ユリアシティでテオドーロさんが参加する。だが同じ自治区であり先に魔界へ降下したケセドニアが仲間はずれになってしまう。先に降下した者としての意見も聞けるので、ケセドニア代表としてアスターさんも参加させたい、とのことだった。

 

 なので、既に会談の日時とアルビオールでの迎えを伝えてあるキムラスカとマルクトはさておき、魔界に降りてケセドニアに向かった。アスターさんに話を通し、僕らがケセドニアで宿泊している間に、ノエルさんに両国の陛下達をユリアシティへ運んでもらった。

 

 そして翌日のことだ。街の外にアルビオールがやってきたのが見えたので街を出る。

 

「ノエル! お帰り。伯父上達は?」

 

「はい。問題なくユリアシティへとお送りしました。早く到着できたのでアスター殿と皆さんもお連れしようと思いこちらに」

 

「あ、それじゃあノエルさんは全然休んでいないんじゃ……」

 

「心配してくれてありがとう。ネギ。でも大丈夫です。ちゃんと休んでいますから」

 

「いつもノエルには迷惑をかけるな」

 

 話しながらアスターさんの屋敷へ向かい、彼を連れて一緒にユリアシティへ移動した。

 

 

     §

 

 

 さて、和平会談である。当然のことながら、基本的に僕達の中から会談に参加する、できる人間はいない。例外は導師様とナタリア姫だ。二人だけが会談に出席する。

 

 キムラスカ側からインゴベルト六世陛下、ナタリア王女、軍元帥ファブレ公爵。マルクト側からピオニー九世陛下とゼーゼマン参謀総長、ノルドハイム将軍。ダアト自治区から導師様、ユリアシティ代表テオドーロさん。ケセドニア代表アスターさん。というのが会談の主だったメンバーである。

 

 会議室の前で待っていると、ルークさんの顔色が優れないことに気がついた。ガイさんやセリスさんも同様に気づいている。

 

「どうした? ルーク」

 

「いや……。あの、さ。障気のことなんだけど、害があるってことはわかるし、吸い込みすぎると障気蝕害(インテルナルオーガン)になることもわかってる。だけどさ、今日明日にも皆が死んじまうなんてことになったら……」

 

「長時間大量に吸い込まなければさして害はないと言われています。……それでも、このままなら次世代には人口が激減するでしょうね」

 

 人口が激減! やっぱり危険なものなんだな。

 

「外殻を降下させても、それじゃあ意味ないですよね」

 

 セリスさんの言葉に憂鬱になる僕。

 

「だから平和条約の条項に、障気の共同研究も含まれているのですよ。ルーク、焦っても仕方ありません。世界は広く、我々の手はさほど大きくはないのです。これ以上は研究者の方々にお任せしましょう」

 

 ジェイドさんがルークさんをなだめた。

 

 そんな会話をしていたら、

 

「ナタリア! イオン!」

 

 会談が終わった。ユリアシティの会議室から出てきた二人を迎える。すると後ろからテオドーロさんが現れ、

 

「両陛下から、外殻大地降下作戦について一任された。私としては、これまで通り君達に実務作業を行ってもらいたい。障気の件は、ベルケンドにユリアシティの技師達を送る予定だ。君達には、まず液状化問題の解決として地核の振動を止めてもらいたい」

 

「よっし、ならシェリダンに行こうぜ! 準備がどうなってるか確認しなきゃな」

 

 ルークさんが皆を率いるように、そう言った。

 

 

     §

 

 

 シェリダンにやってきたぞーと。そして集会所に入るとイエモンさん達が迎えてくれる。両国の和平について話をする。と、彼らからも話を聞かされた。

 

「わしらは今タルタロスを改造しておるところじゃ」

 

 タルタロス? シェリダン港に停泊させておいて、部品を取られたから航行不能になったんじゃなかった?

