年末は典矢君とヴィヴィオとの再会。リインフォースさんの生き返り、スカさんの一発芸と色々と賑わっていた。
それから年が明けてからヴィヴィオと初詣に行ったり、フェイトちゃんが酔っ払って典矢君をお持ち帰りしそうになったりとゆっくりできる時間もなかったのだけど、私達の冬季休暇もあと少しで終わってしまう。
そんな中、私はまだ日も高いうちから【エンジェル】にやってきていて、ある事実に頭を抱えるしか無かったのであった。
「お父さんたちになんて説明しよう」
典矢君のこと、ヴィヴィオの事、話さなければいけないのだけど、上手く説明できる気がしない。
流石に20になってないのにもう小学生になるっていう娘がいるなんて言ったらどうなるかなんてわからない。お姉ちゃんやお母さんは大丈夫かもしれないけど、お父さんやお兄ちゃんは考えたくもない。
いっそ言わないでおこうとも思ったけど、いずれはバレちゃうだろうし、言っておいたほうがいいのだとは自分でもわかっている。
でも、言ってしまったら典矢君にあらぬ疑いがかかっちゃうんじゃないだろうか……そ、その。ヴィヴィオが私と典矢君の子供なんだって……
いや、事実そうなんだけど、別に私が産んだわけではないのだ。そ、そんな行為は経験すら無いし……
ああ、こういった時最初から知っているプレシアさんの娘であるフェイトちゃんが羨ましくなる。はやてちゃんもグレアムさんに言えないでいるみたいだし、フェイトちゃんだけだよ。こんな悩みを抱えていないの……
「ふぅ……困ったな」
「ん?」
今典矢君が困ったと言ったのかな?
珍しいことがあるものだ。典矢君なら何でも出来ると思うし、悩み事とか無いものだと思ってたから……
私の方の悩みが解決したわけではないけど、ここは年上として典矢君の悩みの解決を手伝ってあげよう。時間止めている間もカウントすれば私の方が年下だって言うのはなしの方向で。
「何かあったの?」
「まあ、ちょっとね」
「もし良かったら聞くよ?私にできることは無いかな?」
「うん。正直僕ではどうしようもないから、手伝ってもらえると助かるよ」
夢でも見てるのだろうか。まさか典矢君が私に手伝ってっていうなんて……正直嬉しい。何だかんだ何も出来てないし、私に出来る事なら精一杯やるよ。
「ヴィヴィオがいなくなったんだ」
「…………え?」
◇
日が落ちた海鳴市の街中。街灯が淡く道を照らしている中、ヴィヴィオは見たこともない道を恐る恐る歩いていた。彼女の傍らにはいつも彼女を守ってくれている心強いボディーガードがいるのだが、生憎と彼は睡眠中のようでヴィヴィオの頭の上で瞼を閉じていた。
しかし、そこにいるのはヴィヴィオとハコだけではない。彼女達の姉に当たる立場の銀髪の女性、リインフォースも一緒に歩いていた。
周囲は静寂が支配している。別にヴィヴィオが初めて日が落ちてから外に出たというわけでもない。スカリエッティの家から夜遅くにこの3人で家に帰ったこともあるのだ。
それでも、ヴィヴィオの心は不安が支配していた。
街の様子がいつもと違う。見慣れているはずの光景がまったくの別物に見えてしまう。
あったはずの場所に建物が無く、無かったはずの場所に建物がある。
まるで夢でも見ているような光景にヴィヴィオはリインフォースの腕を握りしめて一歩一歩その歩を進める。
やがて、見知った茶髪が見えた。
背丈はいつもより小さく見える。髪はたまに見せるようなツインテールでまとめているがあの後ろ姿はヴィヴィオにとって良く知る人物の一人であった。
「なのはママ!!」
「あ、ちょっと待て!ヴィヴィオ!」
ヴィヴィオが思わず声を上げ走りだしてしまった。何やら様子がおかしくて、リインフォースが呼び止めるがヴィヴィオは構わず走って行ってしまう。
仕方無く、リインフォースもヴィヴィオを追い、目の前の人物の方へと走る。
どこかで見たような面影を持ったその姿。見たのは最近だと思えるその姿に何かが引っかかる。
白い服を着た栗色の髪を持った魔導師が光に包まれようとしている中、ヴィヴィオとリインフォースは光に飛び込んだ。
「むぎゅっ!」
◇
あまりの眩しさに目を閉じたリインフォースはその光が転移魔法の副産物であることを思い出す。
つまり、自分達はどこか違う場所に転移したということになるのだが、一体何処なのか、何故転移したのかが検討がつかない。
警戒しておくに越したことはないのだ。彼女にとって、ヴィヴィオを守るということは、自分を生き返らせてくれた典矢への恩返しでもあり、姉としての意地でもあった。
「ここは………」
見覚えがある。自分が消える前に一度だけ来たことがある場所。
「あなた達は?」
「………」
次元航空艦アースラ。
そこの艦長であったリンディ・ハラオウンが目の前に立っていた。
「あれ?リンディさん?」
ヴィヴィオにとって少しだけ顔見知りでも有る彼女。ミッドチルダに典矢が店を構えてた時の常連。何故か以前よりも若々しく見えるリンディに疑問を抱きつつ、ヴィヴィオは踏みつけている人物から飛び降り、リンディの事を下から覗き込む。
「いたたた」
ヴィヴィオに踏みつけられていた人物。高町なのはは背中を擦りながらも立ち上がる。
「なのはママ?」
その背丈はヴィヴィオよりも高いものの、いつもの彼女のものではない。幼さが残った顔つきに、ヴィヴィオは目の前の人物に言い知れぬ不信感を抱く。
「えっと、ヴィヴィオちゃん?」
対するなのはも目の前の少女の様子に困惑する。
まるで自分とは初対面のように振る舞うヴィヴィオの様子はおかしい。頭の上にいる機械も見たことも無い。だとしても”アレ”には見えない。
見た目は………少しだけ、ほんの少しだけ自分が知るヴィヴィオよりも目線が低い気が……
「………ふぇぇ」
「にゃ!?」
ヴィヴィオはなのはの視線に思わず涙を浮かべてしまう。
こちらの様子を伺う目。いつもの様に母親らしい視線ではないその目はヴィヴィオの心を悲壮感が埋めていく。久しぶりに会ってあまり話もできていなかったのに、今度はよくわからない目で見られる事に深い悲しみを覚えてしまう。
なのはもいきなり涙を浮かべたヴィヴィオに驚き、オロオロと視線を泳がせ、この状況をどうにかしてくれる人を探す。
「どうしたの?なのはママ」
そして現れた。リンディの背後にある扉から現れた金色の髪に左右で違う目を持った少女。
高町ヴィヴィオが………
うん、またなんだ。
いきなりすぎて困惑した方も多いかもしれない。だけどこれだけは言っておこう。
二回目のGOD編始まるよ☆