オルタンシア学園   作:宮橋 由宇

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八話投稿。今回は結構シリアス多めです。後中二病も全力全開.......何はともあれ、楽しんでくれると幸いです。


8話「決闘~そして物語は動き出す~」

 

 

 

『はぁ......』

 

響くため息は四人分。

空気は重く、どんよりとした雰囲気を醸し出している。

 

教室の中はいつかの時のようにカーテンは閉められ、つけられている電気は教卓近くの一つのみ。秘密集会の再臨だった。

 

「......それで、どうするよ......?」

「......どうするといってもな.....どうしようもないだろう.....もう一回戦わせた方がすっきりするんじゃないか?」

「それもそうか....でも、あいつら絶対本気で殺し合うぜ?」

「女の嫉妬は怖いというからな....いや、そういう問題でもないか。」

「うーん......」

 

いくら考えども結論は出ず、最終的には「殺し合わない程度にやらせよう」との結論に至った。

 

そして、決闘の日──

 

 

 

 

『うぉぉぉ!!!!!』

『やれぇぇぇぇ!!!!!!』

『fooooooooo!!!!!!!』

 

「これは......どういうことだ.....?」

 

決闘の場所となるオルタンシア学園近郊の森。

周りは柵で囲まれ、その外側には観客とおぼしき生徒の山が辺り一面を埋め尽くしていた。

柵の出入り口らしいところにアーデルハイドを見つけ駆け寄る。

 

「おい!アーデルハイド!これはどういうことだ!?」

「アルフレッド殿!....その、すまない。決闘の情報がどこからか漏れていたようでな、流石にこの人数を押さえ込むことはできなかった。」

「漏れたとしたら1-Aのクラスからだな....生徒達には今回の決闘のこと、どう伝わっているんだ?」

「どうやら伝わっているのは『戦うのはロザリーとカルディナ』『この森で決闘をする』この二つだけらしくてな。他の詳しい事情は伝わっていないようだ。」

「それは....都合が良いんだか悪いんだか....」

「とにかく!ここは私とフレッド、アルフォンスの三人で抑えておく!アルフレッド殿とマリユス殿はロザリー達の元に行ってくれないだろうか。」

「わかった!頼んだぞ!アーデルハイド!」

「任されよう!」

 

人の波に流されるようにアーデルハイドから離れる俺たち。

その波は激しく、滝のようで流されないか少し心配になるが、アーデルハイドほどの人物であれば大丈夫だろう。

 

「よし、ロザリー達のところへ行くぞマリユス!」

「わかった!」

 

人の激流に飲まれないように注意しながら、俺たちは森の中に向かって走って行った。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

 

 

そして三十分後、ロザリーとカルディナの決闘は熾烈を極めていた。

 

 

「.....ッ!...」

 

シュッ!

 

 

「ハァァァ!!!!」

 

 

ギィィン!!

 

 

ロザリーの放つ矢を、的確に打ち落とすカルディナ。

その身には未だ傷一つなく、ロザリーの矢を悉く防いでいることが見受けられた。

しかし、息は上がり、衣服が汚れているところを見れば余裕で躱せていると言うわけでは無いことがうかがえる。

 

それもそのはず。カルディナにはロザリーの姿が見えていないのだから。

 

カルディナの目が悪いからとか、そういう理由では勿論無い。これはロザリーの能力とでも言うべき物だ。

 

不可視の静寂(ブラインド・フェイク)

 

その名が示すとおり、姿を隠し、音を消し、気配を消し、相手から認識できなくさせる技。

これが、ロザリーの二つ名が暗殺者たる所以でもある。

この技を発動したが最後、相手は為す術も無く....いや、何かを為そうとすることすらできずに敗北する。する....はずなのだが──

 

「ハァッ!!」

 

ガキィ!

