『メリークリスマース!!!』
運動場に響き渡る、全校生徒の一斉唱和。
担い手達は、ある者はグラス片手に、ある者はチキンを頬張りながら、またある者は皿に料理を取り分けながら、しかしソの表情は一様に笑顔で、それぞれの思いで、それぞれの声で言葉を紡ぎ出した。
壮観、である。さすがは王国一の学園、と言ったところか。
今宵、このオルタンシア学園の運動場は、巨大なクリスマスパーティーの立食会場として、その姿を変えていた。
「しかしまぁ........よくやるなぁ......この学園も.....」
「運動場をまるまる使ったクリスマスパーティー....しかも飾り付けとかに使った諸費用に
、料理の代金まで全部学校(あっち)持ち。最初は自分の耳を疑ったぜ。」
「全くだ。」
デフロットと二人、苦笑気味に笑い合う。見渡す限りの生徒の山の中に、教職員の姿は見受けられない。このクリスマスパーティーは全て生徒が企画した物なのだ。
”オルタンシア学園名物『巨大クリスマスパーティー』”
生徒が企画し、飾り付けから、料理、小道具大道具の作成、タイムテーブルの組み分けに至るまで、全て生徒だけでするオルタンシア学園の中でも一、二を争う巨大イベント。
学園がするのは資金援助のみで、パーティーそのものには一切関与しない。生徒的には万々歳のイベントである。
毎年企画立案、進行監督はその代の生徒会長が受け持つこととなる。それにより、年ごとにパーティーの形は変わる。今年は生真面目な性格で有名な生徒会長、レオンの発案により、全校生徒にアンケートが取られ、その結果、一番投票数の多かった、この立食型のパーティー形式が取られた。さらには、校舎側にでかでかと作られたステージで、一部の部活動や、有志のグループによっていろいろな出し物が行われることとなっている。まるで学園祭の如き様相である。
「さて!せっかくのパーティーだ!食いまくるぜーー!!!!」
「食うことしか考えてないのかお前は....」
「ははは.........さて、俺たちはどうしようか?マリユス。」
「せっかく立食形式になってるんだ。色々回りながら考えたらどうだ?」
「それもそうだな.....それじゃあ適当に回っていこうか。」
「ああ」
マリユスと二人、適当にぶらぶらと歩いて行く。
───愉快な夜は、まだ始まったばかりだ。
2
「......~.......♪」
騒がしいパーティーの中で、ロザリーは上機嫌だった。
傍らにガルムの姿はない。今日は珍しく別行動を取っていた。勿論、悪い虫が付かないようにする仕掛けは、二重三重に仕込んでいるが。
上機嫌な理由は別にあった。
「ロザリー!」
「!....カルディナ!」
声の聞こえた方向に、嬉しげな表情で振り向くロザリー。手を振りながら向かってくるのは、頬に傷を持つ赤毛の少女、カルディナだ。
ガルムの一件の後、アーデルハイドの提案で一度話し合ってみた。二人とも大人しい気性故か、ロザリーとカルディナは、話していく内にすっかり意気投合。今では、無二の親友となっていた。
「ごめんなさい....待った...?」
「ううん...私も今来たところ。」
「そう....なら良かった...」
「じゃあ早速回る...?」
「うん!」
カルディナと共に、数々の料理の山やステージで行われているパフォーマンスを見て、気分が高揚するのを感じた。
ガラにもなく、興奮しているらしい。
「そういえば、本当にガルムと来なくて良かったの...?」
当てもなくぶらぶらと目に付く物から見ていたロザリーに、カルディナがふと思い出したように訪ねた。
「うん。ガルムとは....いつも一緒だし.....カルディナには....この前のことも謝りたかったから.......」
「そんな!あれは私の方も悪かったし...謝られるようなことじゃないよ...」
その言葉を皮切りに、二人の間に微妙な空気が流れる。それを振り払うかのように、一人の人物が声をかけてきた。
「やあ、楽しんでいるかな?」
「!アーデルハイド。」
一人だけ、制服姿のアーデルハイドが、笑顔で手を振る。
恐らく、実行委員に選ばれたのだろう。生徒会書記と言う立場なら、あり得ない話ではない。
「ええ、楽しんでるわ。」
「それならよかった。仕事が一段落したんだ。よかったら一緒に回らないか?」
「...いいの?.....私たちは別に良いけど...」
「生徒会長から、お前も見てこいと言われてな。手持ちぶさたにしていたところだ。」
「そう、なら一緒に回りましょう?良いよね?ロザリー?」
「ええ、問題ないわ。」
そうして、アーデルハイドも加わった三人で、クリスマスパーティーを色々と見て回っていく。
「そう言えば、どんなところがパフォーマンスをしてるの?」
ふと気になったのでそうアーデルハイドに問うてみた。
「うむ.....基本的には色々なところから出てるから一概にどれとは言えないんだが..そうだな、強いて言うとするならば部活動からの参加が多い、と言ったところだな。それは生徒会も例外ではない。大トリに会長のライブがあるらしい。」
「それは.......」
また斬新なアイデアだ。
確かにそれは少し見てみたいかもしれない。
「パフォーマンスも良いけど..この料理も誰が作ってるの?」
テーブルに並べられた数々の料理を見て目を輝かせているカルディナがチキン片手に興味津々と言ったように聞いてきた。
...別にいいんだけど...何かキャラ変わってない....?
