次回作のSSについて、活動報告を書きました。良ければ読んで下さると嬉しいです。
僕達はアクゼリュス崩落跡である外殻大地の海に辿り着いた。凄い衝撃だった。失敗していたら死んでいたかも知れない。
「とにかく、アクゼリュスが崩落してしまったことを皇帝陛下に報告する必要があります」
ユリアシティでグレン将軍がそう言った。
「私達キムラスカ人は本来であればバチカルに帰還するべきなのでしょうが、キムラスカの上層部が私達を死なせるつもりだったことを考えると、下手に帰ると始末されてしまう恐れがあります。とりあえず和平を申し込まれたキムラスカの者として、共にグランコクマへ向かい、皇帝に謁見しましょう」
セリスさんもグランコクマ行きに賛同したので、僕らは全員でグランコクマへ行くことになったのだ。
崩落跡から北上していく、キムラスカの領土であるラーデシア大陸を東に見ながら。次は海を挟んでダアトのあるパダミヤ大陸の西を通る。だいぶ日数がかかる旅程だが仕方ない。――――と、
ガシャンッ!!!
船室でルークさんと一緒に休んでいたら、大きな衝撃と共にウーウーとサイレンが鳴った。何が起きたんだ!?
慌てて
「ご主人様! ミュウは泳げないですの!」
「だ、大丈夫だって、沈みやしないよ」
するとガイさんが名乗り出て応急処置を行った。ルークさん曰く、ガイさんは音機関や譜業が大好きな人らしい。
「何とか修理したが、一時的なもんさ。できればどっかの港に立ち寄って本格的に修理してもらった方がいい」
「ふむ、ここから一番近い港はケテルブルク港です」
「じゃあそこに行こうぜ」
ルークさんが言ったが、何故かジェイドさんは渋い顔だ。何かあるのかな?
§
タラップを降りる。……ケテルブルクはダアトの北北東に位置する北の大地だ。港からでも雪の白い色がたくさん見える。
「くぅー。冷えるぜ」
「寒いですの。お腹のソーサラーリングも冷え冷えで寒いですの」
僕らはタルタロスにある外套などを身に着けて外に出た。
「失礼ですが、旅券と船籍を確認させて頂きます」
港の兵士さんが駆けつけた。それにジェイドさんとグレン将軍が対応する。ほぼ顔パスだ。アクゼリュスのことは、どうやらまだ伝わっていないらしい。
「街までご案内しますが」
「いえ、結構ですよ。私はここの生まれなので、地理はわかっています」
「へえ、ジェイドの旦那はここ出身だったのか」
ガイさんが軽く目をみはる。
「タルタロスの修理はどうするのです?」
「ケテルブルクの知事であるオズボーン子爵に事情を説明すると同時に頼みますよ。……あまり言いたくはありませんが、知事のネフリー・オズボーンは私の妹なのです」
「マジ!?」
へえ、ジェイドさんは妹さんがいたのか。……お姉ちゃん、元気かなぁ。
港から十五分程度歩くとケテルブルクに到着した。気で体を強化して寒さをしのいでいるけど、早く室内に入って温まりたい。
街に入った僕らは真っ直ぐ知事邸を目指した。僕達は応接室に残り、ジェイドさん・グレン将軍・セリスさんの三人が奥の部屋で知事に面会する。
「お待たせしましたルーク様。知事がホテルを手配してくれました。早速そちらに向かいましょう」
わーい。ゆっくり休めそうだ。
ホテルは格調高い建物で、エレベーターもついていた。大きめの一室がルークさんに与えられ、部屋の内側で僕とガイさんが、部屋の外には白光騎士団の人が見張りに立つ。いつもご苦労様です。ちなみにバチカルからアクゼリュス、そしてここまでついてきた騎士団の人達は三人だ。お屋敷の警護をするのが主任務なので、三人しか連れて来られなかったのだ。導師様の護衛にも三人のキムラスカ兵士さん、マルクトからも三人の兵士さんで合計六人がついている。導師様の護衛だったので、アクゼリュスの崩落からも助かったという訳だ。………………アクゼリュスの崩落については、まだ上手く処理しきれていない。あまりに大きな衝撃なので、感情が追いついていないのだ。一万人の死。知っていて見殺しにした世界。ルークさんにも詠まれていた死。考えようとすると辛くなる。
ホテルの部屋で落ち着いて休む。暖炉が体を温めてくれる。そこにセリスさんがやってきた。ルークさんの様子を見に来たらしい。僕はいい機会なので、疑問に思っていたことをこの場でぶつけてみた。
「あの……セリスさん、ガイさん。ずっと疑問に思っていたことがあるんですけど」
「何ですか?」
「ん?」
ずっと謎だったこと。それは、
「ルークさんとアッシュには何か関係があるんでしょうか? あのアクゼリュスのパッセージリングが破壊された時、ルークさんとアッシュは同じように体を操られました。…………それが疑問だったんですが、セリスさんは何かを知っているんじゃないですか? セリスさんは、二人が操られること、ルークさんが操られるならアッシュも操られることを当然のことのように話していましたよね? それと……」
超振動を単独で起こせるのはルークさんだけというのがヴァンの説明だった。けれど、実際はアッシュも使えるようだ。それが疑問だったのだ。ルークさんが操られるならアッシュも操られて超振動を発動させるのも当然、セリスさんはそういう感じで話していたように思う。
「――――」
「そ、それは……」
セリスさんは沈黙。ガイさんは気まずげに顔をそらす。……二人は何かを知っているのか?
