天使の飲食店   作:茶ゴス

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第4話

 うどん職人の朝は早い。「食べ物が美味しいと幸せだからね」と客も多くは見込めない店を開く店長は言う。麺を捏ね、寝かせている生地の時をいい具合で止めることで生地の乾燥を防いでいる。

 うどんに合う付け合せの調理の下準備に出汁の選定までを行い店を開く。

 

 営業時間は朝の6:00から昼の15:00まで。

 

 普段店の表にて売り子をしているロボットは朝の間は店の前で眠っている。何故か『スピピピ』と言っているのだが、それの理由は製作者である店長にもわからないものだ。

 

 早速ガラリと扉を開いてお客さんがやってきた。隣りに住む厳格そうな顔つきの男性だ。

 男性は無言で店に入るとそのままカウンターに座り小さな声で「月見」と告げる。その次の瞬間男性の前に月見うどんと水、そして小さなおにぎり、そして伝票が現れた。

 

 男性は割り箸を割り、麺をズズズとすする。

 出汁を飲み、少しして中心にある卵を割り、麺と絡める。

 また麺を啜り、いつの間にか現れた小鉢に入ったネギを入れる。

 

 おにぎりを食べ、うどんも食べる。

 

 

 そうして食事を終えた男性は伝票を持ち、レジに立っている店長に月見うどん200Gとおにぎり50Gのお金を置いて出て行った。

 

 

 

「……伝票の欄におにぎり書いてないんだけどね……」

 

 

 そう呟く店長は少し微笑みながらそのお金をレジの中に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

『オキャク、オキャク』

 

 

 そう聞こえてきたのはフランス料理を開いている夜の事だった。

 店の雰囲気にマッチしていないロボットの声に入ってくる客は苦笑している。聞いた話だとその姿が小さな子供が頑張ってお仕事をしているように見えるそうだ。

 

 ちゃんと売り子の仕事をしているのに安心しつつも来店してきたお客さんの相手をする。

 

 

「いらっしゃいませ、お客様」

 

「あ、こんばんは。予約をしていたテスタロッサです」

 

 

 入ってきたのは以前来たことのあるプレシアさんの娘であるフェイトさん。隣にはフェイトさんと同じ年くらいの栗色の髪をした女性が立っていた。

 

 

「うぅ、こういう店初めてで緊張するなぁ」

 

 

 そう呟く女性にフェイトさんは苦笑する。以前のバーの時とはまた違う雰囲気を持ち、あたかもテーブルマナーに厳しい店のような雰囲気を感じるが、正直テーブルマナーを自分自身わかっていない。せいぜいコース料理の知識と皿の並べ方等という店側のルールくらいだ。

 

 

「では、こちらです」

 

 

 二人を促し、既に用意しておいたテーブルに案内する。

 席を引き、座らせてから飲み物のメニューを指し、何を頼むか聞く。

 

 フェイトさん達は未成年なのでメニューにアルコールの入った物は入れていない。

 と言ってもあまりメニューは豊富ではないんだけどね。

 

 

「えっと、ミネラルウォーターでお願いします」

 

「私はオレンジジュースください」

 

 

 うん、フェイトさんってなんだか少し子供っぽいところもあるよね。中々オレンジジュースって頼みにくいと思うのだけど……

 

 

 まあいいや。テーブルに注文の飲み物と前菜である魚介のカッペリーニを置いておく。

 

 コース料理のメニューはテーブルに置いておいた。

 

 

 と言っても、ちゃんとしたフランス料理店ではないからコース料理って本当はないんだよね。フェイトさんにもそれは伝えておいたから知ってる筈なんだけど、同僚の女性が困っている姿を見てみたいとのことでコース料理を装っているわけ。だから出すのはコース料理のスープまで。それからはネタばらしして普通に注文してもらう事になっている。

 

 フェイトさんはなれたような手つきで食べているけど、あれだからね?本当はナプキンは膝においておくんですよ?まあ、口元拭くのにも使うからテーブルにおいておきたいのはわかりますけど……

 

 同僚の人は少し慣れないながらもちゃんと出来ているっぽい。本格的なものは知らないから判断つかないけれど……

 

 

 二人共前菜を食べ終えたようなので皿を下げてスープを出しておく。この時、使ったフォークとナイフも下げたのを疑問に思っていたのかフェイトさんは首を傾げていた。

 

 うん。もう何も言わないよ。

 

 

 スープはオーソドックスにコーンスープ。初めてでも飲みやすいからね。

 

 

「ふふ、なのは、美味しい?」

 

「うん。美味しいよ。でもちゃんと出来ているか不安だよ」

 

 

 少なくともフェイトさんよりは形になっていると思います。

 

 

「そっか、でも私も出来てないと思うんだ」

 

「うん、それはなんとなく気付いてたよ」

 

「え?」

 

 

 あ、フェイトさんが此方を見てる。えっと、あまり出来ていないのかだって?まあ、そうですね。少し苦笑いを浮かべながら小さく頷いておく。

 

 フェイトさん顔を少し赤く染めながら俯いてしまった。

 じゃあ、そろそろネタばらししておこうか。

 

 時を止めてスープ、飲み物以外の物を片付け、テーブルの中心にナイフとフォークとスプーンが入った小さな籠を置いておく。

 

 

「え?消えた?」

 

 

 フェイトさんにメニューを渡し、少し離れる。

 

 

「なのは、あのね。一つ言っておかないといけないことがあるの」

 

「何フェイトちゃん。私としては今目の前で起きたことに驚いてるんだけど」

 

「実はこの店、コース料理なんてないんだ」

 

「え?」

 

 

 さてと、二人の周りに防音効果を付与した結界を貼っておこう。

 取り敢えず方位で標的を指定、定礎で位置を指定。結で完成。直ぐ様数値変化で防音効果を付与。

 

 

「!!?」

 

 

 うん、何か叫び声をあげているけど聞こえないね。今のうちに時を止めて皿洗いしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 というわけで同僚の女性、高町なのはさんとフェイトさんから注文を聞く。

 

 まあ、この注文もフランス料理にこだわらないで聞いた。だって、この一年、フランス料理店が一番お客さん来ないんだもの。もうフランス料理からちがう店にするかも検討中な程だ。

 

 

「こんなに美味しくて安いのにどうしてお客さんが少ないのかな」

 

「立地が悪いのかも……」

 

 

 お二人さんからも心配される始末。いや、他の日はまだマシなんですよ?フランス料理がどうして人気無いのかってのはちゃんとした理由があるんですよ。

 

 

「へぇ、どんな理由ですか?」

 

「フランス料理って、完全に地球の料理でミッドチルダの人知らないですから」

 

「ああ、成る程」

 

 

 因みにラーメンもないけど、あれは匂いが外にまでするからお客さんが来てくれるからちゃんとお客さんはいる。何故かうどんや蕎麦はミッドチルダにもある。一体どうしてだろうか……

 

 

 


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