「やっとケセドニアか……ノエルを随分待たせちまったな」
あれから、またオアシスを経由してケセドニアに戻って来たよ。
「皆さん! ご無事でしたか!」
喜色満面、ノエルさんは僕達を迎えてくれた。
「すみませんが、今すぐ飛んでもらうことはできますか?」
「旦那? すぐ外殻へ戻るのか?」
「パッセージリングの警告文を確かめる為に、
あの警告文のことか。セフィロトが暴走と出ていたそうだけれど。
「ではアルビオールまで移動しましょう」
空を飛ぶアルビオール。この時の為にシェリダンへ赴いて借りてきたのだ。存分に活躍してもらいたい。そうして空を飛ぶと……。
「あのセフィロトツリー、おかしくないですか?」
眩しい光を発したかと思えば、消えかかったり、まるで切れかけの蛍光灯のようだ。規模は全然違うけど。
「やはりセフィロトが暴走していましたか……」
「大佐、暴走とは?」
ティアさんの顔色はだいぶ元に戻った。
「恐らく、何かの影響でセフィロトが暴走、ツリーが機能不全に陥っています。最近地震がことあるごとに起きていたのも、崩落のせいだけではなかったのです」
「ツリーが、機能不全? それじゃあ、外殻大地がもたねえんじゃ」
このままじゃまずいよ。外殻大地が……世界全体が危険だ!
「まずいな、ユリアシティの人達はそれを知っているのか?」
「お祖父様はこれ以上の崩落はないとおっしゃっていたわ……知らないのよ」
僕はパッセージリングに書かれていた警告文を思い出す。セフィロトの暴走、そしてもう一つ。
「パッセージリングが耐用限界を迎えていると書かれていたんですよね?」
「…………リングとは、二千年前に作られた音機関なのですわよね? でしたら経年劣化するのはわかりますが……」
「ケセドニアとルグニカ大地の大半は魔界に浮かんでいる状態になりました。しかしグランツ響長の話では魔界は液状化しているということですよね……」
液状化。泥の海はそういう状態だ。これではせっかく降ろした大地も……。
「液状化した魔界が、固形化でもすれば話は別ですが……このままでは、セフィロトが暴走しているなら、ツリーが消えて泥の海に飲み込まれますね」
冷静に言わないで下さいジェイドさん!
「そ、そもそも二千年前のオールドラントは、障気による汚染と液状化から逃れる為に、外殻大地を作ったんでしたよね? でしたらせっかく安全に降下させた大地ですけど、素早く両方の問題を片付けないと、魔界で暮らせないですよ!」
「ユリアの……ユリアの
ティアさんが預言に望みを託す。でも……僕の考えだと、預言は完全に当てになるようなものじゃない。
「とりあえず……私達の目の前には幾つかの問題があります。順番に片付けていきましょう」
まとめるように、セリスさんがそう言った。こうして僕達は、マルクトやケセドニアといった各個の場所でなく、世界全体を救う旅をすることになるのである。
§
それから、ルグニカ大地の大半が降下した辺りに、僕達は移動した。戦場であるそこには、多数のマルクト兵とキムラスカ兵がいるはずだからだ。そうしたら、マルクト側はエンゲーブで、キムラスカ側はカイツールで負傷者などの手当てを行っていた。両軍とも混乱していた。マルクト側はそれでも将軍クラスなら魔界や降下について知っている。その為に皇帝陛下と議会の許可をもらったのだ。だけどキムラスカは突然の降下と障気溢れる魔界に戸惑っているだろう。僕らはカイツールに足を運び、総大将のアルマンダイン伯爵に面会した。アクゼリュス崩落を知っていた彼だが、さすがにこの状態で戦争を続けるつもりはなかったので、僕らを橋渡し役としたマルクトとの休戦を承諾してくれた。伯爵の使者となった僕らは、今度はエンゲーブに行き、そこにいたフリングス将軍に捕虜交換と休戦を伝えた。それによって魔界に降りた両軍は休戦することと相成ったのである。
次に、僕達はユリアシティを訪問した。ユリアの預言には、カイツール・セントビナー・エンゲーブ・ケセドニアといった土地の降下は詠まれていない。ティアさんを代表としたユリアシティとの話し合いは、思ったよりもスムーズに進んだ。
「預言から外れることは、我々としても恐ろしいが……」
