錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「…む?」

「? どうしました、シロウ?」

「いや、どうやら召喚されたようなんだが、どうも様子がおかしい。む? 戻ってき…ッ!?」

「何かあったのですか?」

「……アルトリア」

「はい、なんでしょう」

「急いでメデューサ、メディアを呼んでくれ。私はクー・フーリンとヘラクレスを呼んでくる。あと不本意ながらあの全身入れ墨小僧もな」

「どうやら緊急の様ですね」

「ああ。あのエミヤシロウのいる世界に異物が作られていたようだ。詳しい話は皆が集まってから話す」

「わかりました、待っていてください」





17. クィディッチ優勝戦、開幕

 

 

 目が覚めると私は医務室にいた。空にはすでに太陽が昇りきり、今はどんなに早く見積もっていても10時過ぎだろう。どれほどの時間眠ってしまったかはわからないが、少なくとも数時間は確実経過している。

 ベッドの小脇にあるカレンダー付の時計に目を移す。日付は叫びの屋敷に向かった日の次の日になっていた。ということは丸々一日寝ていた、ということはないだろう。

 

 

「む、起きたのか」

 

 

 小机とは反対側のベッド脇から声が聞こえた。そちらに顔を向けると、ブラックさんが足を組んで椅子に座っていた。手には何やら書物を抱えている。

 

 

「はい、ちょっと体がダルイ程度です」

 

 

 正直な感想を述べる。おそらくあの守護霊魔法を連続使用した弊害だろう、体中の力がほとんど沸いてこない。

 

 

「無理に動かなくていい。今の君は魔力がすっからかんだからね」

 

「なら寝たままの体勢で失礼します」

 

 

 私は大人しくベッドに横たえ、顔だけをブラックさんに向けた。

 

 

「……ブラックさん、あの後どうなったんですか? 正直守護霊を出して吸魂鬼を追い払ったところまでは覚えてますけど」

 

「シリウスでいいよ。あの後私たち三人は回収され、医務室(ここ)に運ばれた」

 

 

 ブラックさん、シリウスさんによると、私が気絶した直後に校長先生たちが戻ってきたらしい。ペティグリューに逃げられ、狼男になって聖骸布で拘束されていたルーピン先生のこともあり、校舎内を通らずに特別に空間移動を使用したそうだ。まぁ先生を見られたらパニックになるだろうしね。

 それでまぁ私は即座に医務室に搬送、ブラ…シリウスさんは魔法薬を用いた尋問で無罪が判明して釈放、シロウの素性が大臣とボーンズ女史にのみ知られるという形になった。ルーピン先生は新しい職場を大臣が工面すると言う条件でホグワーツ教師を今年いっぱいで退職、吸魂鬼は学校からすべて撤退させ、ペティグリュー捜索に移る方針で決まったそうだ。

 

 

「私は無罪になったが如何せん冤罪でも前科(マエ)持ちでね、しばらく就職に困るがまぁ大丈夫だろう。丁度ダンブルドアが新任を探しているみたいだしね」

 

 

 シリウスさんはこともなげに言う。ちなみにシリウスさんの無罪放免はすでに公表されており、真犯人が実は生きていたペティグリューだったことも公然の事実になったらしい。大臣は責任をとって辞職しようとしたが、色々あって職務続行となったようだ。とりあえず、あのガマガエル女が関係しているだろうと睨んでいる。あのオバちゃん、大臣大好きな蛙だったし。

 

 

「ところでマリー、ひとついいかい?」

 

「? 何ですか?」

 

 

 先ほどまでの若干重い空気とは異なり、比較的明るめの声をシリウスさんが出した。

 

 

「実は私の住居はロンドンにあってね、キングスクロス駅とも近い。よければだが、一緒に住まないかい?」

 

 

 突然の同居の申し込み、いや、この場合名付け親が引き取るってことなのかな?

