「はぁ!?」
放課後になり、誰もいなくなった教室にガルムの素っ頓狂な声が響き渡る。
運動場やアリーナから時々元気なかけ声が聞こえてくるが、校舎の中にはもう誰の姿も見受けられなかった。いるのはガルムにアーデルハイド、マリユス、俺、デフロットの五人のみ。
俺たちのいる1-Aの教室はカーテンが閉められ電気も教壇前の一つのみ。まるで秘密の会合の如き雰囲気だった。.....まあ、秘密ではあるのであながち間違いでも無いわけだが。
「で、事の真偽はどうなんだー.....って聞くまでもないか。変態の言葉は嘘。Final Answer?」
「当たり前だ!ロザリーに何されるか分かったもんじゃないのにそんなことするわけないだろう!?」
「まあそうだろうな。てか無駄に流暢な英語だったな。デフロット。どっか壊れたか?」
「その反応はおかしくねぇか?」
「まあガルムがそんなことをするとは思ってなかったけれど.....でもそうなると疑問も残るな。」
「疑問?」
「写真のことだよ。変態の言ってたことが嘘だって言うなら、壁ドンの写真なんか持ってるのはおかしくないか?」
俺の言葉に皆虚を突かれたように固まった。
数秒で戻ったアーデルハイドが肯定するように呟く。
「それは..確かに。......そのような写真.....あるはずがない....」
「でもロザリーがガルムのことで見間違えるわけ無いもんなぁ......」
「合成写真.....とか?」
「よく考えろマリユス、この時代にそんなもんあるわけ無いだろう。」
「いやメタいんだよテメーら。」
鋭く響くデフロットのツッコミ。しかし俺たちはそのツッコミを華麗にスルーした。
「で、結局の所あの写真は何だったんだ?」
「うーん.....現状は何とも言えないな......」
「............その壁ドンっていうのは、壁に手をついて覆い被さるようになっている状態のことか?」
「え?え、うん....そうだけど......」
「.......それだったら、心当たりあるかも.....」
『はぁ!?』
汗を垂らしながら蚊の泣くような声で呟いたガルムに、俺たちは驚きを隠せない。
「心当たりって......!お前まさかァ!!!!!」
「お、落ち着いてくれ!多分デフロットの考えているような意味じゃない!」
「p&muむらMく-0!!_jp!vj!gvdtつ、sol&&!」
「黙れ!」
「ゴフォ!?」
マリユスの一撃で崩れ落ちるデフロット。
.....うん、....まあ気持ちは分かるけどちょっとやり過ぎじゃないかな.......峰打ちでもけっこう痛いんだよ?......
「で、どういうことなんだ?ガルム。」
「ああ.....いや、カルディナと模擬戦をしていたとき、どこからかは分からないが矢が飛んできてな。カルディナが気付いてなかったみたいだから無理矢理壁に寄せて避けたんだ。あ、ラッキースケベ的展開はなかったぞ!?本当だからな!?」
「いや、分かってるけど....そんな焦ってたら逆に怪しいぞ?後そこの老け顔、いつまで蹲ってんだ。さっさと起きろ。」
「テメーのせいだろうが!?いつつ....」
相変わらず災難だな...デフロット。......まあ半分以上は自業自得なので同情はしないけど。
「一ついいか?」
「どうしたんだ?アーデルハイド?」
「カルディナはその時、私と会ったときのような妄信的な状態では無かったのだろう?」
俺たちがロザリーと話している間、アーデルハイドはカルディナの所へ行き、ガルムのことで説得しに行っていたらしい。しかし、自らが稽古を付けるからとカルディナを説得してみてもまったく聞き入れてはもらえなかった。挙げ句の果てに「邪魔をするならあなたも倒す」と半ば強制的に追い出されてしまったらそうだ。
そして、カルディナの方にも、例の半裸仮面が来ていたらしい。詳しく話を聞けなかったから詳細なことは分からないが、どうやらロザリーの時と同じく偽の情報を流して相手を殺すように仕向けたらしい。