最終的に市長であり詠師でもあるテオドーロさんは了承してくれた。ちょっと簡単に手のひらを返しすぎじゃあないかとも思ったが、世界の危機に対応してくれるならありがたい。ユリアシティは障気から守られる機構がある唯一の都市だ。降下した他の場所で障気にやられてしまう人の受け入れ先になることも、許可してくれたのだ。
そしてユリアシティの人と和解したことで、ユリアの預言に崩落や降下、パッセージリングの耐用限界、セフィロトの暴走についても聞けた。だがこちらは空振りに終わる。詠師の権限を越えているというのだ。僕達はこの言葉を聞いて、ダアトの導師様を訪問することを決めたのだった。
§
魔界に空いた、ユリアシティの北東にあったホド崩落の穴、セフィロトの吹き上げもあるそこからアルビオールは外殻大地に浮上した。真っ直ぐダアトのあるパダミヤ大陸を目指す。
ダアトの目の前に着陸する。町の人達は空飛ぶ乗り物にたいそう驚いていた。
「…………ルーク様、大変申し訳ないのですが、白光騎士団の三人をお借りできますか?」
「へ? 何だよ一体?」
「ダアト――
「あーそっか。それもそうだな。じゃあセリスの言う通り、アルビオールの護衛をやってもらえるか?」
「了解です。ルーク様」
白光騎士団の人達にはホントに頭が下がる思いだ。
僕らは道を順に通って教会へ急ぐ。敵地である以上迅速に行動すべし、だよね。
「いつになったら船を出してくれんだよ!」
「ダアト港に行ったら教会で聞けと追い返されたんだぞ!」
あやや、大混乱だ。
「ルグニカ大地の八割が消滅したのだ! この状況では危険すぎて定期船を出すことはできん!」
「詠師トリトハイム……」
どうやら詠師である方が、混乱する民衆を収めようとしているところだったらしい。僕達は混乱する教会前を通り過ぎ、導師様の私室を目指した。それにしてもワープする譜陣なんてものがあるんだな。これで導師様の安全を確保しているのか。
「皆さん……。どうしてここに?」
「イオン! 外殻大地が危険なんだ!」
その後、ガイさんがあらましを説明する。すると導師様は、
「ユリアの
ここにも責任を背負う人が一人。
『ND2000.ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。
ND2002。栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名をホドと称す。この後、季節が一巡りするまで、キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。
ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる』
テオドーロさんに聞いた内容と同じだ。それが導師様の口から語られる。
「礼拝堂にある大きな譜石、それで秘預言を詠みました。結果、テオドーロが言っていた内容と全く同じであることが確認できたのです」
これが七つあるというユリアの預言、その六つ目に当たる内容だった。概略だけれど。
「やっぱりアクゼリュスの崩落と戦争についてしか詠まれていないな」
「もしかしたら、セフィロトの暴走については、七番目の譜石に詠まれているのかも知れません……しかし、気にかかることがあります。ローレライの力を継ぐ者とは、誰のことなのでしょう」
ティアさんも気づいたか。
「ルークに決まっているではありませんか」
ナタリア姫はまだ気づいていないが、セリスさんとジェイドさんは気づいているようだ。
「今は新暦2018年。2000年に誕生と限定されているのだから、これはアッシュのことになりますね」
「しかしアクゼリュスで消滅するはずのアッシュは生きている」
二人の言葉を引き取って、僕が結論を出す。
「それと、人々を引き連れてアクゼリュスへ行ったのはルークさんです。アッシュもアクゼリュスへ来ましたが、彼はあの時点で
「…………それって……つまり、俺が生まれたから、預言は狂ったってことなのか?」
ち、違う。ルークさん! と叫ぼうとした時だ。
「見つけたぞ、賊だ!」
兵士達に見つかった!
