九時にプロローグを投稿してあります。読まれる際はそちらから読んで下さい。
あらすじにあるとおり、基本的には作中できっついアンチとか断罪はしません。ただエピローグだけが別物になってしまったのです……。原作が好きな方は、エピローグだけ読まないというのも手ですよ(少しでも読んで欲しい作者の言い訳)。
僕は目覚めた女性に声をかけた。とりあえず現状を把握したい。
「あの、大丈夫ですか? 気を失っていたようですが……」
まさかこんな場所で昼寝でもないだろう。恐らく気絶していたというのが僕の予想だ。
「…………え、ええ。何とか……」
女性は簡単に自分の体をチェックすると、起き上がった。背が高い。僕が今まで接してきた女子生徒との経験からするに、僕が知っている彼女らより少しだけ年上みたいだ。
「大丈夫みたいですね。ところで、そちらの男性はお知り合いですか?」
その言葉で女性は倒れている男性に気が付いた。
「あ! ……えっと、確か、ルーク、だったかしら」
女性は倒れている男性の横に膝をつくと、右手を男性の後頭部に当てた。
「ルーク、起きて。……起きて、ルーク!」
どうやら男性はルークという名前らしい。やっぱり知り合いかな。
「……きみ、は……?」
ルークさんが起きた。良かった。これで話ができる。
「無事のようね」
「あ、ん? ここ、どこだ?」
「さあ? かなりの勢いで飛ばされたみたいだったけれど。……プラネットストームに巻き込まれたのかと思ったわ」
プラネットストーム? ってなんだろう。
「あ! お前
ルークさんが声を上げる。ひょっとしてどこか痛めたのかな、なら治癒を……。――!!!
「え……?」
どうして、だ? 何で、
「そんな!?」
一人で驚いている間にも二人は会話している。
「へ、へーきだよ、こんくらい。それより一体あれは何だったんだよ…………」
「まずは名乗るべきね。私はティア。どうやら私達の間で擬似超振動が発生したみたい」
擬似超振動? 何、それ。
「ちょうしんどう? なんだよ、それ」
ルークさんが僕の疑問を肩代わりしてくれた。
「同位体による共鳴現象。貴方も
同位体? 共鳴現象? セブンスフォニマー? まったくわからない単語ばかりだ。
「あの……っ!」
「だーっ! う、うるせー。お前何言ってんだよ。わっけわかんねーぞ! ちっと黙れよ! …………あん? 誰だお前」
強く言ったルークさんの言葉に少し表情を歪ませるティアさん。と、そこでようやく二人の視線が僕の方を向いた。
「えっと、僕はネギ・スプリングフィールドと言います。そちらは、ルークさんにティアさんですね」
魔力が感じられないことが気にかかる。それにプラネットストームとか擬似超振動、わからない言葉を説明してもらおう。魔力について何かわかるかも知れない。
「お、おう、俺はルーク・フォン・ファブレってんだ」
名前から察するに二人とも日本人ではない。もちろんここが日本で二人とも来日した外国人という可能性もないではないだろうが、もしかしたら僕は日本でない場所にいるのかも知れない。
「…………ネギ、ね。あの、ちょっと聞きたいのだけれどここはどこかしら?」
あ、あれ?
