錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「まさかと思って来てみたが、やはりそうか」

「まぁライダーの前例があるのだ、こうなることは予想できたこと」

「日本の……この世界の『冬木』にこのような淀みがあったとは」

「アテネ、ロンドン、ダブリン、テヘラン、バグダート、ワシントン、ブエノスアイレス。そして冬木」

「八か所を起点にした、星を一周する術式……いや、地球の表面を結んで一つの円とし、完成する術式」

「間違いなく『抑止』が動くな。さて、守護者が来るのか、はたまた……」

「お前、誰だ!! そこで何をしている!!」

「……全くつくづく運のない。たまにここが並行世界ということを忘れしまいがちだ。どうやらオレやアイツよりも幾分か早く生まれていたみたいだが」

「何者だ、答えろ!!」

「……誰でもない。ただの風来坊さ、――君」

「ッ!?」




23. 暴虐の末

 

 

 

 オババ、アンブリッジは尋問のために「磔の呪文」を使うと言い放った。確かこの魔法は余りにも残虐非道で、且危険な類のため、使ってはいけない禁忌の魔法にカテゴライズされていたはず。

 流石に聞き間違いと思ったのか、親衛隊の面々も目を見開いていた。

 

 

「……正気ですか? その呪文は禁忌のはず。それに使ったことが知れたら、あなたの立場も危ないのでは」

 

 

 マリーが口を開くとアンブリッジは狂気に染まった目を彼女に向けた。もはやそこに第三者による正誤判断の有無は関係ない。アンブリッジは己こそが絶対だと確信していた。

 アンブリッジはゆっくりと自分のデスクに歩み寄り、大臣の写真が飾ってある写真立てを伏せた。まるで大臣にわからなくするためとでもいうように

 

 

「これは必要なことなのです。今後の魔法界を思ってこその行動。魔法界を脅かす存在を排除するためには、手段を選んではいけないのです。例えばそう、『例のあの人』が生きていると宣う小娘とか」

 

「魔法を使ったという事実は残るわよ? 貴方がいくら政治の権力者でも、この部屋の人間全員が承認になり得る。それとも、二年前と同じく隠蔽する気?」

 

「二年前? なんのことかしら?」

 

「ホグズミード村、縄縛り、お腹パンチで一発KO……」

 

「ッ!? あなた……」

 

 

 ここでアンブリッジの誤算だったのは、マリーが二年前の一件を観ていたことだ。その時居合わせた政府の役人は買収し、大臣の記憶を書き換え、ホグワーツの教員も、この一年で何とか記憶改ざんした。ただし、エミヤシロウの改ざんは不可能だったが。

 しかしあの一件を知るものがもう一人、しかも当事者ではなく、第三者という事態。

 

 

「私を脅迫する気?」

 

「脅迫? さて、何のことやら?」

 

「……自分の立場を理解してないようね」

 

 

 逆上か、はたまた冷静な判断が出来ていないのか。アンブリッジは杖を振り上げ、間髪入れずに「磔の呪文」をマリーにかけた。勿論シロウと違い、拷問に対する慣れなど、マリーは持っていない。全身を筆舌し難い痛みが襲う。およそこの世全ての痛めつけ方を身に受けている様な、そんな錯覚に襲われる。

 自分が声を出しているかさえも分からない。否、息をしているかすらもわからない。だが彼女は未だ正気を保っていた。彼女の意識を繋げているのは、最早意地だけだった。目の前の女に屈しないという、ただそれだけの、小さな少女の意地。

 

 

「はぁ、はぁ……これで少しは口を開く気になったかしら?」

 

 

 アンブリッジも肩で息をつきながら、それでも口元に笑みを浮かべている。「磔の呪文」は、ただ呪文を唱えればいいわけではない。対象を本気で苦しめたい、憎い、恨みがましい、そう言った負の感情を、魔法の発動中に継続して抱かなければならない。

 

 

「……何度も言うけど、私の知る由ないわ」

 

「まだしらばっくれるか。ならもう一度……」

 

 