 でもある程度予想はついていた。シロウとシロウの戦いの前に話していた内容からして、シリウスさんは既ににこのことを考えていたのだろう。私は…

 

 

「…ごめんなさい。提案は嬉しいけど、成人するまで住居から移ることはしません」

 

「理由を聞いていいかい?」

 

 

 シリウスさんは特にショックを受けた様子も見せず、冷静に理由を聞いてきた。たぶん私の答えもある程度予想していたのかな。

 

 

「二年前までの私なら、喜んでその提案を受けていたでしょう。でも今暮らしている叔母一家は、最初は私を疎ましく思っていたでしょうが、それでも十二年私を育ててくれました。今は態度も軟化し、私を一員として認めてくれています。彼らに恩返しをするまで、私は彼らの元を離れるつもりはないです」

 

 

 これが私の正直な気持ちだ。それに一年前の9月、マージ叔母さんが来る前に気づいたことだけど、あの家には何やら守りのようなものが働いていた。たぶん、私があの家に来たときに、ダンブルドア先生あたりが魔法をかけたのだろう。詳しいことまではわからなかったけど、先生を安心させるという意味でも、私は今年もプリベット通りに帰る。

 

 

「…そうか。それならしょうがないな」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 

 少し申し訳ない気持ちになり、もう一度謝罪の言葉を出す。しかしシリウスさんに顔を向けると、この人はスッキリとした顔をしていた。

 

 

「まぁ予想はしていたよ。でもたまに遊びに来るといい」

 

「はい」

 

 

 それから私は検査の時間まで昔話を聞いていた。どうやら私の父は何でもできる人気者だったらしいが、どうにもスネイプ先生と馬が絶望的に合わなかったらしい。それはシリウスさんとも同じで、途中でマダム・ポンフリーに補充する薬を持ってきたスネイプ先生と険悪な雰囲気になっていた。

 話を聞いているうちに体も動くようになったので、夕方には退院となった。でも結局シロウは医務室に姿を見せず、シリウスさんに聞いても大事な話をしているの一点張りだった。でも夕食時には現れ、私と一緒にみんなから揉みくちゃにされた。

 

 

「ねぇねぇ、昨晩寮にいなかったけどどうしたの?」

 

「昨日のあの爆発みたいなの、何か知ってる?」

 

「僕もしかしたら昨日天使を見たかもしれないけど、何か知らない?」

 

 

 こんな質問をあちこちから浴びせられた。正直魔力が空になっただけとはいえ、病み上がりにこの事態はきつかったため、出来得る限りの笑顔を浮かべて拒否の意思を示すと、みんな顔を青ざめさせて自分の席に戻っていった。私笑顔浮かべていたはずなんだけどなぁ。

 その日の夕食は、何を食べてもおいしく感じられた。

 

 

 

 

 

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 シリウスさんが無罪放免になって早二ヶ月経過した4月中ほど、私を含めたグリフィンドール・クィディッチチームは優勝戦にむけて猛練習を重ねていた。今年はロンのお兄さんが卒業して以来の優勝戦らしい。

 ロンの次兄、チャーリーさんがチームにいた時を最後にグリフィンドールは一度も優勝しなかった。それが今年になって急に優勝手前と来たのだ。選手も寮生も、果ては公平さで有名なマクゴナガル先生までピリピリしていた。

 落ち着きがなかったのはグリフィンドール生だけじゃなかった。他の三寮の生徒もまたピリピリしており、特に対戦相手のスリザリンはグリフィンドールチームのメンバーに度重なる嫌がらせをしてきた。

 

 あるスリザリン生はフレッド・ジョージのペアに対して呪いを放ち(シロウの護符で防御・反射済み)、あるスリザリン生はチェイサーの三人に態とおできのできる薬をぶちまけたり(シロウによってお仕置きされた)、あるスリザリン生は箒に細工をしようとしたり(シロウ手製の結界に引っかかってOUT)などなど、考えつく限りの嫌がらせを受けた。

 私もスリザリン生との合同授業の時に嫌がらせや精神的いびりを受けたけど、先生の機転やシロウの機転、私の事前準備もあって効果を為さなかった。それによってマルフォイが非常に悔しそうな顔をしていたのは記憶に新しい。