「あ、あの。僕もまほ……じゃなくて、自分がある研究をしていたら、……えっと、爆発? のようなものが起きて、気が付いたらここだったんです。お二人はここがどこかわからないんですか?」
もしかして、この二人もどこかから飛ばされてきたのかな。
「……………………爆発? もしかして、私達の擬似超振動に巻き込まれたのかしら」
だからその擬似超振動ということを教えて欲しいんだけど……。同位体による共鳴現象。言葉だけを考えるなら、同じ存在による何かの現象みたいだけれど、同位体という言葉が気にかかる。だってどうみても二人は別人じゃないか。何か持ち物で同じ物体があって、それが反応したということだろうか。
「おい、こんなガキまで巻き込んじまったみてーだぞ。何とか言えよお前」
ルークさんがティアさんに言う。
「…………黙れと言ったかと思えば、今度は何とか言え? ……話は後にしましょう。貴方達、何も知らないみたいだし、時間の無駄だわ」
「え……」
な、何だろう。いきなり馬鹿にされた。説明も省くって……この女性はひょっとして身分の高い人物なのかな。
「…………」
ルークさんも自分が馬鹿にされたようで、不機嫌になっている。
「これからどうするってんだよ」
「貴方をバチカルの屋敷まで送るわ。ええと、ネギ、くん。貴方はどこの出身……違うわね。元々どこにいたのかしら」
ようやく場所についての話になった。
「僕のことはネギって呼び捨てにしてくれてかまいません。僕は、日本の麻帆良っていう学園都市にいました」
「はぁ?」
「にほん……まほら? それっていったいどこかしら?」
日本を知らない? ま、まあそういう人もいるよね。ってことはかなり遠くなのかな。少なくともアジアではないだろう。人名からしてヨーロッパっぽいけど。
「知らないんですね。どうしようかな……。それと、バチカルってどこですか?」
「は? バチカルっつったらキムラスカの首都じゃねーか。お前知らねーのか?」
「バチカルを知らない? どうやらよほど辺境にいたみたいね」
……二人の言葉から察するに、バチカルっていうのはよほど有名な場所らしい。バチカンに似ているけど違うよね……………………アレー? これってもしかして……。
「キムラスカ、というのは国名ですか? どこの国でしょう。ヨーロッパ? それとも南米やアフリカでしょうか?」
その僕の言葉に、二人そろって「?」とハテナマークを頭の上に灯す。…………い、嫌な予感がする。魔力がないことって、もしかして……。
「よーろっぱ? なんべい?」
「あふりか……全然聞いたことのない場所だわ」
「…………う、うぅ。あの、お二人が知っている有名な国家を挙げてもらえますか?」
「は? 有名も何も……国なんてキムラスカとマルクトだけだろ?」
「え、ええ。……このオールドラントにある国はキムラスカ・ランバルディア王国とマルクト帝国だけよ。あとは自治区としてダアトにケセドニアという場所があるけれど……貴方まさか、それも知らないの?」
………………………………う、ぁ。………………間違いなさそうだ。
「異世界だ………………」
僕は口の中でだけぽつりと呟いた。キムラスカ、マルクト、ダアト、ケセドニア、全部聞いたことのない地名だ。だけど二人はこの世界に二つだけの国という。異世界しか考えられない。最初は「魔法世界」かとも思ったけど違う。魔法世界にある地名はメガロメセンブリア、ヘラス、アリアドネーなどだ。どうやらここは僕が元いた日本やイギリスがある世界とも、魔法世界とも違う異世界らしい。それなら魔力が感じられないことにも納得がいく。
そこまで考えて、異世界や魔法については、今は話さないことにした。余計な情報は二人を混乱させるだけだ。後で話すかどうか決めよう。
「あ、ええと、僕のことは気にしないで下さい。とにかく、僕はここがどこだか知りません。二人も同じというなら、とりあえず現在地点を知る為に行動しましょう」
そうは言っても周囲は月光以外明かりがない暗闇の場所だ。動くのは危険だよね。
「ここがどこかわからねぇのかよ……」
「向こうに海がありますよ」
白い綺麗な花が咲いている向こうを指し示す。夜で暗いけれど確かに海が見えた。これで現在地がわかればありがたいけど……。
「海…………あれが、海、なのか」
? ルークさんは海を見たことがない? 海がない国の出身なのかな? それでここに海があるということは、ルークさんの住まいから離れた場所なのだろう。擬似超振動、というのは遠く離れた場所に移動する現象なのだろうか。
「……海。うぅん、それだけじゃわからないわね。この渓谷を抜けて海岸線を目指しましょう。街道があれば辻馬車も通行しているでしょうし」
辻馬車。車、自動車じゃないんだな。異世界決定。
「どーやって?」
「少しだけど水音が聞こえてくるわ。川があるらしいわね。川に沿って川下に行けば海に出られるわよ」
「…………ふーん。そういうもんか」
あ、アレ? ルークさんはそんな基本知識すらないのか? 学校で地理とか学ばなかったのかな?
「さ、行きましょう」
は?
「あ、あの。今すぐ移動するんですか?」
「……? ええ、そうよ」
「夜の山道は危険だと思いますけど……明かりもないんでしょう?」
魔力がないということは基本の
「それは……明かりはないけれど、いつまでもここにいてもしょうがないでしょう? とにかく街道に出ないと」
「なんでもいーよ。さっさと行こうぜ」
…………これがこの世界の常識なのかな。だとしたら疑問を差し挟むのはやめておいた方がいいんだろうか?
僕はそんなことを考えながら、さっさと歩き出してしまった二人について行った。
§
がさがさっ! 草むらが音を立てる。
「っ、魔物!」
魔物!? ここは魔物が出る世界なの!?
