消されるのは嫌なんじゃ・・・
あの後、楓さんと別れて質問攻めにあいました。当然ですよね、高嶺の花である高垣楓と新人アイドルが二人きりで話すとなるとそれはもう気になって仕方が無いでしょう。私が逆の立場、その場面を見かけた場合同じ行動をするでしょう。
しかし、今回のお話は簡単に話せるような内容ではありません。私だけでは無く、楓さんの今後にも支障がでる可能性がありますし。何とか皆さんの質問を躱し、凛に睨まれながらもその日は寄り道などはせずに、楓さんの事を考えながら家に帰りました。
開けて翌日。学校でも、事務所に向かう道中でもこちらを見てくる凛と共に向かいます。お願いしますから睨まないでください・・・
「別に、睨んでるわけじゃないし・・・」
「ごめんね、凛。こればっかりは簡単に話す事が出来ないの・・・」
そう告げると、渋々と言った様子ですが。凛は何とか納得してくれたご様子。渋谷凛が渋々納得・・・ふふふ。
「あいたっ!?」
そんな事を考えていたらチョップされました。何故・・・と言うか心の中身まで読まないでもらいたいです・・・。
「どうせ変な事考えてたんでしょ、ほら。立ち止まってないで行くよ」
変な事とは・・・まぁ否定は出来ませんが。
そのまま私たちはのんびりと会話しながら事務所に向かいます。途中で本田さんと島村さんと合流して人数が増え、女三人寄れば姦しいというのが実感できてしまいました。私?私はほら、ちゃんと男ですから混ざったと事で姦しくはなりませんよ。
因みに、私たちの服装は全員制服です。私と凛は同じ学校ですが、お二人は違う学校らしいですね。
「おっはようございまーす!」
なんて他愛のない話をしていたら、あっという間に事務所に着きました。そのまま私達がいつも集まる部屋に向かい本田さんが勢いよく扉を開けて挨拶します。
「煩わしい太陽ね」
「おはよう、皆」
「ドーブラエ ウートラ、おはよう、です」
「にょわー☆みんな今日もおっすおっす☆」
先に集まっていた神崎さん、新田さん、アナスタシアさん、諸星さんが返事をしてくれます。それにしてもあれですね、アナスタシアさんは日本語をまだ練習中らしくロシア語が混ざるためたまに混乱してしまいますが、神崎さんの言葉は今の所さっぱりですね。これに関しては慣れるしかないでしょう。それから少しして、緒方さんに三村さん、みりあちゃんに莉嘉ちゃん、前川さんに多田さんがやってきます。双葉さんは何処でしょうかと探してみると、いました。ソファで横になっています。私達が全員集まったころに、武内さんが千川さんとやってきました。その後ろにもう一人、いますね・・・
「お姉ちゃん!」
「莉ー嘉。まずはプロデューサーに挨拶しなってー」
莉嘉ちゃんのお姉さんと言うことは、カリスマJKアイドルの城ヶ崎美嘉さんでしょう。何故そんな彼女がここにいるのか疑問ですが、武内さんがそれを解消するように話始めます。
「今回、城ヶ崎さんからバックダンサーの指名として、本田さん、島村さん、渋谷さんの三人が選ばれました」
その言葉に、少し沈黙が降り。その後爆発するように空気が沸き立ちます。城ヶ崎さんのお姉さん・・・、この際ですから美嘉さんと呼ばせてもらいましょう。美嘉さんが直々に選んだということですし、色々と考えがあっての事なのでしょう。
「えー!莉嘉もやりたーい!」
「みりあもやーる!みりあもやーる!」
「み、みくも出たいにゃあ!」
そんな風に三人が声を挙げますが。美嘉さんはまた今度ねと言って話を終わらせます。また今度と言うのがいつになるかは分かりませんが、一先ず仲間の成功を祈っておくとします。これで失敗して後に響くようになったら大変ですしね・・・。
「おめでとう、凛っ」
大切な友達が舞台に立つということで、小さな声で耳打ちしまう。
「ちょっ、近いって・・・」
ですが凛はそう言って離れてしまいました。何故・・・?耳を抑えながらこちらを睨む凛ですが、顔が赤くなっています。成程、耳が弱点なのでしょうか
「また変な事考えてる・・・」
また心を読んでる・・・。
「それでは、これから三人は城ヶ崎さんと一緒にダンスレッスンを。他の皆さんは各自レッスンをお願いします」
