「うん、今日も美味しいね」
「ありがとうございます」
もう昼時だというのに客が一人しかいないハンバーガー屋の店主は客であるフェイト・テスタロッサの笑みを見て少し照れくさそうに食器を磨いていた。
フェイトは店長の口調に少しだけふくれっ面になり、またハンバーガーを食べ、頬を緩ませる。
「そう言えばヴィヴィオはどうしたの?」
この前はなのはとはやてが二人揃って仕事を休み、ヴィヴィオと一緒に遊んだと聞かされたフェイトは仲間はずれにされたと感じたのか一人だけ休みをとってヴィヴィオに会いに来ていた。
だが、そのヴィヴィオ本人がいない。いつもは店の中でハコと何かをして遊んでいるのだが、今日の店は静寂に包み込まれていた。
「ああ、ヴィヴィオはスカさんの家に行ってますよ」
「そっか。入れ違いになっちゃったんだね」
「まあ、夕方には帰ってくると思いますよ?」
「……典矢、敬語はやめてくれないかな。私としては君と仲良くしたいから」
「わかったよ」
典矢の答えに満足しフェイトは更にハンバーガーを頬張る。ケチャップが口の端につかせながらその顔は満ち溢れていた・
「そう言えばさ、ずっと聞いてなかったことを聞いていい?」
「どうしたの?」
「典矢はさ、良かったの?母さんが勝手に……その……私達の旦那さんにしちゃったの……」
「……そうだね」
何気なく聞いた事柄。だけどそれはフェイトにとってはとても重要なこと。異性からの好意を自覚したことのなかったフェイトが初めて抱いた感情。プレシア勝手に話を勧めたというか暴走した結果の事ではあるがフェイト自信はヴィヴィオの母親になることを承諾……いや、決意した。
つまり、典矢の伴侶となることを仮とはいえ承諾したのだ。なのはやはやてはその事をあまり深く考えずにヴィヴィオのためになるのならと承諾したのだがフェイトは凄まじく悩まされた。男性経験は無く、学校でもなのはやはやてにへばり付き、あまり男子生徒と話をしなかったフェイトにとって初めて意識した男性が目の前の店長であった。
「あまりわからないかな。君達のことは愛しているけど、伴侶と言われても持ったことがないからわからないや」
「愛!?」
なんてこと無く告げられた言葉にフェイトの動悸が激しくなる。普段ならば誰か他にいるからこそ平常心で典矢と接してこれたが、一対一、二人きりで話すのは初めてなフェイトにとって今の言葉には凄まじく動揺した。
顔が高揚するのを感じ取りながらフェイトはハンバーガーを食べることで頬の赤さを隠す。
「と、兎に角!典矢はヴィヴィオの父親として何を思っているのか教えて!」
興奮のあまり意味のない質問をしてしまっているフェイトを不思議に思いながらも典矢は己の気持ちを正直に伝える。
ヴィヴィオのやりたいことをさせたいと……
それにフェイトは考えこむ。典矢のさせたいというのは文字通りそのままの意味合いを持っている。ヴィヴィオの要求を典矢が叶えていると言う事は仕事で忙しくあまり構えていないフェイトでも理解している。典矢はヴィヴィオの願いを全てに答えることでが出来るのも問題なのだが、それ以上にヴィヴィオという一人の少女が望むものを全て手に入れるということは将来的に見ればあまり良くないことだと感じている。だからこそ、その大本でも有る典矢に対して何かアクションをかけなければならないが……
(うう……何だか恥ずかしいなぁ)
会話をするたびに顔を赤くしてしまう。こういった事を聞くのであればはやてが適任ではないのかと感じつつもフェイトは典矢に確認するように質問を繰り返す。
「あの、さっき愛しているって言ったけど、本当に?」
「変なことを聞くね。嘘をつく必要が無いよ」
「うう……」
更に顔が熱くなっていく。もしここにプレシアがいれば思わずガッツポーズとともにフェイトへの追い打ちをかけていたのかもしれない。
だが、実際の所結局プレシアがいれば煽られて顔を赤く染め、典矢と二人きりであれば実際の答えに頬を染める事になり、あまり意味はなかいのだが・
「あ、あのさ。どうして典矢は私達を…あ、あ、愛してるって言うの?」
「なんでって、愛してるからとしか言い様がないんだけど」
「うぅ……」
質問の答えに毎度頬を赤く染める始末。更にいえばヴィヴィオのことについての質問のはずが、自分のことに関しての質問になっているのかを理解していない。
フェイトは気持ちを落ち着かせるために一度息を吐く。おもいっきり空気を吸い。数回に分けて吐くことで更に気持ちを落ち着かせる。
そうだ、目の前の相手は自分よりも年下の男の子なのだ。お姉さんである自分が恥ずかしがっては情けないと言い聞かせつつ、フェイトは視線を典矢に向ける。
まっすぐに見つめいている瞳にぶつかった。
黒く、澄んだような疑いを知らない無垢な瞳で見つめてくる。キャロがフェイトを見つめているような目。一人頼れる人もいない状態で生きてきた子供とは思えないほどの綺麗な目にフェイトは見惚れてしまった。
「あの、どうしてそんな事を聞くのかな?」
「え、えっとね」
声に力が入らない。色々と聞きたいことがあったのにその全てが頭からスッポ抜けてしまった。フェイトは目の前の典矢の目に吸い込まれているように言葉をこぼすことしか出来ない。
「わわわ、いや、き、きき君が父親として自覚しているのかを確認するためだよ!」
「成る程、確かにヴィヴィオの良き父親に慣れているかはわからないね。僕自身誰かを育てたということもないし、誰かに育てられたことも無いし」
「……じゃ、じゃあさ、一つ提案があるんだけどさ」
震える声が出る。別に典矢が怖いというわけではない。寧ろ無害な典矢に恐怖心を抱くことはフェイトにはあり得ない。ただ、初めて男であると考えて接したのだ。クロノやユーノは友人として接してきたからこのような感情を持ち合わせていなかった。中学の時の同級生にも全くと言っていい程思わなかった男という存在。
「わ、私と一緒に、ヴィヴィオをいい子に育てない?」
勇気を振り絞ったその告白とも言えない言葉。思わず口から出てしまった事に顔の赤みを増すフェイトは恐る恐るといった様子で典矢へと視線を向ける。当の本人は不思議そうな顔をして首を傾げているだけ。
フェイトは少しショックを受けながら、自分ですら分かっていない感情に悩まされる。
何故ショックを受けたのかもわからない。何故今胸が苦しいのかがわからない。
でも
「何で今さらそんな事を確認するんだい?君達とならヴィヴィオはいい子に育つことに決まっているんじゃないかな」
たった一つの言葉で不安や悲しみは晴れていく。
当たり前のようにフェイトという存在を認めてくれているのだと、理解できる。
只々、フェイトにとってはそれが嬉しくて……
自分の中に芽生えた物が何なのかを理解できなかった。
典矢「(人間を)愛してるに決まってるじゃないか」
フェイト「ええ!?」
こういう感じの甘ったるい話は書いてて楽しいです。リア充爆発しろと叫びたくなることを我慢しちゃいますね。まあ、流石に某作家キャスターのように執筆に詰まって風呂あがりに裸で散歩とかはしませんけど。