【次元航行艦アースラ】
「ってことはあれかしら?私は過去に来てるってわけね」
「そういうことになります」
はぁ、一体どうして、どうやって過去に飛んだって言うのかしら……しかも私以外にも未来から来たって子もいるみたいだし……
それに……
「………」
どうやらこの世界の私はもう既に死んでいるようだ。私自身今起こっている事件の記憶もないし、ジュエルシードでの一件後もフェイト達と離れたということはなかった。寧ろ関係を取り戻すためにずっと一緒にいたほどだった……
私が視線を向けると身体をビクつかせて小さくなっているフェイトの姿が目に映る。
それに私が彼女にした仕打ちを思い出して少し落ち込んでしまう……
「フェイト……」
「は、はい……」
「こっちに来てくれない?」
「………」
戸惑いつつはあるけど私の前に来たフェイトを抱きしめる。
彼女は新しい母を得たけれどそれでも私が彼女に与えた恐怖感はまだ拭いされていないだろう……
「ごめんね、フェイト。貴方が怖がる必要なんて無いわ」
「あ………」
「私はこの世界の人間ではないけれど、貴方は私の自慢の娘なのよ」
「……母さん」
あ、ちょっと待って。また波が来た……
「あ、アルフ、水頂戴」
「はいよ」
投げ渡された水を飲みなんとか吐き気を抑える。うぅ、もっとフェイトを愛でなきゃいけないのに気持ち悪くてそれどころではない……
「と、取り敢えずプレシアさんは休みますか?」
「……まだ大丈夫よ。それとありがとう。フェイトの事」
リンディ・ハラオウン。この世界においてフェイトの新たな母となった女性。彼女がフェイトの拠り所の一つになってくれたのは間違いないのだろう。
「でも不思議ですね。私達の未来でもフェイトママのお母さんはリンディさんだったのに……」
「なに?聞き捨てならないわね」
オッドアイの少女、名前はヴィヴィオだったかしら。フェイトの娘、つまり私の孫って言うことよね。
何故オッドアイなのかはわからないけど一応は金髪でフェイトの娘と言っても納得できる。
「す、すみません」
「謝ることではないわ。それよりも、貴方のパパは誰かしら?」
「パパはいませんよ?」
なんですって!?
「フェイト!!ちょっと来なさい!!」
「は、はい!!」
とんでもないことだわ。まさか未来のフェイトの娘に父親がいないだなんて……
危惧していたこと……悪い男に捕まるって事が現実に成るってことじゃない!!!
「いい?フェイト、よく聞いて?男を選ぶ時は外見や言葉だけでなく内心もよく見なきゃいけないわよ?」
「は、はぁ……」
「あぁ、私が生きてたらいい人を探してあげるのに!何で死んだ!私!いや、寧ろ何であの子がいないのよ!」
私が死んだ世界。私達の世界との差異はいくつかあるだろうが、考えられることは……上月典矢が存在しないということだろう。
私を助けてくれる彼が存在しない、もしくはレアスキルを保持していないのであれば私は間違いなく死ぬ。問題は何故彼がいないということだけど……
「あの子っていうのは?」
「私を助けてくれた子よ。今日もその子の店で飲んだ後家に帰っていたわ」
「そうなんですか……」
「ヴィヴィオちゃんは知らないわよね?変な店を出している若い男の話は……」
「はい。聞いたこともないです」
さて、未来でヴィヴィオちゃんに知られていないほど知名度が低かったのかは定かではないけど、私の考えでは彼はこの世界において私の知る上月典矢ではない。もしくは存在すらしていないのだろう……
「そういえばプレシアさんはずいぶん若く見えますけど何歳なのですか?」
「なのはちゃんかしら?そうね、まあ若くみえるのには理由があるのだけれど、私はもう60は超えているおばあちゃんよ?」
「「「ぶっ!!」」」
え?何?何で皆噴き出しているのよ……
「ぜ、ぜひそのアンチエイジングの方法を教えてほしいわね」
「あぁ、ちょっと無理があるわね……私が若い見た目しているのはさっき言ったいない子が関係しているから」
「どういうことですか?」
「私はね、虚数空間に飲まれても飲まれなくても短い命だったのよ」
「え?……」
「病気でもう死にかけの状態だった。無理な研究が祟ったんでしょうね。まあ、さっき言った子、上月典矢という少年は私を助けた後どうやってかはわからないけど肉体を病気になる前……おおよそ30歳くらいに戻したのよ」
ホント、でたらめな子なのよね。
「それで10年が経過して年齢60超え、肉体40歳程度のおばあちゃんが完成したってわけ」
「……40と見ても随分と若く感じるわ」
「あら、ありがとう」
ってそれよりも、今の間にフェイトに男を選ぶ際の事を教えこまないと……
「そういえばなのはママ、マテリアルズの人達は何処にいるの?」
「にゃ!?……その、ヴィヴィオちゃん?ちょっとその呼び方慣れないからなのはって呼んでくれないかなぁ?」
……どういうことよ。
「ヴィヴィオちゃん?」
「はい。どうしたの?プレシアお婆ちゃん」
「おば!?」
……覚悟はしていた。孫ができることは喜ばしいことだと思っていた。
でも、予想以上にダメージくるわね……じゃなくて!