「アルビオールに戻るぞ」
言いながらガイさんは前に出て剣を振るう。と、導師様が一番傍にいた僕に古そうな本を渡してくる。
「ネギ! これを、創世暦時代の禁書です。きっと助けになってくれます」
「わかりました!」
僕は本を受け取ると、敵を殺さない為に拳を振るった。
§
「何とか戻ってこられましたわね」
肩で息をしながら、ナタリア姫。あの後、予想通りアルビオールにも敵の兵が群がっていたので苦労したよ。まあティアさんのナイトメアが火を吹いたんだけどね。
「ルークさん……さっきの話ですけど」
僕は彼の勘違いを正す為に言葉を紡ぐ。
「僕は、僕らはただ、ルークさんの存在が預言に詠まれていないなら、預言とは違う未来も切り開けるって言いたかったんです」
「――――」
「預言に支配されたこの世界で、ルークさんの存在は切り札になるかもしれない。実際、ルークさんが生まれたことで、本来アクゼリュスで消滅してしまうはずだったアッシュは助かったんです。人が、一人助かったんですよ」
僕はそう言いながらも、一つの可能性を感じて戦々恐々としていた。預言が上手く辻褄を合わせているのではないかという可能性。この予想が合っていないことを祈る。
「それとジェイドさん、これを」
導師様から受け取った禁書をジェイドさんに説明しながら差し出す。受け取ったのは僕だけれど、僕はこの世界の文字が読めないのだ。
「読み込むのには時間がかかりそうですねぇ。それに、そろそろグランコクマへ行って報告をすべき時でもあります。――ノエル、すみませんが進路をグランコクマへ。報告と同時に補給も行いましょう」
とりあえずグランコクマへ行くことになった。首都周辺は外殻大地に残っている。
「しかし、崩落してしまうからとはいえ、土地を分けて降下させたのはまずかったですね。今はまだ大丈夫でしょうが、時間が経つごとにセントビナーの薬、エンゲーブの食料、これらが配給されないことになります。ケセドニアも降下してしまったので、影響はキムラスカやダアトにも……」
あ、あちゃあ、やっぱり降下すべきじゃなかったかな。問題が続出だ。
そう思っていたところ、翌日希望がもたらされたのである。
§
「それでは禁書を読み解いて判明したことを発表しましょう」
禁書はジェイドさんとセリスさんによって読み込まれた。初めはジェイドさんが一人で行おうとしたが、負担を彼に集中させるのは良くないということでそうなったのだ。
「魔界の問題である液状化は、地核にあるようです」
「地核……っていうと、
僕が知識を確認するように問う。
「ええそうです。本来は静止しているはずの地核が、何故か激しく振動している。これが液状化の原因だと思われます」
ふぅん。でもそれならどうしてユリアシティでは対応しなかったのだろう。
「原因が、揺れを引き起こしているのがどうやらプラネットストームらしいからですよ」
教え諭すように、セリスさん。
「プラネットストームって、確か人工的な惑星燃料供給機関だよな」
「ああそうだ。地核の記憶粒子が、第一セフィロトのラジエイトゲートから溢れて、第二セフィロトのアブソーブゲートから地核に収束する。これがプラネットストームだぜ」
ルークさんの言葉を補足するガイさん。
「恐らく、作られた当初はプラネットストームで振動が発生するなど、想定外だったのでしょうね。実際に振動は起きていなかった。しかし、長い、長い時間をかけて歪みが生じ、地核は振動するようになったのでしょう」
「地核の揺れを止めるにはプラネットストームを停止せねばなりません。しかしそうすれば、譜業や譜術の効果が極端に弱まる。音機関も使えなくなるので、パッセージリングも連動して停止してしまう」
パッセージリングが停止。それでは外殻大地は崩落してしまう。
「……それじゃ、打つ手がねえじゃねぇか」
「それを解決する草案が、この禁書に書かれているんですよ♪ この歴史書は素晴らしい。プラネットストームを維持したまま、地核の振動を停止する方法が記述されているのです」
珍しく浮かれているジェイドさん。あ、このテンション僕にもわかるや。知識欲を満たすのって楽しいよね。
「そんな素晴らしい方法があったなんて……なのにユリアの預言に反しているからと、禁書指定されたのですね」
「セフィロトが暴走している原因がわからない以上、液状化を止めて全ての大地を降下させるしか手はないでしょう」
「旦那、その方法はどんなものなんだ?」
「とりあえず……音機関都市ベルケンドに行きましょう」
へ?