 

「部品は補充して航行可能にしてあるのさ。タルタロスは魔界に落ちても壊れなかった一級品さぁ。地核に沈めるにはもってこいなんだよ」

 

 タマラさんの言葉。振動発生装置の外側をタルタロスでまかなうということか。

 

 僕達は改造が終わるまでシェリダンに滞在することになった。待っていれば、そのうち両国の和平についても世界中に周知されるだろう。

 

 

 

「改造は終わったぞい!」

 

「いやぁ、俺がこんなことに参加できるなんてな」

 

 ルークさんの護衛剣士という役職はどこへやら、ガイさんは僕らが待機している間、すっかり技術者として手伝いを行っていた。

 

「これであとはオールドラント大海を渡る。アクゼリュス崩落跡へ行き、そこから地核に突入するよ」

 

「タルタロスには障気や星の圧力に耐えるため、譜術障壁を作動させる必要がある。これは大変な負荷がかかるので、約100時間で消滅する。……んが、アクゼリュス崩落跡についたら発動させればいいから、この100時間というのは過剰も過剰な時間じゃ。まず切れてしまう心配はいらんぞい」

 

 イエモンさんの説明を黙って聞く。

 

「高出力の譜術障壁には、補助機関が必要なんだよ。タルタロスにはわたしらも乗り込んで、アクゼリュス崩落跡で譜術障壁を発動させてあげるからね」

 

 ふむふむ。一緒に行くんですね。

 

「ここからアクゼリュスに行くまでには約五日間かかる。その間はやることがないので、ゆっくりとした船旅になるじゃろう」

 

 うきうきした様子でアストンさん。

 

「地核で振動装置を発動させたら、タルタロスの格納庫に入れたアルビオールで脱出する。地核から魔界、魔界から外殻大地にな。その為にアルビオールには圧力を中和する音機関を取り付ける。アルビオールでの飛行は、甲板に上昇気流を生み出す譜陣を書いておき、それを補助出力として地核から脱出するんだ」

 

 協力してくれたヘンケンさんも説明してくれる。

 

「それじゃあこれから細かい準備をするわ。タルタロスの出発は昼過ぎになるわね。それまで手順の確認や手荷物の準備などをしておいてね」

 

 キャシーさんのありがたい忠告を受けて、僕らは準備を開始した。

 

 シェリダン港から出発。とはいっても、既に準備は九割がた終わっているのだ。アクゼリュス崩落跡まで五日間、ゆったりと構えていよう。

 

 

     §

 

 

 タルタロスで崩落跡についた。技師さん達と説明を受けた僕らが作業を行う。主にガイさんが、だが。今更だが船の航行には、キムラスカのシェリダン駐留軍から兵士さんが乗船して操作をしてくれている。タルタロスはマルクト船籍だが、シェリダンはキムラスカ領内だから、キムラスカ兵を動員したという訳。和平がなったので、キムラスカ兵が味方についたのだ。地味に嬉しい。

 

「譜術障壁発動じゃ!」

 

 タルタロスの底面に譜陣が発生する。それに乗ってゆっくりと崩落の穴から魔界まで降り、さらに魔界にある泥の海を障壁でかきわけ潜っていく――。

 

「着いた、のか?」

 

「そのようです」

 

「振動発生装置を作動させるぞい! そしたら急いで脱出じゃ」

 

 装置を作動させ、甲板上にあるアルビオールへ。兵士さんや技師さんも一緒にぞろぞろと……。

 

「くぅっ」

 

 ルークさんがしゃがみこんだ。まさか例の頭痛か。もしかしてアクゼリュスの時のような……!

 

 心配したセリスさんとティアさんの第七音譜術士(セブンスフォニマー)コンビが寄り添う。ティアさんが治癒術をかけようとした時だった。

 

「痛みが……引いた……」

 

「ルーク、我が同位体の一人。ようやくお前と会話ができる」

 

 ティアさんの体が宙に浮いて光りだした! まさかアクゼリュスでのルークさんやアッシュのように、操られているんじゃ……。僕らは全員で身構えた。すると、

 

「私は、お前達によってローレライと呼ばれている存在だ」

 

第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体! 理論だけでは存在が証明されていましたが、もしや……」

 

 音素(フォニム)は一定以上数集まると自我を持つ。それぞれの音素で名前がついているのだ。ちなみに第七音素はローレライ。存在はまだ証明されていなかった。

 

 ……え? ていうかルークさんとアッシュを操ったのはローレライなの? ローレライがアクゼリュスを崩落させたの? 何の為に?

