少し短めです。
ではごゆるりと
Side マリー
明くる朝。朝食を終わらせ、気の進まない一時限目へと向かった。そう言えば朝食のとき、コリンって子がカメラを手に挨拶をしてきた。基本良い子とは思うんだけど、矢鱈に写真を撮るのはやめて欲しいかな。本人には悪気ないのはわかるんだけどね。
まぁそれは兎も角、二年次授業一発目である『闇の魔術に対する防衛術』に関しては、正直全く期待していない。彼の授業を受けるなら、フィルチさんと校内全てを清掃するほうがよっぽどマシである。
私とシロウ、ロンにハーマイオニーは教室の後ろの席に座り、始業を待った。前の方の席は、ファンの女の子達が集まっている。本当にキャイキャイと五月蝿いな。因みに授業はレイブンクローとの合同である。どうでも良いけど、レイブンクローって女の子が多い気がしないでもない。
なんて考えていると、教室の前の方から黄色い歓声があがった。どうやらロックハートが出てきたようだ。
「初めまして皆さん!! 今年からここホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』を教えることになった、ギルデロイ・ロックハートです!! 皆さんに会えて嬉しいですよ?」
案の定仮面の様なスマイルで得意気に語るロックハート。そしてそれにヤられる女子生徒。本当に下らない。
「では授業を始める前にテストを。時間は十分、それでは始め!!」
自動的に配られた羊皮紙を受け取り、表へ返して……私はその羊皮紙を即座に燃やしたくなった。机にヘッドバンキングしなかった自分を褒めたい。テスト曰く、
『○, ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?
○, ギルデロイ・ロックハートが誕生日に貰って嬉しいものは?
○, ギルデロイ・ロックハートが今まで成したことで、あなたが最も偉大だと思ったことは?』
こんなのが100問も続くのだ。燃やしたくなる私の気持ちも解るだろう。
時間の無駄以外の何でもないので私は別の羊皮紙を取り出し、スタミナを付けるのに良さそうな、そして健康に良さそうな食材をピックアップしていった。
なんでも従兄のダドリーがボクシングを始めるみたい。手紙が珍しく届いたし、しかも本人直筆の。なら折角打ち込めるモノを見つけた従兄をサポートしたい、という気持ちが湧くのも不思議ではない。
私は自分の作業をしつつ、隣に座るシロウの回答を盗み見た。そして思わず吹き出しそうになった。曰く、
『○, 嘘。
○, 嘘。
○, 人の妻と娘に色目を使い、精神的に咎められたにも関わらず、それを反省しないことは成る程、確かに偉業である』
などなど。いやはや、容赦ないですねシロウさん。
「時間です!! それでは回収します」
ロックハートの声と共に、テスト用紙は自動的に回収された。そしてロックハートはそれに目を通し始めた。
「ちっちっちっ。皆さん勉強不足ですね。私の好きな色はライラックだと、あれほど殆どの書物に書いていたのに。『狼男との大いなる山歩き』を読む必要がある子もいるようだ」
ロックハートは教室の中をグルグルと歩き回りながら、テストの回答を吟味していた。どうやら列毎に点検しているらしく、ついに私たちの机へと来た。
フムフムと値踏みするように羊皮紙を点検し、ある一枚で止まった。あっ、あれシロウの筆跡だ。ロックハートの笑顔が引き吊ってる。自業自得だね、まぁたぶんスルーするだろうけど。
案の定私たちの机はスルーし、一通りテストのチェックを済ませると、布を被せた籠を教卓の上に置いた。籠はガタガタと揺れている。そしてロックハートは珍しく真面目な顔をした。
「さぁ気を付けて!! 君達に降りかかる火の粉を払う手段を教えるのが、私の役目です。例えば、こんなのとかね!!」
ロックハートはそう言って籠の布を取っ払った。籠の中には青色をした、妖精の様な小悪魔のような小さな生き物が、何十匹も入って暴れていた。籠から出せとキィキィ声で騒いでいる。
ふとカチャリという小さな音が、隣から聞こえた。気になってシロウの方を見ると、その手にはアンバランスな剣が一本握られていた。確かあれは、数ヶ月前に『悪魔の罠』を燃やすときに使ったのと同じもの。
━━ シロウ? 何してるの?
━━ ん? ああ、これから騒動起きるかもしれんからな。その対策準備だ。
━━ また燃えるの?
━━ いや、これは違う。今回は燃やさないよ。少し頼まれていいか?
━━ うん、なに?
