魔物語   作:フール

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神原と別れた後、ようやくタバコに火をつける。紫煙をゆっくりと吸い込み、吐き出す。あぁ、うまい。やっぱりタバコは最高だ。

 

そして、少しばかり最近のことを思い出す。

 

ここ、最近は仕事で全国各地、いや世界各地をあちこちと回っていたため特定の住居を持つことが少なかった。ある時は西に行き、ある時は東へ行き、またある時は北へ行き、またもや、ある時は南へと行った。

 

ある時は暴力陰陽師に襲われ、ある時は詐欺師に財布ごと取られ、ある時はヴァンパイアハンターに追いかけ回され、ある時は何でも知っているお姉さんに殺されかけたりした。

 

……うん、いや、今、思い返してもろくなことが思いつかない。いくら俺が“ついている”と言ってもこれは少しばかりあんまりじゃなかろうか。

 

特にあのなんでも知っているお姉さん何か本当にえげつないからな。あの人には逆らうな、俺の本能がそう告げるくらいだ。本当に人間なのか本格的に悩むところである。阿良々木君よりも人間をやめているのではないだろうか。一対一(さし)でも勝てる気がしないのは彼女だけくらいだ。

 

ちなみに、俺が携帯を持たない理由も彼女である。俺も一昔前は携帯という奴を持っていた。便利だし暇つぶしにも情報収集にも使える。

 

しかしだ、携帯という物は誰かと連絡を存在するために存在する。携帯電話、電話と付くくらいだからその存在は言うまでにもあらず、誰かと通話するためだ。

 

さて、ここまで話せば賢明な読者の皆さんはもう分かったと思うが、掛かってるのだ。

 

誰にって? そっりゃここまで話せば一人しかいないだろう。

 

そう、なんでも知ってるお姉さんだ。

 

昼夜を問わずに用事があるたびにひっきりなしに掛かってる電話、電話、電話! 勿論要件はろくでもないものばかり、ある日は逃げた猫探し、ある日は行方不明になったとある神社の御神体探し、またある日は怪異退治など。舞い込む仕事の九割は命懸けの仕事なのだ。精神がもたん、冗談抜きで。過労死とお友達になれそうな体験は後にも先にもあの時だけで十分だ。あんな経験は金輪際お断りだ。

 

そりゃ、俺も何度か策は打ったさ。着信拒否をしてみたことも携帯を変えて番号を変えたことも一度や二度じゃない。

 

しかし、その度にその努力は無駄におわった。着信拒否をすれば別の番号で掛かってるし、番号を変えてもいつの間にか掛かってくる。流石は何でも知ってるお姉さん、俺の行動も電話番号も筒抜けらしい。俺の人権はどこに行ったのかと断固抗議したいのだが、小市民の俺にそんな勇気はなく何もできないまま今にいたる。

 

そして、俺は携帯自体を持つのを諦めた。携帯なんてあるから電話がかかる、なら携帯を破棄してしまえばいい。極論だ。

 

まぁ、結論から言うと電話から直接会いに来ると方法に変わっただけだった。それでも、頻度はグッと落ちたし、俺としては一応妥協点くらいで落ち着いた。

 

なんか思い返せば思い返すほど泣けてきた。いったい俺が何をしたって言うんだ。

 

『どうしたの? 何か考え事?」

 

「いや、今度時間ができたら神社にお参りでも行こうかなぁと思ってさ」

 

この街には確か北白蛇神社という神社があったはずだ。イフとの遊びがてら訪れのも悪くないかもしれない。まぁ、聞いた話によると原型を留めないくらいに潰れた寂れた神社らしいのだが。

 

『アハハハハハ! キミは何を言ってるのさ』

 

何がおかしいのかイフは高らかに笑う。

 

『いったいボクたちは何に祈るんだい? 神かい、仏かい? それはいい、笑えるね』

 

「確かにそうだな。まぁ気持ち的な問題だよ。それに、お賽銭あげれば少しくらい運がよくなるかもしれないじゃないか」

 

『アハハハハハ! キミは本当にいつになっても面白いね! サイコーだよ、本当にキミのパートナーで良かった! うん、そうしよう! ボクはキミのやりたいことなら全力で肯定しよう!』

 

褒められているのか、馬鹿にされているのか分からない言いようである。いや、明らかに馬鹿にされてるんだろうな。

 

「お前、それ褒めてるのか?」

 

『うんうん、褒めてる褒めてる!』

 

「そうか、じゃあありがたく褒められておいておくよ」

 

『うん、キミはそれでいい。そうだそうだ、今度遊びに行く時にお弁当でももって行こうよ、神社! 確か、廃墟みたいな神社なんだよね! ボクたちにはぴったりだよ!』

 

「確かにそうだな」

 

そう言って俺たちは笑い合う。周りの人から見れば今の俺は急にいきなり笑い出した変人に見えるだろう。

 

だが、それでいい。好奇の目で見られることも憎しみの目で見られることにも慣れている。本当に今更だ。

 

『あっ、そうだ。ねぇ、あの廃墟にしばらく住むんだよね?』

 

「あぁ、そうだな。多分そうなる」

 

どうせしばらくやることはないのだ。たまにはのんびりしたい。大型の依頼をこなした後なので節制すればしばらくは遊んで暮らせるだろう。

 

『そっか、なら買い物に行こうよ』

 

「買い物? 明日じゃだめか?」

 

『うーん、なるべく早い方がいいかも』

 

空を見上げれば雲の様子は相変わらずだ。これならまだ雨が降るまでには時間があるだろう。

 

「買い物するのはいいが、それならさっきのスーパーで行ってくれればよかったのに」

 

『いや、スーパーじゃだめなの! ホームセンターとかじゃないと!』

 

この言葉でピンと来た。なるほど、そういうことか。珍しくイフが買い物に行きたいと言った理由が分かった。

 

「なるほどな、分かった。そのついでに色々と買っていこう」

 

忍野さんもまだこの街にいるだろうし、たまには飲むのも悪くない。ビールと日本酒あたりを買っていこうと思う。

 

少なくとも今日は平和であればいいなぁと希望的観測を抱きながら俺はホームセンターへと足を急いだ。

 

後、これは完全な余談になるが、ホームセンターから学習塾跡へ向かう最中で前髪を伸ばし、顔を隠すように俯いて歩く少女とぶつかったのはこの時であった。

 

とにも角にも今はまだ平和である。

 

 

 

 

 

 

 


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