大変お待たせいたしました。何分リアルが忙しかったもので。
そして今回は短めに仕上げております。
では役一ヶ月ぶりの更新をどうぞ。
――もう少し先だ。
頭に男の声が響く。私はゆっくりとどこかの廊下を進んでいく。
いや、この通路は覚えている。私の裁判の日に通った通路だ。確か神秘部だったはず。
――まだ先だ
声が響き渡る。通路の左右にいくつも連なる扉を通り過ぎ、ついに最奥と思わしき扉の前に辿り着く。
そして扉に手を伸ばしてノブを掴み、扉を開けようとして……
そこで私の目が覚めた。
罰則から一週間後、ホグワーツに新たな規定が施行された。ざっくり言うとそれはアンブリッジのホグワーツにおける独断専行を容認するという、何ともおふざけの過ぎた内容のものだった。これは場合によっては、あの女の偏見で教師の免職や生徒の退学が可能ということである。通常では越権行為とされる行動もできるようになったアンブリッジは、それからはホグワーツを我が物顔で闊歩するようになった。そしてこの決定は教育委員会の決定であり、流石のファッジ大臣も干渉することが難しいとシロウが言っていた。
発足から更に数週間後には、魔法省に努めているパーシーからも手紙が届いた。
『気を付けたほうがいい』
その手紙には警告が書かれていた。
『魔法省内では「例のあの人」の復活を否定する派閥が多数派だ。復活を認める意見を公言しようものなら、俗に言う汚い手段で消される可能性が高い。そして教育委員会は否定派の巣窟で、アンブリッジを支援している。それに「日刊予言者新聞」もアンブリッジの息がかかっている。過激な行動は控えたほうがいい』
手紙越しに心配するパーシーの意見を尊重し、この一ヶ月は行動を自重した。でもそのせいなのか、アンブリッジは気をよくしてより傍若無人に振る舞う様になってしまった。その一つの例が、「ホグワーツ高等尋問官」なる地位を作り上げたことである。そして自分以外の教師の授業視察である。事前に許可を取らず ―これはアンブリッジが入室した際の先生方の顔を見ればわかる― グリップボード片手に授業を眺めては生徒に質問をし、あの独特の咳払いで度々授業の進行を妨害をしていた。
それはマグゴナガル先生の授業でも変わらなかった。通常通りアンブリッジが来ても無視をしていたマグゴナガル先生だったけど、流石に十回以上も咳払いで妨害されれば、黙ってはいられなかったらしい。
「のど飴はいりますか、ドローレス?」
「いいえ大丈夫よミネルバ、お気になさらず」
「そうですか、なら一つよろしいですか?」
「何でしょう?」
「私の授業を査察すると言っていましたが、そうであるならば妨害するのはやめてください。あなたがどのような立場であれ、今授業をしているのは私、これ以上妨害をするなら例外なく退室していただきます」
先生は毅然とした態度でアンブリッジを言い負かし、反論を受ける前に授業を再開した。流石のアンブリッジも先生の正論にグゥの音も出せず、非常に悔しそうな表情を浮かべながらグリップボードに何かを書き込んでいた。
そんなアンブリッジの様子に先生は勿論、殆どの生徒も嫌悪を示しており、そんな状況がひと月ほど続いた十月の半ば、ついに事件が発生した。シロウが私用でいないとき、外の広間が妙に騒がしくなった。ロンとハーマイオニーと一緒にその広間を一望できる場所に行くと、何と騒ぎの中心にトレローニー先生がいた。その足元に沢山の荷物が置かれており、現在進行形で更にフィルチが追加のスーツケースを運んでいる。そしてその側には、満足げな顔をしたガマガエルがいた。
「……あの女、やりやがった」
「最初の標的はトレローニー先生なの」
ロンが憎々しげに呟き、ハーマイオニーが悲しそうに声を出す。私自身トレローニー先生はあまり好きではないけど、だからと言って理不尽に追い出されていい気分がするわけでもない。
周囲がざわついている中、トレローニー先生の咽ぶ声がやけに耳に入ってくる。
「こんな、こんなことが許されるはずがありません!! こんな理不尽な……」
「それが出来るのよ。今日からね」
咽び泣く先生に追い打ちをかけるように言葉を紡ぐアンブリッジ。その声はこの状況を心から楽しんでいる節があり、私は反吐が出る様な感情が湧いてきた。そんな中でも事態は進んでいき、ついに最後の荷物が先生の足元に投げ出された。
「こんな勝手なことが許されるはずがありません!! ホグワーツは私の、私の、家です!!」
「家だったのよ。これは決定事項ですから、早くこの敷地から出て行って、どこにでも行きなさいな」
「そんなッ……!?」
あまりにも勝手すぎるアンブリッジの所業に、傍観者たちざわめいた。でも誰ひとり先生のもとに向かわない。下手に行動すると、自分たちもアンブリッジの独断で追放されるかもしれないからだ。
しかしこの状況を打破するように、ダンブルドア先生が広間に姿を現した。そのまま校長先生はマグゴナガル先生を呼び、トレローニー先生を元の部屋に班内するように指示した。
「校長先生、どういうおつもりかしら? 魔法省からも来ている筈ですよ? 『教育委員会はドローレス・アンブリッジ女史をホグワーツ高等尋問官に任命す。ひいては女史に』……」
「確かに教師陣の免職の権限は貴女の手にもあることは重々承知しておる。しかし学園から追い出す権限は所持していないはずじゃ。なぜならわしがその権限を今でも持って居るし、免職最終決定権もまだわしの手にあるのでのう」
「ですが……」
「そのわしが、トレローニー教諭はホグワーツに必要と判断し、彼女に残ってほしいと決定したのじゃ。君にはこの決定を覆す権限を与えられていないし、仮に手に入れようとも今回の様に簡単にはいかぬよ。何故なら魔法大臣の認可も必要な事案なのでな」
校長先生のその言葉にアンブリッジは非常に悔しそうな表情を創り、その目には非常に強い憎悪を浮かべていた。
その後、校長先生の一言でその場は解散となり、各々次の授業や休み時間へと向かっていった。かくいう私も次に控える魔法薬の授業のため、地下牢に急いで向かった。走っていけば十分に間に合う時間だったため、私とロンとハーマイオニーは道具を持って急いで教室に向かった。何故かシロウが地下牢にいて、その側に何やら液体の入ってたであろう小さなゴブレットが置いてあったのが気になったけど、今は気にしないことにした。
「いったい何をしたのだ!?」
「いや、確かに我輩たちにはわからん。お前のほうがよく知っているのもわかる」
「だがこれは異常だぞ? これでは呪いや毒薬よりも……」
「我輩の見立てでは、何もしないで五年。だがお前ことだ、止めても行動するのだろう。だとすれば長くて二年だ」
「隠しても仕方がないことだ、念のために薬を調合しておくが、それでも抑えるだけだ」
「今以上に状況が激化する中で、薬を飲んだとしても三年を覚悟したほうがいい」