そうして、私達は着替えるために更衣室に向かいました。流石にここはもう割愛しましょう。何度も同じ事を経験するわけですから、もうこれは頑張って慣れるしかないですし・・・。敢えてここで一言言うとしたら、皆さんは大変無防備でしたと言わせてもらいます。
そんな事もありましたが、レッスンルームで各自ペアになって柔軟を行います。ここで問題が発生します。今回は頼れる存在である凛が美嘉さんと組んでいます。他には新田さんとアナスタシアさん。みりあちゃんと莉嘉ちゃん。緒方さんと三村さん。前川さんと多田さん。双葉さんと諸星さん。どうしましょうか、神崎さんと組むしか選択肢が残っていないのですが、私コミュニケーションを無事に取れるでしょうか・・・。一先ず、声を掛けないと何も始まらないので、神崎さんに近づいていきます
「神崎さん、良かったら組んでもらえませんか?」
「む、神の玩具か。良かろう、我も汝に申し出を述べるつもりであった・・・」
要約すると、私もお願いする所だった・・・。と言うところでしょうか。
その言葉に私は微笑んで、背中合わせになりながら腕を組んで、体を折り曲げるようにして神崎さんを背中に乗せて持ち上げます。
「ぴゃぁ!」
「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
「や、ちが・・・。んっん。気にするでない、少し驚いただけだ・・・」
一言声を掛けてからやるべきでしたね。気を付けましょう。今度は反対に神崎さんが私を持ち上げてくれます。大丈夫でしょうか、私重くないでしょうか・・・。
「其方はとても軽いな、まるで羽毛の様だ」
それは流石に言い過ぎでは・・・。一応私も男性ですし、そこまで軽かったらそれは大変な事になります。まぁあくまで彼女の表現の仕方が独特なのでそう判断しただけかもしれません。それから二人して座りながら体を前に倒したり、前屈したりと柔軟をしていき、やっとこさレッスンに入ります。
「今日はまずダンスレッスンとのことですし、簡単な踊りから始めていきましょうか」
そう言ったのは聖さんの妹さんの愛さんです。妹と言いましたが、見た目そっくりなため実は双子なんじゃないかと思います。
愛さんに言われるまま、今回はどうせならと言うことで美嘉さんの曲が流れているのでそれに合わせて踊りを真似てみる事になりました。
「鳳、少し動きが速いぞ。神崎、足元に集中しろ!」
流石に、プロのレッスンを受けるのは初めてなので勝手が分かりませんね。神崎さんはどうなのかわかりませんが、ステップが安定しないようで困惑しているのが見受けられます。
3回ほど通して踊って、いったん休憩になりました。肩を上下させ、息を整えようとしている神崎さんに飲み物を渡します。
「あ、ありがとう・・・」
おや、流石に疲れているからなのか普通に感謝されました。普通に喋るだけで、だいぶ印象が変わりますね、先ほどまでは少し高圧的な感じがしてましたが、今の神崎さんは小動物みたいで可愛いです。
「神楽さんは、疲れてないんですか・・・?」
うーん。何と言いますか、疲れてはいるんですが今はレッスン出来る事で楽しくてしょうがないんですよね。路上の時はそこまで本格的な踊りなんて出来ませんでしたし、本格的にダンスを学べる今が楽しくて楽しくて・・・。
そう神崎さんに伝えると、何かキラキラとした目で見られてしまいました。
「神楽さんは凄いですね、私アイドルになれるって浮かれてたのかもしれません・・・」
お、おう。返事に困ってしまいますね・・・。神崎さんの気持ちもわかりますし。私だって浮かれていますからね。飲み物を飲んで少し落ち着いた様子の神崎さんの隣に腰かけ、話しだします
「浮かれたって良いじゃないですか。アイドルになれるなんてそんな簡単な事じゃないですし、これから先の楽しい事を考えれば当然の事ですよ」
「神楽さんも、ですか・・・?」
「それはもう当然。私は楓さんに憧れてこの道に進みましたからね。それが念願叶ったわけですし、浮かれるのも当然ですよ」
「当然、ですか」
「当然です。だから神崎さんも今はまだ大変かもしれませんが、一緒に頑張っていきましょうよ。私だけじゃなくて、皆も一緒に」