「じょ、冗談じゃねー! 魔物だと!」
「ルーク、構えて! ネギは下がって!」
その言葉にルークさんが剣を抜く……ってそれ木刀じゃないですか! た、倒せるの!?
草むらを掻き分けて出てきた魔物は、猪のような姿をしていた。短い四本足。だけどぶつかったらかなりのダメージになりそうな重量感がある。……けど、僕は下がっていていいんだろうか?
「オ、オラァ!」
ルークさんは戸惑ったような掛け声で魔物に木刀を叩き付けた。三回ほど打撃を与えたところで、
「双牙斬!」
左手(どうやら左利きらしい)に持った木刀を左肩の上から斬り下ろし、次にその軌跡の逆に斬り上げると同時に飛び上がった。飛び上がりつつ斬りつける技なんだろう。あ、だけど魔物は耐えた。このままじゃ飛び上がって隙ができたルークさんが攻撃を食らう!
僕は慌てて身体強化の魔法を使いつつ魔物に接近した。……だけど、やはり魔法は発動しなかった。呪文も唱えたし魔法発動体の指輪もしているのに。やっぱり! この世界では魔法が使えない!!
「崩拳!」
まったく体を強化できずに、普通の格闘家のように接近した僕は、縦拳を放った。魔物の鼻面に拳が当たる。
「――!! ネ、ネギ!!」
「お、おい!」
二人は驚いた声を上げた。子供の僕がいきなり攻撃を放ったから、かな?
だけど僕の一撃は、それなりに魔物をひるませたものの、大した効果はあげられなかった。当然か。魔法が使えないんじゃ、僕は十歳の子供としての身体能力しかない。これじゃあ戦えないよ!!
魔物は僕に狙いを定めると、突進してきた。それを基本の足捌きで避ける。
「ネギ、だめよ! 下がって!」
「おめーは後ろにいろ!」
二人が僕を下げるように言う。仕方、ないのだろうか。くぅっ!
すると、あさっての方向に行った魔物は止まれずに、木にぶつかった。動きが止まる――と。
「魔神拳!」
ルークさんがその場で右拳を突き上げた。すると拳の先から透明な衝撃波が発生し、地面を走って魔物に当たる、…………これは、気! そうか、魔力がない世界だから魔法は使えないけど、体のエネルギーである気は使えるのか! なら――。
僕は丹田に力に込め、深呼吸をし、両足に気を集めると強く地面を蹴った。友達に教えてもらった移動術。瞬動術だ。これは気や魔力で地面を蹴ることによって、放たれた矢のように素早い速度で敵に近づく、突進する術だ。僕はぎゅんっ! と一気に魔物に突進すると、気で全身、特に右拳を強化し、再度崩拳を放った。
「ぎしゃああああっ!」
魔物は醜い声を上げて僕の拳と木に挟まれた。すると、
しゅんっ!
輝くような音を立てて魔物が消えてしまった。消滅、した? そして何故かその場には鉱物(暗くて良く見えない)が転がった。どうなっているのだろう? そんな疑問を抱きながら振り返ると、二人はぎょっとしたような表情で僕を見ていた。
「な、何……今の」
「す、すげー。ネギ、お前、今何やったんだ?」
どうやら気は存在するけど瞬動術は未知の技術らしい。いや、二人が知らないだけで存在しているのかも知れないけれど。
「え、えーと、ですね」
僕は簡単に瞬動術について説明する。しかし気が使えてよかった。魔力や魔法に比べれば慣れていないけど、僕の知人には気を扱う人が多い。彼らから話を聞いていたのでぶっつけ本番だったが何とかなったのだ。
「そんな技法があるなんて……」
「なあなあ、それって俺にもできるのか!?」
剣士であるルークさんは興味津々だ。そういえばティアさんは刃のついた杖を持っているけれど、戦えるのかな?
そこから、お互いの使える技や術などについて確認し合う。……魔物がいる世界なら最初にこういう話し合いをするべきだったんじゃないか? ルークさんとティアさんは戦いに慣れていないのかな? いや、僕も話し合いをしようと提案していないけどさ。
聞いたところによると、ルークさんは実家で剣術の稽古をしていたとのこと。使える技はさっきの双牙斬と魔神拳だけ。ティアさんは「ふじゅつ」という魔法のようなものが使えるらしい。使えるのは治癒術(回復魔法みたいなもの)のファーストエイドと、ふじゅつとは少し違う「ふか」という技術の、ナイトメアというダメージを与え、眠りの付加効果があるものが使える。
そしてルークさんの態度を見る限り、ふじゅつというのは一般的な技術らしい。つまり、この世界には魔法がないけれど、ふじゅつという魔法のような技術があるんだとか。…………僕にも使えないかな?
