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それではごゆるりと
Side マリー
ロックハートの事務所に着いた。少し扉に耳を近づけて中の音を聞いたけど、何も聞こえない。まさか逃げた?
そう思った私とロンは、問答無用で扉を開けた。
ロックハートは中にいた、しかし椅子に座り込んで頭を抱えている。私達が来たことにも気がついていない。
「……ロックハート先生」
「ッ!? 誰だ!? ……ああ、ポッターにウィーズリーか」
「……先生、何をしてるんですか?」
部屋は散らかってる。開いたトランクが床に投げたされており、中にものを出し入れした形跡がある。今も中のものを全部出したのか、床の上にぶちまけられていた。
「……先生、これは?」
「……」
ロンの質問に無言を貫くロックハート。
「……まさか逃げようとしているのですか?」
「……」
「防衛術の先生が逃げ出すんですか? こんな非常事態に? 僕の妹はどうなるんですか!?」
「……」
「答えろよ!?」
ロンが怒号をあげる。しかしロックハートは無言のまま、顔を俯かせていた。
「……ロックハート先生、正直に答えてください」
「……なんだね?」
「あなたの著書、全て他人の手柄ですね?」
「……そうだ」
「授業でいやに詳しい『忘却術』の解説をなさったのは、あなたがそれを極めたから、それ以外何もできなかったから。他人の手柄を本人から聞き出し、その後忘却術をかけ、最後はさも自分の手柄であるかのように、世に公表した。そうですね?」
「……そうだ」
「では何で、今ここで私達に忘却術をかけて逃げる、何てことをしないんですか?」
「……」
「話したくないなら、話さなくても良いです。でも私達についてきてもらいます」
私の言葉に、ロックハートは力無く顔を上げた。ノロノロと立ち上がった彼は、私たちの前に立った。
「私が何の役に立つと? 部屋の在処も知らない、忘却術しか能のない私が?」
「部屋に関しては、私達が手掛かりを掴んでいます。それに、大人の付き添いがいた方がいいでしょう?」
私の言葉に、ロックハートは渋々納得し、ロンに杖を預けた。そして私達はマートルのいるトイレに向かった。ハネジローは、今回ばかりは寮に待機させた。
トイレに着くと、案の定マートルはおり、すすり泣きをしていた。でも私達に気かつくと、漂い近づいてきた。
「またあなたたち? 今度はなに?」
「少し話をしたくて。失礼かもしれないけど、あなたが死んだときのことを教えてくれる?」
私がそう言うと、マートルは途端に嬉しそうな顔をした。ゴースト特有の銀色の体は、若干色がついた。
「ぉおおおう、あなたがそれを聞いてくるなんてね!! あれほど恐ろしいことはなかったわ!! 丁度五十年前よ、ここで死んだの」
「五十年前?」
「ええそう!! あの当時も今のような事件があったわ。私はその日、同級生からメガネのことで苛められて、ここの個室で泣いていたの。そしたら声が聞こえてきた。外国語みたいだったわ。嫌なのがそれが
「死んだ? どうやって?」
「知らないわ。覚えているのはそこの蛇口の辺りに、大きな黄色い目が二つあったことだけ。それに睨み付けられて!金縛りにあったと思ったらフワッて浮いて……幽霊になった」
マートルはそう言うと、再び啜り泣きながら漂い始めた。
間違いない、マートルは秘密の部屋の事件で、唯一亡くなった女生徒だ。そして彼女の死に方、バジリスクに一睨みされたのだろう。
マートルが目を見たという手洗い台まで近づいた。一見普通の手洗い台と変わらない。試しに蛇口を捻るけど、水は出てこなかった。
「その蛇口、ずっと壊れっぱなしよ」
マートルは先程までの啜り泣きはどこに行ったのか、機嫌良くそう言った。
蛇口の横には、本当に小さくではあるが、蛇の彫刻が彫ってあった。間違いない。ここが秘密の部屋の入り口だ。
「何か蛇語で言ってみたら?」
「蛇語って……開けって?」
「うん、そ「その必要はない」……え?」
「「……はい?」」
「どうやら、一足先にお前たちがいたか」
……うそ……なんで……
「シロウ!? なんで君がここに!?」
「み、みみ、み、ミスター・エミヤ!?」
「毒も抜かし、傷も癒し、鈍った勘を取り戻していたからな。あと少しモノを作ってた」
……遅い、遅いよ……
秘密の部屋のことが一瞬頭から吹き飛んだけど、すぐに頭は冷えた。今はジニーを優先しないといけない。私は最低限伝えることを伝えるため、無言でシロウに近づいた。
「む? ッ!? ま、マリー? どうした?」
「……シロウ」
「は、はい!!」
「……あとでO☆HA☆NA☆SHIだからね。逃げないでよ?」
「わ、わかった」
これでよし。さてと。
「で、蛇語を使わなくていいって?」
「ああ、それはだな。こうする」
シロウは手洗い台にいき、手を当てた。そして少し腰を落とすと、一瞬だけ力んだ。
パァンッ、という軽い音と共に、手洗い台は綺麗に崩れ、大きなトンネルが姿を現した。形状からして、下まで滑り降りるらしい。それにしてもシロウ、修理はどうするの?