 

「そう、私は第七音素そのもの。そしてルーク。お前は音素振動数まで第七音素と同じ。もう一人のお前と共に、私の完全同位体だ」

 

 …………うぅんと、つまり、ローレライ=第七音素=ルークさん=アッシュと言いたいのか。

 

「私はお前だ。だからこそお前に頼みたい。今、私の力を何かとても大きなものが、吸い上げているのだ。それが地核を揺らしてセフィロトを暴走させている原因だ。お前達によって地核の振動は静止し、セフィロトの暴走も止まった。しかし私が閉じ込められている限りは……」

 

 ふっ、と急に光が消えて、ティアさんは崩れ落ちた。

 

「ティア!」

 

 ルークさんとセリスさんがティアさんを抱きとめる。

 

「グランツ響長、大丈夫ですか?」

 

「……だいじょうぶ、です。ただ、眩暈が……私、一体……?」

 

 突然起こったことにこの場の人間はみな固まっていた。

 

「ここは危険です。ティアさんのことも心配ですし、とりあえずアルビオールに移動しましょうよ」

 

 アルビオールは上昇気流に乗って地核を脱出した。初めてのことだったが、ノエルさんは難なく操作してくれた。そのまま外殻大地に出る。

 

 

     §

 

 

 とりあえずシェリダンに戻り、技師や兵士さん達を降ろす。そしてティアさんはまたベルケンドで検査だ。ベルケンドにはユリアシティの技師が送られている。彼らにセフィロトの位置も聞く必要があったのだ。

 

「液状化は止まりましたわね。突然のローレライとの遭遇もありましたが……」

 

「みゅうう。何だか良くわからないですの」

 

「ローレライは言っていましたね。自分の力を何かが吸い上げていると。それから閉じ込められている限りは、とも言いました。どこかに閉じ込められているから、解放して欲しいということなんでしょうか?」

 

 僕の疑問に、

 

「どうやって解放なんてしろってんだよ……」

 

 ルークさんが呆れたように返す。

 

「……気になることはありますが、とりあえず液状化は止まったのです。既に降下したケセドニアやルグニカ大陸はこれで泥の海に沈むことはなくなりました。外殻大地の降下作業に戻りましょう」

 

 その言葉に、皆一様に暗い表情をする。降下作業をするということは……。

 

「ティア、具合はどうなんだい?」

 

 ガイさんが尋ねる。

 

「大丈夫よ。薬ももらったわ」

 

「心配ですの~」

 

「無理は禁物だぜ」

 

「心配しないで、降下作業に行きましょう」

 

「ティア……」

 

 導師様はことにティアさんを心配している。自分も他人事ではないからかもしれない。ダアト式封咒を解いて疲労するからね。

 

「では行きましょう」

 

「大佐は相変わらずですね」

 

 呆れたようにアニスさん。

 

「いえいえ、私も心配はしています。だが降下作業を続けることには彼女も同意しました。決まった以上は先に進むだけです」

 

 ドライだなぁ。でも、心配する人と現実主義の人、両方いてバランスがとれているのかもしれない。なんだかんだいって僕達はそれなりに良いパーティーになってきた気がする。

 

「大佐の言う通りです。アクゼリュスから、二つのセフィロトでツリーを消滅させた後、ここまで沈黙を保っている兄さん達も気がかりです。彼らが何か行動を起こす前に降下作業を完了させましょう」

 

「……ホントにきつい時は言えよ」

 

「ええ」

 

 で、降下作業だけど……今判明しているセフィロトはアブソーブゲートとラジエイトゲート。その二つは最大セフィロトだし、ラジエイトゲートは最後にリングを操作すべきところだ。後回しである。セフィロトのあると言われている場所は、パダミヤ大陸(ダアト)、ラーデシア大陸(キムラスカ)、シルバーナ大陸(マルクト)だ。それぞれダアト、シェリダン、ケテルブルクがあるところでもある。

 

「パッセージリングの場所で、今特定できているのはメジオラ高原の奥部とロニール雪山だけだ」

 

 ベルケンドの研究所に来ていたユリアシティの技師さんはそう言った。さすがユリアシィの人。セフィロトには詳しい。

 

「ロニール雪山は、六神将が任務で向かった際、凶暴化した魔物に襲われて大怪我をしたと聞いています。危険ですよ」

 

 と導師様。六神将ですら怪我をしたのか、これは気を引き締めて行かないと駄目だね。魔物よけのホーリィボトルも補充しておかなきゃ。

 

「ならばメジオラ高原ですね。行きましょう――」

 

 セリスさんのいつものまとめの言葉で、僕らはメジオラ高原に向かったのであった。

 







後書き
 え? 世界二大国家の和平会談に参加する? すいませんちょっと何言ってるかわかんないです。

 地核振動停止作戦について。原作では「いかにもゲームです」という設定で時間制限などがありましたが、このSSではそんなものありません。地核突入直前に、一緒にタルタロスに乗り込んだイエモン達が障壁を作動してくれます。なんで原作ではルーク達しかタルタロスに乗らなかったんでしょう。技師達も一緒に乗り込んで作戦してもいいじゃない。

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