また、あとがきのクロス作品を今話に出たキャラクターのみにしてみました。様子を見てから全話で修正します。
将来どう役に立てるのか分からない授業が終わる。
英語とか、どうせテストで良い点取ったって話せるようにはならないし、他の教科も似たり寄ったりだ。
さすがに3年の10月ともなると部活はみんな引退していて、ふだん教室で偉そうな態度の運動部も夏前に比べればおとなしい。
まったく、どいつもこいつもアホみたいだ。必死になって外を走り回ってさ。
始業式の表彰では誇らしそうにしていたけど、結局、団体競技は良くて3回戦負け。個人で県大会ベスト8とかそれくらいが関の山じゃないか。
ちょっと足が速いとか、そんなの勉強に輪をかけて役に立たない。
そんなやつらがモテたりするんだから、世の中は不公平だ。
オタクがクラス内で下の地位みたいな風潮、ふざけんなよ。
ジャンプ、サンデー、マガジンと回し読みできるようにしてるのは僕達なんだからな。
まあ、僕はオタクの中でも絵が描けるから女子との会話もあるけどさ。
これからは萌えの時代だよ。
漫画は進歩してるんだ。
いつまでもスポ根とかばっかり流行ってるわけじゃない。
アニメの数も年々増えてるしね。おジャ魔女どれみとか、プリキュアとかいい流れが来てる(ナージャは残念だった……)。魔法少女ものの復権がそろそろありそうな感じがする。
そうそう、こんなにダウナーな気分なのは先日コードギアスが完結してしまったからだ。
1期の終わり方は不安になったけど、待たされた甲斐があったよ。おかげで分割2クールとかいう手法もこれから増えてきそうだしね。
2期は毎週毎週が本当に楽しみだったよ。
ライブ感っていうのかな。各話の引きで続きが待ちきれないような作りだった。2chの実況が盛り上がる盛り上がる。そのぶん思い返してみれば途中で強引な展開も結構あった気がするけどね。とりあえず、扇死ね。氏ねじゃなくて死ね。
まあ僕は、お姉さま系キャラよりナナリーとかアーニャみたいなロリキャラの方が好きだからそこまでショックはなかったけどね。ヴィレッタ好きの友人は危うく発狂しかけたよ。僕自身のささやかな不満としては、キャラが多いぶん、ひとりひとりの出番が少なくなってしまったくらいだね。
でも最終回があんなにきれいにすっぱりいった作品はここ最近じゃなかったんじゃないかな? クランプのキャラデザは癖があるからちょっと不安もあったけど、絵も2期になってから硬さが消えてこなれた感じがしたしね。
最近好きな作品といえば『聖ビジュアル女学院高等部』あたりも原作ストックが溜まってきたな。百合に造詣が深い作者の作品だから丁寧に作って欲しいな。
まあその前に中間テストも来週末だ。
とは言っても、勉強も必要だけどその前にこの気分を回復させるためにツタヤにでも寄って帰ろう。
嫌なやつを見つけてしまった。
クラスメイトの高木文秋。帰宅部なのに運動が超できて、勉強も全国トップレベルの高木兄には敵わないけどクラストップ、学年5位以内のチートキャラだ。
運動部でもないのに話したことのない後輩のテニス部の子に告白されたとか聞いたことあるぞ。妬ましい。でもこいつ、あんまりしゃべんないんだよな。双子のくせに去年クラスが一緒だった高木兄とは性格がかなり違う。つくづくよくわかんないやつだ。
つーか、なんでアニメコーナーにいるんだよ。
どうせジブリとか借りにきたんじゃないのか?
あ、ガンダム00の2期がやるから、1期を借りにきたとかそういうことか?
それくらいしかこいつが見そうなアニメってないだろ。あとピクサー社系ぐらいか。
「『学園戦記ムリョウ』はなし。あと、『サムライチャンプルー』と『灰羽連盟』がないな……」
ん? 何か探してる?
「石沢か。お前も何か借りに来たの?」
げっ、気づかれた。
「あ、ああ。テスト勉強の息抜きにね」
「へえ、そうなのか。……お、『ぱにぽにだっしゅ!』があるな。借りよう」
あれ、こいつ?
どう見てもカタギのチョイスじゃないぞ。
「ちょっと待て、高木。お前、何借りに来たんだ?」
「おお、見る? 石沢なら知ってるの多いと思うけど」
そう言って高木が出してきたのは4本。
攻殻機動隊(S.A.C)
涼宮ハルヒの憂鬱
ぱにぽにだっしゅ!