「……こんなものか。修理はことが終わればオレがする。ロックハート」
「な、なにか?」
「お前はオレと共に、下見役として降下する。わかったな?」
「……わかった」
まず二人が降り、大丈夫なら私達が降りるということになった。シロウとの念話も復活してるから、連絡手段は心配ない。
暫くすると、シロウから念話が入った。どうやら降りても大丈夫らしい。私とロンはトンネルに入り、滑り台のように降下した。
ベトベトするパイプを一分ほど滑ったあと、私達は広い空間に投げ出された。そうとう長く滑った。たぶんここは学校の何キロもしたに存在するのだろう。成人男性が立ち上がってもお釣が来るほどの、人工と自然が合わさった洞窟に私達はいた。
先に降りていたシロウとロックハートは既に立ち上がり、余分なベトベトを落としている。私とロンもベトベトを落とした。
「……みんなにはこれを渡しておこう」
シロウはそう言い、ロンとロックハートにはブローチを、私にはバレッタを渡してきた。ブローチは西洋両手剣の形、バレッタは七枚の花弁のついた花の形をしている。
「これを着けていれば、最悪目を見ても石化に止まる。ロンとマリーは、元々の護符との相乗効果で、動きが鈍る程度に止まるだろう。まぁ、目を見ないのが一番だが」
シロウはそう言い、先に進んだ。続いて私、ロン、最後尾にロックハートが後を追った。
暫くすると、より広い空間に出た。そしてどこかに亀裂があるのか、月明かりが差し込んでいる。そうかもう夜なのか。
ん? 床に転がってるの、あれはなんだろう?
「……三人とも、そこにいろ」
シロウは指示を出すと、床に転がる物体に近づいた。私は今たっている場所からその物体を見た。
……緑色に輝いている。そして長い、15メートルは軽くあるだろう。そして特徴的な形状、鏃のようなの先端。それは巨大な蛇の脱け殻だった。
「……新しいな。ここ最近脱いだ皮だろう」
「そこまでわかるものなのかい?」
「確定付ける要素はいくつかあるが、一番わかりやすいのは、ここの傷口だな。奴が脱いだときに裂けたものではない。オレが切りつけたものだ」
「そ、そうなの……」
まあ脱け殻立ったのは良かった。生きていたらどうしようかと思ったよ。私達四人はそのまま先を急いだ。ロックハートは若干腰を引いていたけど。
そのまま進むと行き止まりとなり、目の前の壁には丸い人工物が嵌められていた。表面には数匹の蛇の彫刻が、円と壁を繋ぐように張り付いている。まるで鍵だ。
「流石にここは蛇語を使うよ? 岩盤が崩れたらヤバイし」
「そうだな。頼んだぞ、マリー」
私は前に立ち、彫刻を見つめた。
━━ 開け
自然と蛇語が出た。すると全ての蛇は頭をすぼめ、円形の装飾は扉のように開いた。先が繋がっている。
私達は扉をくぐり抜け、その先にあった梯子を降りた。そして目の前の光景に唖然とした。
蛇を象った彫刻が左右にずらりと並び、まるで謁見の間に続くよう。そして奥には大広間ほどの空間が形成され、正面には巨大な老人の顔が彫り出されていた。そして顔の前に寝そべる、一人の影。
「「ジニー!!」」
私とロンは、走り出した。と、突然岩盤が崩れ落ち、私と他の人たちが切り離された。何で落ちてきたはわからない。
「ロン、シロウ!! 大丈夫!?」
「ゴホッゴホッ!! だ、大丈夫だ!!」
「こちらは気にするな「アイタッ」お前は邪魔だロックハート、下がってろ。マリー」
「なに?」
「この岩塊をどけるのは、流石にオレでも時間がかかる。その間に、出来るだけジニーと共に脇に退いとくんだ」
「うん、わかった」
私はシロウに言われ、ジニーの元に急いだ。
ジニーは日記を抱えていた。顔は青白く、体は少しだけ冷たい。でも息はある。良かった、間に合った。
と、ジニーのネックレスが少し強めの光を放った。まさか、日記が干渉しているの?
