お待たせしました。
それでは今回は五感において重要なカギとなるあの話を書きました。サブタイでわかる人がいるかもしれませんが、そこはそれ。
それでは皆様ごゆるりと。
――やれやれ、ようやくこれも馴染んだか。
――お兄さん、大丈夫?
――新しいお手々痛くない?
――大丈夫だ。さぁ、もう夜も遅いから寝なさい。明日早朝に私は出かけるが、いつも通り起きるのだぞ。
――はーい
――お休みなさーい
――朝食と昼食の準備は済んだし、あの子らを寝かしつけたら出るか。何やらマリーが干渉されているみたいだな。
――……思えば
◆
最近というより夏休みに吸魂鬼に襲われる少し前から妙な夢を見る。最初は何かわからなかったけど、裁判の後から、私がいつも夢で見る不気味な通路は、魔法省最深層の神秘部のお廊下だとわかる。いつものように私は廊下を無音で進んでいた。
――まだだ。
自分がそう考えているのがわかる。いくつもの扉の前を通り過ぎ、ついに一つの扉の前で止まった。どれほどの距離を進んだかわからないけど、その扉が目的の場所らしい。扉を開けるために取手に手を伸ばし力を入れたところで目が覚めた。
寝起きは最悪、加えて目が覚めた時間も朝の三時と、本来ならまだ寝ている時間。隣で寝息を立てているハネジローを羨ましく思いながらも、私はベッドから出て水を飲んだ。クリスマスが近いこともあり、夜は深々と冷え込み、雪は更に降り積もっていく。そしてこの学校は構造上石造りの城でもあるため、ストーブで火を焚いても室内は寒い。
でもこの体がぬくもりを求める理由はもう一つある。シロウの存在だ。彼には色々な事情があることは理解している。この世界では違うけど、英雄としてこの世界でも『』からの仕事をこなしていることも、そしてこの前盗み聞きしちゃったけど、私の護衛をダンブルドアから頼まれていることも知っている。
今はやむを得ない事情で私の許から離れているけど、彼が事前に打っていた布石のおかげで何とか肉体的には無事に過ごしている。最近は「不死鳥の尾羽」、略して「PT」以外の過激な行動を控えているため、アンブリッジからの理不尽な罰則はなし。まぁその代わり学校生活はかなり抑圧された雰囲気を感じる。まぁその鬱憤をみんな「PT」で晴らしているようなものだけど。
そのまま眠れない状態で朝を迎え、軽く隈を消すためにメイクした後、私は今日の授業のために寮を出た。幸い今日はアンブリッジの授業はない。加えて夕方は「PT」もあるから、普段よりストレスは少ないだろう。そう考え、一度しい呼吸をして私は駆け出した。
授業を無事に終え、「PT」も無事みんな「武装解除呪文」を習得したところでお開きになり、私はそのままベッドに入った。寝不足なのに加え、いつもよりリラックスして一日を終えられたため、私はベッドに入ってすぐに眠りについた。
そしていつもの夢を見た。
また神秘部の暗い廊下を進んでいる。いつもと違うのは妙に視点が低いことと、進み方が床を這うような感じなこと。そして視界も少しおかしい。何やら赤外線と暗視スコープを合わせてみている感じがする。そう
でもそんなことお構いなく体は進む。視界は私だけど、体を動かしているのは別物。謂わば映像を見ている感じ。そんな状態でいつもの扉の前に辿り着く。今回は目が覚めることなく、扉の中に入っていった。
扉の中は薄暗かった。部屋の天井は見えないほど高く、その限界まで高さのある棚がいくつも並んでいた。そして異様なのが、その棚には薄く青白い光を放つ弾が、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど陳列されていた。仮に目的のものがここにあるとしても、この中から探すのは骨が折れる。そう判断したのか、「私」は部屋から出ていった。
帰る道すがら、暗いはずの通路の先に、ぼんやりと光るものが見えた。今は夜、人がいるのはおかしい。人がいないからこそここに来たのだが、人に見られると厄介だ。匂いからして味方じゃないことは分かる。
――味方ではない? はて、とすると自分にとって見方とは何か。
今までこの体の持ち主に思考が支配されていたが、ふと持ち上がった疑問によって動きが止まった。いや、正確には止まったのではなく、視界にノイズが走り出し、全ての感覚がおぼろげになってきたのだ。