「あのね、なのはちゃんがママなの?」
「はい!」
「フェイトは?」
「??ママですよ?」
目眩がしてきたわ。まさかこれから先女性同士で子供を生まれる技術の発展というか進化というか……取り敢えず、とんでもないことに成るのは間違いないわね……
まさか怪しいとは思ってはいたけど、なのはちゃんとフェイトがね……
「失礼するぞ」
そう言いブリッジに入ってきたのは八神はやてに似た子。確かマテリアルズのロード・ディアーチェって言ったかしら……
その後ろにはなのはちゃんに似ているシュテル・ザ・デストラクター。フェイトに似ているレヴィ・ザ・スラッシャー、それとよくわからない小さな女の子が入っていた。
「一体どうしたの?ディアーチェ」
「うむ……それがな……」
ディアーチェに促されて小さな女の子が前に出てくる。金髪でおっとりとした顔が特徴な幼い子。一体どうしたというのだろうか……
「なんで、システムU-Dがここに!!?」
突然キリエ・フローリアンが大声を上げた。確かシステムU-Dってこの世界で起こっている事件の元凶って言ってなかったかしら……人は見かけによらないのね……
「それがのぅ……取り敢えず話せるか?ユーリ」
「はい。任せて下さいディアーチェ」
親しげに話す彼女達を見て少しだけ、ホンの少しだけだけどブリッジ内の緊張が和らいだ。
「皆さん、すみませんでした。それとすみません。エグザミアを乗っ取られちゃいました」
テへ、とでも言いたげに頭に手を置く彼女をディアーチェが叩いた。
真面目にせぬかと言われた彼女は少し涙目になりながら事のあらましを告げていく。
何でも本来であればエクザミアと言うものの暴走で彼女自身が暴走して世界を滅ぼしてしまうのだという。それの副産物のような物で闇の欠片が周囲の魔力等に反応して個人を模して暴れていたらしいのだけど、ある闇の欠片にシステムを乗っ取られたとかどうとか。
「圧倒的でした。他の闇の欠片すらも飲み込みながら更に力を蓄えていると思います。幸いにもエクザミアの一部は私がまだ使用できています。ですが、このままではその闇の欠片が私の代わりに世界を滅ぼしてしまうかもしれません」
とまあ、つまりはだ。止めるべきだった相手が変わったということと、少し相手が強くなったこと、そして遠慮無く消しても良くなったということだ。
何よ、別に問題なんて無いのじゃないとおもうのだけれど?何故皆そんなに動揺しているのかしら……寧ろこのシステム、U-Dという戦力が加わったってだけでもしかすれば楽になるかもしれないのに……
「エイミィ、モニターに映せるか?」
「ちょっと待って!もうちょっとで出来そう!」
ブリッジの大画面に管理局員の子がその乗っ取ったという欠片を移そうとしている……そういえばこの二人って未来では結婚してたんだっけ。見たところあまりフェイトと変わりなさそうな見た目だし、フェイトも早く結婚させないと行けないわね……
「映ったわ!!」
モニターを皆が息を呑んで見る。
その闇の欠片は夜の空を見上げながら空中に浮いている。背丈は少年と青年の間くらい。黒髪でボーっとした顔をしている。性別は男。
ああ、世界が破滅するわね。あの店長に勝てる気なんてしないもの。
『……スピピピ』