終盤というか一区切りのラストは思いついてるのにこういった日常回はあまり思いつかないのが作者の発想力がないことを嫌でも自覚してしまいます。
取り敢えずちまちま更新しながら話を進めますね。
「おいしぃ!!」
そう述べたのはケーキを頬張るヴィヴィオだった。
場所は今日も今日とて常連客以外の客が少ないというかいない喫茶店【天使始めました】
店長が焼いた巨大な……具体的には4m程の高さをしたケーキを喜々として食べ続けるヴィヴィオに呆れた目つきをしながら見ているのは高町なのはと八神はやての二人。
一応は食べ過ぎはよくないと注意したのだが、ヴィヴィオには店長の過保護が発動しており、虫歯や肥満、健康障害などは起こりえない事をハコから説明され、更にはケーキを巡っての賭け勝負をヴィヴィオは行い、見事に勝利していた。
「あんまり食べ過ぎるのはよくないと思うんだけど」
「だって美味しいんだよ?」
「正直太らないっていうのは羨ましいけどなぁ」
「えへへ、ヴィヴィオは最強だもん!」
えっへんと胸を張りながら話すヴィヴィオはケーキを挟んで反対側にいるハコがケーキを貪り食べているのに気付き、直ぐ様ケーキを食べるのを再開する。
「にしてもあれには驚いたなぁ」
「まさか遊◯王をアニメみたいに出来るなんて思っても見なかったよ」
「私はなのはちゃんの禁止カードのオンパレードにも驚いたで?」
「私がやってた時は禁止じゃなかったもん」
高町なのはと八神はやてはヴィヴィオの教育にあたっての我儘というか、他の親の甘やかしを抑制するためにある勝負を挑んだ。その内容がヴィヴィオの掲示した◯戯王というカードゲームなのだが、店長である上月典矢は何を思ったのかカードのモンスターや魔法を具現化する機械システムとフィールドを作り上げてしまった。
そしてなのはとはやて、ヴィヴィオとハコの2人がチームを組んで戦った。
小学生の頃に遊戯◯をやっていた二人は昔の己のカードを使い戦ったのだが、惜しくもヴィヴィオ達に敗れてしまった。
「にしてもカオスエンペラーやサンダーボルトは無いと思うで?」
「禁止じゃなかったもん。それにヴィヴィオのシューティング・クェーサー・ドラゴンも反則的だったと思うよ」
「あれは召喚が大変そうやったやん。まあ、でもまさかああ来るとは思わんかったなぁ」
「うん、まあそうだよね。はやてちゃんもブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン出してたけどまさかね」
「「ディアン・ケトでぶん殴られるとは思わなかった」」
「攻撃力5000とかあり得へんよ」
「遊戯◯も進化してるんだなぁって思ったね」
「いや、ハコちゃんがおかしいだけやと思うで」
二人が話し込んでいる間もヴィヴィオはハコに負けじとケーキを消費していく。
その様子は既に意地の張り合いのようになっており、傍から見てもあまりよろしくないような光景になっていた。
しかし、既に注意をする事はできない二人はため息を吐きつつ紅茶を飲む。
「ん、ケーキ?」
「これって典矢君がくれたの?」
目の前に現れたケーキを見た後典矢の方へと視線を向ければ、ニコリと笑い、一度だけ頷いたのが二人にはわかった。
「そういやあ典矢、気になるんやけどええかな?」
「はい?」
はやてが呼びかければきちんと声を返す。
だが、はやてにはそれが気にかかっていた。
「なんで典矢はあんまし私らと話さへんの?」
「お客さんの会話に店の者が入り込むのは良くないからね」
「……」
そう、この姿勢がはやては気に食わなかった。仮にも夫婦……いや、ヴィヴィオの育て仲間というかよくわからない奇妙な関係の自分に対しての発言とは到底思えない言動。
少なくとも一人の客よりも深い関係に有るであろう自分に向ける態度ではないとはやては思うのだが……
「私達は気にしやんからもっと話さへん?」
「まあ、それだったら」
はやては知っている。この店長に悪気が一切ないことを……いや、物事を知っていないことを知っているのだ。
親に育てられておらず、よくわからない身分で、どこから金が湧いてるともわからない生活をしているも目の前の男は只々世間知らずな子供なのだと。
「そういやあ典矢は地球のどのへん出身なん?」
「えっと、確かロンドンだっけ」
「「え!?」」
その答えには黙って話を聞いていたなのはも驚いた。
名前や見た目から察するに日本人であることは間違いない。だからこそ、はやては日本の何県出身かという軽い気持ちで聞いたのだ。
「雪の降る中、建物と建物の間で目覚めました。名前は知り合いに付けられましたね」
「そ、そうなんや。その知り合いってのはどこにおるん?」
「とっても遠いところだね。少なくともあと数十年は会えない所に」
「………」
軽い気持ちで聞いてもこの店長に聞けば重い話となってしまう可能性がある。
更に質の悪いのは店長がそれが重い話だと自覚していない所だろう。まだ若いのに人一倍苦労をしてきた店長に同情はするが、この無知には頭がいたいとばかりにはやてはため息を吐く。
「そ、そう言えばこのケーキ凄い美味しいけどどうやって作ってるの?」
「えっと、フランスのリヨンで食べたケーキを再現しただけだよ」
「そうなんだ。そう言えば話し方がコロコロと変わるのはどうしてなの?」
「基本的にはその店にあった口調なんだけど、常連さんには普通に話しちゃってるかな。まあ、大体お一人様のプレシアさんを相手にしてるだけだけど」
「成る程……」
なのはは頭の中で更なる質問を模索する。目の前の典矢は恋人ではないにしろヴィヴィオの父親と母親であるという関係なのだ。少なくとも他人でない以上、きちんと付き合い、仲良くなりたいと思っている。それには相手のことをよく知る必要があるのだけど、なのはにはあまり有効な会話を思いつくことが出来ない。今日はフェイトが仕事でいない為チャンスとなっているのだが。それでも歩み寄ることは出来ない。フェイトがいる場合では二人の天然具合が加速し、歩み寄るどころで無くなってしまう為、今日こそはと思っていたのだが…….これが中々に上手くいかない。
彼の中ではなのはよりもプレシアの方が大きい存在であるという事はなのはには分かっていた。それは偏に言えば接していた時間ということで片付けられるが何故か彼女は納得ができない。自惚れではないが彼女は自分が若い女性だということは理解している。典矢の年代の男であれば興味を持たれてるのは自分のはずだと思うのも仕方ないのかもしれない。
「なのはちゃん、なのはちゃん」
「どうしたの?はやてちゃん」
「なんか変なこと考えてない?なのはちゃんがそんな顔する時はだいたい見当違いな事を考えてるで?」
「……かもしれないね」
今日も飲食店【天使始めました】は平和です。