そんな状態のなか「蛇」は鎌首をもたげ、光の主に襲い掛かった。蛇らしく何度も突進し、光の主に噛みついていく。光の主―上げる悲鳴からして男だろう―は最初は抵抗していたものの、次第に動きがなくなってきた。床には血が流れだし、放っておけば朝までに死に至ることがわかる。そして一瞬だけノイズが収まり、私は倒れる男に目を向けた。
そこにいたのは。
「いやあああああああ!!」
悲鳴と共に私は飛び起きた。嫌な汗が泊まらない。鏡を見なくとも、自分が今どんな顔色をして、どんな表情を浮かべているかわかってしまう。そして今の私の悲鳴で、同室のみんなが起きてしまった。最初は眠そうで迷惑そうな顔をしていたみんなだったけど、私を見た瞬間顔色を変え、医務室に連れて行こうとした。
でも私はそれを断った。これは医務室ではなく、校長室に行くべきだと判断し、汗なども気にせずに寮を飛び出した。いつの間にかいなくなったハネジローが伝えてくれたのだろう、両の入り口にはマグゴナガル先生がおり、すぐに校長室に連れていかれた。
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「……確かかね?」
「はい、急がないとウィーズリーさんが!!」
「……わかっておる」
急いで要点だけ校長先生につたえると、先生は壁の絵画に向かって指示を出し始めた。今回の事情も関係して、ウィーズリー兄妹も一緒に部屋にいる。
今は一刻を争う事態、自分のことは後回しにすべきだろう。だが私はどうしてもぬぐえない不安があった。今年よく見る夢、それはヴォルデモートに関係しているのではないのか。今までと違って、そういうことを今年は先生と話していない。それに先ほどから先生が目を合わせてくれないのも、私の不安を煽った。
「あの……先生……」
「さて、アーサーの無事は確認できたし、搬送も済ませた。あとは……」
先生の様子にイライラが募る。このイラつきが理不尽なものであり、先生に向けるべきではないことを頭では理解している。それに不安の度合いを鑑みれば、私よりもロン達のほうが何倍も緊張状態にいるはずだ。何せ自分の親の生死が関わっているかもしれないのだ。でもよくわからない衝動が体を駆け巡り、理性で抑える間もなく口を開き。
「こっちを見てください!!」
怒鳴ってしまった。口から衝動的に言葉を発してしまったことに後悔している。事実、校長先生もこちらを見つめ、黙り込んでしまった。でもそんなことお構いなしに、私の口から言葉は出てきた。
「……私に何が起こってるんですか?」
怒鳴りはしなかったものの、それでも言葉は出てきた。言葉を発した私の声は震えていた。そして意図せずに、私の両目からは涙が流れ始めた。そばに立っていたマグゴナガル先生が背中をさすってくれるけど、私の涙は止まらないままだった。嗚咽こそはないものの、今の私の状態に、校長先生の顔が一瞬だけ歪んだ。
重たい沈黙が部屋を支配する。そんな中、校長室の暖炉から緑の炎が上がり、中からシロウが出てきた。ただ前と違うのは、左腕全体に真っ赤な布が巻かれていたことだった。外套とは違う、異質な力を感じるその赤い布は、何やら封じ込めているような気配がした。
「アーサーは一命をとりとめた、心配はない。偶々オレが持っていた血清の中に該当するものがあった」
「そうか」
「それよりも、このままグリモールドプレイスに飛ぶ。無論彼女達も連れてな」
「相分かった。それとフォークスによると、ドローレスがこの子たちがベッドを抜け出したのを察知したようじゃ」
「知っている。まぁそのサーチャーは潰させてもらった、今後の物的証拠のためにな」
「それは預けておこう。さぁみんな、この暖炉に入りなさい。ミネルバはドローレスを頼んでよいかの」
「承知しました」
軽い方針決めをした後、私たちは全員でシリウスさんの家に向かった。シロウの話でアーサーさんが無事なのは分かったけど、それでも私の体からは汗が止まらなかった。
何故なら、そのアーサーさんを襲った蛇の中に、私の意識は確かにあったのだから。
はい、ここまでです。
もう前話から察している方もいると思いますが、今回黒化サーヴァントは本編に出しません。あくまでも今回の五巻内容のメインは、マリーのほうに絞るようにしてます。理由としましては、四巻ではシロウとその家族に焦点をあてたためです。
さてもうすぐ新年度が始まります。そろそろ桜も、地域によっては満開になり始めるころではないでしょうか。春は出会いと別れの季節、皆さまに良い出会いがあることを祈っております。
それではまた次回。