「………………セリス、ガイ、何か知ってんのか? あいつのこと……」
ガイさんがちらちらとセリスさんを見る。
「…………隠し通すことはできませんか。しかし…………」
セリスさんは僕を見る。ルークさん本人に話すことはできるけど、僕には言いたくないのか?
「秘密にしなきゃいけないことなら黙っています。何かあるなら教えて下さい」
話せないことというのは確かにある。それは仕方のないことなのだろう。だけど僕らはティアさんを知っている。ずっと黙っていたことで最悪の状況を招いてしまった事例を。
「………………話さないことで状況が悪化してしまう…………か。グランツ響長の失敗を繰り返す訳にはいきませんね。いいでしょう。もとよりルーク様にはいつか話そうと思っていたことです。ですがネギ、口外は厳禁ですよ。それと、私は貴方を信頼して話します。この話を聞いたなら、貴方は何があってもルーク様の味方でいてちょうだいね」
「……わかりました」
「なんだよ。何なんだよ」
「ルーク様、気をしっかりとお持ち下さい」
――そして、説明が始まった。フォミクリー、レプリカ、完全同位体。
「そ、そんな…………お、俺がレプリカ…………っ!?」
僕の世界のクローンのようなものか。だけど人間のクローンは禁止されているのに。
「フォミクリーは昔、マルクト軍で研究されていた技術です。最後には生物レプリカを作ることは禁止されました。しかしルーク様は作られた。恐らくですが、音機関都市ベルケンドの技術者などが関わっているのではないかと。そして、ルーク様が作られたのは、ヴァンの仕業でしょう」
あ、やっぱり禁止されているんだ。
「
そしてセリスさんは説明した。ルークさんが誘拐された七年前、発見されたのはコーラル城だ。そしてコーラル城には使途不明の音機関が設置されていたことが、この間のアリエッタ討伐の時に確認されている。設置して利用していたのは六神将だろう。そして六神将の親玉はヴァン。それからオリジナルのルーク・フォン・ファブレ、アッシュはダアト自治区にいる
「ルークさんが…………」
「う、うそだ……そんな」
「落ち着けルーク。…………お前がレプリカでも何も変わらない。俺が保証してやる」
ガイさんがなだめるようにそう言った。
「そ、そうですよ。例えレプリカという存在でも、ルークさんがルークさんであることだけは変わりがありません!」
「みゅみゅ! ご主人様はご主人様ですの!」
僕達は顔を青ざめさせたルークさんを励ます。こんな…………こんなことなんて。「兄さんは世界に復讐するつもりなんだわ」ティアさんの言葉が頭をよぎる。つまり、ヴァンは超振動を使える完全同位体のルークさんを使って、アクゼリュスのパッセージリングを壊すつもりだったのだ。キムラスカ、国王陛下達はルークさんを死なせるつもりで送りだした。ヴァンは本来のルーク・フォン・ファブレであるアッシュを生かす為にルークさんを作り、アクゼリュスで死なせるつもりだった。………………ふざけている。そんな、そんな風に命をもてあそぶなんて、なんて人達だ!! 僕はルークさんを死に追いやろうとした人間を憎んだ。
「ルーク様、安心して下さい。例え貴方がレプリカでも、私とガイとネギ……それにミュウは貴方の味方です。今までと、何も変わりません」
「セリス……おれ、お、おれは……」
動揺するルークさん。だけどここにいる僕達はルークさんの味方だった。
§
一晩を越えた。タルタロスの修理が終わったので、グランコクマへ向けて出発する。ルークさんも、表面上は落ち着いた風に見える。だけど内心は嵐が吹き荒れているはずだ。少しでもそんなルークさんの支えになるよう、僕は傍についていた。
「グランコクマは戦時中、要塞と化します。それに今の私達は行方不明という扱いになっているはずです。なので直接グランコクマへ乗り付けることはせず、ローテルロー橋の東側に接岸しましょう」
僕らはケテルブルク港から東に移動して(西からは機雷に接触するので駄目だ)、爆破されて修理中のローテルロー橋に向かうことになった。橋は現在修理中だった。もう少しで完全に直るとのこと。橋に接岸して、北にあるテオルの森を目指す。馬車がないので徒歩移動だ。幸い食材や水などはケテルブルクで補充できた。不幸中の幸いだね。
街道を歩いて終着点のテオルの森に到着。すると、
「何者だ!!」
森を警備する兵士さんから誰何の声が上がる。
「私はマルクト帝国第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐だ」
「私はセントビナーのグレン・マクガヴァン将軍だ」
ジェイドさんとグレン将軍が名乗る。
「将軍達であればお通ししますが……」
ありゃ、導師様の威光も彼らには通用しないらしい。僕達キムラスカ側の人間と、導師様はその場に残ることになった。首都グランコクマは森を越えた更に北にある。
「皆さんはここで待っていて下さい。私達が陛下にお会いして通行の許可を得てきますので」
しばらくかかったが、何とか許可が下りた。迎えはマルクトの兵士さん達だ。彼らに護送されながら首都を目指す。
やっと、グランコクマに到着した。水が流れる綺麗な街だなぁ。元の世界のヴェネツィアのようだ。
「私も、長年敵国であったマルクトの首都は初めてです」
セリスさんが感慨深げにそう言う。
「綺麗なところだなー」
ルークさんもだいぶ落ち着いたようだ。…………そういえばヴァンに連れ去られたアッシュはどうしたのだろう。やっぱりヴァンの仲間だから一緒にいるのかな?
王宮の前に来ると、銀髪に一般兵とは違った意匠の青い軍服。
「私はフリングス少将であります。皆様をご案内いたします」
フリングス将軍は僕らを王宮にある謁見の間に案内してくれた。
「よう。あんたたちか、俺のジェイドを助けてくれたってのは」
は?
「あ、あの……」
前に出たルークさんも……というかみんな困惑している。まさか一国の主がこんなにフレンドリーに接してくるとは思わなかった。ちなみに、バチカルと違って僕が謁見の間に入ることができたのはルークさんの従卒だからだ。バチカルではまだ身分がなかったからね。
「陛下。客人を戸惑わせないで下さい」
ジェイドさんが諫言する。
「ハハハ、仕方ねえな。簡単な挨拶でもして本題に入ろう」
そう言ったマルクト帝国の皇帝、ピオニー九世陛下は輝く金髪に浅黒い肌をした青年だった。随分若い皇帝なんだな。
「あ、あの、アクゼリュスのこと……俺、いや、私が……」
ルークさんがアクゼリュスの件について説明しようとする。自分の存在がアクゼリュス崩壊の一因であることで気まずいのだろう。
「事情はあらかたジェイドから聞いている。貴公は和平を結んだキムラスカが派遣してくれた親善大使だ。感謝こそすれ、責めるつもりは微塵もないぞ」
よ、良かった。どうやら話のわかる人だったようだ。誰かは知らないけれどルークさんとアッシュを操った人物が犯人だし、ヴァンと導師様にも責任はある。ルークさんのことを責めてくるような人じゃなくて良かった。
「御前失礼します。ルーク様はキムラスカやローレライ教団の上層部にお命を狙われるかも知れません。大変心苦しいですが、マルクトの庇護を得られればと……」
「ふむ、
「…………陛下、大変申し訳ありません」
導師様が頭を下げる。と、
「なあ導師。俺は一体どうすりゃいいんだ? 秘預言が教団の機密だとしたらマルクトはそれを知らない。だが導師である貴方はそれを知っていたはずだ。だというのに和平に協力してくれた…………ああ、そうか。和平を結ばなきゃ、キムラスカ王族である預言に詠まれたルーク殿をアクゼリュスに行かせられないから、和平を結ぶ仲立ちになったのか?」
それは、ユリアシティで秘預言が判明してから誰もが心の中で思いつつも、追求できなかったことだ。導師様は秘預言を知っていたはずだ。であるならば、ユリアシティの監視者達と同じ、知っていて黙っていた。その通りになるように動いた。ということになる。
「…………! ち、ちがいます。僕は……僕は、知らなかったのです」
「導師であるのに、か? それはちと苦しい言い訳ではないか?」
そうだ、導師様なら知っていたはずだ。でなければおかしい。つまり……アクゼリュスのダアト式封咒を解いたのは、過失でもなんでもなく、預言通りにアクゼリュスを滅ぼして欲しいからそうした、と思われても仕方ない。……それにしては、崩落するアクゼリュスから逃げる手段を持っていなかったが。あ、そういえばヴァンが「イオンを連れて行くつもりだった」って魔物に乗りながら言ってたっけ。アッシュが来なければもう一体の魔物に導師様を乗せる算段だったのか。ならやっぱりアクゼリュスを滅ぼす為に……。
「…………本当に、知らなかったのです…………僕は…………僕、は…………導師イオンの、レプリカ、なのです」
「え!?」
「はぁ!?」
「――!!」
場が騒然となった。導師様もレプリカ!?