よく知らない洋画(ショーシャンクのなんたら)。
「中々のチョイスだな。つーかお前、オタだったのか?」
僕がそう問いかけると、高木は首の後ろに手を当ててかしげるような動作をした。
「別に隠してたわけじゃない。カバーかけてるけど学校でラノベも結構読んでるし」
おお、そうだったのか。だが、この程度で僕がお前を認めると思ったら大間違いだからな……。リア充への恨みは深いのだ。
「あと、ロボット系のやつ何か1つ借りていくか……」
ほほう、これでお前の本性が見えるというものだ。
ガンダムはSEEDと00だったら最近の過ぎる。グレンラガンも去年やったばかりだし、オタクとは認められないな。あと、エヴァは別枠だから、ノーカン。まあ、ホントにその作品が好きだったらお年玉とかでDVD買ってるか録画してあるだろう(偏見)。
それ以前の作品だったら、まあ認めてやろう。ファーストは僕もまだ見てないからともかく、ポケットの中の戦争とか選んだら友達になれるな。
「あー、『ゼーガペイン』あるんだ。じゃあ、これだな」
そんなことを言いながら高木はひょい、とDVDの収められた箱を手に取り、ごく自然に中身を抜き取った。
「高木」
「ん? 何?」
「友だちになってください」
「別にいいけど」
そういうことになった。
だってしょうがないだろ。これ、相手が女の子だったら間違いなく惚れてるチョイスだもん。
話してみると、高木弟は結構いいやつだった。
どっちかというと、オタとしては萌えというより作品に質を求めるタイプらしく、シリーズ通してまとまっているかを気にしたり、作画がすごい回などがある作品が好きらしい。『エウレカセブン』についてはクソ回がある(例のサッカーの回)のと最終回が微妙なためかなり評価が難しいということには同意した。
「なるほど、家に録画環境がないのか」
「うん。だから撮ってあるならコードギアス貸して欲しい」
小遣い節約のため、ツタヤが旧作セールやってるときしか借りられないというのも親近感が湧く。
リア充っぽい雰囲気がしたり、運動が出来るのはこいつ自身がテニスを学外でやっているかららしい。ちなみに、こいつ曰く、個人系のスポーツでは結構オタは多いらしい。陸上競技、箱根駅伝に出るような連中とか、あとちょっと毛色は違うけど自衛隊員とか。
「まあいいよ。別に減るもんじゃないからね」
「ありがとう」
自然に微笑むんじゃねえ。妙な感じになるだろうが。
そんな感じで、僕たちは前期のアニメである『ストライクウィッチーズ』について話しながらしばらく歩いた。
「僕も漫画家を目指してるけど、これからはこういう作品が来ると思うんだよね」
「うん」
「キャラクターと物語性の融合っていうかさ。もう少しシリアスでもいいし。そう、ギャップでキャラクターの可愛さとか魅力が引き立つものがあるっていうか……」
「要するに、☓☓☓☓舐めたくなるようなキャラクターが必要ってこと?」
ブーッ
思わず僕はその言葉を聞いて吹き出してしまった。
「あれ、中学生っていつもそんなこと考えているもんじゃない?」
いや、結構な割合で考えているけれども。
それはともかくとして。
その後も少し漫画の話をしたが高木弟は、「ワンピースもハンターハンターくらい人が死にまくればもっと面白くなるのに」とか「ドラゴンボールはハリウッド版がクソだったから、そのうち鳥山先生が劇場版2本くらいつくって、そのあと地上波で新作アニメ化するけど微妙な出来になると思う」なんて言っていた。
ああ、おかげでよく分かったよ。
お前がいけ好かないハイスペック野郎じゃなくて、ただのクソ天然野郎だってことがな……!
そんなこんなで僕は高木弟にいくつか録画した作品を貸す約束をした。
こいつは漫画とかラノベを色々持っているみたいだから僕はそれを借りる。お互い得をする取引だ。
「じゃあ、今度持ってくるよ」
「うん。頼んだ」
そう言って、帰ろうとしたとき、あいつはポツリと言った。
「それにしても石沢。お前、スペックの低い間桐慎二みたいなやつだな」
……?
間桐慎二=やられ役。
おい。
間桐慎二=ヒロインにはモテないが一般人にはモテる。
うん、まあ、よし。
間桐慎二=魔術以外のスペックは高い。
うん、これも、まあ、よし。
僕?=スペックの低い間桐慎二?
……。
よく考えたら全然褒められてねーじゃねーか!
天然だからってなんでも許されると思うなよ。ぶち転がすぞ、この野郎……!
