凄まじい光が彼方から発生する。それは交戦中のフェイト達にも見えた。
太陽よりも眩しいと錯覚してしまうほどの閃光。それに意識が一瞬奪われた後、爆音と共に膨大な衝撃が襲いかかってくる。
周囲の木々をなぎ倒し、雲もポッカリと穴が空くほどの爆風に気付くまもなく、フェイト達の元へ到達する。
『ギャハハハ!!やばいやばい!』
奇っ怪な笑い声を上げながら青い機械は風に向かって巨大な障壁を発生させる。
自分を守るには大きすぎる盾。見上げるほどに高く、横方向にも伸びているその障壁へと衝撃が到達すると、重い何かを壁にぶつけた音を響かせる。
しかし、それだけで済んだ。障壁はその場にいた者達全てを凄まじい爆風から守りぬいた。一瞬だったから防げたのかもしれない。今のが断続的に続けば障壁は持たなかったのかもしれない。だが、そんなことよりもフェイト達には青い機械の行動が解せなかった。
「何故、私達を守ったの?」
青い機械にとってフェイト達は倒すべき敵であり、守る必要のないもの。先ほどの爆風からは自分だけ守っていれば少なからずフェイト達はダメージを受けていただろう。それも軽傷ですまない程度には……
『さて、何でだろうねぇ。ま、いいじゃんどうでも!』
腕をふるい障壁を解除した青い機械はその眼を怪しく光らせながらフェイト達を見ながら笑う。
小馬鹿にしたような態度。相手の真意を掴むことが出来ない。それは段々とフェイト達の苛立ちを募らせ、とうとう耐え切れなくなった八神はやてが叫んだ。
「なんであんたは戦ってるんや!」
後方から魔法による援護を行っていたはやてには青い機械の存在を理解することは出来なかった。管理局地上部隊を壊滅させてもなお、笑いながら戦うその機械に……
『ギャハハ……笑えないな』
初めて、青い機械の声から楽という感情が消えた。
その途端に感じる威圧感にはやて達は一歩下がってしまう。しかし、青い機械は見逃してくれない。誰の眼にも止まらない速度ではやての目の前に出現して、表情の読めない顔ではやてを見下ろす。
「な、なんや」
『……』
ただ、無言で見下ろしてくる青い機械はこれまでとは違った不気味さを感じる。先程までは理解不能な不気味さではあったが、今の不気味さは理解できる。
目の前の機械にただ恐怖しているのだ。
怒気を含んでいることは理解できる。何が事線に触れたのかには理解できていない。
「何がしたいんや!」
『黙れよ……』
低く響く言葉は先程までの青い機械では考えられない声色で、はやてにはそれに畏怖を抱く。
銃を構えているわけではない。ただそこに立っているだけ……
『茶番はもう終わりだ』
青い機械の背後からフェイトが斬りかかる。
それを一瞥することなく躱し、振り切ったフェイトの腕を掴んだ青い機械はヴィータに無かって投げた。
背中を見せた青い機械にはやては魔法を叩きこむも障壁に阻まれてしまう。
『……』
青い機械は目にも留まらぬ速さでフェイト達から距離を取る。
一瞬も眼を離したわけでもないのにあそこまでの距離を移動するのはとてもではないが信じられないことだ。言ってみればあの機械にとっていつでもはやて達を制圧することは出来るが、ただ気まぐれで泳がされていたことになる。
『……お前達を褒めてやるよ。何も疑問に思わずにただ言われるがままに戦うその姿。オレ達機械の領分まで己の力で手にしている』
距離にして500m。探知魔法によって場所も確認できる。目で見ても遠くにいるが把握はできる。
だが、青い機械の目の前に現れる黒い穴を目視することは出来ない。
『お前達がそうだというのであれば……人間のために生まれたオレにはもう存在意義なんて無いのかもしれない』
フェイトの速さならば数秒あれば届く位置。だが、投げられたことにより体勢を崩しているフェイトでは更に数秒時間が必要になってしまう。
『だが、お前達が機械のように戦い続けていたとしても』
何をしようとしているのかはわからない。ただ、嫌な予感がしてたまらない。
『オレは見たいんだ。お前達人間の可能性を』
青い機械は穴からあるものを取り出し、その手に持った。
『さてと、じゃあいっちょ行きますか!』
――不明なユニットが接続されました。
――システムに深刻な障害が発生しています。
――直ちに使用を停止してください。
己から発する警告音を無視し、背中にある円筒状のガスタービンが開き、周囲の魔力を収集しながら青い機械は巨大な銃を構える。
ヒュージキャノン。本来であれば核弾頭を用いて超遠距離かつ一定範囲に壊滅的な被害をもたらす代物。
そこまでの威力は秘めていないものの、その破壊力はとてつもないもので……非殺傷とはいえ、放たれればまさしく必殺というもの。
『愛してるんだ、君達を!!ハハハハハ!!!!』
閃光とともにその砲弾は放たれた。
それは音速を超えた速さで移動しはやて達の近くを通過する。
直撃はしていない。ただ、撃った瞬間には既に通過した後であったその砲撃は、一瞬の静寂の後、その全てを吹き飛ばすほどの衝撃をはやて達へともたらす。
その砲撃が向かう場所ははるか遠くにある山。
山は直撃し、すさまじい光とともに……爆散した。
青い機械はその光景を見ながら底をついたエネルギーにため息を吐きただ呟く。
『やるもんじゃないね、キャラじゃないことは……』
「ライオットザンバー・カラミティ…….」
唯一人砲撃を免れたものがいた。
管理局一の速度を持つフェイト・テスタロッサは巨大な大剣を振りかぶり青い機械の目の前に現れた。免れたと言っても余波を受けたためかボロボロな姿のフェイトは傷に痛む自身の体にムチを打ちその奥の手であるライオットザンバーを開放する。
真ソニックフォームのせいで防御面は無いに等しい身体には余波の影響が大きく出ている。だが、ここで彼女は引く訳にはいかない。
正直はやての言い分には呆れもした。自分達でスカリエッティに攻めながらも戦いの理由を相手に求めるのを。それははやてにとって戦いの理由が上層部からの命令以外になかったからに他ならない。だが、フェイトにとってこの戦いには理由がある。自分が作られた原因となった人物、スカリエッティにはどうしても聞き出したいことがあるのだ。
更に言えばこの戦いが始まってからも理由は増えた。ヴィヴィオが現れたこと、なのはが落とされた事。
それら全てを考えればフェイトにとって目の前の相手が何者であろうと戦う意志には関係は無かった。唯、フェイト・テスタロッサとして、障害を排除するだけ……
「ジェット、ザンバー!!!!」
先程は見向きもしなかった魔法。青い機械はその攻撃に込められた意思を感じ取り、抵抗する素振りも見せずに、ただ小さく呟いた。
『これだから面白いんだ、人間ってヤツは……』
青い機械は胴体から両断された。