オルタンシア学園   作:宮橋 由宇

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9話「煩悩~ゴリラとヘタレと、時々メロン~」

 実に8ヶ月ぶりの更新となります。見ていられる皆様お久しぶりです。

 

「うん、普通ここで言うか?前書きとかで言うもんじゃないのか?こういうのは」

 

 まぁ、細かいことは気にせずに。もう忘れている方も多いと思いますが、また、更新再開します。まぁ他作品もそろそろ書かないとやばいので、すこーしづつですが。

 

「前回似たようなこと言って書いてないのはどこのどいつだよまったく……」

「今回ばかりはお前と同じ意見だなデフロット」

 

 ……ま、まぁこれから更新していくと言うことで……

 

 

 とにかく、この作品を覚えていたら、またよろしくお願いします。

 

 

 あ、クリスマス回は特別編と言うことで、時間軸には組み込みません。今の時期は6、7月を想像してもらえれば。

 

 

 

 

 

 

9話「煩悩~ゴリラとヘタレと、時々メロン~」

 

1

 

 

 今日も平和な昼下がり。のどかな時間が流れるオルタンシア学園の1-A教室にて、事件は起きた。──……事件と言うには少ししょぼい気もするが。

 

「よぉ!ラビ!」

 

 左端から1列目。後ろから数えて二番目の窓際昼寝のベストポジション。そんな席を確保しておきながら、と言うかどこぞのチンピラみたいな顔しておきながら意外と真面目に勉学に勤しむ姿からギャップに萌えると一部の腐れ女子どもの間で密かに人気な中身は好青年、ラビに声を掛ける人影が一人。

 

「なんだルドルフ?俺に用か?」

 

 名をルドルフ。通称「筋肉の人」。馬鹿ではあるが親しみやすく、生徒達の間でも割と人気が高いゴリラである。

 はち切れんばかりの筋肉が制服の上からでも分かるほどピッチピチなのはともかく、本来この二人に接点はほぼ無い。なのでラビも喰い気味

 話しかけてくるルドルフに少し戸惑いながら返事を返す。

 

「いや、チェドルフのやつが弁当箱を間違えて握りつぶしちまったみたいでよ、俺っち昼飯がねぇんだよ。だから食堂に行こうと思ってな」

「握り……いや、まあいい。……ん?じゃあなんで俺に話しかけたんだ?」

「お前いつも食堂だろ?いつもなら弁当組の奴らと食うんだが、たまには他の奴らと思ってな」

「そうか……」

 

 というかなんか暑苦しいなコイツ。そんな感想を抱くが勿論優等生。口には出さない。数秒考え結論を出す。

 

「いいぜ。一緒に食べよう」

「おっ!そうか、よかったぜ。なら食べに行こうぜ!」

「いや、まだ三時間目なんだが……」

 

 冗談だ。そう笑って自分の席に戻っていくルドルフ。そのタイミングでちょうどチャイムが鳴る。ラビも教科書を出し、授業へと意識を戻した。

 

(……やはり、変人が多いなこの学園は)

 

 お前がそれを言うのかと言いたくもなるが、おおむね何事もなく三時間目、四時間目と過ぎてゆく。

 

 

 

 ──そして昼休み。

 

「よっしゃ終わったぁ!っと、それじゃ行こうぜラビ!」

「あぁ、食堂の場所は分かってるのか?」

「いや、さっぱり!」

「なら案内する。行こう」

「あぁ!」

 

 供だって歩き出すラビとルドルフ。ラビだけが謎の巾着袋を持って行くことに、ルドルフは気づかないまま食堂へ向かった。

 

 

 

 

2

 

「いやぁー!食堂の料理も案外旨いもんだな!──中華だけ」

「そうだな。結構レベルが高いからなここ。──中華だけ」

 

 食堂での食事を終え、昼休みの残り時間も後10分ちょっとと言ったところ。食堂から出てきて食事の感想を言い合う男二人、ラビにとっては慣れた味だが、ルドルフにはまた新しい発見だったらしい。

