次元航行艦アースラでは闇の欠片に対する作戦会議が行われていた。幸いにも闇の欠片は観測地点から動く様子もなく、ただ近寄ってくる闇の欠片を取り込んでいるだけであった。
「……でたらめね」
闇の欠片が模倣した人物の話を気分の悪そうなプレシアから聞き出したリンディ・ハラオウンは思わずそう零してしまう。
曰く、時を止める力を持っている。
曰く、肉体の年齢を戻す力を持っている。
曰く、瞬間移動する力を持っている。
曰く、尋常でない魔力を持っている。
もしそれらが再現されていればあの闇の欠片を討伐するのは非常に困難だと言えるだろう。
しかし、今はおとなしい闇の欠片が暴走するのも時間の問題である。
それ程の力を持ってくれば瞬く間に地球は滅んでしまう。一同は闇の欠片の討伐を余儀なくされていた。
「しかし、あれを倒せれば消耗したエクザミアの制御を容易に行えるでしょう」
「そこは我に任せておけ。今はあれを倒すことが最優先だ」
とはいったものの、それらしい対抗手段を見つけることは彼らには出来ない。ただ己の力のすべてを掛けて闘いを挑むしか方法等残されていないのだ……
「一体どうすれば……」
沈黙が会議室を支配する。
その中でプレシア・テスタロッサは頭を抱えながらふと、何かが自身の鞄の中で一瞬震えたのが見えた。
『燃えあがーれー燃えあがーれー』
コミカルな音楽とともにどこかで聞いた歌がプレシア・テスタロッサの鞄の中から響く。よく見れば鞄が小刻みに動いているようであった。
「が、ガンダム?」
「……プレシアさん…」
「母さん……」
「プレシア……」
「お婆ちゃん……」
今の会議の空気に似つかわしくなく、更にプレシアの私物から聞こえるとは思えない音楽に非難の視線がプレシアに突き刺さった。
「ち、違うわよ!!私は何も!!」
プレシア本人聞き覚えのない音楽に慌てて鞄の中をあさり音楽の発生源を探す。
それは直ぐに見つかった。手のひらにいい感じにフィットする大きさ。硬い材質でできたその球はプレシアに掴まれ鞄の外に姿を現す。
『???キショウ、キショウ』
困惑した様子で自身が起きたことを伝えるその物体に会議室の者達は一様にその口を閉じた。
プレシアの手から羽ばたくことで逃れたそれは周囲を見渡し、己の置かれている状況を把握した後、慌てたように騒ぎ出した。
『ユーカイ!ユーカイ!!』
飛び回るその物体……球型のロボット、矢澤ハコをプレシア・テスタロッサはわしづかみにして、顔を近づけた。
「何で、私の鞄の中にいるのかしらぁ?」
ドスの聞いた声にハコはガタガタと震えながら『ゴメンナサイ』と繰り返し呟く。
それにため息を吐いてプレシアは会議室のテーブルの上にハコを乗せた。
「さっき言った上月典矢に関係しているロボットよ。何故かはわからないけど、私の鞄に潜んでいたみたいね」
テーブルの上で転がされて目を回しているハコに、八神はやては小さな声でハロや……と呟く。
それを耳聡く聞いたハコは転がされながらハロではなくハコであると訂正し、また転がされた。
先程までのピリピリとした空気が一瞬のうちに消えてしまったのにリンディはため息を吐いた。
そんな中プレシアだけがハコを転がしながら笑みを浮かべている。それを疑問に思ったフェイト・テスタロッサは直ぐ様その理由を問うた。
「あら、気付かないのね。この子がいればもしかすれば本物が来てくれるかも知れないって言うことに」
全員が顔を上げた。
そう、確かに強力な相手にどうしようもなかったかもしれないが、その強力な相手の元となった人物が来れば心強いなんてものではない。幾つもの対抗手段のない相手に対して、五分五分の勝負に持ち込まえるのだ。
「貴方のご主人様に連絡してくれないかしら?」
『アウゥ……ツウシン、ツウシン』
渋々といった様子でプレシアの言うことを聞くハコに皆の期待が高まる。
『ムリ、ツナガラナイ』
ハコが小さく呟いた言葉に全員のため息がシンクロした。
「仕方ないわ。今から20分後、闇の欠片に攻撃を仕掛けます。各自出撃の準備を」
「「了解!!」」
=========================
「それにしても貴方、何時忍び込んだの?」
『シラナイ、ボク、シラナイ』
「嘘おっしゃい」
「まあまあ、母さん。でも色々とその上月典矢って人の話を聞けるんじゃない?」
「それもそうね」
『………エイゾウ、エイゾウ』
「あれ?これは何処かの店?」
「私がよく行っている店ね」
《こんな所に転がってると踏んじゃうわよ?》
「母さんだね」
「ええ、私だわ」
「この子が見ていた映像かな」
「まあ、私が話しかけている所からしたらそうかも……」
《全く……》
「……鞄に入れたね」
「………」
「………母さん」
「何も言わなくていいわフェイト」
=========================