高木弟の顔を見るが悪びれた様子はなく、どこかきょとんとした様子。
……天然クール系ロリ少女だったら運命の人だったのに(あっ、このネタいつか自分の作品に使えそう)。
僕は、額に筋が出来るのを感じながら手を振ってその場を後にした。
10月も半ばが過ぎ、それまで部活に現実逃避していた人たちもいよいよ学生の本分である勉強に追われるようになってきた。
ふだんから真面目にコツコツとやっていないからそんな風になる。分かっているはずなのに、どうしてやらないのだろう。
私自身は、今回のテストは出来たという実感があった。
高木くんは塾に通わずにずっとトップを維持している。全国模試でも冊子に名前が載る、トップクラスの成績だ。だから私も、というわけじゃないけれど、もともと一人で頑張るのが苦にならないこともあって何も使わずに夏休みは頑張った。
……少し不安なのは高木くんのことだ。
そんなに勉強を頑張っているようには見えなかった。でも、あれだけの結果を出しているのだ。陰ながら努力をしているのだろう。そんな風に、どんどん彼のことが気になっていった。
1年の終わりのときにお互いを励みにしようって告白して、頑張ろうときちんと手を握り返してくれた。その後、あんまり話さないからちょっと不安になった。思い切って、2年のときにメールアドレスを交換してからは、こちらから勇気を出して分からないところを聞いたり、学校の行事について尋ねたりすれば必ず返信をくれた。
でも、今年の5月、中間テストのあたりからその返信が遅れることや来ないことが増えた。
夏休みに至ってはずっと返信が来なくて、終わる直前に一言「忙しくて返信できなかった、ゴメン」とだけ。
その後も、2学期に入ってからは授業中堂々と寝ていたという噂があったり、気になる。
でも、そんな不安も今日で終わるはず。
今日、中間テストの順位と点数が貼りだされる。
いつも通り、高木くんが1位。それで安心できる。
私も今回は結構頑張ったから最近負けがちだった、医学部を目指して塾に通ったり家庭教師をたくさんつけている神保くんを抜いて2位になるかもしれない(もともと、神保くんの方は学校のテストでは点は取れるけど模試だとあんまり結果が振るわないタイプだ。それほど気にしてはいない)。
そう、思っていた。
「えっ、高木4位?」
「うそ」
「ありえない」
「高木弟が2位だって」
「神保が1位か」
そんな、同級生たちの言葉を聞くまでは。
順位の貼りだされた掲示板を横目でちらりと一瞥すると、高木くんは知らないクラスメイトの肩を抱くようにしてその場から去っていった。
本人に聞くのは最終手段。それに、もう、メールで聞いても答えてくれない気がする。
彼のクラスにいる友人にまず確かめるべき。
それでもダメだった場合は。
話したくはないけれど、彼の弟と話してでも事情を聞き出す必要がある。
アニキが手塚賞に作品を持ち込んだ数日後。
俺は簡単な誤字と表現チェックを行い、USBメモリでデータを持ち運びコンビニのプリンターでコピーした。
前世ではいなかったが、アニキは信頼できる身内で貴重な意見をもらえるかとも思った。だがアニキたちは既に編集から意見をもらっていて、手塚賞も入賞の確率は充分ある(原作と同じになるとは限らない)。まずは1次選考くらいは受かってから見せたい。
そう告げると、向こうも納得してくれたようだった。
今回出すのは集英社ライトノベル新人賞だ。
前世では賞の名前が変わっていたように思う。
そもそも、集英社はライトノベル出版社としては、『紅』『パパのいうことを聞きなさい!』『カンピオーネ!』『ベン・トー』『R・O・D』『銀盤カレイドスコープ』『六花の勇者』あたりが代表作だったがイマイチマイナー感がある。ああ、単巻作品だけど『All You Need Is Kill』もそうか。ただ、ジャンプ作品のノベライズ系のコネもありそうで、締め切りがちょうどよい時期にあったので最初の応募先とした。
そう、ライトノベル新人賞について調べて知ったのだが、出版関連は前世と似ているようで実は結構な差異があることが発覚した。
基本的に、この世界では漫画とライトノベルは4大出版社を中心に動いている。
集英社、講談社、小学館、角川の4社だ。
集英社はジャンプと集英社ライトノベル新人賞を擁する前世と同じ体制。
講談社はマガジンは前世と同じだが、講談社ラノベ新人賞がなく、元は角川系になったファンタジア大賞を会社合併でこちらが吸収している。
小学館はサンデーと小学館ライトノベル大賞(ガガガ文庫)を擁する前世と同じ体制だが、部数が信じられないくらいに伸びている。どうやら『G戦場ヘヴンズドア』内の雑誌、少年ファイトの作家がこちらにいるからのようだ(前世で掲載されていた雑誌のIKKIが小学館だからだろうか)。