 

「それはそうと、お前の持ってるその袋なんなんだ?」

 

 来たときから気になっていたとルドルフはラビの持つ巾着袋を指して言う。

 

「えっ!?……もしかしてお前、先生の話聞いてなかった?」

「えっ……何か話してたのか?」

「お前……次の授業──」

 

 

「水泳だぞ?」

 

 世界の時が止まった。そう錯覚するほどに、ルドルフは思考停止していた。

 なるほど、今は夏だ。水泳の授業もあるだろう。特にこの学園は運動系の授業に力を入れている。一日に一度は何かしら体育系の授業があるくらいだ。

 ルドルフはその足りない頭で考える。水泳がある。つまり水着が必要なわけで、勿論先生の話も時間割も見ていなかったルドルフは用意もしていな──

 

「ってそうじゃねぇだろォ!」

「うわっ!」

 

 そこまで考え、ふと重大な事実に気づく。

 そして、そんなことはどうでも良い!と言い切ったルドルフにラビは呆れとも困惑とも付かない微妙な表情を浮かべる。

 

「今日水泳の授業があるんだよな!?」

「あ、あぁ……」

「それは男女供だよな!?」

「……そうだが……」

「つまり、つまりよォ……──」

 

 

 

「覗きのチャンスってことじゃねぇかよォ!!!!」

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

「は?」

 

 いやまて、こいつはなにをいっている?

 本気で困惑するラビ。ルドルフは止まる気配なくまくし立てる。

 

「おいラビ!何してるんだ!さっさと覗きに行くぞ!」

「いや、そんな無駄にキリッとした顔でゲスいこと言われても……」

「お前も男だろ!覚悟を決めろ!」

「出来ればそんなことで覚悟を決めるのは御免被りたいのだが……」

「つべこべ言うな!ほら、行くぞ!」

「いや、俺は行くとは言ってな──っておい!服を引っ張るな服を!伸びるだろう!」

 

 ラビの都合などお構いなしに一人で推し進めるルドルフ。そもそも更衣室の場所を分かっているかも怪しい物だが、本人は自信満々で歩き出す。

 

「……場所は分かっているのか?」

「知らん!」

 

 案の定。だが進む方向が合っているのが無駄に腹立たしい。思春期の男の本能は恐ろしいものだ。

 と、半ば諦め気味にルドルフに連れ回されていたラビの前に、一人の青年が姿を現す。

 

「あっ!おーい!ジムー!!」

「ん?……おぉラビ、とルドルフか?何してんだ?」

「助けてくれ!」

 

 青年の名はジム。1-Bの生徒で、この学園でも屈指のイケメン。マリーへの愛が尋常では無い事で有名で、何度も告白しては空振り三振を繰り返している。マリー本人はジムにそういう類いの好意を向けられていることに気づいておらず、二人の間には何とも言い難い関係が続いている。──焦っているのはジムだけなのだが。

 ジムはどこか外で食べてきた帰りなんだろう。弁当箱をぶら下げて廊下を歩いていた。ラビはジムを呼び止めて助けを求める。

 

「お!ジムか!どうだ?お前も一緒に行かねぇか?」

「おい!ジムまで巻き込むなよ!」

「……なんの話なんだ?」

「いやその……次が水泳の授業なんだけどな、こいつが、その……の、覗きに行こうって……」

「なっ!?」

 

 顔を赤くして二、三歩後ずさる。……うん、平均的な男子の反応だ。多分。

 

「の、覗きって……女子のか?」

「当たり前だろう!男の裸なんか覗いて何が楽しいんだ」

 

 それは別に覗きに行く必要も無いのだが。

 

「い、いやしかしだな……マリーに嫌われたくはないし……」

「あ、問題はそこなんだな」

「当たり前だろう!それ以外に何がある!」

「何があるかと問われれば……何とも言えないが……」

 

 ていうか言いたくもないが。

 しかし少しずれてるとは言えジムもやはり優等生。ちゃんとルドルフを止めてくれる……と、思っていたのだが、

 