僕が戦闘に加わることは認められた。ルークさんは僕のような子供が戦うことを心配していたみたいだけれど、ティアさんは積極的に認めてくれた。認められたのは嬉しいけど、普通の大人だったらルークさんの対応、というか感情の方が正しい気がする。僕の参戦を認めたティアさんの対応は、少なくとも普通じゃない。何故二人の考えは違うのだろうか?
§
その後も草のような魔物や花のような魔物が出現したが、全て倒した。気の運用については問題ない。元々魔力で戦っていた僕だが、気の扱いについても仲間や友達の感覚を聞いたことがあったので、それなりに扱えて、戦えている。
「魔物に近づくと、否応なしに戦わざるを得なくなるわ。気をつけなさい」
「わーったよ。偉そうに」
……二人はそれほど仲の良い関係ではないらしい。気になるけどまずは街などに移動して落ち着いてからだ。
戦いの中で、ティアさんのナイトメアというものを見た。ティアさんが詠うと(旋律がある程度奏でられないと効果を発揮しないので、効果が表れるまで十秒近い時間がかかる)紫色の光が敵にまとわりつきダメージを与えたようだった。
それから、この世界の譜術や、譜歌というものには味方に効果を及ぼさないように、
そして、魔物が消える仕組みと鉱物の正体についても教えられた。どうやらこの世界の魔物、そして人も、体が激しく損壊すると音素乖離、という現象で消えてしまうらしい。
「この世界の全ての生命体や建造物は、固有の振動とそれに伴う音を発しているわ。それらは六つの
物質を構成する元素の一つが音素なのだとか。凄い。やっぱり異世界だけあって僕の世界と全然違う。それと、ルークさんは話を聞いてもピンとこないような様子だった。彼はこういう基礎知識がない人なのかな?
「激しく損傷しなければ、人間も魔物も消えることはないわ。それを利用して魔物の肉や骨などを採取するようハンターや傭兵がいるのよ」
なるほど、ある程度の損傷であれば動物と同じように狩猟できるのか。
「そして……魔物だけは、消えると同時に鉱物を落とすわ。それを一般に流通させて、硬貨としているの。金額の高い銀貨や金貨は、人間が作っているけどね」
だから魔物が消えたところに出る硬貨、銅貨は必ず拾うのだとか。ちなみに通貨単位は「ガルド」というらしい。僕も、それから二人もほとんど無一文だ。お金は貴重だよね。とりあえずお金は三人で共通の持ち物とし、ティアさんが管理することになった。
「出口よ」
薄っすらとだが街道が見えた。
「……はぁ……ふぅーっ。やっとこっから出られるのか」
すると、またがさがさと草むらを掻き分ける音が。
「うわぁっ! あんたたち、まさか漆黒の翼か!?」
現れたのは三十代くらいの男性だった。何かを持っている。
「……漆黒の、翼?」
僕らの中で、一番物知りであろうティアさんも知らないのか疑問形だ。
「盗賊の一味だよ。ここら辺を荒らし回ってて有名な奴らさ……って子供連れか」
「ケッ。俺をんなつまんねー盗賊なんかと一緒にするなよ」
「……そうね。盗賊の方が怒るかも知れないわ」
「えっ?」
ティアさん、ルークさんに冷たいというかきつくないかな? ここまでの言動でルークさんが盗賊より酷いことなんてなかったと思うけど。ちょっと、言葉が過ぎるというか……。
「私達は道に迷ってしまって、困っているんです。貴方は?」
「俺は辻馬車の
「馬車かぁ、助かった。乗せてもらおうぜ」
今までの気だるい様子ではなく、嬉々として発言するルークさん。それには賛成だけど、その前に確認することがありますよね? 質問する。
「車輪がいかれたって、馬車は走れるんですか?」
「ああ、自前で直したよ。これができないと馭者なんて務まらないからな」
「馬車は首都へ向かいますか?」
「ああ、終点が首都だよ」
いやだから、ティアさん。その前に確認することがあるでしょう!