それ故の質問だろう。アーデルハイドの問いにガルムは躊躇無く答えた。
「ああ、普通に強くなりたいから稽古を付けてくれないかと言ってきたよ。」
「となるとやっぱり......」
「ああ、例のマント仮面が原因だろうな。ふむ.....どうした物か.......」
そこで会話が途切れてしまう。正直に言うと、もうどうすればいいのか分からない。
「......とにかく、今日はここまでにしよう。」
「そうだな...無駄にだらだらと話していてもらちがあかない。残りは明日考えることにしよう。」
「すまないな、皆。」
「いや、いいさ。俺たちは仲間だからな。仲間の頼みなら喜んで引き受けるさ。なあ?デ腐ロット。」
「....絶対馬鹿にされた.....絶対馬鹿にされた....」
「....ははは......」
緊張が解けたからか、いつもの空気が戻ってくる。
「よし、それじゃあ今日は解散しようぜ。」
「そうだな、それじゃあまた明日ガルム、アーデルハイド。」
「ああ、またな。」
「そ、壮健でな.....アルフレッド殿......」
「むっ!」
「?どうしたんだ?」
「....ダメだこりゃ....」
千差万別。それぞれのやり方で別れの言葉を継げる。そして、それぞれの帰路へと付いた。
2
そして翌日、教室の扉を開けた先に広がっていたのは、
「........................」
「.........むー.......」
『.......ナニコレ?』
カルディナとロザリーが睨み合っている光景だった。
.........ってちょっとまてどうなってんの。何が起こったの。
状況を確認するために教室の端っこで縮こまっていたガルムに囁き声で話しかける。
(おいガルム!どうなってんだこれ!)
(いや....その.........どうやら、昨日俺たちが話していたときにまたあの変態仮面にあったらしくて......)
(........それで変態に何かを吹き込まれ今睨み合ってると.......)
(ロザリーは、今日中に決着を付け無いと相手も動くぞ.....的なことを言われたらしい。)
(.....本当、余計なことをしてくれる......)
(......すまん.....)
(いや、いいよ。ガルムのせいじゃない。)
申し訳なさそうに謝るガルムに気にするなと返す。その間も二人の睨み合いは続いており、他の生徒達はドアの外からちらちらとこちらの様子を覗いていた。
(......さて、どうする?)
(どうもこうも、止めるしかないだろ。)
(だよなぁ....でも......)
あれに割り込むのはちょっと...と躊躇うマリユス。......分かる、すっごい分かるよ。なんか両者共に黒いオーラでてるし。禍禍しいエリア形成されてるし。
と、躊躇っていた所に、小さな、しかし何故かはっきりと届く声でロザリーが喋った。
「ねぇ......そろそろひいてもらえない?.......意地汚い泥棒猫さん?」
ビキッ!
((ひいぃぃぃぃ!?))
カルディナの顔に青筋が浮かぶ音を確かに俺たちは聞いた。
そうか、これが修羅場か。
「......それは出来ない。.....私にはやることがある.....そっちこそ引いて......口うるさい小姑.....」
ビキィッ!
((やめてぇぇぇ!?!?!?))
カルディナの言葉に、同様にロザリーの額にも青筋が浮かぶ。
「そう....ひく気はないのね?」
「ええ。」
「なら..........」
限りなく長い一瞬の静寂。一気に圧縮されたような高密度の重い空気の中、相対する二人は互いに静かに話し合い、そして、
「正々堂々、戦って決着を付けましょう。」
「.....望む、ところッ!」
『え........』
『ええええええええ!?!?!?!?!?』
つい声を出してしまったのは、仕方ないと思うんだ........
定期更新の他に、クリスマス特別編も制作中です。クリスマスイブと、クリスマス当日に前後分けて投稿します。お楽しみに。