 アンブリッジが再度マリーを拷問しようとしたが、それは第三者によって阻まれた。

 

 

「やめて!! 話します、私が話しますから……」

 

 

 それはハーマイオニーだった。それに対しアンブリッジは満面の笑みを浮かべ、マリーは信じられないようなものを見る目をしていた。

 

 

「なに? 彼らは何を企んでいるの?」

 

「……武器です。『例のあの人』に対抗しうる武器を作っていました」

 

「武器ですって? 『例のあの人』が復活したなんていうデマでは飽き足らず、そんな危険なものを作っていたと? やはりダンブルドアは魔法界を掌握しようとしていたのね……」

 

 

 ハーマイオニーの唐突な発言にマリーは驚きで声も出なかったが、アンブリッジの妄想の酷さに呆れ、モノが言える状態ではなくなった。たった五年しか接したことはないが、それでもわかる。ダンブルドアは、魔法界支配なんてことを、今は全く考えていないということを。

 

 

「その口ぶりからすると場所は分かっているようね。案内なさい」

 

「……案内するのは構いませんが、その場合先生だけにしていただきます」

 

 

 実際には武器なんて存在しない。ハーマイオニーの策を完璧ではないが理解したマリーは、咄嗟に口を開き、ついてくる人員を指定した。何をするかはわからないが、親衛隊が付いてきたなら、話が余計にややこしくなる。

 

 

「まぁいいでしょう。この小娘たちの杖は没収しているし、縄で縛っているのです。万が一にも、私を出し抜くなんてできないでしょう」

 

 

 そう言ったアンブリッジは親衛隊に下がるように言い、マリーとを連れて外に出た。その際親衛隊も無理にでも同行しようとしたが、アンブリッジは彼らを強制的に帰還させた。自分が彼らの策にはまってしまったことを知らずに。

 城を出て、明かりの灯らぬ森番の小屋を通り過ぎ、三人は禁じられた森の中にまで入っていった。アンブリッジもこの学校の卒業生だろう、しかし彼女がいた頃から森は幾分か変化している。植生は変わらずとも成長、更に芽吹いたもの、生き物の数。その全てが変化しているのだ。

 だからこのような事態になるのは必然だった。

 

 

「二人とも、どこにいるの!!」

 

「こっちです先生。こっちの方向です」

 

「どっちよ!?」

 

 

 夕方のためにほぼ夜のような暗さの森の中に加え、マリーとハーマイオニーは呼吸による気配遮断を使っている。魔法に寄らないこの技術に対し、魔法に頼り切った者は余りにも無力だった。結果、アンブリッジは森に入って数分で迷い、二人とはぐれてしまった。

 

 

「まさか、こんなことするなんてね」

 

「森番がおらず、且穏便に済ませられそうなやり方が、これしか思いつかなかったの」

 

「穏便って。気配遮断で認識できなくし、わざとあっちこっちに移動して余計に迷わせることが?」

 

「まぁそのままさまよい続ければ良し、錯乱して廃人になれば尚良しってね」

 

「ハーマイオニー、あなた時々えげつないことを平気でするわね」

 

 

 遠くで叫ぶアンブリッジの声を聞き流しつつ、マリーとハーマイオニーは気配を隠したまま森の外へと向かっていった。

 

 

 







「お兄ちゃん、この人誰?」

「柳堂寺の大空洞にいたんだ。どうやら俺たち同様、裏に精通しているらしい」

「まぁ君たちのような陰陽術ではなく、魔術という西洋のものだがね」

「そうなんだ……うん?」

「どうした、立香?」

「お兄ちゃん、ちょっとその男の人と並んでみて」

「なんだよ?」

「何かおかしいかね?」

「ん~、やっぱお兄ちゃんとお兄さん、肌と髪色以外瓜二つなんだよなぁ」

「世界は広い、そっくりな者が一人二人いても、不思議ではなかろう」

「まぁそれは置いといてだ。この気配は……」

「ああ、それはオレの専門だ。幸い、場所はオレの本拠地だから、お前たちに被害はいかん」




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