そして、角川。ライトノベルに関してはここは前世と変わらずトップのまま。MF文庫Jライトノベル新人賞、スニーカー大賞、電撃大賞の3賞を有している。一方、漫画はスクエアエニックスのお家騒動と鋼の錬金術師の掲載終了が一斉に来た際にガンガンを丸ごと引き取って電撃大王に統合している。
これは、俺自身が前世から知っている作品中心で読んでいたこと、テニスを生活の中心にしていたことから今まで気づかなかったことだ。
今回応募する初稿を上げてから、アニメについても調べたがなくなっている作品やこちらにしかない作品があるなども知った(石沢とはその際に仲良くなった)。
実はゲーム業界に関しても大きな変化があるが、今はあまり関係ないし、それについてはまた別の機会に触れようと思う。
いずれにせよ、ライトノベルは漫画と違って新人の持ち込みなどは存在しない。
賞を取るまで、地道に執筆と投稿を繰り返すしかないのだ。
締め切り前、最後の土日までを使って出来る範囲の修正は行った。
細かい修正を繰り返し、合計2万字程度は書きなおした。
赤で大量のチェックを入れた初稿を机の中に丁寧にしまい、修正したデータと応募要項を印刷する。応募の準備を整えて俺は市内で一番大きい郵便局へ向かった。
2学期から転校だなんて、なんとかならなかったのかしら。
まあ、来年は高校受験だから、今年で良かったというべきなのかもしれないけれど。
それにしても、千葉と埼玉は近いようでなかなか遠いわね。
もともとあちらに未練があったわけではないけれど、妹たちはこちらにもう慣れることができたのに比べて、私はそうすぐにはいかないわ。
よく使うスーパーの場所くらいかしら、慣れたと言えるのは。
ここ2ヶ月は執筆に集中していたおかげで気になっている新刊もほとんど読めていないし、新しい衣装も作れていないものね。
学校でも書いている作品のことをずっと考えていたせいか、話せる人もできないし……。
人と上手くやっていくのは簡単なようでとても難しいことだと改めて思い知らされたわ。
ペンネームの通り、リアルでも猫を被れれば良いのだけれど。
それにしても、郵便局というのは不便なものね。
新人賞に出す小説の送り方くらい、どこかにマニュアルが置いてあってもいいのに。
というか、こっちが窓口にいかずにずっと座って待っているのだから誰かひとりくらい声をかけてもいいのではないかしら。
初応募、ね……。本当であれば2年前には出す予定だったけれど、自信をつけるためにネットで公開した作品が評価されないからついそちらに時間を割いてしまったわ。
結局、表に出るためには賞を取らなければいけないという結論に至るまで時間はかかったけれど、その間に私も成長しているからその点はプラスとしておきましょう。
……それにしても混んでいるのは月末が近いからかしら。
何なのかしら。本当に、みんなに無視されているみたい。
まだ土曜まで日があるし、いったん家に戻ってきちんと調べてから出直そう……。
「大丈夫? きみ、南中の人?」
そう言って声をかけてきたのは、どうやら別の中学の男子生徒のようだった。
ブレザーを崩さずに着た、背の高い人。
何故だろう。どことなく雰囲気が他の男子とは違って柔らかい。
細身だけれど、しっかり筋肉が付いている感じ。絵も描く私にはそれが何となく分かる。
頷くだけで上手く答えられないでいる私に、彼は寄り添うようにして言葉を引き出してくれる。
驚いたことに、どうやら彼も私と同じ新人賞に応募するということらしい。
ゆうパックの入れ物と切手を買い、宛先を書く。
そして必要なものを入れようとすると彼はすっかり準備してきたようで、紐で綴じられた作品と応募要項をカバンから取り出した。
それをチャックのついたビニール袋に入れ、入れ物の中に収める。
「雨が降ったりして中身が濡れる可能性があるかもしれないから。これ以上だとやり過ぎになると思うけど、調べた中では常識の範囲内みたいだから」
そう言って、私にも余っていたビニールをくれた。
その後はそれぞれの作品を窓口に渡し、後は結果を待つだけ。
終わってしまえばあっという間だったわね。
お世話になったのに、去り際にお礼を一言添えるくらいしか出来なかったわ。
確か、横目で見たけれどペンネームは高木文秀とか書いてあったわね。
選考結果が出るときは、少し気にしておこうかしら。
クロス作品(今話出たキャラクターのみ)
バクマン。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない