錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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――誰だって良い、何だって良い

「……」

――力を貸せ

「……正義ではなく、ただ一人の味方になる」

――その代わりに

「……それがお前の選択か」

――俺の全てを差し出す!!

「……いいだろう。お前の先に興味が湧いた」


お前という弓に番える【矢】を渡そう。





12. 新たな問題

 

 

「……マスか」

 

「マスだな」

 

 

 二人して釣り糸を垂らしていたが、先ほどからマスばかりが釣れる。まぁ淡水魚となると必然的に種類は少なくなる。加えてここは湖、魔法生物などが湧いたとしても、普通の種は更に限られてくる。

 何が言いたいかというと、先ほどから親子そろってマスばかり釣れており、その数は合わせて三十はいく。

 

 

『レディーズ・アンド・ジェントルメン!! 審査結果が出ました。水中人の長から湖底での状況仔細を伺いました。今回の課題は五十点満点で評価していきます』

 

 

 会議が終わったのか、バグマンの拡大された声が響いた。オレと剣吾は竿を仕舞い、マスを集めて投影で出した容器に移して待機する。このマスは日干しにして保存食にするのもいいだろう。少なくとも、シュールストレミングのように塩漬けにすることはしない。いや、あれは味はおいしいのだが、如何せん匂いがきつすぎる。

 話がそれたな。

 

 

『まずはミス・デラクールとミス・マルタン。二人とも見事な「泡頭呪文」を使用しましたが、途中で水魔に襲われ棄権。ゴールに辿り着けず、人質も救出できませんでした。よって得点は二人とも二十五点』

 

 

 バグマンの発表に拍手が沸いた。デラクールとマルタンは自分は零点だと主張していたが、それでも拍手は鳴りやまなかった。

 

 

『次にミスター・クラムにミスター・アドルフ。ミスター・アドルフは「泡頭呪文」を使い、見事人質を救出しました。ミスター・クラムは変身術で自らをサメに変化、人質を救出しました。変身は中途半端でしたが、有効であることは変わりありません。しかし二人とも時間を少しオーバー。よってクラム選手は四十二点、アドルフ選手は四十三点です』

 

 

 再び拍手が響いた。カルカロフが一番の得意顔で拍手しているのが見える。それにしても第一の課題と合計すると、今のところクラムが暫定一位、次いでアドルフが二位か。ボーバトンの二人はどうしても下二位を争う形になるな。

 

 

『次にミスター・ディゴリー。やはり彼も「泡頭呪文」を使い、最初に人質を連れてきました。しかし彼もまた時間を一分オーバー。よって点数は四十七点です』

 

 

 バグマンの発表に拍手がわく。特にハッフルパフから拍手がわき、救出されたチャンが彼に熱い視線を送っていた。それにしても、またしても最後はオレか。ええい、何か作為的なモノを感じるなぁ。まるでとある仕事で孤島に行ったとき、沢山のゴリウー(アマゾネス)に囲まれた時のような。

 

 

『最後にミスター・エミヤ。彼の使用した「鰓昆布」は特に効果が高い。帰還は終了三十分前と最も早く、その時点で課題はクリアでした。道中何やら休憩する場面などは見受けられたため、それは多少減点の対象になります。しかし二度目の潜水後も、他人の人質を連れてきてなお、時間超過は僅か三分でした』

 

 

 ここで一度バグマンは言葉を切った。というかオレの審査内容長くないか? いや、かなりややこしい行動をした自覚はあるが。

 

 

『殆どの審査員が彼に満点を与えてもいいという判断でしたが、先の話の減点もあり、与えることはできません。しかしながら彼の能力は「鰓昆布」を差し引いても逸脱していることは明白。よって彼に四十五点を与えます』

 

 

 観客席からは大きな拍手が沸いた。しかし逸脱した力量か。これでも抑えたつもりだが、まだまだ抑えねばならんか。いや、次の課題次第では抑えることが難しいかもしれないな。

 

 

『それではこれにて第二の課題は終了とします。次回最後の課題は、六月二十四日の夕暮れより開始しします。選手はひと月前に課題内容について連絡します』

 

 

 バグマンのその声を最後に、第二の課題は閉幕した。

 

 

 

 

 

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 生徒や他の選手が各々自寮や拠点に戻った中、オレは森の中を歩いていた。バグマンや他の人員は何も言ってなかったが、審査員の一人であるクラウチが行方不明になっている。オレも詳しいことは知らないが、どうやら冬季休暇の期間中に体調不良で誰も見なくなったらしい。

 今回代わりに審査員を務めていたパーシー・ウィーズリーによると、本格的に行方不明になったのは一週間前からだとか。今年からクラウチの部下として働き始めたあの真面目なパーシーが言うのだ、結構な大事なのだろう。

 何やら嫌な予感がしたため、オレはその予感がヒシヒシと感じる森へと向かったのだ。

 

 

「む? ……腐った匂い? これは……」

 

 

 夕暮れの森を歩いていると、何度も嗅いだことのある腐臭が鼻に突いた。これは死体が発する独特の腐臭である。この様子からして、死後硬直は既に終わっている。匂いの発生源は……ここから遠くない。無風でここまで匂うのは距離が近い証拠だ。

 匂いに向かって走ると、やはりというべきか死体が放置されていた。

 

 

「……行方不明ではなく、殺されていたのか。現在は冬、少し硬直が残っている状態からして死後四日目ほどだろう」

 

 

 何者かに殺されていたクラウチ。外傷が一切ないということは、魔法によって殺されたということ。こいつに恨みを持った脱獄囚か、はたまたヴォルデモートの手先か。何れにしても看過できない状況である。

 オレは懐から鋼の鳥を取り出した。ついでに念話で剣吾に、マリーから離れないように指示もしておく。

 

 

「ダンブルドアか? 私だ。緊急事態が発生、クラウチが遺体で見つかった。照明を上空に放つ。生徒などが来る前に遺体を回収、処分したい」

 

 

 用件だけ伝え、アゾット剣を上空に掲げた。

 

 

「『救出せよ(ペリキュラム)』」

 

 

 呪文を唱えると、剣の宝石から赤い火花が打ち上げられた。その数秒後、ダンブルドアが他二校の校長を伴ってやってきた。三人とも腐臭に顔をしかめたが、ダンブルドアは直ぐに表情を戻し、クラウチの遺体を確かめ始めた。他二人は顔を驚きに染めてクラウチの遺体を観ていた。

 

 

「少なくとも最近彼は殺されておるな、それも相当の手練れから魔法によって」

 

「そこの小僧が殺したのではないか? そいつならできそうだが」

 

 

 カルカロフが私に疑いの目を向けてくる。まぁ状況だけを見る限り、オレが疑われても仕方がないだろう。だが安直だな。私よりも長く生きているのだろうが、恐らくこのような場に遭遇した経験は少ないのだろう。

 

 

「失礼だが、どのようにして傷のない遺体を創り出すのだ? 魔法でやられたことは分かるが、人を殺す魔法など私は知らんのだが」

 

「ふんっ!! いけしゃあしゃあと言いよるわい」

 

「それに私にはアリバイが存在する。この遺体は長くても四日前に殺されたものだ。ここ四日間私は必ず誰かとともにいた。まだ疑うのなら、ホグワーツの学生に聞くといい」

 

「……」

 

 

 私の言葉にカルカロフは黙りこくった。マダム・マクシームは手練れだろうが、そもそも死体と出くわす機会が少ないのだろう、毅然とはしているが、微妙に震えているのがわかる。

 オレはクラウチの遺体に目を戻した。

 

 

「どうするつもりだ。最悪試合は中止になるのではないか?」

 

「……審査員とコーネリウスと会議を行う。続行するかはわからんじゃろう」

 

「……警戒を怠らんようにしよう。念のためにマリーの周囲警戒を強化しておく」

 

「頼んだぞ。それと学内の結界強化も頼まれてくれんかのう」

 

「客人たちもいるんだ。大いに強化しよう」

 

 

 話はそこで打ち切り、学校の危機管理結界の強化に向かった。果たしてこのまま試合は続投されるのか、それとも中止になるのか。恐らくだが、続投になるだろう。この手の予感に関しては外れたことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界を強化し終わり、寮へ戻る道すがらオレは考え事をしていた。もしかしたら今回もオレたちに関係する事態が起きるかもしれない。最悪黒化英霊がまた発生するだろう。前回は自分(アーチャー)だったが、次回以降はあらゆる面でオレを超える英霊ばかりである。黒化英霊が信仰の加護を受けるか知らんが、恐らく五次英霊の誰かが来るだろう。

 いい加減手を打つべきと判断したオレは寮ではなく、天文台の天辺へと場所を移した。ここなら人は滅多に来ないし、今日は誰もここを利用しないことは調査済みである。

 

 

「……起きてるか?」

 

 ――ああ、だがいいのか?

 

「問題ない。リスクは覚悟の上だ」

 

 ――二度と元の体には戻れないぞ?

 

「お前ならわかるだろう? オレは引き下がらんぞ」

 

 ――了解した。まったく、人使いの荒い宿主様だな。んじゃぁ、準備はいいな?

 

「……やってくれ」

 

 ――へいへい。それじゃあ、いくぜ。

 

 

 その言葉と共に、オレの体を灼熱と激痛が襲った。特に右手の令呪痕が火を噴くように熱い。

 当然だ。

 いくら最弱の英霊とはいえ、相手は『この世全ての悪』。過去に泥を浴びた俺でもこの苦しみはくるものがある。

 いまオレがやっているのはアンリ・マユとの融合、この先激化するだろう戦いに備えて、完全な一体化をして自身の強化を計った。何かしら正負の影響が出ることは承知済み、この世界のマリーの問題、そして黒化英霊の問題が片付くのなら多少のリスクは負うべきだろう。

 

 

「ア"ア"ッグゥ!? ゥオ"オ"ァ……!?」

 

 ――吞まれるんじゃねぇ!! 気張って自分を持て!!

 

「グアア――アアアアアアアアッ!? ――――――――ッ!!」

 

 ――しっかりしろ!? 手前ェの護りてぇもんも守れなくなるぞ!?

 

 

 アンリ・マユ何か叫んでいるが、全く耳に入らない。

 全身を熱した鋼が貫く。

 喉はつぶれ、肺から空気は吐き出され、それでも声にならない声を上げる。

 手足どころか、体そのものが動かない。

 血液が逆流するように錯覚し、意識が混濁する。

 

 

「――――――――――――――――――――――あ、ガッ」

 

 

 痛みを痛みとして認識しない。

 あまりにもの激痛に、感覚が麻痺してしまう。

 ピシリという幻聴と共に、視界の半分が割れる。

 風などないのに暴風に身を刻まれる。

 焔などないのに身を焼かれる。

 意識と感覚が削られる中、

 オレは幻をみた。

 

 憎たらしい姿。

 こちらを眺め、この風の中歩いてくる赤い影。

 ああ、言わなくてもわかっている。

『この世全ての悪』と同化するなど、自殺行為よりも更にま(おぞ)ましい行いだ。

 仮令エミヤシロウにその側面があったとしても、この行為は愚か意外何ものでもない。

 

 だがだからこそ、奴が俺に到達するのが癪だった。

 あの日追い越した奴の背中が、また(オレ)の前に出ることが容認できなかった。

 だから――

 

 

「二度とてめえに、オレの前を歩かせねえよ」

 

 ――ふぅ、冷や冷やした。じゃあな、楽しかったぜ。

 

 

 オレは奴に背を向け、再び歩き出す。

 これでいい、これでこそエミヤシロウだ。

 他の誰に負けてもいいが、自分にだけは負けられない。

 視界はクリアに、全ての感覚が元に戻る。

 意識の混濁はなくなり、全ての感覚が取り戻された。

 

 大きく息を吸って吐く。時計を確認すると、ダンブルドアと別れてから既に一時間は経過して夜の八時。この分なら、夕食は自分で作る羽目になりそうだ。

 もう一息ついて全身に解析をかける。とりあえず内面の異常は存在しなかった。せいぜい魔術回路が、本来ならば億が一にもあり得ないのだが、二十七本だった魔術回路が、二倍の五十四本になっていること。それと以前竜の血を被った影響が出たのか、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の加護が常時働いていること。

 そして外見だが、右手の甲から首下の右半身にかけて、アンリ・マユと同じような模様が入っていることが確認できた。幸いだが、固有結界も魔術も問題なく扱えるし、模様がある以外の外見の変化もない。

 

 

「……急いで帰るか。皆が寝静まった後に、念のために確認しておこう」

 

 

 服を正し、足早に天文台から去った。

 余談だが、寮に帰ると皆から大いに心配された。マリーが半泣きで怒っていたのは、正直申し訳ないと感じた。

 

 

 






「「!?」」

「? マリー、剣吾。どうしたんだい?」

「いま膨大な魔力を感じた」

「シロウに何か……あれは!?」

「……何だよ…あれ」

「黒い柱?」

「あれが魔力の正体か? だが一体?」

「あそこに……あの中心にシロウがいる!!」



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