「ああ、そちらは料理長のメイリン殿と、何人かの生徒に手伝って貰って作っている。そこのケーキはアリア殿の、そのチキンはカノン殿の、そのフライドポテトはブーメラン....失礼、アルノー殿の作った物だ。」
『...........』
「ポテト....いる.......?」
「......いらない........」
「あ、その串カツはガルム殿の作った物だぞ。」
「えっ!?」
思わず私は驚きの声をあげた。
そうか....今日は用事があるって....これのことだったんだ.....
「昨日会長が頼んでいたらしくてな。名前は「記憶をつなぎ止める串カツ」らしい。何故このような名前にしたのかはよく分からないが。」
「......」
やっぱり.....そのことを気にしているんだろうか.......
「まあ、一度食べてみると良い。味は私が保証しよう。」
「ええ......!...おいしい.......」
「本当だ!...凄く美味しい....」
カルディナと二人、感心と共に声をあげる。
これは確かに....レオン会長が頼むのも分かる気がする。
私がガルムのことなのに知らなかったなんて....ちょっと悔しい。
「さて、それじゃあ次はどうする?もうすぐ会長のライブが始まるが...」
「なら見に行きましょう。いいよね?」
「うん...ちょっと楽しみ...」
そして、ステージ前へと移動する。
レオンのライブ開始と共に、会場は熱狂的なまでの歓声に包まれた。
3
『盛り上がっていくぞぉぉ!!!!!』
『オォォォォ!!!!!!』
「...性格変わったなんてレベルじゃないんじゃ無いか?これ.......」
レオンのライブを見ながら、呆れ半分に独りごちる。舞台に上がったレオンは普段の生徒会長然とした雰囲気からはかなり逸脱した、まるで本当のライブのヴォーカルのようにノリノリで歌いまくっていた。それもヘビメタを、である。
「会長職はやっぱり疲労が溜まるんじゃないか?それを発散するという目的もあるのかもしれないぞ。」
「まあ、それもあるかもしれないな。それにしても変わりすぎだと思うけど....」
横にいるアルフレッドはいつもの優しい笑みで僕の発言をフォローしてくれる。
....だから、いやなんだ.....コイツと話をするのは......いつも僕の味方でいてくれるから....張り合いがない....僕だって、たまには....
「どうしたんだ?マリユス?」
「い、いや、何でも無い!」
不思議そうに首をかしげるアルフレッド。
今更だけど、コイツと二人きりというこの状況は、何だか恥ずかしい。どうしたんだろう....今までこんなこと無かったのに...
「そ、それはそうと、アルフレッド...その、ちょっと良いか?」
「ん?なんだ?」
本当はサンタみたいに、枕元にこっそり置いておこうと思ったけど、やっぱり....
「....その、これ、受け取ってくれないか?」
そう言って懐から小さな箱を取り出し、渡す。
「..マリユス...これ....」
「その、クリスマスプレゼントだ。い、言っとくけど!これはいつものお礼ってだけで深い意味は無いぞ!?」
「あ、ああ...」
虚を突かれたように呆然とするアルフレッド。
ああ、もう!どうして素直に言えないんだ僕は!いや!深い意味が無いのは本当だけど!あれ?そうだっけ?何もなかったんだっけ!?
「おい...どうしたんだマリユス....」
「なんでもない!」
「そ、そうか.....」
お、落ち着こう、落ち着こう。慌てる必要なんて無いじゃないか...深呼吸深呼吸...
「.....ははは...」
「...なんだよ、何がおかしいんだよ..」
「いや、恥ずかしがってた自分が馬鹿らしいな、と思ってな。」
そう言ってアルフレッドは包装紙で包んだ小さな袋を取り出した。
「それ......」
「俺からのプレゼントだ。受け取ってくれマリユス。」
「.......開けて良いか?」
「ああ。」
その小さな袋を受け取り、なるべく綺麗に開ける。中に入っていたのは──
「....綺麗だ.....」
中に入っていたのは、小さな十字架のペンダントだった。
真ん中には青い宝石がはめ込まれている。
「男子に送るには少し違うかな、とも思ったんだが、マリユスなら似合うかと思ってな。....気に入らなかったか?」
不安そうに聞いてくるアルフレッドに何故だか幸せな気持ちになる。
....ああ、やっぱり僕は......
「......いや、嬉しいよ。ありがとうアルフレッド。ありがたく使わせて貰うよ。」
「そうか...それならよかった。」
その場で宣言通りペンダントを付ける。
「うん....やっぱり似合ってるよ。」
「そ、そうか....ならよかった....」
ほっ、と安堵の息を漏らす。そして、何だかおかしくなって二人して声をあげて笑った。
「.....メリークリスマス、アルフレッド。」
「メリークリスマス、マリユス。」
12月25日、クリスマスの日。
忘れえない思い出と共に、一組の少年少女がその信頼を確かめ合った。
彼らの小さな祝福の言葉は、オルタンシア全土を駆け巡る博愛の音色となる。
鈴の音を響かせながら、王国は、世界は、人々は告げる。
≪メリークリスマス!!!≫
Hortansiaはフランス語で紫陽花、BlancNoëlはホワイトクリスマスと言う意味だそうです。題名考えているときに初めて知りました。
それでは皆さん、メリークリスマス!良い夢を!