「なぁジム……」

「な、なんだよルドルフ……顔が怖いぞ……」

「お前それでも男かァ!!!!!」

「は?なに?何でキレんの!?」

「馬鹿野郎!腑抜けやがって!女の子が着替えてるんだぞ!?うら若き乙女がその柔肌を晒してるんだぞ!?そんなの覗きに行かなきゃ男じゃねぇだろ!!!」

「そこまで言う!?い、いや、確かに覗きたくなるのは男の性だけど……」

「おい待て。流されてんぞジム」

「そうだろう!なら躊躇なんてするなよ!解き放て!感じるだろ?自分の中にふつふつと湧き上がる何かをよ!」

「え、えっと……」

「道徳は捨てろ!本能に従え!男なら自分に正直に生きやがれ!」

「……」

「……」

「…………ルドルフ」

「あぁっ」

「目が……覚めたぜ」

「分かったか。ジム」

「ああ!俺だってみたいさ!女の子の裸!と言うかマリーの裸!」

「そうだ!それでこそだ!」

 

 

 

 お 前 も か 。

 一部始終を軽蔑の眼差しで見ていたラビは、だんだんと染まっていく数少ないまともな学友を見て涙が止まらない。お前なら止めてくれると思ったのに……

 

「それじゃあ行くぞジム!ラビ!」

「ああ!行こう!エデンが俺たちを待っている!」

「だから誰も行くとは言ってな──服を引っ張るなぁ!!!」

 

 いっそ清々しい笑顔で廊下を駆け出そうとする二人。服を引っ張られながらなし崩し的に行動を共にするラビ。男三人いざエデンへ!──と、物事はそう上手くはいかないのが世の常である。

 

「あら、どこへ行こうって言うのかしら?」

 

 突如どこからともなく現れた紐に体を縛られ引っ張られる。

 

「あだっ!」

 

 廊下にこかされたラビが見た物は、二つのメロン──失礼。三年のデュケーヌ先輩だった。

 

「デュ、デュケーヌ先輩……」

 

 我に返ったのか、おびえきった表情で名前を口にするジム。

 先輩はそんなジムに底冷えするような邪悪な笑みを向ける。

 

「さてさて……覗きなんて単語が聞こえた気がしたけど、気のせいかしらねぇ……」

「ち、違うんだデュケーヌ先輩!俺っちは覗きなんてするつもりはなかったんだ!!ただラビがどうしてもと言うから仕方なく──」

「ルドルフテメェ!!」

 

 この野郎自分から言っときながら裏切りやがった!先輩はそんなルドルフを見てニコリと嗤う。

 

「あらそう、それなら仕方ないわね──」

「ホッ」

「──なんて言うと思ったかしら?」

「えっ?……あだぁぁぁぁあ!?」

 

 そう言うやいなや、先輩はなぜか所持している鞭でルドルフの体を縛り上げる。俗に言う亀甲縛り。何者なんだこの人……

 

「って何で俺までぇ!?」

「皆同罪よ。ほら可愛がってあげるからこっちへ来なさい」

「来なさいってかあんたが引っ張ってる……」

「何か?」

「いえ、何も。先輩お茶をどうぞ」

「貰うわ」

 

 このヘタレジムが。睨まれた瞬間に手のひらくるーり。なんと鮮やかな手並みでしょう。ずりずりと引きずられていくルドルフとラビを周りの生徒達は奇異の目でチラ見していく。くそっ……また変な噂が流される…… 

 

「ほら、来なさいあなたたち。体育は私の特別授業よ」

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「何で俺までぇぇぇぇぇぇぇ」

「あ、ジム、あなたもね」

「ああ、やっぱりそうなんですね。そんな気はしてました、ええ」

 

 そのまま体育倉庫に連れて行かれる。

 

 

 

 その後のことは誰も知らない。当事者である三人もけして口を開こうとしない。ただ一つ、三人にその話を持ち出すとがたがたと震えると言う。

 これは、オルタンシア学園で起こった、小さな小さなとある事件の話である。


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