「お、お前も……お前もレプリカだったのか!!?」
あ。
「ル、ルーク様!」
珍しくセリスさんが慌てる。
「も? …………もって、他にもレプリカがいるのか?」
皇帝はしっかり聞いていた。あちゃー。
「ああ……うう」
「…………はぁ、仕方ありません。本来はマルクト側には知られたくなかったのですが……」
「おいおい、どういうことだ?」
「…………隠し事をしていると、最悪の事態を招く。それはグランツ響長が教えてくれましたからね……すみませんルーク様。私から説明してもよろしいでしょうか?」
その後、ルークさんが完全同位体のレプリカであることが説明された。
「偶然に……完全同位体が……」
「ほうほう」
「…………やっぱりルークもレプリカだったんですね……」
色んな反応を示す皆。ティアさんはヴァンが作ったであろうという推論を聞いて、頭を抱えている。それと導師様は気づいてたんだ。
「そ、それより! イオンがレプリカってどういうことだよ!」
ルークさんが先ほどの導師様の言葉に言及する。
「僕は誕生してから二年しか経っていません。
う、生まれてから二年!?
「兄さん…………」
ティアさんはもう言葉もないようだ。
「はーっ。なるほどねぇ。誕生して二年しか経っていないレプリカだから、秘預言も知らされていなかったと。
「はい、僕は体力が劣化したレプリカなので、惑星預言を詠んだら死んでしまうから、と」
「惑星預言って何ですか?」
今までに聞いたことがない言葉だ。
「星の一生が詠まれている預言よ。導師だけが詠むことができるのです。ただ、詠む者には多大な負荷がかかると言われています」
セリスさんの説明。そうか、ユリア・ジュエが二千年前に詠んだ預言もそれだったのか。で、それの譜石の一部がバチカルで親善大使になったルークさんに知らされたと。テオドーロさんが言ったあの預言もその一部か。
「……………………」
「隠し事はいけない、か。ジェイド、話すぞ。構わんな?」
「……仕方がありませんね」
? 何だろう?
「フォミクリーって技術を開発したのは、そこにいるジェイドだよ。一般的には今のカーティス家に養子に入る前のジェイド・バルフォアっていう本名の方で知られている」
「え!?」
また騒然。今度の中心はジェイドさんだ。
「貴方が、フォミクリーの発案者だったんですか……」
「……ええ、数々の問題点もあるフォミクリー。ですが、それでも行いたいことがあったのです。若かった、と言っても言い訳にはなりませんが」
「今は禁止されている生物レプリカも、そいつは何十人も作りやがった。言い訳なんてできないほどの罪人だよ」
な、何十人!? そ、それは酷い。
色々なことが明らかになった謁見。しかしまだ終わりではなかった。正確には終わろうとしていた際に爆弾が投下されたんだ。
「おっと、一旦休憩すると言っておいて何だが、最後に確認しておきたいことがある。アクゼリュスが崩落してから、セントビナー周辺で地震が頻発しているんだ。地面に大穴があくほどのな。何か知らないか?」
セントビナーで地震? 大穴? そのピオニー皇帝が言った言葉に皆が頭をひねる中、僕の頭に可能性が生まれた。
「…………もしかして」
ぽつり、と僕がこぼした言葉を拾い、皆の視線が集まる。
「何か心当たりがあるのか? ええっと、ネギ、だったな」
「この世界、外殻大地には十箇所のセフィロトがあるんですよね? つまりパッセージリングとセフィロトツリーも同数あるってことですよね」
セフィロト・パッセージリング・セフィロトツリーはセットとして考えるものだ。後ろ二つは人の手によって創られたり生まれたりしたものだけど。
「そうなるな」
「…………じゃあ、アクゼリュスのツリーが消えたら、そのツリーで支えていた大地は崩れるんじゃないでしょうか? 僕らはアクゼリュスが崩落したので、ツリーで支えられているのはアクゼリュスとその周辺だけだと思ってましたけど、もしアクゼリュスの北もアクゼリュスのツリーで支えられているとしたら……? それに、もう一つ思いついたことが」
つまり……。
「――――!!」
「セントビナーがツリーの範囲内…………!」
「い、いや。でもそれは」
「それが本当だとしても、どうやって確認するんだ!? もうアクゼリュスのリングは……」
「………………アクゼリュスのリングが壊れて崩落してしまったので、アクゼリュスのセフィロトツリーが支えていた大地がどこまでの範囲かどうか確かめる術は……」
「いや、待て。ネギ、もう一つの思いつきとはなんだ?」
「は、はい。あの、この世界の大地が十箇所のセフィロトによって支えられているとして、どこかの――つまりアクゼリュスですけど――セフィロトが消えてしまったら、他のセフィロトに負荷がかかるんじゃないでしょうか? 例えるなら四本足のテーブルを思い浮かべて下さい。その足の内一本が欠けてしまったら?」
残り三本の足で自重を支えなくてはいけなくなる。
「セフィロトに……負荷。確かに、考えられないことではないですね」
「おい、セントビナー周辺にあるセフィロトは? そこでならもしかしたら……」
ピオニー陛下がジェイドさんに聞く。その質問を導師様が受けた。
「セントビナー周辺はシュレーの丘にあるパッセージリングが制御しています。…………あ、ああ…………ぼく、は……」
「お、おい! ちょっと待てよ! シュレーの丘ってところはお前がアクゼリュスに来る前、六神将に連れられて行ったって!」
「は、い……僕は、シュレーの丘にあるダアト式封咒を……解いてしまいました」
な、なら……六神将やヴァンは封咒の中に入れる。もしかして…………。
「兄さん達はリングに何か仕掛けを……っ! アクゼリュスみたいに……」
「…………鮮血のアッシュ……超振動が使えるルーク・フォン・ファブレはアクゼリュス崩落以来行方不明だったな。…………こりゃあまずいぞ。ヴァンや六神将共がシュレーの丘に行けるとしたら……」
ピオニー皇帝が秀麗な顔に冷や汗を垂らす。
「セントビナーが、崩落する…………!!」
セントビナー出身のグレン将軍の声が、謁見の間に響いた。
後書き
ベルケンドとワイヨン鏡窟には行きません。ヴァンの真意を探るよりアクゼリュス崩落についてマルクト皇帝に報告することが優先されるからです。ワイヨン鏡窟は……原作でも凄く謎なんですよね。いや、ヴァンが巨大な大地のようなものをレプリカで作ろうとしているってわかる場所なんですけれど、その情報が生かされる箇所が原作のどこを探しても見つからないのです。ストーリーが進んでそのレプリカ大地、○○○○○○が出現したときも「ワイヨン鏡窟で調べたアレか!」という言葉すらありませんでした。……ホントになんで行ったし。チーグルのスターは、行ってみたら居た、という結果論でしかありませんし……読者の方でワイヨン鏡窟に「こういう意義があったんじゃない?」と知っている方がいれば教えて下さい。割とマジで。
原作ではケテルブルク港に着くと、船籍を確認する兵士やネフリーがアクゼリュス崩落に巻き込まれて死んだと思われていたジェイドに驚きます。それはアクゼリュス崩落からかなりの日数が経っていたので、マルクト国内(というか世界中)にそのことが伝達されていたのでしょう。ですがこのSSでは、ベルケンドとワイヨン鏡窟、ユリアシティからアラミス湧水洞を通ったり、イオンとナタリアがダアトに囚われてそれを奪還しようとしたりしていません。日数がだいぶ短縮されているのです。なのでケテルブルクでは死んだジェイドが現れて驚くということはなかったのでした。早く到着したのでテオルの森で六神将二人との邂逅もありません。
しかし、ナタリア・アニス・アッシュが出てきませんね。アニスは次話辺りで言及しましょうか。