「彼女は目を覚まさないよ」
「ッ!? ……トム・リドル」
「初めまして、マリナ・ポッター。会えて嬉しいよ。君と話したいから邪魔者と切り離させてもらった」
私の目の前には、五十年前と変わらぬ姿のトム・リドルがいる。そのリドルによって、私は一人にさせられたらしい。でもおかしいな、五十年前に学生だったのなら、今は老体の筈。
……成る程、あの日記か。ということは今回の黒幕は
「あなたが今回の騒動の根元ですね」
「少し違うかな? バジリスクを『穢れた血』達にけしかけたのは、他でもないジニーだ」
「ッ!? ……日記を介して、か」
「ほう? 頭は回るようだね。その通りだよ。馬鹿な小娘は日記にのめり込んだ。彼女の馬鹿馬鹿しい話に合わせるのは苦痛だったよ」
リドルは苛立たしげにそう言うが、それはすぐに治まり、上機嫌な顔をした。
「だが、小娘が日記を使ってくれるお陰で、僕は徐々に力を付けていった。そして何度も彼女の意識を乗っ取り、秘密の部屋の怪物を解き放った」
リドルは甲高い声をあげて高笑いした。それは誰かを彷彿させるような、嫌な笑い方だった。
「だが、理由はわからないが、小娘は何度か途中で僕を追い出した。今も僕は不完全だよ。本当ならほぼ実体化できるはずなのに。それに僕に流れ込むはずの力も、予想より少ない。まるで何かに阻まれているようだ。
まぁそれはさておき、日記を怪しんだ彼女は、日記をトイレに投げ捨てたんだ。だが、そこで君が現れてくれた、他でもない君が!」
どうやらリドルは、剣吾君のネックレスに阻まれていたことには、まだ気がついていないみたい。そうか。だから壁の文字は、途中で潰されたりしていたんだ。それに彼が黒幕だということは、バジリスクは彼に呼ばれるまでは来ないのだろう。それにしても……
「なぜ、そこまで私が気になるの?」
「そりゃ気になるさ。小娘の話に何度も出てきたからね。闇の帝王と呼ばれし偉大な魔法使い、ヴォルデモート卿の呪いを跳ね返した人間だ。それも赤子のときに。なぜ跳ね返せた? なぜ傷一つで済んだ? 疑問は尽きないよ」
「そこまで気にすること? ヴォルデモートはあなたよりあとに出た人間でしょう?」
私のその返答に、リドルはニヤリと嫌な薄ら笑いを浮かべた。
「ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだよ」
リドルはそう言い、懐から取り出した杖で、空中に文字を書き出した。
『
文字を書き終えると、今度は杖を一振りし、文字順を並べ替えた。
『
……そういうことか。
「……あなたが、過去のヴォルデモート」
「その通り。僕がいつまでも『穢れた血』の父親の名前を使うと思うか? マリー、答えは『否』だ。なぜサラザール・スリザリンの血を引く母の姓でなく、父親の名前を使わねばならない? だから僕は自分で自分に名前をつけた。いずれは誰もが恐れる、世界一の闇の魔法使いの名前を!」
「大いなる力には、大いなる責任が伴う。ダンブルドア先生か他の人たちに言われなかったの?」
「いや? 僕は一応優等生だったものでね。誰も言ってこなかったさ。ああ、でもダンブルドアは終始僕を信頼しなかったね。五十年前の事件からは特に」
成る程、ダンブルドア先生はリドルの本性をわかっていたのか。