ふぅ、少し長く話してしまいましたね。持ってきた飲み物を少し含み喉を潤します。やー、このスタドリ?でしたっけ。初めて飲みましたが美味しいですねこれ。体の中から活力が湧いてくると言いますか、体力が回復すると言いますか。
「あの、神楽さん・・・」
ん?神崎さんが何故かモジモジしながら話しかけてきます。
「蘭子って、呼んでもらえませんか?」
ふむ、これはつまり友情が芽生えたってやつですね!男女の友情なんて成り立たないなんて言われていますが、なんだちゃんと成り立つじゃないですか。
「じゃあ、蘭子ちゃんって呼びますね!」
「はいっ!神楽さん!」
あ、はい。私の事はさん付けなんですね。呼び捨てとか期待していましたが、一応私年上ですからそれが関係しているのでしょうか・・・。
その後、美嘉さんのダンスレッスンを見て学ぶ事になり。凛が分からない所を聞いたりして中々度胸あるなーなんて考えたりしていたら、あっという間に時間が過ぎ去り解散となりました。
今日の収穫としては、本場のダンスレッスンを受けれた事を、蘭子ちゃんとの距離が近づけた事ですかね。そのおかげなのかは分かりませんが、蘭子ちゃん普通に話してくれるようになりましたし。
帰り支度を終えた凛と、一緒に帰っている最中そんな会話をしながら帰ります。意外な事に凛の家と私の家ってそんな離れて無かったんですよね。私の方が家は遠いですが、凛の家の先にあるので帰り道が一緒になるんです。
「凛は、ダンスも上手ですねー」
「そんな事ないよ。少し見てたけど、神楽の方が上手かったし」
謙遜なんていらないのに。事実、凛のダンスは・・・失礼な言い方になるかもしれませんが養成所に通っていたという島村さんとそこまで変わらないレベルだと思います。確か凛はダンスの経験は無かったみたいですし、そう考えれば十分じゃないでしょうか。私が上手いと言いますが、きっとプロの方から見れば赤子も同然ですよ。
そんな会話を続けながら歩いていると凛の家に着きます。凛の家は花屋です。その花屋から一匹の犬が駆け寄ってきました
「花子ー、君は何時も元気だねー」
わしゃわしゃとお腹を撫でてあげると喜んでじゃれ付いてきます。いやぁ、癒されますね・・・。叔母さんがいませんし、勝手に動物を飼うことも出来ないのでこうして花子と触れ合う時間は新鮮です
「花子・・・私にはこないんだ・・・」
どうやら花子が凛の方にいかなかった事で落ち込んでいるご様子。そんな凛がちょっと面白くて、からかう感じで喉元をこしょこしょとくすぐってみました。するとどうでしょう。凛は目を瞑り少し気持ちよさそうに声を漏らしています。少しそのままくすぐっていたら、正気に戻った凛に拳骨を落とされました。
うん、ごめんなさい調子に乗りました。
「あんまり、女の子にこんな事したらダメだよ?神楽は一応、一応男なんだし」
何で一応って二回言ったんですかね。一応じゃなく正真正銘男ですから。そうして、凛は花子を抱えて家に入っていきます。バイバイと手を振って別れたあと、私は夕食の買い出しに向かいました。
「いや、ですが今日は何時もよりお腹が空いていますし、これはジャンクな物を食べるのも良いかもしれませんね・・・」
ハンバーガーとか叔母さんが帰ってきたら食べれませんしね。これ気に食い溜めするのもありでしょう。そうと決まれば私の行動は早いものです。今来た道を戻り道中にあるファーストフード店に入ります。あぁこの香り、素晴らしいです!メニューも豊富ですし、何を頼みますかね・・・
「あれ、君って確か・・・鳳神楽だっけ?」
声を掛けられ、誰でしょうかと振り向くと、知らない女性が立っていました。どちら様・・・?
「ほら、中学が同じだったんだけど・・・覚えてない?」
そういわれて記憶を辿りますが、思い出せません
「そっかー一応色々やってたんだけどね・・・」
少し落胆した様子で、彼女は自己紹介を始めました
「北条加蓮、もう忘れないでね?」
加蓮って年齢確か16ですよね、それで凛と中学同じだったってことは先輩。なのに凛の事を知っていた・・・。つまり中学の凛は有名になるような事をしていた!?
とか考えましたが、気にせず書きます