 

カルディナは未だに膝をつくことも無く勇猛果敢に斬りかかっていた。

どれだけロザリーが優れていると言っても、それはカルディナにもいえること。ロザリーが気配を消すことに優れているように、カルディナもまた気配を悟る能力に優れている。

 

静寂看破(サイレント・リピール)

 

剣を鞘から引き抜く音を、矢を弓につがえる小さな音を、斧を振りかぶる風切り音を。

ありとあらゆる音をその耳で聞き取り、そして聞き分けて必要な音のみを取り出し対応する。

剣を抜く音には槍での防御を、矢をつがえる音には回避行動を、風切り音にはその場からの一時離脱を。

 

的確な対応、迅速な行動で相手の攻撃を悉く看破(リピール)し、それを自分の攻撃につなげる。彼女もまた一流の騎士に違いなかった。

 

「ハァハァ...ハァ......!」

 

だが、それも体力が持っているうちの話と言うことだろう。息の上がりが大きくなるにつれ、カルディナの動きも少しづつ悪くなっていく。

 

それは彼女自身も感じていたことらしく、だんだんと焦りを見せるようになってきた。

 

しかし、それでも少女の戦いには目を見張る物がある。

自らの獲物が双槍と言う両側に穂先の付いた特殊な槍故か、ロザリーの正確無比な射撃に対する対応(リカバー)が早い。

右の穂先で第一射を防ぎ、返す左の穂先で第二射を弾く。四方八方から撃たれる矢を迅速な対応で弾き、いなし、防ぐその姿はどこか鬼気迫るものがあった。

 

「フッ...!」

 

ギィンッ!

 

また一つ、背後より撃ち出された矢を弾く。発射された場所を凝視してみても、やはりロザリーの姿を視認することは出来なかった。

 

(このままじゃ......いつか瓦解する......どうにかして攻撃を当てないと.....)

 

焦る気持ちを必死で押さえ込む。今ここで焦って一つでもミスれば、その瞬間カルディナの敗北は決定してしまうからだ。

相手の姿を、気配をとらえられない以上、その姿を視認してから対応するしかない。そうなるといつ攻撃が来るか分からないため、常に気を張っていなくてはいけなくなる。

そんな時に焦ってミスでもすればどうなるかは、想像に難くないだろう。

 

(せめて......音が聞こえる攻撃だったなら......まだ少しは楽だったんだけど......)

 

内心愚痴をこぼしてみるも、状況が好転することはない。今カルディナに出来ることは、どこからともなく飛んでくる矢を形見の双槍で打ち払うことのみだった。

 

 

「ハァ!!」

 

ギィィン!!

 

弾く矢もこれで何射目か。

限界とは言わずとも、少しづつ集中力が途切れてきているのを感じ、カルディナは勝負に出た。

 

「スゥ.....」

 

全身の感覚を研ぎ澄ませて、必要となる音だけを感じ取る。

 

小鳥のさえずる声。

 

──違う。

 

流れる水のせせらぎの音。

 

──違う。

 

木の葉と葉がこすれ合う音。

 

──違う。

 

矢を弓に番える極小さな人工音。

 

──!..ここっ!!

 

 

「はぁぁぁ!!!!」

 

ロザリーが矢を撃つより早く、音の聞こえた場所に向かって自らの最大にして唯一の武器である双槍を投擲(・・)した。

 

「なっ!?」

 

自らの武器を手放すという、戦場では最大の禁忌(タブー)なこの行為は、さすがに予想外だったのだろう。ロザリーの動揺する気配が姿の見えないながらも感じられた。

 

ガンッ!

 

「くぅ...!?」

 

槍はまっすぐにロザリーの元へ飛んでいき、躱そうとしたロザリーがバランスを崩して枝から落ちた。戦闘が始まってから初めて、ロザリーの姿を視認する。右足のふくらはぎ付近に小さな切り傷と血の跡が見えた。恐らく投擲した槍を躱しきれずに付いた傷だろう。移動に際してはたいした問題にもならないだろうが、今この瞬間においてはこれで十分である。

 

(決める.....!)