「君をがっかりさせるけど、誰が世界一と思うかは一人一人違う。現に私は、魔法使いの中で世界一は、ダンブルドア先生だと思ってる。
あなたが世界一? 笑わせないで。ならどうしてあなたはホグワーツを乗っ取れなかったの? 世界一ならダンブルドア先生をも下せる筈でしょう?」
私の言葉に、リドルの顔は醜悪なものに変わった。彼は怒っている。遠くで何かぶつかる音がした。
「あなたはダンブルドアを恐れている。強力な力を持っても、それは変わらない。今回のことも、あの人は既にお見通しでしょう」
「だが奴は僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城から消え去った!!」
「ダンブルドアを必要とする人がいる限り、あの人が本当の意味でいなくなることはない!!」
突如、美しい歌声が聞こえた。発生源に顔を向けると、美しい赤い色をした白鳥程の鳥が、孔雀のような尾羽を
「……この鳥は?」
「成る程、ダンブルドアの不死鳥か」
「不死鳥……」
「そしてそれは、古い『組分け帽子』。クッククッ、クハハ、ハハハハハ!! ダンブルドアが助けに寄越したのはそれだけか!! 唄い鳥に、古帽子じゃないか!!」
リドルはツボに嵌まったらしく、暫く甲高い笑い声をあげていた。でもなぜか、私はこの帽子が重要なものと感じられた。
一頻り笑って落ち着いたのだろう、リドルは口の端を歪めつつも、笑いをやめた。そして老人の顔に手を翳し、蛇語を発した。
━━ スリザリンよ、ホグワーツ四強のうちで最強のものよ。我にはなしたまえ。
リドルがそう言うと、地鳴りが響き、老人の口がゆっくりと開きだした。あの奥に、バジリスクがいるのか。
リドルは口の端を歪めたまま、私に向き直った。私はジニーを抱えている。
「小娘を連れ出すか。まぁ無駄だろう、もう暫くしたら、僕が再び生を受ける代わりに、彼女は死ぬ」
「なんとかするわ。手がない訳じゃない」
「ふん、まぁいいさ。それよりマリー、少し揉んでやろう。
サラザール・スリザリンの継承者たるヴォルデモート卿と、不思議な守りで未来の僕を二度もはね退け、ダンブルドアから精一杯の武器をもらったマリー・ポッターとお手合わせ願おうか」
成る程、リドルは私とバジリスクを戦わせるつもりか。でもそれは叶わない。老人の口は八割がた開いている。
「あなたには再度悪いけど、バジリスクと戦うのは私じゃないわ。私がすべきことは、ジニーを連れて出来るだけ隅に行く。そして日記を破壊する方法を考えること」
「はっ、ここには君以外誰もいないじゃないか!!」
「いいえ、いるわ。ダンブルドアは確かに世界一の魔法使い、でも私が戦士として世界一だと思ってる人がここに」
「戦士として、だと? ……ッ!? なんだこの地鳴りは!?」
「シロウ!! お願い!!」
『
私がジニーを抱えて横に飛び、そう叫ぶと同時に、後方にあった崩れた岩盤の山は吹き飛び、真っ赤な人影が飛び出し、私とリドルの間に立った。
彼は私に背を向け、リドルと今完全に開いた口を睨み付ける。不死鳥は私の肩から離れ、彼のそばに滞空した。
「遅くなった。待たせたな」
はい、ここまでです。
シロウを出すタイミングまずったかな~。
でもこのまま行きます。
さて、次回はいよいよ戦闘です。
それでは今回はこの辺で