 

 

「いいか? スニッチを捕るのは必ず俺たちが五十点差つけてからだぞ」

 

 

 試合前日、談話室で行われているミーティングでウッドは私に言う。この話は両の手じゃあ数えきれないほど言われている。

 

 

「いくらスニッチを捕っても、総合得点で二百点勝っている奴らに追いつくことはできない。いいなスニッチを捕るのは俺たちが必ず五十点以上差をつけてからだぞ。わかるな? スニッチをとるのは…『…ウッドさん』ッ!? な、なんだいマリー?」

 

「何度も言わなくても理解しています。明日の試合がとても大切なのも、どういうスニッチの取り方をすべきなのも。ですから、ね? 焦らないで、キャプテンなんですからもっとドッシリと構えてください」

 

 

 前日だからこそ、冷静にいつも通りに振る舞わねばならないのに、肝心要のチームリーダーがこうも不安定な状態だと、ほかの人にも影響が及んでしまう。現にフレッドとジョージなんていつも以上にハイテンションになってしまっている。

 

 

「……ミーティングはこれで終わりだ。各自しっかりと体を休めるように」

 

 

 それから数分後、ミーティングは無事に終了し、皆思い思いの活動に勤しんだ。私は残った課題を唯一冷静なシロウと一緒に終わらせた。

 落ち着かない空気の中、私は早々に寝室へと向かう。既にパジャマは用意されており、ハネジローはその小さな体を布団にうずめて寝息を立てていた。この子の寝顔を見ていると、どんな嫌なことも気にならなくなる。子供を持ったらこんな感じなのだろうか? 愛おしさが溢れてきて、意図せずしてハネジローの頭を優しく数度撫でる。

 手の動きに合わせながら布団から少し出た尻尾を振るハネジローに微笑みつつ、私もベッドに入る。今夜は夢見がよさそうだ。

 

 次の日、待ちに待ったクウィディッチ優勝戦が開幕するということで、観客席はいつもの何十倍もの盛り上がりを見せていた。グリフィンドール側の観客席には大きな垂れ幕がいくつも並び、優勝への期待を膨らませているのが判る。

 

 

「みんな、準備はいいな?」

 

「「「「おう(ええ)!!」」」」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

 ウッドの掛け声とともに各々箒を手に取る。私も身の丈ほどのファイアボルトを担ぎ、フィールドへと向かう。仕切りのカーテンの先からは、喧しいほどの歓声が聞こえる。スリザリンチームが先に入場したのだろう。続いて私たちの目の前のカーテンも開いた。途端聞こえる、先ほどの何倍もの歓声。

 

 

『さぁグリフィンドールの登場です!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が響き渡る。

 

 

『彼らは何年に一度出るか出ないかのベスト・チームとの呼び声が高いです。まずはキャプテンのウッド、続いてチェイサー三人娘のアリシア、アンジェリーナ、ケイティ』

 

『そして人間ブラッジャーのフレッド&ジョージ・ウィーズリー!!』

 

「「俺たち、参上!!」」

 

 

 まるで日本の歌舞伎のようなポーズをとりながら入場した双子に会場は笑い、ウッドは拳骨で叱り飛ばしていた。

 

 

『そしてホグワーツ史上最年少でチーム入りを果たした、マリーの登場です!! 彼女がどのようなプレイをするか、今日も実況の腕がなります!!』

 

 

 いや、変に期待されても困ります。お願いですからいつも通りプレイできるよう集中させてください。そこ、ロンはあとで覚えておきなさい、そんな期待100%の目を向けないで。

 

 

『クワッフルが投げられ、試合開始です!!』

 

 

 心の中で葛藤している間に試合が始まった。なんとも締まりのない始まり方で我が事ながら情けない。

 

 

 

 

 





早いもので初投稿から一年経ちました。
あと2,3話で三巻も終わります。そんでもって間に他を更新ということはせず、続けて四巻の更新に移ります。


今後もよろしくお願いします。



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