━━ オレが動いたら、ロンとハーマイオニーと共に、教室の全ての窓と扉を閉めてくれ。鍵までしっかりと。
━━ うん、わかった。
シロウと念話で話した内容を、ロンとハーマイオニーにも筆談で伝えた。二人ともそれを快く了承した。その間にもロックハートの話は進む。
「コーンウォール地方のピクシー小妖精?」
シェーマスが妖精を見て笑っていた。しかしロックハートは真面目な顔を崩さなかった。
「笑えるのは今だけだよフィネガン君。コイツらは見てくれは小さいが、中々に凶悪だ。見た目に騙されないほうがいい」
へぇ。馬鹿とは思っていたけど、たまにはマトモなことを言うんだね。一瞬見直しかけたけど、次の行動でそれが帳消しになり、私のロックハートに対する評価はどん底以下になった。
「さて、では見せてもらいましょう。君達のお手並みをね!!」
ロックハートはそう言うと、突然籠の扉を開けた。果たして、籠の中のピクシーは全て教室に放出された。シロウが動いたのはそれと同時だった。私たちは急いで扉と窓に向かい、言われたように鍵まで閉めた。
「ほらほら捕まえてみなさい。たかがピクシーなんでしょう?」
教室の中ではピクシーが大暴れし、生徒達の教材を破ったり、インク瓶を割ったりと好き放題だ。もう大混乱だった。その中でネビルがピクシーに耳を引っ張られ、宙に吊り上げられる事態が起こった。
流石に不味いと思ったのか、ロックハートは杖を取り出した。
「『
ロックハートは呪文を唱えたけど、なにも起こらなかった。それどころか、ピクシーに杖を取り上げられてしまい、自分の事務室に逃げ込もうとした。でもそれは叶わなかった。
全ての窓を閉めたシロウが、例の剣を投擲してロックハートのすぐそばに突き刺した。偶然かどうかはわからないけど、その剣はロックハートの影に刺さっており、ロックハートはバランスの悪そうな体制で動きを止められていた。
気のせいだろうか? シロウの髪がオールバックになってる。
「こ、これはいったい!?」
「『影縛り』。まさかここで役に立つとはな。お前はそのまま見ていろ。お前の不始末の結果を」
シロウは低い声でそう言うと、すぐ近くにいたピクシーを一匹、何の躊躇もなくアゾット剣で切り捨てた。そのとき出たピクシーの青い血が、シロウの顔に少しかかった。
途端、教室の中が冷水を打ったかのように、しんと静まり返った。ピクシーたちも生徒たちも、皆一様にシロウを見ている。教卓の上に切り捨てられたピクシーの死骸は、暫くピクピクと痙攣していたけど、やがて霧散した。
それが合図になった。
教室にいる全てのピクシーが、奇声をあげながらシロウに殺到した。でもシロウは意に介することもなく、殺すたびに血を浴びながら、ピクシーを次々に屠っていった。
あるピクシーは首を分断され、あるピクシーは脳天から縦に切り割られ、あるピクシーは首から下を潰され、あるピクシーは顎から上が潰れた。一分も経つことなく、教室のピクシーは一匹を残して全滅した。
残り一匹のピクシーは、恐怖に駈られて逃げ出そうとしたけど、すぐにシロウに刺されて絶命した。そのときアゾット剣の刃先は、ロックハートの眉間から僅か2cmのところにあり、ロックハートはその一匹のピクシーの血を、その顔に浴びていた。
ロックハートは顔面蒼白になっていた。シロウは無言で血の付いた刃を拭うと、ロックハートの影に刺さっている剣を抜いた。そしてそのまま教室の窓と扉をあけ、教室から出ていった。私とロン、ハーマイオニーも荷物を纏めて教室から出た。
その日を境に、ホグワーツ内のファンからのシロウの評価は、駄々下がりとなった。曰く、
「ギルデロイ・ロックハートの授業で調子にのった。
ギルデロイ・ロックハートの授業を潰した。
ロックハート様の顔に泥を塗った」
などなど。冷たい視線をその身に受けることになった。いやね、ロックハートに実力があるかどうかは知らないけど、自分だけ逃げようとした人をよく庇えるね。もう少し現実をみようよ。
はい、ここまでです。
ちょいと中途半端な終わりかたになりましたが、ここらで制裁レベル1は終わります。
ここで少し連絡を。
また活動報告にてアンケートをしようと思います。ご協力お願いします。
さて、次回は時間が飛び、一気にハロウィンまで行こうと思います。
飛ばした期間の話は、二巻終了後の番外編にて語るのでご安心を。
そして次回はマリーさんのペットが出てきます。さて、どんな生き物になるでしょうか?
では今回はこの辺で