 

落ちてきた槍をつかみ、そのままの勢いでロザリーに向けて特攻する。

ロザリーもさすがの対応の早さで既に矢を番えた弓をこちらに向けていた。

矢と槍、二つが交錯しようとし──

 

 

 

「そこまでだ、お前達。これ以上はさすがに見過ごせんぞ。」

 

これ以上はさすがに危険と判断したアーデルハイドによって止められた。

 

『きゃっ!?』

 

カルディナの槍は、自らの持つ双槍よりも圧倒的に細身なアーデルハイドの槍によって絡め、止められる。

ロザリーが放った矢もあろうことかアーデルハイドは掴み取り、止めた。とても一年とは思えない技量である。最強の一年(アナザーワン)などと揶揄されるのも仕方の無いことなのかもしれない。

 

「なるべく干渉しないつもりでいたが、これ以上は模擬戦の枠から逸脱する。」

『けど!..』

「規則は規則だ。私は生徒会書記として、生徒の規律を守らねばならない。お前達だけ特例とするわけにはいかんのだ。」

『........』

 

そう言われてしまうと、こちらとしても反論しづらい。

結局、ロザリーとカルディナの決闘は、アーデルハイドの干渉によって、不完全燃焼のまま終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

3

 

 

しかし、ガルムを含めた三人のいざこざはそれで終わりというわけでは無い。

変態仮面の誘導した誤解はまだ解けていないし、カルディナの稽古の件に関してもまだあいては決まっていないのだから。

 

そこで、アーデルハイドはロザリーとカルディナだけで話してみてはどうかと提案した。最初は渋っていた二人だが、ガルムがもう泣く寸前のような顔で懇願したため、仕方なくといった具合にアーデルハイドの提案を受けた。そして、話していくうちに自らが聞かされたことは嘘だと知り、大きな被害を出すことも無く、今回の件は終わったのである。

 

 

 

そして、話し合いが終わり、解散した後の放課後。

 

 

「ふぅ....」

「お疲れ、アルフレッド。」

「マリユス....」

 

小高い丘の上で休んでいたアルフレッドの元に瓶を二本持ったマリユスが声を掛けてきた。中身はどうやら水である。マリユスはそれを「ん、」と言いながら差し出してきた。

 

「ああ、ありがとう。」

 

それを感謝の言葉とともに受け取り、煽る。

 

「ふぅ......終わったな。」

「ああ..........終わったな。」

 

互いに交わす言葉は少なく。沈みゆく夕日を見つめ続ける。

そしてふと、マリユスが小さく声を出した。

 

「疲れた......けど.....楽しかったよな。」

「...フっ.....そうだな。たまにはこう言うのも良いかもしれないな。」

「けどまあ、今回と同じことは流石に勘弁だけど。」

「全くだ。」

 

『あははは!!』と声に出して笑い合う、そしてひとしきり笑った後、

 

「それじゃあ、帰ろうか。」

「ああ、戻ろう。俺たちの家へ。」

 

互いにそう言い合い、談笑しながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あたりは完全に真っ暗になり、人の子一人見つけられない闇の中で、変態仮面はまるで電話でもするかのようにどこかに向かって喋りかけた。

 

「どうやら、今回の計画は失敗に終わったみたいだね。アルフレッド・オーベル。彼はなかなかに強敵のようだ。」

 

すると、それに返す言葉がどこからともなく聞こえてくる。

 

──計画失敗の原因は、あなたやり方が問題では無いのですか?

 

「まさか!そんなことあるはず無いだろう。」

 

──しかし、私には少し回りくどいように感じましたがね。

 

「それで良いんだよ。今はまだ少し回りくどいぐらいがちょうど良い。......約束の日までは...ね。」

 

──そうですか......どちらにせよ、私が直接行くわけにはいけませんし、そちらはお任せします。

 

「ああ、任されよう。........それじゃあ、次の手を考えるとしようか。────次を楽しみにしてるよ、アルフレッド君?」

 

その言葉を最後に、変態仮面の姿が消える。

後には静寂が残るのみだった。

 




はい、第八話「決闘~そして物語は動き出す~」でした。
ちょっと意味深な感じで締めくくってますが、基本的にはのんびりとギャグを書き綴っているだけなので、あまり気にしないでもらって大丈夫です。笑

次は第九話......の前にクリスマス特別編を挟もうと思います。更新日は12月24日、クリスマスイブにしようと思ってますので、ご期待ください。

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