「地図があれば見せてもらえますか? ここがどこら辺かもわからないので……」
僕が聞くと二人はそういえば、という顔をした。……ホントに年上なのかなぁ。
「地図か、馬車まで戻ればあるよ」
ということで、馬車のある場所まで移動した。
「ほら、これだ。ここはタタル渓谷って場所さ」
「……マルクト帝国だわ」
「げっ! マジかよ」
どうやら二つあるといううちの国の一つらしい。けれど二人が元いた国、キムラスカじゃないようだ。
「じゃあ終点の首都っていうのは、マルクト帝国の首都なんですね」
危ない危ない。二人の目的地とはまったく逆方向に行くところだった。
「私達は、ダアトの者です。キムラスカの首都バチカルに行きたいのですが……」
どうやらティアさんは自治区であるダアトの人間だということにしたらしい。……? なんでだろう?
「あーそりゃ残念だったなぁ。バチカルに行くならここから南西のケセドニアに行く必要があるが、俺は数日前にそこから出発してグランコクマに行くところだったんだよ」
馬車の走る行き先は逆なのか。ついてない。
「……じゃあ、ここから歩いてケセドニア? って言う街に行くには、何日くらいかかりますか?」
再度質問。僕としても生活物資、水や食料がないと死んでしまうので街に行きたい。
「歩いてかい!? そんなの、二週間はかかるよ!? どれだけ急いでも一週間以上は必要だね」
「あ……」
声を漏らすティアさん。……僕達には、旅をする用意が何もない。食料も水もほとんどないのだ。ティアさんはある程度携帯しているって話だけれど、一週間はもたないだろう。ということは……。
「えー? じゃあ歩いてケセドニアってとこに行くのは無理じゃねーか」
「……そうなるわね」
そこから僕達三人と馭者さんとの話し合いが始まった。馬車はこのままなら大陸と大陸を繋ぐというローテルロー橋を渡って、マルクト帝国のエンゲーブという村に立ち寄るらしい。
「それなら、とりあえずエンゲーブまで乗せてもらったらどうですか? その村で旅装を調えてから、エンゲーブからケセドニアに向かう馬車に乗せてもらい、ケセドニアに行くというのは」
現実的に考えるとそれが一番の方法だ。このままここからケセドニアに歩くのは無理だし、ケセドニア行きの馬車がここを通りかかるのがいつになるかわからない以上、この馬車に乗せてもらって近場の村へ行く。それがいいと思うんだけど。
「……それしか、ないかしらね」
「あ゛あーもうなんでもいいよ! さっさと乗せてもらおうぜ!」
「ここからエンゲーブまでかい? なら一人7,000ガルドになるよ。二人で14,000ガルドだな。坊主の分は、本来なら大人の半額をもらうんだが、サービスするよ」
いっ! いちまんよんせんガルド!? た、確か、さっきの魔物達が落としたガルドは一桁じゃなかった!? 全然足りないよ!
「高い……」
「そうかぁ? 安いじゃん」
「ルークさん、僕達の所持金じゃ全然足りないですよ!」
「んあ? そっか」
ルークさんはもしかしてお金持ちな人なのかな? 何だか物知らずっぽいし。
「……………………では、現物で支払います。これでどうでしょう?」
ティアさんが首から下げていた(服の内側にあるので今まで見えなかった)宝石を差し出す。
「おほっ、こりゃあ大した代物だ。目利きが上手くない俺でもわかるよ。よし、乗っていきな」
「ティ、ティアさん!? いいんですか、そんなもの」
「…………いいのよ…………」
「へえ……いいもん持ってんじゃん。お前。これでもう靴を汚さなくてすむな」
……決定。ルークさんは間違いなくいいところのボンボンだ。しかし……、
「ルークさん! そういう言い方は良くないですよ。せめてお礼を言わないと……! ……ティアさん、すみません。ありがとうございます」
仕方のないこととはいえ、あんな高価そうな宝石を手放させてしまった。助かってありがたいけれど、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「うるせーなぁ。わーったよ。サンキュな、ティア」
「気にしないで。ルークがここにいるのはわたしのせいだもの」
ティアさんのせい? それはどういうことだろう。疑問に思ったけど、皆が馬車に乗ったのでそれに続いた。
こうして、僕達はタタル渓谷を後にしたんだ。…………それはそうとして、僕、どうやって元の世界に帰ろう…………。
後書き
魔法を使えないネギをトリップさせるなんて何の意味があるんだよ!? と聞かれそうですが、一応理由はちゃんとあります。まず、魔法が使えたらネギ最強モノになってしまうからです。気だけが使える、存在する状況のネギなら、それなりの戦闘経験をもつ実力だけど全力ではない、というほどよい強さになります。
ネギに気が使えんの? と聞かれたら……ま、まあ使えるんじゃないですかね(スタコラダッシュ)