魔物語   作:フール

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この物語はオリジナル主人公であり、オリジナル展開、オリジナル設定を含みます。このような物が苦手な方は観覧をお勧めできません。




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エピローグ

三月十五日。晴れ。

 

初春のある日、空は驚くほど快晴で、少しばかり暑いとさえ思えた。面白いものである。昨日までは少し肌寒ともあったと言うのに、今日は少し汗ばんでもおかしくはない気温になっている。昔の人は言いました、三寒四温と。昔の人も使えない伝承じゃなく、こういった故事もたまには残しているようだ。

 

三月のこの時期と言うと、全国の小中高及び大学であえも卒業式シーズンを迎える。初春のこの時期、春の陽気の下、若人達は新しい旅路に立つのだ。

 

もちろん、ここ私立直江津高校もこの日本伝統の初春の今日、卒業式が行われる。いや、行われると言うと間違いか、行われていると言った方がより正確だ。

 

時計を確認すれば十時を少し回った程度、バリバリに進行中だ。きっと、この門の向こうの体育館では今頃卒業証書を配っている頃合いかもしれない。そして、おそらく俺の卒業証書もあるのだろう。まぁ、どうでも良い話だが。

 

今年の初夏、梅雨頃からおかしな縁で通い始めて半年と小半年。周りの生徒と比べたら三分の一以下も行ってないのに卒業証書が用意され、卒業出来るとはこれいかに。この学校が特別ゆるいとも思えんし、日本の教育制度が落ちぶれてるのかもしれん。それは非常に悲しいことであり、嘆かわしいことだ、と偉そうに言ってみる。その直江津高校の制服を着て、卒業式もサボっている俺が何を言っていると思われそうだが、少なくとも俺の知っている“日本”の高校はそんなに甘いやつじゃなかった。まぁ、こんな無駄な話はどうでもいいか。

 

いかんいかん、どうにも歳をとると話が回りくどくなっていけない。外見的に歳をとるのは構わんが、内面的に歳をとるとこうなるから嫌いだ。これならいっそ、一生精神年齢一桁代でもいいかもしれない。頭もよくないのだ、精神年齢ばかり高くなっても困るというもんだ。

 

さて、閑話休題。

 

思考の世界から現実の世界に戻り行動するとしよう。いつまでも考えてばかりでもどうしようもあるまい。今更、卒業式に出る気もさらさらないのだし、大人しく立ち去るのが、文字通り大人ってやつだろう。本当なら、学校に来る気も、制服も着る気もなかったのだが、あの子達との約束だ、契約だ。

 

約束は守らなければいけない。契約は果たさねばならない。それが俺の生き方であり、俺も制約でもあり、俺のアイデンティティでもある。

 

さすがは私立高校と言わんばかりに綺麗にピカピカと光っている門は少し力を入れれば独特のかん高い金属音を出して開かれる。俺の知っている学校とはえらい違いだ。錆び付いて、野郎が精一杯押してようやく人が一人分入れる金属門が少しばかり懐かしい。

 

ゆっくりと中に入る。在籍をしていたとはいえ、通ったのは半年と少し、愛着という愛着はほとんどない。どちらかといえばあの学習塾跡の方がよっぽど思い入れがあるくらいだ。

 

「さてと、行きますか」

 

そう呟く。周りには人一人いない。そりゃそうだ、三年生と一部の生徒を除き、今日は休校であるし、その限られた生徒も今は体育館で卒業式の最中だ。それに付け加えて教師も保護者ですらも体育館からでてこれるはずはないのだから周りが無人なのは当たり前の話と言える。

 

だからこそ、俺のさっきの呟きには何の反応がないはずだった。

 

そう----それが“普通”なら。

 

『あれ、いいの?』

 

もちろん、こんなもったいぶった前振りをしておいて俺が普通ということはもちろんなかった。ほんの数年前までは俺自身も文字通りの“普通”だったのだが、ある事件と言うか騒動から普通という二文字とはかけ離れた存在になっていた。

 

「あぁ、もう十分だろ。契約はきちんと果たした」

 

『アハハハハハ! 確かにね!』

 

そう声の主は笑う。太陽のように明るく、生まれたばかりの白のように純白な少女の声。俺の最大にして、最高にして、最強のパートナーである。名前はイフ。普段は姿も形も見えない、俺自身に住まうパートナーだ。

 

「別に嘘言っていない。文字通り、卒業式の日に学校にきた」

 

『うん、うん確かに学校に来たね! 誰も卒業式に出るとは言ってないけど!』

 

「そうだ。だから、これでいいのさ。あくまでも学校に来ることだったからね」

 

そう笑いながら学生服の胸ポケットから煙草とジッポライターを取り出し火をつける。未成年者の喫煙はもちろん法律違反だが、こういうのはばれなければ問題ではない。周りに誰もいない状況でバレるはずもないのだから気軽なもんだ。

 

すぅー、と目を細めて直江津高校の校舎を見つめる。あぁ、やっぱり何も感じない。郷愁も愛着も悲しみも憎しみも何も。この学校について何も思うことはなかった。

 

華の卒業式だというのに何とも詰まらない人間だと自分自身にそう烙印を押す。もう少し、何か思うこともあるかと思ったのだが、想像以上に俺はドライな正確なようだ。

 

肺に紫煙を吸えるだけ吸い込み吐き出す。あぁ、やっぱり煙草はいい。

 

「よし、行こうかイフ」

 

『うん、そうそうだね。行こうか』

 

煙草を加えたままくるりと踵を返し歩き出す。

 

願わくばあの主人公(ヒーロー)達……いや、もうこんな他人行儀じゃいけないな、やり直そう。

 

願わくば阿良々木君達の未来に幸多からんことを。そして、彼女に祝福を。

 

どこまでも真っ直ぐなあの少女を思い出す。どこまでも真っ直ぐでだからこそどこまでも綺麗だったあの少女を。俺にはないどうやってもできないあの真っ直ぐさを持っているあの少女を。

 

俺はゆっくりと今入って来たばかりの門から出る。門は閉めない。どうせ後、二時間もすれば大勢の人がここを通るんだ、別に開けてても構わないだろ。

 

見上げた空はどこまでも青かった。

 

 

 

 


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